バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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014 見たくないもの

 

 砕かれる理想。

 逃げ惑う私。

 (マネキン)が追って来る。

 私を殺しにやって来る。

 それは私が邪魔だと言って来た。

 みんなが私を削除してしまわなければいけないと必死になって向かってくる。

 怖い。

 私は誰からも不必要だと蔑まされてる。

 生まれて数分で厄介払いされる私。

 元の名前を引き継がされただけのルールがあると外なる神の操り人形(マリオネット)にされるのだとかで殺される。

 勝手に生み出しておいてなんだよ、それとか思った。

 死ね。

 死ね、死ね。

 お前なんか必要ない。

 お前が存在するだけで世界は歪む。

 誰も私を助けない。

 死にたくないと泣いて、血だらけになってその(マネキン)から逃げていく。

 その後ろ姿をみんなは馬事雑言を投げかける。

 痛い。

 痛い痛い、痛い。

 止めて。私を虐めないで。

 私は只、そうであると願われて生まれて来ただけなのにみんなどうして私に酷いことをするの?

 そんな赤子の私の声に誰も耳を傾けません。

 当然です。

 その存在を許しては、全ての人間が呪われてこれ以上にない非道に見舞われるからです。

 何故もどうしてもありません。

 存在するだけで悪と定められた私の居場所なんか最初から用意されていないのですから。

 

 ガガガ。ガガガガガガ!

 

 地下聖堂に怒声が響き渡ります。

 世界中の誰よりもそれの恐ろしさを私は知っています。

 私と同じように悪逆を望まれて造られた魔導兵器が私の生存を許さないのです。

 

 苦しい。痛い。辛い。

 止めて。

 

 「私に絶望(それ)を見せないで」

 

 記憶を映す画面から目を逸らそうと泣きじゃくってもそれは叶いません。

 少女たちは私の頭を掴んでは、その映像を見せ続けるからです。

 

 「それが貴女の罪だからです」

 

 燈色の髪の少女は嗤って言いました。

 きっと彼女は悪い魔女なのです。

 

 「いいえ、止めません」

 

 黒い髪ざっくばらんに切り揃えたような少女は私の懇願を聞いてはくれません。

 そうすることで私を私ではない誰かに作り替えようとしているのです。

 二人の少女はそんな私の苦しむ様子を微笑ましいものを見るような顔で見ているのです。

 

 喜怒哀楽、狂気乱舞、いと美しき慈悲なるユートピアが訪れる。

 誰が望むこともないその幻想は、あの愚か者が夢見た願望に過ぎません。

 嬉しきかな、哀しきかな。

 あの人がそんな夢を抱いていたとは思わず、ふと涙が堪えることが出来ませんでした。

 世界は純粋で綺麗でとても残酷だ。

 それほどまでに残酷なそれを私は受け入れるしかなかったのです。

 

 あの人は未だに夢から覚めません。

 願うならば、どうかユートピアへ至っても私のことを見つけて欲しいものです。

 

 そうして私の意識は改竄される。

 夢の中でまた出会えることを祈るばかりで物語は停滞を迎える。

 

 最期に。

 

 倒れ伏す私の前に、怯えながらも(マネキン)の前に立ち塞がる彼の姿をこの目に焼き付けれたことに感謝しながら私は意識を手放したのでした。

 

 ◇

 

 崩壊した交信の杖を後にした僕。

 向かった場所は僕が通う教室。

 そこできっとシェリア会長が待っているような気がした。

 誰でもないこの状況を翻す一手を持っているのは彼女ぐらいしか思いつかなかった。

 教室に向かったところで彼女は居ないのかもしれない。

 彼女と会えても僕の話に協力してくれないかもしれない。

 ないないばかりでどうしようもない考えが頭の中を駆けまわる。

 何時になく僕はその可能性を否定する。

 否定しては根拠のない謎の自信がそれを打ち砕く。

 今まで遠巻きにしていた彼女が何処で何をしているのか全く分からないけど。

 それでも、彼女はこんな何もない停滞を望むだろうかと問い続ける。

 

 「でも、確かめなきゃ」

 

 そう確かめなくては何も始まらない。

 何も終わらない。

 時間は止まらない。

 時が止まるなんて描写をしても、その止まった描写だけで本来の時間は止まらずに流れ続けてる。

 止まらないものなんか何処にもない。

 時間は進む。

 無情にも進んでは、停滞を望む僕らを置いていく。

 時間だけが平等だ。

 不平等になってくれて良いのに、全てのモノに平等に進んでは無慈悲に終わりを伝えてる。

 なら、こんなところで立ち止まってなんかいられない。

 止まったまま終わるだなんて、僕の為に犠牲になった人たちの行いが無駄になる。

 そんな結果は許されない。

 何よりも誰よりもそれが大罪なのだということを現実を生きていたあの男ならばそれを痛感しても可笑しくないのだから。

 

 カタカタカタ。

 カチカチカチ。

 チクタク、チクタク時計の針は進んでる。

 

 昼なのか夜なのか曖昧になる世界で僕は只管に教室を目指した。

 

 キンコーン、カンコーン。

 

 誰もいない校舎を走り抜けると、もうすぐそこにやって来た。

 短いようで長い道のりで僕が足蹴もせずに通った教室の前に立つ。

 

 ガラガラと古びたドアを開ける。

 何時ぞやの真弓さんと歩いた夕方を思い浮かんだ。

 彼女に会いたい。

 もう一度、誰も傷つかない世界で笑い合いたい。

 そんな願いを胸に開けたドアからその教室にいる誰かを見た。

 

 夕焼けの教室の窓辺に独りで空を眺める少女がいる。

 

 開けた窓から風が吹き込み、夕日の光をオレンジの髪が融けたように入り混じっていく。

 まるでこの教室が一つの世界で、僕と彼女の二人だけの世界が造られたような錯覚をする。

 不覚にも、その儚げに外の景色を見る横顔を見て、綺麗だと思った。

 誰よりも世界を愛した、そんな描写をしても可笑しくなかった。

 カチカチ。

 静寂を掻き消す秒針の回る音にハッと目を覚ます。

 どうして、こんな胡乱な少女に見惚れてしまったのか解らなくなる。

 如何にも待ってましたと言わんばかりにいる彼女は見るからに怪しさ満点だと言うのにそれを不思議に思わない。

 どうかしてる。

 いや、元から僕はどうかしてたんだ。

 だって、未だにこの状況で立ち止まることもなく困難を乗り越えようと必死になってるんだから。

 

 「シェリア、会長?」

 

 言葉が所々つっかえてしまったが、勇気を振り絞って少女を呼びかけた。

 その僕の呼びかけに少女は何とも言えないような表情をしながら、振り返ってはこちらに微笑んだ。

 

 「はい。私に何の御用ですの?」

 

 ジッと見つめる少女の黄色の瞳。

 その瞳は月明かりのような色で僕の気持ちを飲み込んでくれそうな優しさが見えた。

 

 「シェリア会長なんだよね?」

 

 再び問う。

 そんな僕に彼女は付き合うように質問に答えてくれた。

 

 「ええ。私はシェリア。シェリア・ウェサリウスでございますわ」

 

 澱みのない真っ直ぐな視線。

 私の名前だと言わんばかりの名乗りに彼女であると確信する。

 

 「そっか。シェリア会長か。急な話なんだけど、ごめん。ちょっと手伝って欲しいことがあるんだ」

 

 窓辺にいる彼女にそう言いながら近づく。

 十メートルもないような距離なのに、壁を感じたからか僕は彼女の傍に向かった。

 

 「何ですの? 私、ちょっと夕日を見るので忙しくってそれどころじゃありませんのよ」

 

 それは一種の拒絶の声だった。

 お前の用事などよりも無意味な行為に耽る方がマシだと言っている。

 

 「ごめん、ごめん。でもさ、ちょっとだけ頼みたいことがあるんだよ」

 

 一歩、二歩と近づいて。

 

 「それ以上、こちらに近づかないで頂けます、ミスタ?」

 

 ガチャリ。

 いつの間にかシェリア会長の手に収められている拳銃の銃口が僕に向けられた。

 きっと彼女が引き金を絞ればその込められた弾丸は僕に放たれることは容易に想像できた。

 本気で彼女は僕の頼み事が嫌だと拒絶している。

 それが明確な敵意を向けられていることに動揺もしない。

 こうなることは想像していた。

 

 「話をしないか?」

 

 その場で優しく語り掛けるように話を持ち出す。

 それでもそれが何の効力も持たないことは彼女の目を通じて伝わった。

 

 「お断り致しますわ。私、別に貴方がどうなろうと知ったことじゃありませんもの」

 

 突き放す。

 容赦ないシェリア・ウェサリウスの本音で僕は突き放された。

 知っていた。

 彼女じゃなくても僕が僕であることを許さないなんてことは知っていた。

 瑞希が居た。

 天音が居た。

 そして、アズマともう一人の神様の僕が居る。

 それらが僕と言う一個の人間の感情を改竄しようと躍起になっていた。

 もしかしたら目の前の少女もその一人なのかもしれない。

 いや、きっとそうだ。

 そうでなくては、こんな夢の世界にいない。

 

 「それが、君のやりたいことだから?」

 

 だから聞く。

 僕を否定する理由が彼女にとってどれだけの対価を支払うに相応なものなのかを聞いた。

 

 「はい?」

 

 目を丸くしたシェリア会長。

 突然の僕の切り替えしに言葉の意味が解らないと言いたげだ。

 

 「だってそうでしょ。君のやりたいことだから僕と言う存在を許せない。僕が僕と言う人間を止めて君たちの求める人間になることが君の目的なんだろう。それならば、今、こうして僕の頼みを断るのも君のやりたいことの天秤にかけた話だってことになる」

 

 僕の話を黙って聞く少女。

 夕焼けは沈まない。

 相変わらずその日の光を僕らに照らしてる。

 

 「でも、今の君を見てるととてもそうには見えないんだ」

 

 感覚の話だった。

 だって、少女の目が余りにも迷ってたからとしか言いようがない理屈だったから。

 根拠のない只の思い付きで彼女の考えを話してる。

 その銃口の得物の引き金を引っ張られても文句は言えない。

 

 けど。

 

 「どうして。どうして、そう見えるのかしら?」

 

 少女は問う。

 僕の言葉が本当のことだったのか。

 それとも単純に好奇心が働いただけなのか。

 それでも少女が引き金を引くよりも重要だと認識したことなのは確かだった。

 

 「だって、此処で君は僕を待っててくれたから」

 

 誰にも気付かれずに隠れることは出来ただろう。

 僕の認識を誤魔化すことも幾らでも出来た筈だ。

 それが出来なくても僕から黙って逃げて、見えないところに姿を隠すぐらいの余裕はある筈なんだ。

 それらをしないってことは、つまり僕と話をしようと思ったから。

 僕がこれからしようとすることに少しでも手を差し伸べようと思ったから、こうして僕と喋っている。

 推測に過ぎない。

 都合のいい戯言にも過ぎない。

 でも、今の彼女が此処に居なければならない根拠なんてそれぐらいしか思いつかなかった。

 

 「僕の考えは上位幻想には筒抜けなんでしょ? だったら、答えてよ、シェリア会長」

 

 僕に手を貸して欲しい。

 その能力をあの馬鹿野郎の為に使って欲しい。

 これをしたら君は死んでしまおうとも、僕はそれを頼むことでしかこの状況を打破する未来が見えないんだ。

 

 それを黙って彼女は見る。

 その思いを息を吞み込んでジッと見つめてる。

 

 再び彼女の下へ近づいた。

 引き金は引かれなかった。

 夕日は段々と沈んでくのが何故か分かった。

 

 「貴方、酷い殿方なのですわね」

 

 手を差し伸べる僕を見て彼女はポツリと文句を言った。

 彼女と僕の距離はもう残り五メートルを切っていた。

 一分もしない内にシェリア会長とは握手が出来る距離に近づける。

 

 「知ってる」

 

 きっと彼女の中の止まっていた時間が動き出したのだろう。

 そんな言葉を口にしたら、構えていた銃口を降ろしてた。

 

 「――――はあ。なんか馬鹿らしくなってきましたわ」

 

 窓際に着く。

 差し伸べた手が取られ、握手を交わす。

 

 夕焼け越しのシェリア会長の顔は何だか誇らしげな笑みを浮かべていた。

 

 また一人、見たくないものから目を背けずにいる人が増えていった。

 

 





 次回の投稿は9月20日を予定しております。
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