バッドエンド·ガールズ   作:青波 縁

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015 殺戮人形の最期

 

 交信の杖。地下聖堂。降霊術。祭壇。

 生け贄。外なる神。異星からの来訪者。地球外生命体。

 知識生命体。概念。アストラルコード。複製人間。

 深淵を見つめる者。

 深淵を覗く者。

 来たれり。来たれり。来たれり。

 魔導兵器。プロトコル。

 エラー。エラー。エラー。

 電波ジャック。未知との遭遇。同調せよ。

 開くのは新世界の門なり。

 舞い降りよ、その身を我らに捧げたまえ。

 

 バグ。愚者。ドンキ・ホーテ。

 役者は舞台に降ろせ。不確かな権利を剥奪するのだ。

 踊れ、踊れ。愚者よ踊れ。

 運命の糸によって手繰り寄せられた哀れな操り人形たちよ、舞台にその身を舞い踊らせよ。

 さすれば、少しはマシな物語になることだろう。

 

 銀のブロンド。碧の瞳は深い海原を見てるかのような色彩を魅せている。

 盤上の駒の一つ一つを手にとって、クスリと微笑む青年。

 誰も彼に気づかない。

 気づいたところでその記憶は奪われる。

 

 「さて、次は彼女かな」

 

 椅子から立ち、盤上の駒の一つをつまみ上げる。

 支配者は嗤う。

 その哀れな者の末路を想像しては、狂おしい声で次の計画を告げるのだ。

 

 ◇

 

 沈む夕日を背に邂逅する僕とシェリア会長。

 その夕暮れが沈んだら、何かがやってくるそんな気がしてならない。

 まるで、あの時の影絵の猿のような何かが僕らを襲ってくる、そんな予感がしてならない。

 

 「急ぎますわよ」

 

 カチカチカチ。

 シェリア会長は、教室でこちらの話を拒絶していたとは思えない迅速な行動で中庭に向かっていく。

 タイムリミットを気にしても、この時間の曖昧なこの世界は自身の都合良く物事を進めるのだから意味はない気がする。

 

 「それでも、出来る手があるのですから急ぐのですわよ!」

 

 オホホホ、なんて高笑い今時使わないのに、この人だけはそれを使ってる。

 でも絶望的に無理してる感じがして似合わない。

 まるで取って付けたようなお嬢様口調で正直突っ込むと面倒だなと思う類だ。

 彼女のことを人は地雷案件とでも言うのだろうか?

 

 「……幾ら私が世間に疎いからと言って流石にそれは無いと思いますわよ」

 

 なんか呆れ顔されてる!?

 残念な奴だって思われてる!?

 

 「当たり前ですわよ! というか、今までそんなんでよく火鳥に文句言われませんでしたわね!?」

 

 ビックリ仰天だと言いたげにシェリア会長は憤慨している。

 何だろう、カルシウムでも不足してるのだろうか?

 

 「ムッキー! 流石に温厚な私もこれには声を大にして言いたくなりますわ!」

 

 温厚?

 果て、僕が思いつく温厚は普段から誰彼問わず突撃するような性格だと言うのかな?

 もしかして、僕が知らないだけで実はそれが温厚という字の意味なのかもしれない。

 今度、辞書で引いて調べてみよう。

 

 「バカにして! どんだけ私のことをコケにすれば気が済むのですの!?」

 

 少しヒステリック気味にシェリア会長が僕を睨んでくる。

 からかうのはこれぐらいにしておこうかな。

 

 「いや、何だかシェリア会長とこうして喋ってると何だか普段のバカさが取り戻されるようでさ。こう、なんかスゲー癒される」

 

 「いや、なんかこれ幸いにいい空気作ってますけど、それ聞く限りだと私のこと頭が抜けてる人間に思われてるって言う解釈になりますわよ!?」

 

 あれ? なんか褒めたつもりが逆に火に油を注ぐような結果になって、る?

 

 「当たり前ですわよ! あー、そうでしたわ。貴方、バカでしたわね!」

 

 なんか無茶苦茶怒りだしてる。

 どうして!?

 

 「それが解ったら、貴方は天然だなんて言われないのですわ!!!」

 

 胸ぐらを掴まれた!?

 親父にも掴まれたことないのにー!

 

 「だー!!!」

 

 そんなバカをやっても中庭には無事到着した。

 流石にここまで来るのに大分体力を使ったような気がする。

 まあ、こちらが何かすると解って、敵も傍観を決め込むほど楽観的ではない。

 

 ジジジ。

 ノイズがする。

 雑音が世界を浸食し、目の前の廃墟を背にそれが現れる。

 夕暮れが沈む。

 昼と夜の境界が入れ替わる。

 星一つ無い、落書きジミた夜空の下でそれがゼンマイを回し始める。

 まさかとは思ったが、ここに来てそれが漸く出てくるとは予想はしていなかった。

 いや、するべきだった。

 銀のトランクを必要としなくなったのは、あの時の戦いで学んでいた筈なのにそれがスッポリ抜けている自分のふがいなさにつくづく呆れが入る。

 

 「まあ、解っていたことですわ」

 

 這い出る(マネキン)は何の合図もなしにやって来た。

 骨が砕ける鈍い音。

 (マネキン)の首関節が一回転。

 人間としての機能を逸脱した奇怪な動きをするそれが、こちらを見て嗤ってる。

 

 「そう、だよね。君が此処にいるのは何となくだけど分かってた」

 

 魔術破戒(タイプ·ソード)現実化(リアルブート)する。

 目の前の悍ましい何かが音を立ててこちらへと近づいた。

 赤子のような這い這いで、けれど人間離れした速さで腕を突き出した。

 

 隣に居たシェリア会長が銃口を構え、狙いを定める。

 渇いた銃声が響き渡る。

 ワンクッションも挟まず、正確にその(マネキン)の頭を打ちぬいた。

 

 ――――が。

 

 ぐるん、グルンと首を回してそれはスピード緩めずに這って来た。

 (マネキン)と僕らの間合いは三メートルを切った。

 すかさず、集中して幻影疾風(タイプ·ファントム)を発動する。

 思考する間も与えない時が止まった世界を自分の世界にイメージ。

 コンマ一秒でそれは実現される。

 (マネキン)と僕はもう一メートルの間合いしか空いてなかった。

 

 「――――っつう!」

 

 横へと一閃。

 何度もそれを繰り返す。

 常人にしては僕の動きは目で捉えることが出来ない。

 置いてけぼりをくらってるシェリア会長。

 構わない。

 幻影疾風(タイプ·ファントム)を解除してしまったら、それこそ(マネキン)に僕は付いていけなくなるのだから。

 

 「ガ、ガガガガ!」

 

 けれど止まった時間の中でその声が聞こえた。

 背筋が凍るかと思った。

 冷汗がドッと出て、ドバドバと口から何か熱いモノがこみ上げて来た。

 

 後ろに下がる。

 

 僕に切り刻まれていると言うのに、それはどうやら反撃をしたらしい。

 止まっているとしか思えなかったのに、何故?

 

 「七瀬勇貴!」

 

 せり上がって来る悪寒。

 恐怖と共に口から吐き出したそれの正体が赤い液体だと見て取れた。

 

 「い、一体、何故?」

 

 二発の銃声。

 追撃を仕掛けようとする(マネキン)に火花が散って、その四肢を吹き飛ばす。

 人形であるから痛みを感じる様子もない。

 

 ギギギ。

 

 只、ぎこちない動きに変わるだけでそれが人としての機能がないことを伝えてくるだけだった。

 

 (マネキン)が動こうとする度にシェリア会長の二丁拳銃から火が噴いた。

 何発かの銃声が鳴り響く。

 その度にそれの身体が削られて、最終的には四肢が完全に欠損した達磨が完成した。

 

 カチカチカチ。

 ノイズが合わさる。

 吹き飛ばされた四肢と同調するように(マネキン)は活動を停止する。

 流石にこんな体にされちゃ、身動きは取れるまい。

 

 しかし。

 

 「いえ、まだですわ! 速く、魔術破戒(タイプ·ソード)で斬ってしまいませんと再生致しますわよ!」

 

 悲痛な叫びのようにシェリア会長が声を大にして叫ぶ。

 一瞬の隙も命とりだと言わんばかりだ。

 

 「――――え?」

 

 油断した。

 というより、先ほどの見えない動きが何なのか理解出来ていなかった自分の愚かさが嘆かわしい。

 (マネキン)の顔がニタリと嗤った気がした。

 

 ドクン。

 心臓が飛び跳ねた。

 汗が飛び出て脳内のアドレナリンが沸騰する。

 脳内麻薬が飛び散る中で、それが再び僕の臓物に向かって貫いたのが今度こそ確認出来た。

 

 欠損して吹き飛んだ腕。

 その腕が僕の風穴を広げる。

 予期せぬ絶叫が僕の喉から吐き出てた。

 痛覚を遮断するような器用な真似は僕には出来ないのが感じる激痛を余計に拍車をかけた。

 

 スローモーション。

 コンマの世界で視界が点滅する。

 色が落ちたり、色彩を帯びてきたり忙しい。

 すぐ近くで誰かが叫んでる。

 うるさくて仕方ない。

 痛い。

 余りの痛みに冷静さが増していく。

 人形が動けない。

 四肢が欠損しているのだから当たり前の話だ。

 悪足掻きめ。

 

 ドクン、ドクン。

 暗い世界になってしまうから早く始末しないと戻ってしまう。

 ドクン、ドクン、ズキリ。

 頭が痛い。

 特に頭が割れるように痛くなった。

 風穴を開けられた腹ではなくそこが痛むのが何か無性に腹立たしい。

 

 「――――クソ」

 

 停止していた身体を無理やりにエンジンを掛けた。

 ブルン、ブルルルゥンとかそういう類の擬音は聞こえないがご愛好だ。

 もう上半身しかその原型を留めていない癖に粘るじゃないか。

 

 コンマ三秒。

 

 時が止まるとは嘘っぱちだが、そんな表現でしか目の前の現状を語れない。

 上手く言語化できるのならば誰か教えて欲しい。

 

 負の感情を封じ込めて造られた殺戮人形(キラーマシーン)の最期は何とも言えないあっさりとした幕引きだった。

 本当、何の為にお前此処に来たのって言いたくなるぐらい拍子抜けな壊れ方だった。

 お前のご主人様はもっと面白く足掻いたというのに何という体たらくだ。

 所詮、無機物だったとしか言いようがないな。

 

 そうして、動けない(マネキン)に向かって全てを終わらす魔剣の刃を振り落とした。

 

 グシャ!

 

 そんな胡桃の殻を砕くような音が夜の中庭に響き渡ったのだ。

 

 ◇

 

 それは、世界秩序を調べるよりも簡単なことでした。

 盤上に倒れる一つの駒。

 情報生命体となった青年はそれをクスリと嗤いながら見つめる。

 

 カタカタカタ。

 テキストを改竄する誰かは少女でした。

 黒い髪の虚ろな目をした少女は何処かで見た風貌をしていましたが、よく覚えていません。

 

 「やっとオートマンの魔導兵器を仕留めたところか」

 

 優し気な青年の声は聴いていてとても心地が良いものなのに、何故かその存在に畏敬の念を抱いてしまいます。

 いや、畏怖の念と言ったところが適切なのでしょう。

 誰かを先導する圧倒的なカリスマ。

 それこそが青年を地位を上げたポテンシャルなのです。

 

 盤上にある駒の数を数える青年。

 

 「同調はそろそろ融合出来るとして、残りは四つか」

 

 意思、傍観、同調、改竄、強奪、創造、欺瞞。

 全ての権能(チート)を得る時、彼の用意したシナリオが完成します。

 螺旋の下でその完結を待ち遠しくなる青年は生者ではありません。

 ですが、死者でも幻想でもありません。

 何故ならば、それらを統合する為に用意された黒幕というものだからでしかないのです。

 青年はモニターに映る誰かを見つめます。

 その姿は誰にも認知されない。

 嘘ばかりの世界ですが、真実は魔導魔術王(グランドマスター)の手の平の中にあったのです。

 

 物語は中盤に入りました。

 世界は更に構築されていきます。

 

 





 
 次回の投稿は未定です。
 書き直したら、続きは投稿します。
 

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