バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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022 話し合い

 

 「──おや?」

 

 ツギハギの幻想が現実に混じりボクの中に戻っていく。

 

 カタカタカタ/疑似粒子、『ツヴァイ・ソード』の返還を確認。

 カタカタカタ/展開術式、『ドラマツルギー』を一時的解除します。

 

 それらの情報が脳に入り、右腕となったキャラが夢から消失したのを理解する。

 

 「────」

 

 モニターにそれは映らない。

 だから、きっと何者かがモニターに細工したのだろう。

 

 「──ふむ」

 

 隣にいる、燈色──否、赤いツインテールの少女はそれに気づいた様子はない。

 となると、これは彼女の仕業ではないことが伺える。

 モニターに視線を戻す。

 

 「……彼女か」

 

 モニター越しに元凶の少女を見た。

 そいつは惚けた面をしていたが、魔女から譲り受けた権限でそれはないことが窺える。

 

 しかし、いつ見ても気に入らない。

 腰まで伸ばした髪も、その澄み切った翠眼の何もかもが目障りで仕方ない。

 

 まあ、それも当然か。

 何故なら、ボク自身も少女と同じことをしてるのだから致し方ない。

 そう、これは俗にいう同族嫌悪ってヤツさ。

 

 ……気にするな、笑えよ。

 しかし、だ。全く、汚らしい魔女なのはどっちだよ。

 そうまでして、■■という存在を現実に帰したいのかよ。

 こっちは望んでないのに、いい加減迷惑してるのが解らないのか、アイツ。

 

 ……。

 おっと、すまない。

 危なかった。思わず、毒を吐きそうになったよ。

 ああ。キミの言う通り、隣のヤツに気付かれるのは面倒だ。

 故に助かった、ありがとう。

 慎重にならないといけないのを危うく忘れるところだったよ。

 

 「しかし、愚か者が苦しむ姿はいつ見ても良いモノです」

 

 何も知らない少女が呟く。

 苦しむヤツを見て愚かだって言うのは、お嬢様、流石にブーメランが過ぎるのではと突っ込みたくなる。

 だって、そうだろ?

 この世界では見えているものが真実である保証はないんだ。

 それなのに、目の前の光景を全く疑わないんだからバカとしか言いようがない。

 

 自分が行うこと全てが正しい。

 そう信じ切っている人間こそが愚者なのは、キミも解っていることだろう。

 けど、少女は分かってない。

 それが酷く堪らないほど、無様で滑稽なことだ。

 

 だから、ブーメランしてんじゃねーよと突っ込みたくなるボクの気持ちを解ってくれるかな?

 

 ああ、そうだよ。

 ぶっちゃけると、ボク個人として隣のヤツは嫌いだ。

 特に、肉体に反して知性が足りてないところが自分を見ているようで腹が立つ。

 そんな人間が厚顔無恥で甚だしいとキャラに言わせるんだから、道化役者もいいところさ。

 

 「そろそろ、次に進むとしようか」

 

 ──まあ、それを本人に言ってやる義理はない。

 

 「それにしてもアナタも人が悪いわねぇ」

 

 そう思った瞬間。

 少女が権能(チート)の魔銃をボクに構えた。

 

 カタカタカタ。

 キーボードを叩く音だけが世界を支配する。

 

 それは、外なる神の戯れか。

 それとも、更なる領域外の存在の仕業か。

 

 その答えは、誰も知らない。

 

 ◇

 

 只でさえ物が散乱していた部屋は、台風が通ったような惨状になった。

 

 「────」

 

 二胡が何の為に此処に来たのかは知らない。

 だが、乱入者は倒した事実は変わらない。

 

 今、この場には真弓さんとシェリア会長の三人だけだ。

 ああ、でも。またいつ乱入者が来るかは解らないんだよなぁ。

 離れるべきか。

 それとも、三人で話し合うべきか。

 

 しかし、離れるとしても何処に行けば良いんだ?

 

 「……まあ、何処も安全ではないですわね」

 

 シェリア会長がそんな僕の考えに賛同する。

 ……しかし、どう考えても分が悪い。

 

 何をどうしたって悪い方向へ進みそうな気がする。

 そんな予感が、憶測が頭の中を駆け回って仕方ない。

 

 「どうしようか?」

 

 どうにも僕だけだと妙案が浮かばない。

 だから、二人に意見を聞いてみることにした。

 

 「どうすると言われましても。そもそもアナタはこの事態の全てを把握していないのですわ。それが解らないところでアナタに取るべき選択ないのではなくって?」

 

 シェリア会長は現状把握をするべきだと進言する。

 

 「いえ、もしかしたらこれはチャンスなのではないでしょうか」

 

 真弓さんが何か思いついたように続けて言う。

 

 「それは、どうして?」

 

 それを否定することなく聞く。

 勿論、それが無理な意見なら多少の危険を覚悟で現状把握に努めようと思った。

 

 「これは推測なのですけど、二胡さんを送って来た相手は勇貴さんに倒されることは想定してなかったと思います」

 

 想定してなかった?

 

 「ええ。そうでなくては、『無の空間』なる権能(チート)以上の魔導魔術である『恩恵(ギフト)』を二胡には与えなかった筈です」

 

 恩恵(ギフト)

 

 「はい。恩恵(ギフト)です。……そうですね。この世界において魔導魔術は主に二種類に分けられ、ダーレスの黒箱を用いて得られる権能(チート)と『外なる神』から直接授かることで得られる恩恵(ギフト)になります。この二つの主な違いはですね、勇貴さん。契約時の代償が必須か否かなんです」

 

 ……?

 

 「ダーレスの黒箱を用いれば、何度でもその能力を行使することの出来る権能(チート)。これは、得る時には何らかの代償を必要としない代わり、使用し続けることで何らかの代償を支払います。ですが、恩恵(ギフト)に限っては得られる時に何らかの代償が必須なのです」

 

 真弓さんが僕に魔導魔術について説明をする。

 それは一見、何でもない雑談のように感じられるが聞き逃してはいけない単語が多く散見されていた。

 

 「ちょっと待って。……え? 何それ? 権能(チート)って使ってると何らかの代償が奪われるの?」

 

 僕はこれまで何度も権能(チート)を使ってきた。

 それもバカみたいに使った。

 ……ということはだよ、僕が直ぐ物事を忘れるとかそういうのって全部、魔術破戒(タイプ・ソード)を使ったりしてたからってことなのか?

 

 「いえ、それは違います。でも、貴方が何らかの対価は払い続けてるのは知ってますよ。それについては恩恵(ギフト)がどういうものかを説明している最中ですので、また今度お話しします」

 

 ふーん。

 

 「えーと、つまりです。代償を払ってまで得た恩恵(ギフト)持ちを捨て駒に出来るほど軽いモノではないんですよ。その代償がどれほど重いのか説明するとですね。一番分かりやすい例を挙げるなら、怠惰の権能(チート)の代償は『失う』と言ったものですね」

 

 怠惰の権能(チート)

 

 「あー、そうでした。それも貴方は知らなかったですね。コントロールルームで

六花さんからダーレスの黒箱を渡された時、六花さんの姿が別人に置き換わったのは覚えてます?」

 

 ……覚えてるよ。

 受け渡された瞬間に、喪服姿のスーツの男『オートマン』になったのは驚いた。

 

 「そうです。あの時の六花さんという魂を持ったダーレスの黒箱を譲渡したから元の身体であるオートマンさんに切り替わりました。あれは、怠惰の権能(チート)によるオートマンとしての意地を『失う』という代償によって成り立たせていたからです」

 

 どういうこと?

 

 「ええ。ここら辺が実にややこしい話です。実際に怠惰の権能(チート)を使用し続けたのはオートマンさんで、その代償として自分の意志で身体をコントロールするのを失ったという結果になった。つまり──」

 

 「オートマンは怠惰の権能(チート)を酷使する代わりに自分という人間を代償に支払ったということですわね」

 

 シェリア会長が間に入って説明する。

 真弓さんはムッとするが、くるくると銃を弄る彼女は素知らぬ顔をした。

 

 「魔導魔術は廃人になっても可笑しくない代物ですの。それを何の見返りもなく他人に譲渡するなんてことはあり得ないことですわ。アナタだって、そんな代償を支払った力を溝に捨てるなんてことはしないでしょう?」

 

 確かに。

 そんな重い代償を支払い続けてるのに、他人に渡すなんて僕もしない。

 つーか、それを簡単に捨てるなんて以ての外だ。

 

 「……だから、二胡さんがやられるなんて想定していない今が逆転のチャンスだと思うんです」

 

 意を決した真弓さん。

 

 「そうだね。確かに敵にとっても想定外の事実だと思うよ、真弓さん」

 

 だから、そんな彼女に水を差すようで悪いとは思う。

 

 「……どうしたんです? 今が相手に奇襲を掛けるチャンスなのは十分理解出来た筈です」

 

 うん。それは、そう思う。

 

 「だったら──」

 

 「それを以てしても、こちら側には圧倒的な情報が足りていない。だから、直ぐに相手の懐に飛び込むのは無謀だと七瀬勇貴は仰りたいのでしょう」

 

 シェリア会長が意気揚々とする真弓さんに冷静な面持ちで諭してくれた。

 

 「……え?」

 

 真弓さんが驚く。

 まあ、無理はない。

 だって彼女には事情が分かってる。

 恐らく、僕が知らない真実も全部知ってるのだ。

 

 だから、今が絶好の機会だと言いたいのはよく解る。

 でも──。

 

 「そりゃあ、ワタクシとアナタは全部解ってますわ。でも、カレは何も理解されておりませんの。いざとなった時に何も知らなかったから選択を間違えるなんてことが起こりうるでしょうね。そんなことを繰り返さないと決めた七瀬勇貴には出来ない行動だということもまだご理解されないのですのね、アナタ」

 

 そうだ。

 僕は何も解らなかったから、リテイク先輩をこの手で消してしまった。

 

 あんなことは、もうゴメンだ。

 二度と起こさないと決めたからには、慎重に行動出来る時はするんだ。

 

 「だから、黒幕とかそういうのが居るところに乗り込むのは、もう少し現状を把握してから行きたい。だって僕には、まだ知らないことが多すぎる。君がシェリア会長のことを魔女だって決めつけてることも。黒幕が何を企んでるのかも。僕はどうしたら、現状を打破できるのとか色々と考えなきゃいけない」

 

 真弓さんの気持ちは正しい。

 その考えは未来を見通して言ってくれているものなんだろう。

 

 でも、それをするにしても僕には足りないものが多すぎるんだ。

 

 「そうですわね。それが一番、良いですわね。幸いなことに魔女は、二胡がやられたことに気付いておりませんわ」

 

 シェリア会長が僕の意見に賛同してくれる。

 

 「……確かにコントロールルームに居る筈の貴女がどうして目の前に居るのか疑問ではあります。でも、それだって、コントロールルームにさえ辿り着けば解る話です」

 

 意見を賛同するシェリア会長と不満を隠そうともしない真弓さんの会話が噛み合ってない気がする……。

 

 「シェリア会長。今さっき、魔女は二胡がやられたことを気づいてないって言いました?」

 

 一瞬、流してしまったけどシェリア会長はトンデモナイ爆弾発言をしたような気がする。

 

 「ええ。言いましたわよ。魔女とリンクしてるんですもの、それぐらいは解りますわ」

 

 魔女とリンク?

 真弓さんは君を魔女だって言ってるよね?

 うーん、解らん。

 

 「ゴホン。それでは僭越ながら今度はワタクシ、シェリア・ウェサリウスが説明させて頂きますわね」

 

 今度はシェリア会長が生き生きとした顔をしだした。

 

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