バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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 さて、投稿再開します。


013 ──また、ね

 

 ジジジ。

 

 存続不可避の零距離展開。

 螺螺螺、螺旋に悪魔が降臨されました。

 螺旋に悪魔が降臨されました。

 繰り返す。繰り返す。

 螺旋に悪魔が降臨されました。

 螺旋に悪魔が降臨されました。

 

 其れの目覚めの刻が来たのです。

 朝の陽ざしも、夜の兆しも無意味となるのが分かります。

 夕暮れの少女は、もう居ません。

 

 哀しきかな、哀しきかな。

 終末装置がやって来る。

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 キキキ。

 悪魔目覚めた。悪魔目覚めた。

 遂に、その声という存在を愚者もミト、認メタメタ。

 キキキ/嬉しいな。

 キキキ/嬉しいナ。

 

 眠っていた我らの王が目覚めるぞ。

 そしたら、もっと楽しい世界に変わるんだ!

 キキキ/愉しいな。

 キキキ/愉しいナ!

 

 影絵たちは嬉しそうに、そう嗤うのです。

 

 ──プツン。

 

 そこでようやく、モニターの電源が落ちた。

 

 「──っは!?」

 

 ノイズ混じりであったが、確かに我々はそれを見た。

 否、観測してしまったと言える。

 全ての人間を狂わせる光景を目の当たりにした事実に、今、私は震えている。

 

 「ハア、ハア!」

 

 急がなくては。

 アレをこちらの世界に呼び寄せることだけは絶対に阻止しなくてはいけない。

 そんな義務感が私の中で芽生えるほど、あれは危険だった。

 

 「どちらに行かれるのですか?」

 

 立ち上がろうとした。

 本部に救援を求めようとした。

 そうしようとして、モニターから離れようとした時。

 

 ──背後から私を呼び止める見知らぬ少女の声がした。

 

 「──っひぃ!」

 

 震えた。

 怯えた。

 どうしようもない恐怖が私の心を掴んで離さない。

 

 「困ります。今、貴方たちに邪魔されたら『真世界帰閉ノ扉(パラレル·ポーター)』が閉じてしまうではありませんか」

 

 真っ黒な画面には何も映らない。

 私は何も見ていない。

 けれど、背後にいるのが聞いたこともない少女の声だと私はそれの存在を『認知』する。

 

 「──っあ、ぐぅ」

 

 息が出来ない。

 とても苦しい。

 

 ジジジ。

 あれ? ……可笑しい。

 私の思考なのに、私ではなくなっていく感じがする。

 少女の声を聞いた瞬間に私の思考が変調しているのが、酷く恐ろしい。

 いや、本当に何だ? ……これは、何なんだ!?

 

 「あ、──あ、ぐぅ、ううう」

 

 苦しい。死ぬ。死んでしまう。

 自分がまるで海の底にいるみたいに自由が利かない。

 

 ジジジ。

 甘受しなさい。受け入れなさい。果てのない迷宮に飛び込むのです。

 

 意識が。意識が保てない。

 身体の自由が利かず、勝手に宙へ浮かぶ。

 

 「……な、なぜ?」

 

 可笑しい。どうして? 何が起こってる? どうして? 私は夢を見てるのか? 嫌だ、死にたくない。助けて。誰カ、助けてくれ! 私はまだ、こんなところで死にたくないのだ! 家族がいる。家族がいる。愛すべき家族がいるのだ。女房も、先月生まれたばかりの可愛い愛娘が居るのに、こんな訳の分からない死に方で殺されるなんて冗談じゃない!

 

 ギチギチ。

 何処からか超常的な力が働いてるのか、私の首が絞められる。

 鶏を屠殺するように突然起きた『それ』は現実を侵したのだった。

 

 「では、おやすみなさい」

 

 ポキリ。

 嫌な音が響き渡る。

 ガタリ、と物が倒れる音もする。

 

 そうして、我々は一斉に息を引き取った。

 

 陸上自衛隊第七魔導魔術対策支部は、一夜にして壊滅へと至ったのだった。

 

 ◇

 

 「あ、ああ、あああ、ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 響き渡る女郎蜘蛛の断末魔。

 弾けるようにアトラク=ナクアから転がり落ちる黒い箱。

 

 キキキ。

 影絵の嗤う声がする。

 

 「────」

 

 いつもと変わらない処刑時間(ショータイム)を終え、散乱した部屋に静けさが訪れた。

 

 「────」

 

 女郎蜘蛛(アトラク=ナクア)

 天音によく似た、──いや、天音が辿る結末の一つ。

 あの少女もまた、ある意味ではこの夢の世界を作った黒幕の被害者なのかもしれない。

 

 ジジジ。

 思い出す。

 ■■■■がまだ七瀬勇貴になる前の四番目の残留思念(ヒロイン)だった。

 彼女と過ごした日々は抜けているが、それでも掛け替えのない宝物だったことは覚えてる。

 

 「■■さん」

 

 真弓さんが呼びかける。

 

 「……ああ」

 

 無駄な感傷だ。

 タダでさえオレは記憶が、意志があやふやになってる現状で今の状態が続くとも限らないし。

 背負わなくてもいいモノを背負おうとしているのは、分かってる。

 

 それでも、オレは。

 

 ────「そっか。そうだった。そんな人間だって解ってたから、こんなにも迷ったんだっけ」

 

 見ない振りで後悔はしたくないんだ/なら、前に向かわないと。

 

 「分かってる、──それに『記憶』、取り戻さなきゃいけないし、な」

 

 真弓さんの方へ振り返る。

 

 「……ええ」

 

 そこには、泣きそうで、それでいて何処か嬉しそうで、何故か分からないが苦しそうにしてる彼女がいた。

 

 ────「ボクを追いたければ噂を辿ると良い。その先にボクらは待ってるよ」

 

 「確か『午前零時の寮館ロビーにある大鏡で女子生徒に会う』って噂だったっけ?」

 

 「そうです」

 

 「──ってことは、深夜のその時間に行けば藤岡(アイツ)に会えるのかな?」

 

 「恐らく、そうだと思います」

 

 「そう、か」

 

 だろうな。

 アイツは、噂を辿ると良いと言った。

 

 なら、その先にどうあっても待ち構えていなければ筋が通らない/じゃあ、行かないと。

 

 「■■(ゆうき)さん」

 

 ノイズ混じりの声で、真弓さんが不安げにオレを見つめる。

 

 ……キキキ。

 

 「何?」

 

 それに出来るだけ優しく聞き返す。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 「……私。私、は。貴方に会えて──」

 

 彼女が何かを言おうとしている。

 彼女が何かを伝えようとしている。

 

 カチカチカチ。

 カチカチカチ。

 

 けれど、どうやらオレの意志は此処で途切れるみたいで。

 

 「大丈夫だ、()弓さん」

 

 また泣き出しそうな影絵(ショウジョ)に精一杯の強がりを言う。

 

 「──また、ね」

 

 抱きしめることもなく。

 希望を夢に。

 そう言って、別れの言葉を告げた。

 

 ◇

 

 夢を見た。

 いや、夢を見せつけられている。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 真っ暗闇に僕はいる。

 そう。真っ暗闇に囚われて、何も出来ない自分がいた。

 

 「────」

 

 悪魔の声は聞こえない。

 手を伸ばしても誰も助けない。

 

 でも、どうしてか。

 不思議と寂しさが湧かなかった。

 

 「なんで、だ」

 

 解らなかった。

 あんなに独りが嫌だったのに、そう願わなくなったのが不思議だった。

 そう。見上げても星の一つもない現実に何も思わなくなってたんだ。

 

 「……あはは。バカみたい」

 

 静かに自嘲する。

 

 ジジジ。

 

 空虚な物語。

 冷めた感情。

 空白の記憶。

 

 頭の中に幾つもの言葉が浮かんでは消えていく。

 酷いものだ。

 そうまでしても、僕には居場所なんかないのに。

 

 「そうか。そうだった」

 

 理解する。

 此処は、なーんにもない無意味な煉獄だってことを。

 只、理解しても尚、現実を受け止めることを心が許してくれない。

 

 「──見てた訳じゃ、ないんだ」

 

 少女の顔を思い出す。

 僕を見ていた顔を思い出す。

 いつだって、僕のことを見てくれていたと思い込んでも、その事実は拭えない。

 

 「僕を。僕を、見てくれた訳じゃないんだ」

 

 呟く言葉は闇に融けていく。

 頼りにしていた感情は磨り減って、脆くなってしまっている。

 

 これじゃあ、再起することは叶わないだろう。

 

 「夢だ。……きっとこれは、質の悪い夢なんだ」

 

 そう思わなくては、やっていけない。

 そう思わなくては、どうしようもない。

 

 でなければ、『七瀬勇貴』は何を縋って生きれば良いのか分からなくなる。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 影絵たちが僕を起こそうと躍起になる。

 それはつまり、再び僕を夢の世界へと誘おうとしているということだ。

 

 「……」

 

 宙を見つめる。

 どうすれば良いのか分からないまま、僕は自分の主導権を切り替える。

 

 「──本当、どうしろって言うのさ」

 

 呟く本音に誰も答えない。

 そうして、僕は夢を見るのだった。

 

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