バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 すみません、投稿するのを忘れてました。
 それでは、本編スタートです。


003 憂鬱な朝食

 

 「(ボク)は此処にいる」

 

 モニターを前に■■は言う。

 

 醜い肉塊は、無色の魂と重なった。

 それを理解し、魔女たちの目論見の邪魔をした。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 残骸(げんそう)が嗤う。

 否、■■には彼らがこれからどうするのかを聞いてるのだと分かってた。

 

 ────「時間なんかない。時は止まってなんてくれない。止まったように見えるだけで時間は残酷に進んでる。誰が咎めなくても自分だけがそれを咎め続ける」

 

 ……解ってる。

 『記憶』だけの■■だって気づいてる。

 

 それでも、──何もかもが嘘と分かっても、永遠に続く今日を繰り返すのだ。

 

 意味がない。

 どれだけ時間があろうと『記憶』しか持たない■■には、永遠など価値はない。

 

 「(ボク)は此処にいる」

 

 そして、それが内から出た感情(ことば)でないのは明白。

 だが、そうであろうと無かろうと■■はそうしなければならない。

 

 ──故に。

 

 「(ボク)は此処にいる」

 

 最果てへ続く塔にて、■■は物語を発信する。

 

 それが、どれだけ哀れなものに見えようと■■はする。

 最悪な結果になろうと■■(少女)は、いつか約束したネガイを夢見るのだ。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 これは、アガナウ物語。

 愚か者のネガウ末路であり、未来(あした)を夢見ない──永遠に続く大罪(いま)を繰り返す話。

 

 それに救いはなく。

 それは最悪な最期しか残されない。

 

 ズン、と螺旋が回る。

 次々に生まれる残骸(げんそう)が暗闇にいる愚か者へ集っていく。

 

 夢は覚めない。

 永遠は終わらない。

 

 ただ一つの世界を愚か者に見せていく。

 

 「(ボク)だけは、此処にいるんだ」

 

 ■■(少女)はモニターを眺めてる。

 

 「────」

 

 それを、私はじっと見続けた。

 

 ◇

 

 食欲を誘う味噌の匂い。

 出来立てホカホカの焼き鮭定食。

 テーブルに並べられる食事に思わず腹の虫が鳴いてしまう。

 

 ────「記憶の概念を、取り戻してあげまずぅ!!!」

 

 先ほどのことが脳にちらつく。

 他人事である筈なのに、自分のことのように真弓さんは涙を流した。

 

 「──っ!」

 

 ズキリ。

 頭が痛くなる。

 

 ……何故? どうして、こんなにも頭が痛くなる?

 

 まるで、この体が『記憶』の概念を認識させる必要がないと決めつけてるみたいだ。

 

 ズキリ。

 ズキリ。

 

 「──っ!」

 

 彼女のことを考えれば、考えるだけ脳が悲鳴を上げる。

 

 「────」

 

 頭が痛いのを無視して、ごはんに箸をつける。

 

 ……そもそも。

 彼女たちの言い分じゃ、僕が記憶喪失を患っているみたいに聞こえる。

 確かに僕は物覚えが良い方じゃないさ。

 だからと言って、出会って一週間も経っていない関係だというのにその言いぐさは失礼な話だ。

 

 ずぅ、ずぅっと、芳醇な香りの味噌汁を飲む。

 美味い。

 絶妙な味噌の風味が体に染み渡るのが感じられる。

 

 それだけで、先ほどの出来事を忘れさせてくれそうだ。

 

 「記憶、か」

 

 僕は七瀬勇貴。

 何処にでもいる平凡な男子高校生。

 ちょっと普通じゃない学園に寮住まいするだけの何の力も持たない人間だ。

 

 そんな僕がどうして、この第二共環高等魔術学園に通うことになったのかは忘れてしまっているけど、決して自分は記憶喪失なんて患ってない。

 

 ジジジ。

 

 そうだ。僕は普通の人間だ。

 僕はみんなと何も変わらない。

 ……僕は、ぼ、く、は。──僕は、みんなと同じ普通の人間だ。

 

 ジジジ。

 

 「おはようございます、勇貴さん」

 

 そんな風に考え事をしていたら、誰かが声をかけてきた。

 

 「……え?」

 

 ドクン、と心臓が鼓動する。

 ぐちゃぐちゃとした思考が取り除かれたのか、脳が冴えわたる。

 誰の声か思い出そうとして、声のした方を振り向いた。

 

 「何やら神妙な顔つきですが、どうかされました?」

 

 こちらを心配そうに見つめる、栗色の髪の女子生徒。

 手には僕と同じ焼き鮭定食を持っている。

 

 「……あ、…あー、っと。……フィ、フィリ、ア?」

 

 「ええ。貴方が大好きな、大好きな、可愛い、可愛いフィリアちゃんです」

 

 彼女はそう言いながら僕の前に持っていた焼き鮭定食を置く。

 するとそのまま手を合わせて食べ始めた。

 

 「……可愛いって自分で言う?」

 

 そんな少女に僕は思わずツッコミをする。

 

 「もちろん。だって、私は恋する乙女のフィリアちゃんですよ。恋する乙女はいつだって可愛いのが相場と決まってるのです」

 

 えっへん、とフィリアが胸を張る。

 何故かそのドヤ顔すらも可愛いモノに見えてしまう。

 

 「……決まってるんだ」

 

 それを僕は見つめた。

 だが、彼女は恥じることもなく、そのまま焼き鮭へと箸を伸ばすのだった。

 

 その姿に何処も異常は見当たらない。

 ……いや、止めよう。

 見えてるものが嘘っぱちだなんて思考回路は何処かへ捨ててしまえ。

 

 「そう言えば、勇貴さん。風の噂によると、今日、転校生が来るらしいですよ」

 

 唐突にフィリアがそんなことを言い出す。

 

 「転校生? 何でまた、こんな時期に?」

 

 突拍子もなく切り出された話題に思わず意識を彼女へと向けてしまった。

 

 「ええ。何処の誰なのかまでは分かりませんが、女子なのは確かだそうです」

 

 えへへ、とかそんな笑みをフィリアは浮かべる。

 彼女を見ていると何だか考え事をしている自分が馬鹿みたいに思えてきた。

 

 「そ、……そうなの?」

 

 やっぱり、美人なのだろうか?

 この学園の女子生徒は、アイドルの事務所か何かと勘違いするぐらいでレベルが高いのだ。

 美人なら、顔の一つでも拝んでおくのも悪くないね。

 

 「ぐへへ、へぇ」

 

 「キモいです、勇貴さん」

 

 フィリアから冷めた眼差しが贈られる。

 

 「な、なんですとー!」

 

 出荷される豚になった気分だ。

 うん、変態紳士ならご褒美なんだろうなぁ、これ。

 

 そんな感じで和気あいあいと朝食を終えていく。

 

 キキキ。

 キキキィ!

 

 何処で誰かが嗤い合う。

 その嘲笑は、僕のあずかり知らない話だが。

 

 それでも、聞こえない振りをしなければ、やってられなかった。

 

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