バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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009 螺旋にて集結せし暗躍する者

 

 夜を待つ。

 一人、その深淵に空を見上げる子供が居た。

 その子供には記憶がない。

 記憶を願いに能力を得たのだから、それは当然の代償であった。

 子供は空を見上げている。

 何処までも続くと思われた空。

 願いを告げる。

 その願いに沿った奇跡を世界は構築する。

 夜を見よう。

 星屑の綺麗な夜空を求め、テキストの中でその幻を探す。

 探す。

 探す。

 幾ら探せど、その幻は何処にもない。

 当然だ。在りもしない可能性はシナリオにはならないから。

 故に子供は作り上げようと、その世界の設定を改竄する。

 けれど、それは叶わない。

 何故なら、その設定はあまりにも膨大で何処から変えても矛盾を突き立てては否定するのだから。

 

 繰り返す。繰り返す。

 子供は夢を見る。

 忘却の狭間に見出した深淵の中、幻想たちを犠牲に世界を構築する。

 

 ジジジ。

 ノイズが入る。

 通信をキャッチ。

 電波が入り混じって、混濁する。

 

 不意に子供は夜空に向かって手を伸ばす。

 星でも掴もうとしたのかは定かでないが、それは叶わない。

 

 ――――だって、空よりも彼方に離れた地の底に彼はいるのだから。

 

 ◇

 

 切り刻む。

 数秒毎に襲い掛かる腐乱死体。

 腐ってると言うのに蛆すら湧かない姿を見て、益々この現実が現実でないと実感する。

 

 一振り。

 数秒の感覚をして、キキキと奇声を上げてくたばった。

 ゾンビたちは休む暇を与えず、統制のない動きで僕の足を止めさせる。

 向かう先は、コントロールルームだ。

 夢の世界に戻ったと言うのならば、そこに行けばなんらかの原因が解ると期待してそこへ急ぐ。

 

 だと言うのに。

 

 「キキキキキキキキキ!!!」

 

 ノイズだらけのモザイク顔でそれが嗤い出す。

 数人程度だったゾンビは、仲間を呼んで更にその数を増やしていった。

 じり貧だ。

 数では向こうの方が勝ってる。

 何か突破口がないかと辺り探す。

 

 けれど、僕の周りにはゾンビしかいない現実。

 絶望的な状況。

 このまま、何もせず時間だけが経過するのかと思うと焦る。

 

 「ック、クソ!」

 

 苦悶の声がこぼれる。

 自分の予想だが、僕の意識が保てるのにもタイムリミットつまり、時間制限が掛けられている気がする。

 根拠は、今も尚、自分の中の何かが削られていく感覚がとしかいえない。

 きっとそれは、六花が僕にくれたダーレスの黒箱の力なのだと推測する。

 

 前を見据える。

 絶望的なゾンビの群れ。

 それを突破する一撃必殺的なものは僕にはない。

 

 それでも力任せに、強引に進もうと藻掻く中でそれが現れる。

 

 ジジジ。

 ノイズがする。

 ザザザ。

 自分の中の何かが危険信号を送る。

 ザー、ザー。

 かつて自分を脅威に晒したそれがやって来たのを感じた。

 

 まだ昼だった筈の世界に暗雲が差す。

 太陽が隠れたと思ったら、更に暗くなっていく。

 

 カチカチカチ。

 時間が早送りになる感覚に陥る。

 まるで、映像を早送りしてるみたいだと思った。

 

 雀たちの囀りが遠くなる。

 それもやがて耳に聞こえなくなり、ゾンビたちの絶叫もない静寂が訪れる。

 

 ――――パリン。

 硝子の割れる音が響く。

 音がする方向を見たら、校舎から堕ちていく人影が見えた。

 

 ゆっくりと急速に落ちていくその人影を見つけたら、ゾンビたちの動きは止まっていた。

 停止ボタンを押された映像のように、世界の時が止まった瞬間。

 

 ドサッとグラウンドにそいつはやって来た。

 黒い影のようなものがやって来た。

 全身に夥しい黒い瘴気のようなものを纏わせてそれがこちらを向いて来た。

 

 「悪魔?」

 

 そう、悪魔。

 悪魔と勘違いしてしまうその人影は僕と障りない身長差だ。

 黒い瘴気で姿がよく見えないが、それがこちらにゆっくりと近づいて来る。

 時間は相も変わらず停止したままだ。

 

 「グゥウウウルルルゥウウ!!!」

 

 獣の咆哮のようなものを出していた。

 顎が尋常じゃないほど裂けて、喉から吐き出すその雄たけびが恐怖するという感情を思い出させる。

 

 「――ッヒ!?」

 

 背筋がゾッとし、思わず後ろに下がろうとしても、金縛りにでもあったかのように動かない。

 僕の身体にその悪魔のような人は触れようとした。

 体感としては、それが数分のように感じた。

 顔に、触れる。

 すると、胸の奥底にある何かが融けたような感覚に包まれる。

 

 カチリ。

 鍵が開かれる奇妙な幻聴。

 それは、止まった時間の中で起きた出来事。

 その何かは叫んでる。

 影を纏ったそれが僕の顔を覗き込んでは告げている。

 

 「サア、チカラヲ、クレテヤッタゾ」

 

 そんなようなことを言っているように感じられた。

 数秒が経過。

 夜が続いてる。

 一瞬の出来事は永遠に近い時間に感じられて――――。

 

 傲慢と司る『ダーレスの黒箱』のプロテクトが解除申請を確認。『傍観』の騎士(コード)の使用許諾を了承しました。これより、幻影疾風(タイプ·ファントム)現実化(リアルブート)を開始します。

 

 聞き覚えのある少女の機械的なガイダンスが脳裏に掠める。

 

 冷やさせが止まらない。

 一秒がコンマ一秒になっていく。

 体感していた時間と現実の時間が同化する。

 

 一瞬。

 脳裏に過る鎖で縛られた少女の姿が見えた。

 暗闇の中、鎖で縛りつけられた少女を抱きしめる知らない男の姿も見えた。

 彼女の名前は知っている。

 少女の姿は痛ましい。

 まるで、囚われのお姫様のようで、僕はその姿に声が出せない。

 抱きしめる男の手は卑しい。

 汚らしい手で彼女に触れるなと文句を言ってやりたかった。

 

 「キキキキキキキキィイイ!!!」

 

 鈍足なゾンビたちの叫びで跳んでいた意識が呼び覚ます。

 くるりと振り向き、敵を見据える。

 失われていた何かが、恐怖よりも現状の打破を勧めてく。

 

 「キキキキキキキキィイイ!!!」

 

 来る。

 いや、来た。

 スローモーションに動き、小刻みが大振りに見える奇怪な劇場。

 チープだ。

 そのゾンビの攻撃の遅さに思わず口元が緩む。

 

 それしか言えないのか、このノロマめ。

 

 間合いに近づくゾンビよりも速く一歩踏み込む。

 時が止まって見えるのではない。

 一秒が停止して、心臓の鼓動よりも速く動けるだけ。

 腐った腕がパンチを繰り出す。

 遅い。遅すぎる。

 

 コンマ二秒。

 

 踏み込んで、ゾンビを斬る。

 でも、その加速は止まらない。

 大振りになった僕の動きに誰もついて来れない。

 だって、そうだ。

 只でさえノロマなゾンビなのに音速を超えた人間を誰も捉えることは出来ない。

 

 一振り。

 只、その大振りの一閃が出発地点よりも遠くに走って到達した究極の業となって放たれた。

 

 グランドの端まで着く。

 数秒後に消失(ロスト)したゾンビたちの断末魔が響き渡った。

 

 コントロールルームまで急ごう。

 この速さなら一瞬でそこへたどり着けるだろう。

 

 ◇

 

 「どういうことだ!?」

 

 コントロールルームにて男が半狂乱で叫んでる。

 鎖に縛られた少女を前に取り乱す男は怒りに我を忘れてる。

 どうして、あんな能力を奴が持っている。

 そんな描写はオレはしなかった筈だと頭を抱えて地団太を踏んでいる。

 良い大人がする子供の癇癪は見てられないほど滑稽で哀れだった。

 

 「何故だ? 何故、上手くいかない!」

 

 自分よりも劣るそれの活躍に目を疑って、涙する不細工な男。

 その男は本当にどうしようもないクズだと誰もが思うことだろう。

 

 「オレがやるしかないのか? 神であるオレが直接相手してやるのがベストなのか?」

 

 呟く。

 誰に聞かせるまでもないその意味不明な言葉たちは虚空の溝に捨てられる。

 膨大なテキストデータの一部として世界へと還元されていった。

 

 「マユマユは渡さない。それは、絶対だ。絶対なんだ。絶対の絶対なんだから!」

 

 幻想などでは役不足。

 だが、自分に戦う為の力はない。

 あるのは、幻想たちを好き放題改竄出来るこの権能(チート)だけ。

 モニターでこちらへと真っすぐに向かってくる奴を見る。

 その姿はかつて自分が憧れたヒーローのようで恰好良かった。

 それがまた、自身と違う存在として認知してしまい、劣等感を引きだたせていく。

 

 ふざけるな。

 

 この世界は僕の世界なんだぞ、と男は憤慨する。

 

 そんな愚かな男を見つめる少女の姿など誰の目にも止まらなかった。

 

 ◇

 

 カツン。カツン。

 誰に命じられるまでもなく、腰に携えた剣が特徴の青年は黙って、その螺旋の階段を下りていく。

 

 カツン、カツン。

 記憶が流れる。

 何処までも愚かな男の生涯が見えていく。

 眉一つ動かなさない青年の目は何処も見ていなかった。

 目的の為にその螺旋を下りていく青年の姿は普段の雰囲気など無かった。

 

 「くだらない」

 

 腰に携えた剣を抜く。

 その刀身に特にこれといった権能(チート)がある訳ではない。

 

 ――――しかし。

 外なる神が与えし魔導は何も権能(チート)だけではない。

 その恩恵(ギフト)は暗闇に光を灯す一筋の光を剣として形となしていたのだから。

 

 永遠に続く螺旋階段を下りるのに飽きたのか、青年は剣を構えるとその醜悪な男の記憶を薙ぎ払うように一閃した。

 

 瞬間。

 

 ――――パリン。

 硝子の瓶が割れる音が世界に響き渡った。

 

 記憶が見えなくなると、青年は地下聖堂のドアに手を掛けに行く。

 そのドアの先に目的の人物がいると予測を立てていた。

 

 「その必要はありません。こちらから行きます」

 

 ドアノブに彼が手を掛けた瞬間、学園のアイドルを自称していた少女の声が掛けられる。

 

 「いやはや、外なる神が来るかと思われたら、まさか貴方が来るとは思いませんでした」

 

 ジジジ。

 ノイズを入れて、突然、少女は青年の背後に立つ。

 

 「どちらも同じだと思うんだけど」

 

 少女は影を纏って、剣を構える青年に対峙します。

 油断も何もないその姿勢に少女は警戒しながら話を続けました。

 

 「いえ、そうではありませんよ。貴方の方が私としては話が合いますし。何より交渉の場をこうして設けてくれている訳ですから、こちらとしては助かるというものです」

 

 少女は助かりますと後付けに付け加えて、感謝の意を表しました。

 

 「前回、どうして外なる神を取り込んだ私がアレの改竄に失敗したのかもログを見て分かりましたよ。外なる神も油断ならないものです。藤岡飛鳥なんて存在しない架空の人物もでっち上げて、アレに自身が創り出した第七の権能(チート)を使わせる。そうして、油断した私から外なる神を解放させる。清々しいまでの暗躍。親友と宣っておいて、その裏では自分の目的の為の駒にしている。貴方、なんて悍ましい幻想(ひと)だこと」

 

 ですが、同時に畏怖してました。

 毛嫌いもしていました。

 だって、少女の口から語られたことは事実なのですから仕方ありません。

 

 「そうだよ。所詮、ボクもまた哀れな操り人形(マリオネット)に過ぎない。キミがボクを取るに足らない上位幻想でしか思わなかったのもこれで納得言ったかな?」

 

 「ええ。そんなものは貴方のデータを見たら一目瞭然でしたから。その取るに足らないというイメージさえも外なる神のバックアップだと分かったら納得しました。そしてその恩恵(ギフト)さえも放棄しようとしている。まあ、これも貴方の目的を考えれば納得の話です」

 

 どうやら、少女は青年の目的も見透かしてるようです。

 

 影が差す。

 青年の顔はよく見えませんが話の続きを促してるように思えます。

 

 「取引をしましょう」

 

 少女は嗤います。

 最終的な目的は違えど、その為の邪魔者の排除にはそれが必要不可欠なのだと言っています。

 

 「どんな?」

 

 剣を構える青年は問いかけます。

 

 「次の夢にあの男が所有している『語られないユートピア』にするのです。その世界で私たちのアシストを貴方にはして貰いたいのです」

 

 少女は手を差し伸べます。

 友好の握手を求めたのです。

 

 「そうしたら、ボクにもアクセス権をくれるのかな?」

 

 引っ張れる条件を提案する青年。

 

 「いえ。貴方の目的である存在の現実化(リアルブート)をお手伝いすることを約束しますよ」

 

 少女は彼の最終目標に対して全力のバックアップを約束します。

 

 「良いのかい? シェリアちゃんにはこのことはまだ話してないんでしょう」

 

 この時の青年にしては珍しく少女を気遣います。

 目を丸くしていたとも言えます。

 

 ――――ですが。

 

 「ええ、構いませんよ。私たちの目的は飽くまでお兄ちゃんの蘇生なんですから」

 

 そんな青年の問いに対して、少女は青年の手を握りながら微笑むのです。

 

 ザザザ。

 ノイズが入ります。

 電波が乱れて、混線して記録(ログ)消去(クラック)されていく。

 

 黒幕の情報が一同に集結したメモリーが膨大なテキストの山に埋もれていくのでした。

 

 諦めない。

 何度だって繰り返す。

 未だ暗闇に独り取り残される彼に私は手を伸ばし続けることを諦めない。

 彼がもう一度、自分の意志を取り戻すその時を私は夢見るのです。

 

 





 次回の投稿は前回の後書きにも書きましたが、仕事が多忙になると思われるため、9月15日を予定しております。
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