バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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017 泣き疲れたら君が来た

 

 ザー、ザー。

 

 雑音(ノイズ)発生。

 雑音(ノイズ)発生。

 

 お父様は、平民は貴族を崇拝する家畜だと言いました。

 お母様も、貴女は家畜に何をしようが構わないのよと言われました。

 

 貴族は、あらゆる悪逆を許された選民です。

 故に戯れにどんなことをしても罰せられることはありません。

 喩え、気に入らない村娘の一人を飢えた野犬の群れに放り込ませることも許されるのです。

 

 ────「い、いやぁあああ!!!」

 

 甘美でした。

 いえ、とても素晴らしい思い付きでした。

 年端も行かない、あの高慢ちきな女の命乞いは聞くに堪えないものでした。

 

 ですが。

 ええ、嘘を言わないのが淑女というもの。

 あの高慢ちきな女の悲鳴を聞いて、選民のワタシはとても興奮したのを覚えてます。

 

 「クスクス。お似合いですわ、■■■」

 

 戯れに家畜の命を散らせたワタシ。

 

 ────「家畜は、この城を運営する為の資源なのだ。だから、シェリア。無意味に食い潰してはならんよ」

 

 そんなことを常に言っていたお父様は、きっとそんなことをしたワタシを叱るだろうと思っていました。

 

 ……ですが、それは杞憂でした。寧ろ、そんな期待を裏切るように両親はワタシを褒め称えました。

 

 素晴らしい。お前は躾の才能がある。

 その時、平民は奴隷であり家畜以下の塵芥だと言うことをワタシは再確認させられました。

 

 「クスクス」

 

 それ以降ワタシはより一層、家畜たちを残虐に躾けました。

 お父様の求める通り、今日の気分次第で虫けらを潰すのです/嗚呼、とても愉しいわ。

 

 そんなワタシに家畜たちは抵抗しました。

 家畜たちを見かねた少数の愚者共も反乱を企てたました。

 

 ────「どうか、お慈悲を!」

 

 そのお陰で、ワタシは泣き喚く家畜の首を落とすのも慣れました。

 ですが、ありふれた命乞いの後に訪れる濃密な死は、とても甘美でしたよ。

 

 逆らう者は皆殺しです。

 だって、貴族に盾突く反乱分子(おもちゃ)などワタシには不要の産物。

 故に、そうしただけ。

 ……いえ、これは言い方が悪いですね。

 

 そうだわ! 収穫という間引きと呼ぶべきだわ!

 だって、その方が華のあるものに見えるでしょう?

 

 ワタシは城主。

 貴族である以上に持て囃されるべき存在。

 雑草を刈り取ることに躊躇う必要はなく、そうする権利がワタシには与えられている。

 

 ────「お前は、生まれるべきではなかった」

 

 なのに、お父様は恐ろしいものを見る目でワタシを睨むのです。

 

 ────「何処で育て方を間違えたのかしら」

 

 お母様は震える手元でワタシに不服を訴えました。

 何故ですか?

 貴女たちの言うことを全て実行したというのに、何が不服なのです?

 アナタ方の教え通り、反乱分子のある家畜を間引いただけです。

 それだけをしたのに、ワタシの在り方を失敗だと嘆くのですか!

 

 「ほら、ワタシは何処も間違えておりませんでしょう?」

 

 寝室に仲良く転がる亡骸に、ワタシはそう問いかけました。

 

 ジジジ。

 

 死に際の夢。

 泡沫の幻。

 どれ程チープな結末に至ろうと、悪逆の魔女(ワタシ)は止まらない。

 

 ◇

 

 「お久しぶりです、勇貴さん」

 

 泣き疲れたところに真弓さんが来た。

 彼女の口から久しぶりという単語が出たことで、疑惑は確信へとなった。

 やっぱり、今まで会っていた真弓さんは真弓さんではなかったのだ。

 

 「うん。久しぶり」

 

 こうして会うと分かる。

 あの真弓さんにはないオーラが今の彼女には見えるのだ。

 

 「色々と聞きたいこともあると思います。でも、今は──」

 

 僕の表情を見るや、真弓さんは焦ったように話を持ち掛ける。

 どうやら僕らにはゆっくりする暇はないらしい。

 

 「良いよ。話をしてる場合じゃないんでしょう?」

 

 この世界は学園の中だけの狭い世界でしかなく、僕という存在はもう手遅れの状態なのだと■が言っていた。

 

 それが本当なら、ゆっくりしている暇はない。

 

 「ええ、そうです。事態は一刻を争う状況になりました。私も貴方も、もう後がない現状です。彼が居なくなったということは、即ち魔女の監視に邪魔が入らなくなったんです」

 

 魔女の監視?

 

 「ええ、現状で最大の障害であり、古瀬瑞希と共に悪逆の限りを尽くす黒幕の少女です」

 

 彼女がそう言うと、空気が重くなったのを感じた。

 ジジジ。

 眩暈がする。

 

 「──っつぁ」

 

 クスクス。

 それと同時に誰かが僕を嘲笑う声が聞こえた。

 

 「──なっ!?」

 

 おぞましい。

 そう感じずにはいられない嘲笑は、気のせいじゃなくはっきりと僕の耳に聞こえた。

 

 「ええ。これが魔女です。とうとう、代役を使わず自ら出てきましたか」

 

 吐き捨てるように、部屋の一点を見つめる真弓さん。

 

 「……そこに何かあるの?」

 

 恐る恐る虚空を睨む真弓さんに尋ねる。

 

 「はい。多分ですが、そこに魔女の目があります」

 

 魔女の目?

 

 「そうです。……ああ、魔女の目というのは、ですね。勇貴さんに分かりやすく説明するならば、監視カメラと表現した方が適切かもしれませんね」

 

 ああ、そう言うこと。

 でも、僕の目に見えないだけでそこには本来そういうのがあるってことなのかな?

 

 「──いえ。これは、私にしか感じ取れませんね。本来、魔女の目と表現する魔術ではないのです」

 

 真弓さんが部屋の一点に視線を注ぐ中、不意に部屋のドアがコンコンとノックされる。

 

 こんな時に誰だ?

 いや、誰かなんて決まってるようなものだ。

 

 「──出る杭を打ちに来ましたか」

 

 真弓さんが身構えると、彼女の足元に魔法陣のようなものが浮かび上がった。

 

 「──っ」

 

 ドア越しに感じる来訪者の気配に息を呑む。

 未だノックされ続けるドアを開けようとすると、

 

 「……駄目です」

 

 そんな僕を真弓さんは真剣な顔で制した。

 

 「──ちょっと、居るのは解っておりますのよ。身構えてないで、さっさとドア開けて貰えませんの?」

 

 それをドア越しにある少女が窘める。

 

 「シェリア会長?」

 

 シェリア会長の声に、もしかしたら今回も助けてくれるのかもと期待する。

 

 だが、真弓さんは警戒を緩めない。

 寧ろ、顔つきがより強張ったのが分かった。

 

 「……ああ、もう! 警戒されるのも解りますわ! でも、少しはワタクシを信じても宜しいのではなくって!?」

 

 埒が明かないと言い、シェリア会長はノックを強くする。

 焦ったようなその声を聞くと、僕は交信の杖が崩れてしまい困っていた時のことを思い出す。

 何だかんだ言って助けてくれた彼女のことを少し信じてみたくなった。

 

 「勇貴さん!」

 

 ドアを開けようとする僕の手を取る真弓さん。

 頑なにシェリア会長を部屋に入れるのを阻止しようとしている。

 

 ……それが、どういうことなのか分からない訳じゃない。

 真弓さんは、シェリア会長が何をしているのか解っているのだろう。

 それに対し、僕は未だ魔女が誰なのか解らない。

 

 けれど、今ここで立ち止まることはしちゃ駄目なんだ。

 だってそれは、きっと■の意志を蔑ろにすることだと思うから。

 

 「──真弓さん」

 

 暗闇に手を伸ばし続けてくれた少女を見る。

 それだけで救われた。

 それだけが僕の支えになっていた。

 

 彼女の言うことなら、多分間違いはないのだろう。

 でも──。

 

 「……確かに。君の思う通り、この先を開けたらきっと酷いモノを見るんだろう。それは、僕にとっても。君にとっても嫌なことなんだ。けれど、この先を目指すのなら。魔女の企てを越えるのなら。僕たちは、どんなものだろうと見なきゃいけない」

 

 自分を希望だと告げた少女は何か言いたげに僕の顔を見続ける。

 

 「────」

 

 掴んでいた手はいつの間にか離れていた。

 

 「だから、開けるよ」

 

 ゆっくりとドアを開ける。

 もう真弓さんは止めなかった。

 

 只、その成り行きを見届けることにしたのかもしれない。

 

 「──遅いですわよ、七瀬勇貴」

 

 案の定、ドア開けた先にオレンジの髪の少女が居た。

 

 「……シェリア会長」

 

 彼女の名前を呟くとシェリア会長は微笑むのであった。

 

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