バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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028 終着駅はすぐそこ

 

 黒の天体に沈む新星。

 その輝く星に手を伸ばそうが、この手には届かない。

 

 「────」

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 ノイズが掠める。

 

 キキキ。

 キキキ!

 

 脳を揺らすそれは誰かの嘆きであったが、同時に星を汚す罪悪に他ならなかった。

 

 「いた、い」

 

 嗚呼、痛い。

 痛くて、痛くて古傷が疼く。

 

 どうしようもない飢えが腸を齧りにやって来る。

 どうしようもない絶望が心を蝕もうと待っている。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 ワタクシは何者でもなかった。

 ワタクシを構成する全ては、初めから無に等しかった。

 

 意識が離れる/バラバラに引き裂かれる。

 痛い/痛い/痛い。

 苦しくて、醜くて、哀れな粗悪品は彼女の願いを見捨てれない。

 

 「あ、──ああ。どうして」

 

 どうしてこうなったのだろう。

 救いがないと分かってたのに、どうしてワタクシは生きることを選んだのだろう?

 

 解らない。

 解らない。

 何で、ワタクシは『シェリア』の願うままの肉体にならなかったのか未だ理解出来ていなかった。

 

 ────「あん? そんなのお前さんが生きたいと言っているからだよ」

 

 死んだ男の言葉を思い出す度、置いていった筈の感情が痛覚を訴える。

 

 「──っつぅ」

 

 カレを想う度に胸が締め付けられ、苦しくなる。

 全くこの痛みは理解不能だ。

 この虚しさは、人間には不要な精神疾患でしかない。

 

 ──だと言うのに。

 

 「なんで、置き去りにしたのです、か」

 

 只、それだけを口にする。

 

 解らない。

 今、確実に分かることはカレがもう死んでしまっていることだけだった。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 影が何処かに向かうと、ワタクシの身体は軽くなる。

 魔女が意識をあちらに向けたのは道理だったが、それでも不用心と言わずには居られなかった。

 

 ……まあ、それもあの女の筋書き通りだ。

 

 魔女は過去に夢見る。

 ワタクシは過去に囚われる。

 

 彼女との違いはそれだけだった。

 

 ◇

 

 「行くぞ、七瀬勇貴。コントロールルームへ」

 

 静かに少女が告げると、部屋のドア目掛けてその大剣を振り落とした。

 

 バラバラと崩れるドア。

 脱兎のごとく部屋を出る僕ら二人。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 案の定、部屋の周りに僕らを囲む影たち。

 

 「ああ!」

 

 イメージは出来てる。

 あらゆる幻想を葬る剣がこの手に現実化(リアルブート)された。

 

 「──っ!」

 

 真弓さんを待つよりも魔女の襲撃が早い。

 これはシスカが魔女を倒したらと言う話を持ち掛けた時に予想できた話だ。

 

 多分、真弓さんは魔女を倒さない限り僕の前にはもう現れない。

 現れたとしても、それは僕が知るあの『真弓さん』ではない。

 確たる証拠はないが、今までの経験がそうだと告げている。

 

 グルン!

 円を描くように僕らは影に切り込む。

 互いの得物がぶつからないように交互に繰り出さなくては、躓いてしまうのは明白。

 

 キキキィイ!!!

 

 囁くように。

 噂をするように。

 それらは嘆くように、影たちは人型を象りだす。

 

 「一直線に、──壁ごとぶち抜きます」

 

 そう告げると、フルプレートの鎧が煌めく。

 

 ガキン!

 構えていた大剣が虹色の光を纏い始め──、

 

 「──ハァアアア!!!」

 

 影たちが腕を伸ばし襲ってくるのをその刃を放つ。

 

 ズン、と重い衝撃。

 眩い光が辺り一面に広がる。

 シスカの叫びと一閃が校舎の壁事、粉砕する。

 

 「──っな!?」

 

 輝く刃は多大な光線となって一直線に放たれ、寮と校舎を別つ壁を巻き込む形で影たちを一掃する。

 

 それがシスカの実力。

 

 それこそが──。

 

 「急ぐぞ。道は開けた以上、最早、此処に留まる理由はあるまい」

 

 ガシャン。

 シスカの重い鎧が音を立てた。

 

 「う、うん。そうだね」

 

 ぶんぶんと頭を振る。

 今はとにかく、魔女を倒すことだけに専念しよう。

 

 カツン。

 

 「くだらん。実にくだらん。お前がそっち側に回るとか興ざめにも程があろう」

 

 そう思った矢先に、それは訪れた。

 

 カツン。

 カツン。

 

 「……日和見が趣味ではなかったか、『神父』」

 

 シスカが睨む。

 奥底に現れた男が気味の悪い笑みを張り付けている。

 

 ジジジ。

 脳にチラつく、邪悪な貌が忘れられない。

 知っている。

 僕はこちらに歩み寄って来る男のことをよく知っている。

 

 「ふん。それが思ったよりもつまらなくて、な。分不相応ながら、こうして出張って来たというものだ」

 

 僕らよりも背丈の大きい男が嗤う。

 

 「それに、だ。こんなところで貴様のような例外が魔女と対峙してみろ。あれは簡単に敗北を認めてしまうだろうに」

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 影たちが再生する。

 復活とか復元とかそういう類じゃない。

 まるで、意志のない映像が巻き戻るような感じにそれは現実となる。

 

 「すまない、七瀬勇貴。どうやら、魔女の下には一人で行ってもらう必要があるようだ」

 

 ガシャン!

 鎧が軋む。

 シスカが大剣を構え、そう告げる。

 

 「流石、始まりのヒロインだ。理解が早くてとても助かる。ドン・キホーテには、哀れな姫様の相手をして貰いたいのだ」

 

 神父から放たれる威圧感。

 その重圧に耐え切れず、体中に鳥肌が立つ。

 

 「──っ!」

 

 嗤う。

 道化染みたそれが手をかざす。

 かざした手を祈るように振り落とすと、再生された影たちがシスカに向かって襲い掛かる。

 

 「──行け!」

 

 駆け出す。

 一目散に中庭の方角へ走るのを神父は止めない。

 

 「む、無茶は駄目だからね!」

 

 後ろ見ずに僕はシスカに大声で言う。

 それに対し、シスカは答えない。

 

 ガキン!

 鉄が軋むと同時に影たちの笑い声が響き合う。

 

 直ぐそこに中庭へと通ずる道を思い込むと、僕は一瞬の内にそこへ辿り着く。

 歪な鉄塔が城門を固く閉ざし出迎えるのが見れた。

 

 「ああ」

 

 でも、大丈夫。

 僕が有する最強の権能を握り、イメージする。

 見様見真似だろうとも、先ほど見た虹色の刃を放てばどんな場所でも粉砕出来るのだ。

 

 ドクン。

 この夢の世界ならば、願えばどんなものでも現実となる。

 それを多くの人が教えてくれたから、形に出来ると信じ込む。

 

 ドクン。

 歪な心臓が高鳴る。

 ジワリと汗が滲み、それは現実化されていく。

 

 ────「知るか。そんなもの知るか! そんなテメェ勝手なルールなんて知ってたまるかよ!」

 

 かつて、叫んだ想いが頭に過る。

 

 「──ぐっ!」

 

 でも、今はそんなものは知らなくて良いから。

 僕は、前へ行くから。

 

 「っあ、あああああああああああ!!!」

 

 体中の神経が痛みを訴える。

 現実と虚構が再び曖昧となっていく中、赤と青の魔術破戒に虹色のオーラが纏うのを感じる。

 

 声が出ない。

 だが、それを塞がった門に向けて渾身の力で振るった。

 

 「────」

 

 刹那の時。

 瞬きの内に星を掴むよう、その一閃は放たれる。

 

 ゴウッ!

 粉砕する悲鳴と城門がギギギと崩れる光景は、さながらイリュージョン。

 

 「──うっし!」

 

 無理矢理に開いたそれを潜り、強引に魔女の待つ最終局面へ入るのだった。

 

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