「……魔女」
僕とシェリア会長が握手するのを見つめる真弓さん。
彼女の中では僕ら二人が仲良くするのに納得がいかないみたいだった。
「もしや貴女は魔女ではないのですか? いや、仮に貴女が魔女でないのなら説明がつかないことがあります。でも──」
真弓さんが混乱していた。
無理もない、彼女は最初からシェリア会長のことを疑っていたのだ。
だから、ノックがした時に真弓さんは出る杭を打ちに来たと言ったんだ。
「そうですわね。名城真弓、アナタにとっては信じられないことですわね」
そんな真弓さんにシェリア会長は興味なさげに言い放つ。
「まあ、そこのところも含めて今度お話をさせて頂きますわね」
シェリア会長が手を離す。
すると、いつの間にか彼女の手には二丁の拳銃が握られている。
「でも、それは取り合えずこれが終わってからで宜しいかしら?」
そのまま、勢いよく後ろに振り向く。
釣られて僕もシェリア会長が向いた方へ視線が行く。
ジジジ。
「──ありゃりゃ? ……ウェサリウスも裏切るつもりなんだ?」
開けっ放しにしていたドアから、こちらを伺う赤い髪の少女がそんなことを言う。
気配はなかった。
だが、それは作り物の世界なら幾らでも誤魔化せるのだろう。
虹色に輝く大剣が構えられる。
「……二胡さん?」
天音によく似た少女、二胡がそこに現れた。
しかも間が悪いことに僕らと一戦交える気らしかった。
「そんなの当たり前でしょうが」
二胡さんが言う。
その姿かたちに僕は改めて天音とよく似ているなと思った。
だって、その殺意を込めた目は、あの時の天音と全くの同一のものに感じられたんだ。
「勇貴さん。……それは」
真弓さんがまた何かを言いたげにしてる。
「うん。それは当たり前だよ。アタシは久留里天音の残留データを使って生み出された上位幻想に過ぎないんだからさ」
だが、それよりも速く二胡さんが口を開いた。
「……残留データ?」
「そう、残留データ。この世界——というか、貴方にしてみれば現実と言った方が良いのか。それは当然造られた世界であるなら、その世界にあるモノは全てデータという形で表現されるものなの。そして、そのデータを幾ら破戒されようとそれを形成する為に表記されるだろうパターンは必ず何らかの形で現存されるって訳」
……何それ? 言ってる意味が解らない。
えーと、つまり、あれか。
天音だけど、天音を元に二胡さんは造られた人間ってことで理解すれば良いのか?
「その認識で良いよ。いやはや、話が分かってくれて助かる……と言いたいけど、まあそれも作者の匙加減で理解させてるから、認識しただけなんでしょうけど」
アハハ、と二胡さんが笑う。
しかも何処か遠い目をしていたんだ。
……しかし、あれだ。
「何かな? あんまり喋っていると読者様が退屈するよ?」
大きな剣が振るわれる。
その一閃で、空気が変わった。
二胡さんは獰猛な笑みを浮かべ、いつでも斬り込めるよう戦闘態勢に入っている。
「なんでまた、こんな急展開なのさ」
相対する少女に告げ、一瞬で
「それはメタ的な発言だよね!」
二胡さん、否、アストラル戦隊の二胡が禍々しい大剣で僕らを一閃する。
「──光よ!」
真弓さんが叫ぶ。
瞬時に光の障壁が僕らを包む。
「よろしくってよぉ!」
それに続いてシェリア会長の構えた二丁拳銃から火が噴いた。
パン!
不可視の力が働き、それらは音を立てぶつかり合う。
「──っちぇ!」
力と力が拮抗する。
光に包まれた僕は現実化した
「うぉおおおおおおおお!!!」
そのまま勢いよく、踏み込む。
コンマ一秒の感覚で、二胡の懐に向け
「……まあ、そう来るよね!」
だが、その攻撃を二胡も読んでいた。
予めに張っていたのか、僕が踏み込んだ足元で何かが炸裂する。
「うお!?」
炸裂する地面を咄嗟に下がり、避ける。
真弓さんが僕に光の障壁を与えてくれたお陰か、その炸裂によるダメージはなかった。
でも、その隙を突いて二胡が大きく後ろに跳躍し、間合いを開けてしまう。
「ああ、もう! 三対一だとやっぱりキツイね!」
そんなことを二胡が叫びながら、大剣を振るう。
すると、突然の浮遊感に僕は襲われる。
「──のぉわ!!!」
ジジジ。
頭が痛くなり、昏倒してしまう。
見ているものが歪むような、現実が現実でなくなるのを理解する。
「──っつぅ、ぁあ」
雑音が脳を支配する。
足元が消失し、自分以外が何処で何をしてるのか曖昧になっていく。
「グッドタイミングゥ!」
二胡の声を聞いた瞬間に、世界がガランと変質した。
「な、なんだ?」
光はない。
けど、そこは暗闇ではなかった。
「うっしししぃ! 取り合えず、愚者くんはそこでゆっくりしててよ」
すぐ終わらせるからねー。
そんなことを続けて言って、彼女の気配はなくなる。
「──ま、待って!!!」
何処でもない宙に向かい、手を伸ばすもの二胡からの返答はない。
「……嘘だろ」
こうして僕は、誰も居ない空間に一人取り残されることになったのだった。
◇
愛を理解出来ない少女が居た。
虐げることでしか己の存在を証明出来ない女が居た。
「──ま、待って!!!」
そうすることでしか、愛を理解することが出来ない魔女はモニター越しに嗤うしか出来なかった。
ジジジ。
終末装置は目覚めた。
後は、影絵の魔女が主人公に敗れるだけで物語は
「ずっと夢見たんです」
腰まで届く茶色の髪を風に靡かせ、少女はポツリと呟き始める。
「だから、私たちは負けませんよ」
「その為に私たちは私を切り離したんですもの」
虚しい妄想は刻一刻と終わりへと進んでいくのだった。