バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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025 分岐点

 

 ジグザグ、ジグザグ。

 ジョキジョキ、ジョッキン!

 

 ■■が何処かに姿を眩ませた。

 そして、その身に授かった恩恵(ギフト)をワタシへと使った。

 

 「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 その瞬間、爆発したかのように記憶が脳内を駆け回る。

 自分が生きた物語が乱雑に流れていく。

 切り離して、無理やり繋ぎ合わせるという概念がワタシを狂わせた。

 

 「──がっ」

 

 ワタシはシェリア、シェリア・ウェザリウス。

 民衆と言う家畜を統べる女王なのだとお父様は言いました。

 お母様もそうだと頷かれました。

 

 ガク、ダンッ!

 

 その場に崩れ落ち、地を這いずり回るワタシは傍から見れば有象無象のムシケラでした。

 

 「ぐぅ、うううう」

 

 だから、そんなワタシを魔女と呼ぶ人間は排除しなければなりません。

 そうでなくてはいけないのです。

 そうしなければ、ワタシは何の為に此処まで生きてきたのか分からなくなる。

 

 「ハア、ハア」

 

 ジジジ。

 お父様は喜んだ。

 家畜を躾けるワタシを悦んだ。

 

 「ハア、ハア!」

 

 ジジジ。

 お母様も喜んだ。

 父の慰みを甘んじるワタシを受け入れた。

 

 「──ん、ぐぅ」

 

 どうしてですか?

 ワタシはアナタ方に尽くしました。

 なのに、どうしてですか?

 誰もワタシを愛してくれないのは何故なのですか!

 

 頬を打たれるのも嫌だった。首を絞めつけられるのも嫌だった。痛いと言ってもワタシを罵るのをお母様は止めなかった。苦しい。止めてと懇願してもお父様は裸で抱きしめるのです。嫌! 肌に舌を這わせないで!

 

 「──っ!」

 

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い、気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。

 

 何もかもが敵だった。

 ワタシを守る人なんて居なかった。

 それなのにみんな、王女のワタシを羨むのです。

 

 何も知らない王女様。無知で愚かなお姫様。なんと可憐なお嬢様。

 羨ましいと言いながら。妬ましいと思いながら。一度、失態すればみんなしてワタシを嘲笑う!

 

 誰にでも優しい王様なんて居ません。

 そんなものはおとぎ話の中だけで、実在の王様は醜い肉の塊でしかない。

 

 ドクン。

 

 「ハア、ハア」

 

 心臓が高鳴った。

 胸が締め付けられるみたいに苦しくて、息をするのも辛かった。

 どうしてワタシだけこんな仕打ちを受けなければならないのかと心底思った。

 

 「ハア、ハア──ぐぅ、ううう」

 

 ワタシは只、自分の気持ちを分かって欲しかった。

 

 「うる、さいです。そんなもの、ワタシには必要ないのです」

 

 愛が欲しかった。

 貧相な村娘が与えられるような優しさが羨ましかった。

 それだけを願いたかったけど、それを求める前にワタシは壊れてしまった。

 

 「クソ。クソ、クソ、クソ! それもこれも──」

 

 八つ当たりに地団太を踏んでいると、そこで違和感を覚えた。

 

 「……あれ?」

 

 どうして、ワタシはこんなことをしているのだと疑問に思った。

 自らの身体を見る。

 お母様譲りの二つに結った燈色の髪。誰もが怯ませるに相応な金色の瞳。塵芥の男たちを魅了する肉付き。どれもこれも王族に選ばれるだけの素質を兼ね揃えている。

 

 「いや、そんなことはどうでも良いのよ」

 

 違和感を振り切り、再びモニターに視線を戻す。

 

 「──な、に?」

 

 だが、囚われた筈の愚者はモニターから姿を消失させていた。

 

 「そんなバカな。『無の空間』から脱出したというの?」

 

 監視カメラの映像を駆使し、消失した愚者の行方を捜す。

 けれど、何処にも愚者の姿は映らない。

 

 「あり得ない。こんなことが出来るヤツなど……」

 

 あらゆる可能性を考えても、ワタシには理解出来なかった。

 出る杭は常に打った。

 今更、誰かの手が愚者に届くことはない。

 そもそも外部から完全にシャットアウトされた夢の世界で助けなんて来るはずがないのに。

 

 しかし。

 

 「現にそれは起きている。なら、問題はどうして起こったよりどうするかを考えるべきね」

 

 システムを起動する。

 

 「──さあ、凡百に劣る家畜たちよ」

 

 下位幻想たちに愚者の捜索を命じた。

 

 クスクス/キキキ。

 クスクス/キキキ。

 

 魔女の掛け声によるものか知らないが、影絵たちが歓喜に奮えたのだった。

 

 ◇

 

 タタタタ! タタタタ!

 全速力で僕ら三人は廊下を駆けていく。

 警戒してゆっくり前へ進むより、いち早く目的地に到達する方が良いと思ったからそうした。

 そして、その判断はどうやら正しかったみたいで校舎を走っていると影たちが出現し始めた。

 

 「──光よ!」

 

 影の存在に気付いた真弓さんが誰に言うまでもなく魔法陣を展開した。

 光の雨が影へと降り注ぎ、掻き消す。

 

 「気づかれましたわ!」

 

 シェリア会長が二丁拳銃を取り出す。

 

 「まあ、そう来るよね!」

 

 僕もそれに続いて魔術破戒(タイプ・ソード)をイメージしたら、青と赤で装飾された無機質な剣が現実化(リアルブート)した。

 そうか。

 今更だが、魔術破戒(タイプ・ソード)もパワーアップされたってことか!

 自己投影で現実化された剣かと思っていたけど、違うことがこれで解ったことを素直に喜んだ。

 

 「もうすぐです、勇貴さん!」

 

 渡り廊下を突き抜け、中庭へ到着する。

 

 「キキキ! キキキ! キキキィイイ!!!」

 

 天まで届きそうな、無数の魔法陣が描かれた鉄塔がそびえ立つ。

 

 「キキキッ! キキキッ! キィキキキィイ!!!」

 

 無数の影たちが取り囲むように僕らを歓迎した。

 漫画の最終ボス一歩手前の気分になった。

 

 「──っ」

 

 息を呑む。

 交信の杖の門は固く閉ざされている。

 

 「キキキィイ、キキキィイ、──キッ、キキキィイ!!!」

 

 何千を超える影たちが嗤う。

 その圧倒的な数に僕らは何も言葉が出ない。

 

 「……それでも」

 

 真弓さんが一歩前へ出る。

 影たちが贈る嘲笑の大合唱を物ともせず、彼女は言葉を続けた。

 

 「私たちは前へ行くんです」

 

 宙に魔法陣が展開される。

 僕とシェリア会長はそれを止めることは出来なかった。

 

 「どんなに絶望的でも。どんなに救いがなくても。終わらせる為に行かなきゃいけないんです」

 

 手を広げ、口を開け、多くの悪意を曝け出す影たち。

 生きてる人間のように蠢くそれらへ光が降り注ぐのを僕らは眺める。

 

 「──だから、その為に貴女は此処で堕ちろ」

 

 真弓さんらしからぬ言葉だった。

 誰に向けて放たれたのかは分からないけれど、その言葉の奥には拭いきれない感情が詰まってた。

 

 「キキキキキキキキキキィイイイイイイ!!!」

 

 数千にも及ぶ影たちが一斉に僕らを取り囲む。

 

 「──それは、まさに弾丸の如く。それは、稲妻の如く」

 

 シェリア会長の二丁拳銃が火を噴いた。

 キキキと暴れる影たちに僕も剣を振るった。

 

 「放て、放て、放て、放て、放て、放て、放て。七の言霊において次元を渡りし狂犬よ、現世へと降りて──」

 

 真弓さんもシェリア会長も全力だった。

 勿論、僕も全力だ。

 しかし、影たちの進行は留まることを知らなかった。

 

 だが。

 

 「道を開きますわ、下がってくださいまし!」

 

 影たちに切りかかる僕に向かって大声で指示をするシェリア会長。

 

 「──っ!」

 

 その声を聞き、僕と真弓さんはシェリア会長の後ろへと下がる。

 

 「──敵を穿て!」

 

 シェリア会長が叫ぶ。

 瞬く間もなく二丁の銃は一つになり、悪しき闇を掻き消す閃光が放たれる。

 

 「「「「キキキキキキキキィイイ!!!」」」」

 

 一筋の光が固く閉ざされた門に続く道を作った。

 

 「今の内ですわ!!!」

 

 シェリア会長が僕と真弓さんに向けて大声で指示を出す。

 

 「礼は言いませんよ」

 

 真弓さんが言う。

 

 「──ありがとう、シェリア会長!」

 

 道を作ってくれたシェリア会長に僕は感謝する。

 そうして、僕ら二人はその道を急いで駆け抜けた。

 

 クスクス。

 クスクス。

 

 「キキキィイイ!!!」

 

 急いで道を塞ごうと影たちが躍起になる。

 

 「させませんわ!」

 

 しかし、それに向かってシェリア会長は銃を乱射して阻む。

 

 タタタ! タタタ!

 門へたどり着くと、視界が突然ぐにゃりと歪む。

 

 「──っ!?」

 

 固く閉ざされた門は開かない。

 思い込む。

 その門が開くと強く念じ、自己投影(タイプ·ヒーロー)を発動させる。

 

 キキキ/キキキ。

 キキキ/キキキ。

 

 「──あれ?」

 

 自己投影(タイプ·ヒーロー)を発動させようと思い込んでも何も起こらない。

 

 クスクス/キキキ。

 クスクス/キキキ。

 

 まるで、自己投影(タイプ·ヒーロー)が何かに上書きされてるみたいだ。

 

 「……そう言う、ことですか」

 

 真弓さんが悟ると同時に銃声が止む。

 

 「──え?」

 

 クスクス/キキキ。

 クスクス/キキキ。

 

 スタスタスタ。

 片腕で銃を構えたシェリア会長が僕らへ歩いてくる。

 

 「クスクス」

 

 シェリア会長が声を押し殺しながら笑う。

 この土壇場で彼女は何をしてるのか理解が追い付かない。

 

 「そんなの決まってるじゃないかしら?」

 

 風が吹くとオレンジの髪がなびき──。

 

 ジジジ。

 眩暈がする。

 風にさらわれた燈色の髪をシェリア会長は掻いていく。

 

 「──な」

 

 目を疑うような光景に唖然とする。

 

 クスクス/キキキ。

 クスクス/キキキ。

 

 「愚かねぇ。本当にアナタたち、ムシケラ共は愚かとしか言いようがないわ。このワタシが粗悪品なんかに自由を与える訳ないじゃない」

 

 カチャリ。

 引き金を絞る少女は銃口を真弓さんに定める。

 

 「……でしょうね。狡猾な貴女らしくないとは思ってました」

 

 真弓さんが悔しそうに言う。

 

 「クスクス。それはお互い様というものでしょう?」

 

 シェリア会長はシェリア会長ではなくなっていた。

  それが、どういう意味かを理解するには感情が邪魔をする。

 

 「……君が魔女?」

 

 だけどそれを認めなくては話が進まない。

 そう思って呟いた瞬間──。

 

 「──っふざけるんじゃないわよ、この愚か者! ワタシはシェリア。深い森に覆われた国『ルーベン』の女王、シェリア・ウェザリウス! そんなワタシを二度と魔女だなんて呼ばないで頂戴!!!」

 

 それを少女が目を見開き否定する。

 それだけで彼女が魔女と呼ばれることの憎悪が伺えた。

 

 「ああ、ごめんなさい。驚かせちゃったかしら。でも仕方ないのよ。きつめに言ってあげないとアナタ、そうやってワタシを魔女と呼ぶんですもの」

 

 言葉とは裏腹に冷めた眼差しで少女は僕らを見つめる。

 

 「でも、それもこれで終わり。瑞希は失敗したけれど、ワタシはそんなことしないわ。ちゃんと権能(チート)で始末してあげる」

 

 嗤いながら少女、シェリア・ウェザリウスは真弓さんへと近づいていく。

 

 「ええ、大丈夫よ。ちゃんと偽物(アナタ)から殺してあげるから安心しなさい」

 

 クスリと微笑む彼女は、妖艶な魔女そのもの。

 

 「遺言は聞かないわ。それで時間を戻されちゃ、堪ったものじゃないもの!」

 

 勝利を確信したシェリア・ウェザリウスはそう言い、振り絞った引き金を引く。

 

 「──っ」

 

 パン!

 乾いた銃声が響き渡る。

 

 同時に。

 

 火花が散る/一筋の光が差す。

 

 ドクン。

 

 奇跡が起こった。

 ありとあらゆる偶然が必然へと切り替わった。

 

 ドクン。

 

 「今の内です、名城殿!」

 

 時間が止まったような感覚が襲う。

 コンマ数秒で虹色に輝く剣を以て、シェリアの放った魔弾を■■■がはじき返した。

 

 それは、金色の髪の少女による神速の荒業だった。

 

 パリン!

 何かが砕ける音。

 カチリ。

 何かが填まる音。

 

 「──っ!」

 

 シェリア・ウェザリウスの目が見開く。

 真弓さんも息を呑む。

 

 嗚呼、瞬きの間にいつかの風紀委員長が現れたのだから当然だ。

 

 「お前は──!」

 

 カチカチカチ。

 

 物語が書き変わる。

 秒を止めて、時間が逆しまに戻ってしまう。

 認識が、曖昧なものとなり今がなくなる。

 

 「──ま、待ちなさい!」

 

 キーンコーン、カーンコーン!

 

 今度ははっきりと鐘の音が鳴り響くのを聞こえた。

 ついでにシェリアが制す声も聞こえた。

 

 しかし、僕らの逆行は止まらない。

 

 「ふざけるんじゃありませんわ! アナタたち、何処まで邪魔をすれば気が済むのです!!!」

 

 暗転する意識の中、シェリアの怒号だけが聞こえる。

 

 チクタク、チクタク。

 そうして、僕の意識はそこで途絶えたのだった。

 

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