「──っがぁあ!!!」
虚構と現実の狭間へ跳ばされる。
同時に意識が曖昧になり、記憶が欠けていく。
「あ、ああ、ぁああああああ!!!」
酷い話だ。
きっと目が覚めたら、今までの出来事を忘れているのだろう。
「……うぅ、ぐぅううう」
全部、忘れてしまう。
リテイク先輩を殺した絶望感も、累の葛藤も、真実に近づいたことの何もかも無かったことになる。
「『■■■■!』」
視界を
隣で笑っていた
一緒にいた
僕を知る誰もが居なくなって、最終的に僕さえも消えるのだ。
「──ち、くしょう」
底なしの闇へと堕ちていく。
「『■■■■■■!』」
誰なのか聞こえ辛くて解らない声が聞こえる。
「アハハ──、もう良い。もう、良い、ん、だ」
……でも。
もう、諦めよう。
どうせ何をしたって、無駄なんだ。
それなら、全部、諦めてしまえば楽になる。
「う、ううう、ぅぐぅう!」
全部がどうでも良いモノに見えてくる。
不思議だ。
何をする気にもなれない。
────「それで、良いの?」
そう、何をする気にもなれなかったのに。
今、
「──生きたかった、なぁ」
本音が漏れる。
最後まで僕は自分って存在を許されることはなかった。
今はそれが辛くて、涙が止まらない。
名も知らぬ誰かの記憶が脳に刷り込まれていく。
疲れた。
疲れたんだ。
僕は生きるのに疲れた。
二度目の人生でさえ、神様は碌なことをしない。
嗚呼、そうか。
きっと神様っていうのは人間の苦しむ顔を見るのが好きなサディスト野郎だ。
だから、こんな仕打ちが出来るんだ。
足下が埋まっていく。
底なしの闇に堕ちる僕を誰も助けない。
「■■■■、手を、■■■■!」
何も頑張りたくない。
どうせ足掻いたところで生きることを望まれないなら、このまま消えてしまえば良い。
そうだ、それが間違いない。
それこそが正しい選択だと理解しているというのに──。
「■■さん! 手を、の■■て!」
震えが止まらない。
まだ消えたくないと体が叫んでいる。
声がする。
誰かが必死に手を差し伸べてるのに、僕の身体は言うことを聞いちゃくれない。
────「ユーキ!」
そんな時、■の声が聞こえた。
────「忘れ物だよ!」
■が振り被って投げた。
とっさに投げつけた物を掴もうと手を伸ばすと──。
「つ■め■■た!」
僕の手を誰かが掴む。
「う、うぅううう! あ、後もう少しぃ……!」
でも、駄目だった。
未だ僕の目には砂嵐しか映らない。
このまま深い闇に呑まれるのも時間の問題だ。
「お前なぁ! 此処で消えたら承知しねぇからな!」
──そう思われた時、闇の底から誰かが僕を押し上げる。
「お前さんが此処で消えたらよぉ、一体誰が
二つの力が僕を闇から解放させようとひしめき合う。
同時に人間嫌いの
「だから! 早く行って殴り飛ばして来い!」
◇
目を覚ますと、崩壊していく校舎が見えた。
僕は屋上にいた筈なのに、見知った教室に居たんだ。
チクタク、チクタク。
時計の針が逆さまに回っては止まり、同時に二つの人影が対峙する。
「勇貴さん!」
■■さんが叫ぶ。
きっと、彼女が僕を暗闇から助けてくれたのだろう。
宙を描く魔法陣から光線が放たれていのがその証拠だ。
「……どぅ、して? どうして、邪魔するんですか! どうしてどうして!」
影を纏う黒髪の少女がヒステリックに叫ぶ。
その深い闇のような目は誰も見えていなかった。
────「お兄ちゃん!」
だというのに、そんな彼女の泣き顔を見たくない自分がいる。
「わた、し。──私は! 私は只、兄さんに会いたかっただけなのに!!!」
少女の纏う影が膨張し、その魔の手を僕らに伸ばす。
「──っつぅ!」
それに対し、幻想破戒の魔剣を
大丈夫、どんな魔術を切り裂く
「止めて。止めて、止めて。止めてよ!」
未練を断ち切るべく、■■へと駆ける。
取りこぼした夢をどれほど願おうと、あの仲慎ましかった光景は戻らない。
そんなことは解り切った話で、僕は過去じゃなく今を生きる為に魔剣を握るんだ。
僕の想いに呼応するよう、
「止めてよぉお! お兄ちゃん!!!」
はち切れんばかりの絶叫が影に広がり、
「──光を!」
──駆ける僕を追うように、光の雨が影へと降り注がれた。
「──っつぅ、あ!」
光の雨を浴び、影から不安げな
一秒も速く、露になった
パリン!
するとあらゆる幻想を葬る一撃が
それは、死した兄との再会を願った少女には救いのない光景だった。
「お、おに、い、ちゃ、──」
小さく吐き出される断末魔。
虚空へと伸ばされた手は届かず、粒子となって消えていく。
カランと転がる黒い箱。
少女、古瀬瑞希の生涯は儚くもその幕を閉ざすのだった。
僕の名前は、七瀬勇貴。
只、七瀬勇貴と呼ばれるだけ人間に過ぎず、彼女のお兄さんでは決してない。
チクタク、チクタク。
時間が巻き戻る。
少女が消えた場所を見つめながら、再び僕の意識は闇へと堕ちる。
「──です、ね」
意識を手放す間際、ギュッと誰かに後ろから抱きしめられるのを感じた。
◇
目が覚める。
朝の日差しに何処か微睡みが抜けず、ベッドの上で呆然とする。
「何だろ?」
いつも通りの朝だというのに、何かが可笑しい。
眠っている間に夢でも見たのか、目から涙が溢れてくる。
「アハハ。可笑しぃ、な。何で、僕、泣いてるのさ?」
悲しくなんてない筈だ。
悲しいことなんてない筈なんだ。
──だというのに、涙が止まらない。
それはまるで、僕が悲しんでいるみたいじゃないか。
いつも通りのことなのに、涙が止められない。
「本当、どうして、な、ん、だ?」
それから、僕は訳も分からず泣き続けた。
欠けた何かを思い出そうにも、それは霞んでは消える幻だった。
蜃気楼のように消える幻は、忘却するに限る。
涙が止まる頃には始業の鐘が鳴っていた。
この日、僕は学園生活始まって以来、授業を欠席したのだった。