バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 お久しぶりです。
 なろうでは、更新していた分を投稿したいと思います。



004 朝食後の微睡み

 

 「そういえば、寮館ロビーの大鏡なんだけど……」

 

 「ああ! 聞いた、聞いた! それって、午前零時頃にそこで女子生徒の幽霊が出るんでしょう?」

 

 「そう、それ! その女子生徒に遭遇するとなんでも願いを叶えてくれるらしいよ」

 

 「え? そーなの? アタシが聞いたのだとそいつと出会うと大切な記憶を抜き取られちゃうって話なんだけど……」

 

 朝食を終え、教室へ向かっていると寮館ロビーの噂を耳にした。

 どの噂も結末はバラバラで、共通することと言ったら、大鏡の前で女子生徒の幽霊に遭遇するという過程だけだった。

 

 それがどれだけ曖昧なものでも、ゴシップ好きな生徒たちは挙ってそんな与太話に花を咲かせる。

 この森の中の学園では、そんなモノでも娯楽に飢えた生徒たちには甘い蜜以上のモノになり得るのだ。

 

 そしてそれは、自分のクラスの連中も例外ではなく。

 

 「しっかし、その女子生徒もどうして深夜零時だなんて限定的なんだろうねー」

 

 ああ、朝のHR前というのはこんなにも活気が良いモノだったかと歓喜に震える。

 

 「寮館ロビーの大鏡です、か」

 

 隣に来た真弓さんが意味ありげに口を開いた。

 

 「……何の用?」

 

 僕はそれを冷たくあしらう。

 そうしなくては、また記憶がどうの言って騒ぐのは目に見えていたからだ。

 

 「勇貴、さん」

 

 ほら、また悲しい顔をする。

 そんな顔をしたって僕は君のことなんか知らないぞ。

 

 ジジジ。

 

 ────「まあ、それももうボクには関係ないか。どうせキミは『■■■■・■■タ■』へ変わるんだ。そんなことを気にしたところで、手遅れな訳だし」

 

 「──っ」

 

 今、変な映像が見えた。

 名前も知らない男の子と僕が何かを話してるものだ。

 

 でも、それも一瞬で。

 

 「勇貴さん? ……勇貴さん!」

 

 肩を揺らされる。

 

 「──っ! 止めろよ!」

 

 それを両手で突き放し、拒絶する。

 

 「あ、……い、いや、良いんだ。ああ、そうだ。そうだよ、君は何なんだよ!? 朝っぱらからズカズカ人の気持ちも知らないで騒いでさ!」

 

 震える身体でギュッと自分を抱きしめて、真弓さんから距離を取る。

 

 「正直、迷惑なんだ。ウンザリなんだよ、しつこいんだよ! 自分のことでもないのに、なんでそんなに必死になれるのか分かんないしさぁ。……君は僕の分身か何かなのかい?」

 

 何故、こんなに必死で他人の為に尽くすのか本気で分からなくて。

 そんな気持ちが心の何処かであったからか、すぐ口にできたのかもしれないけど。

 

 こんなに拒絶しても、目の前の少女は悲しそうな顔をするだけで直ぐに僕と向き合うのだ。

 

 「それは、違います。分身なんかじゃありません。でも、私は──」

 

 その時──。

 

 キーン、コーン。カーン、コーン。

 真弓さんが何かを言おうとした時、授業開始の鐘が鳴ってしまった。

 

 「──っ」

 

 それを聞くと彼女は急いで自分の席へと戻っていく。

 

 「……何だよ、それ」

 

 彼女の言いかけたことに対してではない。

 授業が始まる程度の妨害で言えなくなる彼女に対して出た言葉だった。

 

 「コラ。そこの生徒、早く席に着きなさい。授業を始めますよ。……それでは委員長、号令を」

 

 「はい。起立、礼、着席」

 

 授業が始まっていく。

 相変わらず聞いているのが馬鹿らしくなる魔術の授業だったけど、この日は特に退屈なものに感じられた。

 

 ◇

 

 カチカチカチ。

 午前零時の噂を聞いた。

 紛い物と愚か者の絆が拗れるのも観測できた。

 

 キキキ/たのしいぞ。

 キキキ/たのしいぞ。

 キキキィイ/こんなにも愉快なのは、久々だ。

 

 影絵たちが噂する。

 他人の仲違いを嬉しそうに話を弾ませるのは、きっと気のせいじゃない。

 

 「ああ、なんて人間らしいのだ。──これだ。これこそが、今を生きる俗物の感情だ」

 

 モニター越しに神父が嗤う。

 

 「そうだな。所詮、長靴を履いた猿に過ぎないということだ」

 

 白衣を着飾った、継ぎ接ぎの男がそれに同調する。

 

 「キャハハハ! キャハハハ! 良いねぇ、良いねぇえ! サイッコーにキメてんなぁああ、神父ちゃん!」

 

 上機嫌で笑う、黒いスーツの女が飛び跳ねる。

 

 「すぴー、すぴー。これは良いサンプルですね。久し振りに目を覚まして正解でした」

 

 飛び跳ねる女を諫めることもなく、学生服の少女が手にした仮面を弄り出す。

 

 「お? 流石、寝過ごすのが代名詞の『囁き屋』のお嬢様ですこと。こんな飛び切りのネタですらサンプル扱いとか、どんだけ面食いなんすかねぇえ!」

 

 「すぴー、すぴー。当然です。摘まんで食べて良いのは、程ほどに熟れた果実と相場が決まったものですよ、アトラク=ナクア。私、そこら辺のゴミを拾い食いする貴女とは違って繊細ですので」

 

 下卑た女を心底嫌いだと視線を交わす少女、――『囁き屋』。

 

 「ぁああん! 喧嘩売ってんですかい、この淫売!」

 

 「鏡、見てきたらどうです、ジャンキー」

 

 結束もあったものでない二人を横目に神父は視線を再びモニターへと向ける。

 

 「止さないか、二人とも。そろそろ、次のステップへと進むぞ」

 

 キキキ/始まる。

 キキキ/始まるぞ!

 

 影絵たちはそんな悪辣な猛者たちを見て嗤い合う。

 あの愚者たちにどんな最悪をもたらしてくれるのか、今か今かと待ちわびるのだった。

 

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