バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 取り合えず、一旦ここで投稿を止めます。



012 狂気よ、眠れ

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 雨が降る。

 

 天気に感情があるのなら、その雨は悲しいと言うんだろうか。

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 兎に角、悲しい雨が降ってたんだ。

 

 「美しいモノを見たいんだ」

 

 青年が呟く。

 どこまでも澄んだ碧眼でアタシを見るのが好きだった。

 

 「だから、探しに行こうよ、■■(アマネ)

 

 彼の語る絵空事も好きだった。

 

 限られた時間を精一杯生きてる姿が、その時、その時を生きてるんだって感じが他人事なのに誇らしかった。

 

 そう。

 些細な幸せでも笑える青年(アイツ)にアタシは恋をしてたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 だが、そんな彼と過ごす日々は長くは続かなかった。

 

 キキキと嗤う影絵たち。

 祭壇の前で踞うずくまるアイツ。

 それを見上げるアタシ。

 大好きだったアイツの顔は、生きることに絶望したような死に顔を晒してた。

 

 「■■、■■■■■■!」

 

 あの時、血塗れのアイツが何を思ってたのか知らない。

 でも、分かっていたからと言って、アタシが何をしてやれたかも解らない。

 

 ズブズブ、ズブズブ。

 ドクン。

 グシャグシャ、グチャリ!

 

 アイツが死んだ。

 アイツが死んだ。

 

 ダクダクと血を流して暗闇に殺された。

 痛みに悶えての溺死で、とても苦しそうだった。

 

 傷だらけで、ズタボロで、これじゃあどうしたって助からないのは分かった。

 

 どうしようもなかった/絶望的だった。

 喚くしか出来ない/殺してやりたいと思った。

 

 只、悲しくて/何で? どうして?

 

 「■■■■■■■■■■■■■!!!」

 

 泣いて。

 泣いて。

 

 彼の亡骸に寄り添うように泣き崩れた。

 

 そんなアタシを神父がキキキと嗤ってた。

 取り巻きの影絵たちもそれに倣って、弱者を甚振ってた。

 

 「……何だよ、それ」

 

 意味が分からなかった。

 けど、どうでも良いと思えて来た。

 だって、目が枯れてしまって、涙が出なくなってたから。

 

 ■■を殺した暗闇が人の手のようなモノを伸ばす。

 

 「何なんだよ、アンタ!」

 

 本当に。本当にどうして、アタシたちがこんな目に遭わなくてはならないのか解らない。

 

 「救われナイ、救われナイナァ。ケド、仕方ナイよネェ。必要経費ダト思ッテアキラメテ」

 

 何処かで聞いたような男の声で、暗闇がそう言いながらアタシの首をへし折った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 以来、アタシは弱い者いじめが好きになった。

 そうすれば、アイツと同じにならないと自分に言い聞かせた。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 糸を手繰るように愚者が、神様になりたがる。

 この時、あの醜悪な暗闇にも劣る人間風情が何を言ってるんだと思った。

 

 アタシは狂ってる。

 アタシは壊れてる。

 

 発条がキキキと回って、舞台を掻き回す女郎蜘蛛を演じてる。

 

 「面白いですね、貴女」

 

 そんなアタシに救う手が伸ばされる/そこが地獄の始まりと知らずに見知らぬ女子生徒の手を取った。

 

 ◇

 

 握った魔術破戒(タイプ·ソード)によって蜘蛛たちが消え去る。

 同時に、女郎蜘蛛から余裕の笑みが無くなった。

 

 「何の冗談デェス? ……オイ! ソレは一体、何の冗談かって聞いてるんデェスよ!?」

 

 既に舐め切った態度でない女の声に、敵が慢心を捨てたことが察せれた。

 だから、フラフラする身体を無理して立ち上がらせることにした。

 

 ドクン。

 まだ心臓は鼓動を止めない。

 

 「ふ、ふざけんじゃねぇデェス!」

 

 ギリッと歯軋りし、胃から何かが込み上げるのもグッと堪えて我慢する。

 そして──、

 

 「やれるか、──真弓さん?」

 

 後ろにいる少女に、やれるかと問う。

 

 「……はい!」

 

 その返事に心が震えた。

 背中越しの信頼に心地よく、青と赤で装飾された魔術破戒(タイプ·ソード)が軽くなる。

 

 「舐めやがってぇ……」

 

 片腕を女が突き出す。

 周囲の空間が歪み、下僕の蜘蛛たちを呼び寄せる。

 

 キキキ!

 キキキ!

 

 影絵たちの不満げなヤジが聞こえる。

 それさえも無視して、女郎蜘蛛はオレたちへ向かってそいつをぶちまける。

 

 「──!」

 

 一目散にヤツの懐へと駆け出す。

 追うように光の雨が降り注いで、呼び出された蜘蛛たちから道を作った。

 

 「──ッチ!」

 

 アトラク=ナクアの抵抗は、光の雨がオレを導いたことで無意味となった。

 

 「今です、■■さん!」

 

 そのことに奴も気づかない訳がない。

 気づかない訳がないのに、それをしたのはきっと意味があることだと理解してるというのに。

 

 嗚呼、惜しい。

 それを考える時間が惜しく、思考するより速く、手にした得物で斬りつける。

 

 「これで、──貰った!」

 

 だから/ニヤリ。

 

 「なーん、チャって!」

 

 間抜けなオレは、敵の思惑に気付けなかったんだ。

 

 数秒。

 否、一秒。

 

 後数歩で、オレが間合いに入る寸前でそれは起きた。

 

 シュルルル!

 

 「──っ!」

 

 唐突に身体へと絡みつく細い糸たち。

 それは下僕たちに命じた下策の一つで、強者の驕り。

 

 オレの身動きが封じられ、一瞬のうちに形勢が逆転する。

 

 「■■さん!」

 

 真弓さんが心配する。

 けど、大丈夫。

 

 「……まだだ」

 

 ドクン。

 心臓はまだ止まらない。

 ドクン、ドクン。

 オレはまだ諦めていない。

 

 「実は読んでまシタってねぇえ!!!」

 

 ニタァ、と敵がこちらにやって来る。

 降り続ける光の雨を掻い潜って、瞬時に糸を纏った腕をオレの胸に突き刺そうとする。

 

 ──ドクン!

 

 時間が止まる感覚。

 コンマ数秒の世界。

 心臓が高鳴り、耳鳴りがして先ほど以上の激痛が身体中を駆け回っていく。

 

 「そいつは、──どうだろぉうな!!!」

 

 そうだ。

 テメェは忘れてる。

 七瀬勇貴(オレ)が扱える権能(チート)はそれだけじゃないことを忘れてやがる。

 

 ……だから。

 

 「ハァ!!?」

 

 点と点が繋がって、割れるような頭痛を呼び覚ます。

 一瞬で頭痛(ノイズ)によって女郎蜘蛛の間抜け面へと剣を構える未来(ビジョン)が見えた。

 

 ──その結果、オレを縛っていた糸が『無かった』ことになり消失する。

 

 「そんなバカな! 魔術破戒(タイプ·ソード)だけじゃなく、自己投影(タイプ·ヒーロー)まで覚醒したってか!?」

 

 コンマ数秒。

 虹色に輝く魔術破戒(タイプ·ソード)

 

 再び、真っ白になるオレの視界。

 

 「ま、待て。待てよ。──待ちやがれ、」

 

 女郎蜘蛛が一歩後ろへ下がるのを声で理解する。

 

 「──っつぅ」

 

 チョット、マテ。マダ、ソレヲタイジョウサセルノハ、ハヤスギル!

 

 頭の中の悪魔が止まれと囁く。

 まだ、そいつの退場は早すぎるとも抜かしてる。

 

 「……これ、でぇ」

 

 けど知るか。

 

 敷かれた伏線も。

 来るべき脅威の対策とか知ったこっちゃねぇ。

 

 ──そんなモンより、オレは大切なモノを守りてぇんだ。

 

 「終わりだぁあああ!!!」

 

 悪魔の声を無視して間合いへと踏み込む。今度こそ、あの舐め腐った女郎蜘蛛の懐へと必殺の一撃を振るう。

 

 「待てって言ってんデェスよぉおお!!!」

 

 他人をバカにすることしか出来なかった女の悲鳴。

 ザンと空を切るそれに、一人の外道は成す術もなく。

 

 「あ、ああ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 アトラク=ナクアは耳障りな断末魔を響かせ、黒い箱が嗤うように転がった。

 それは、弱者を虐げ続けてきた愚者にとって相応の末路と言えたんだ。

 

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