バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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014 最悪の目覚め

 

 ぐるぐる。

 ぐるぐる。

 

 記憶がグチャグチャ。

 意志がグチャグチャ。

 僕が僕でなくなって、オレがオレでなくなった。

 

 ────「勇貴さんはそんな嫌われ者の私にとって、希望なんです」

 

 オレが/僕が。

 僕が/オレが。

 

 ────「……だから貴方の傍に居たいんです」

 

 かき回されて、新たな『七瀬勇貴』へとなっていく。

 

 頭が痛い。

 

 ────「……そこは、真弓って呼んで下さいよぉ」

 

 頭が痛い。

 

 ────「はい、勇貴さん!」

 

 「────」

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 ────「真っ赤ですね」

 

 頭が割れそうで、とても痛い。

 心が砕かれて、立ち上がれない。

 

 「────」

 

 暗闇が晴れる。

 意識が夢へと浮上する。

 そうして/そうして。

 

 ────「……私。私、は。貴方に会えて──」

 

 「──っ!」

 

 物語の主人公となって、新たな世界へと溺れるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「──っ」

 

 目を覚まし、真っ白な天井が僕を出迎える。

 背筋を伝う冷や汗が、心地良い筈の鳥のさえずりさえ空しい気分へと落としていく。

 

 「……さい、あく」

 

 目が覚めた。

 いや、覚めてしまった。

 自分がいらないモノで、誰も僕を愛してくれないんだと気づいてしまった。

 

 「ちく、しょう」

 

 僕は、一人ぼっちだ。

 それがどうしようもなく、辛い。

 辛くて、辛くて、どうしようもなかった。

 

 「なんで、だ」

 

 ベッドに寝そべりながら、ゴロゴロと今までのことを考える。

 何をすれば良いだとか、この世界が何なのかとか。僕に残された時間だとか。

 

 ────「……私。私、は。貴方に会えて──」

 

 でも、何を考えても、浮かぶのはあの時の頬を赤らめた真弓さんの顔だけだった。

 

 ブンブンと頭を振って、何もない空間を茫然と見つめても変わらない。

 自分が何者かを探してた頃と何一つ変わっていない。

 

 ──ボスン!

 

 「何が、ヒーローだ。何が理想の自分だよ」

 

 枕を叩きつける。

 理想の自分だとか言っていたのがバカバカしい。

 何も出来ない癖に。

 何も成長していない癖に。

 

 自分だけの異能に目覚めたぐらいで、僕は何を格好つけてんだ!

 

 「──っ」

 

 ガシャン!

 

 もう嫌だ。

 もう嫌だ。

 こんな惨めな自分、とてもじゃないが生きていけない。

 

 「──ぅううう」

 

 何が楽しくて、何が悲しくてこんな自分を好きになれるって言う?

 僕は、何の為に頑張ってたのか、分からなくなる。

 

 ガタン、ゴトン!

 何かが転がるのも、何かが壊れるのも気にせず滅茶苦茶に暴れる。

 

 そんな僕を誰も助けない。

 つまり、それは誰も僕を必要としないと言うことで、誰も僕を愛してなど──いないってことの証拠だった。

 

 「うううううううう」

 

 その事実に胸が痛んだ。

 その現実に目を合わせられなくなった。

 

 「────!」

 

 逃げ出したい。あの頃に戻りたい。今の自分じゃなく昔の自分がどうだったのか気になっていた頃に戻れるなら、僕は何だってする。ああ、どうしてこうなった。どうして僕はそうなった。初めから望まれてないって(るい)も言ってたのに、どうして僕は──!

 

 「ぁああああああああああああああああああああああ!!!」

 

 ────「えへへ」

 

 なのに、僕は何を期待してるんだ!

 

 ギィイ、──バタン!

 

 自暴自棄になった僕は無我夢中で暴れた。

 手あたり次第、物という物を叩き壊して現実を忘れようと必死になった。

 

 「勇貴さん!」

 

 誰かに手を握られる。

 振り返って見たら、よく知る影絵の少女(まゆみさん)がいた。

 

 「──っ!?」

 

 ジジジ。

 眩暈がする。

 見てはいけないモノを見てしまい、眩暈が起きたんだ。

 

 「何をやってるんですか? 今、何を──」

 

 いや、影絵ではなく真弓さんが僕の手を引っ張ってた。

 

 ジジジ。

 でも、僕が本当にして欲しいのはそういうことじゃなくて──。

 

 「うるさい!」

 

 手を振りほどく。

 何がやりたいのか分からなくなって、どうしようもない気持ちで怒鳴り散らす。

 

 「本当はどうだっていい癖に! 僕のことなんか見てもいない癖に!」

 

 「──っ」

 

 彼女の顔を見ようとしても、悔しさと虚しさが募ってよく見れない。

 それが苦しくて。

 

 「裏切ったんだ。裏切ったんだ! 僕の気持ちを裏切ったんだ!」

 

 言葉が止まらない。

 気持ちが抑えられない。

 

 「惨めだって思ってるんでしょ。お前なんかいらない、早く消えてアイツに戻って欲しいって思ってるんでしょう?」

 

 だから、彼女を責める事ばかりしか伝えれない。

 

 「そ、それは──」

 

 狼狽える少女は只、悲しげに僕を見つめる。

 

 でも、分かるんだ。分かっちゃうんだ。

 だってその顔は、生前の『僕』もよくしていた。

 

 「言えよ。言えって、言っちまえよ! お前なんかいらないって言っちまえば、良いだろ!」

 

 それが余計に虚しくなる。

 

 だって、だって。それはつまり──。

 

 「その顔が、もう言ってんだよ! お前なんか消えちまえって言ってるんだよぉおおお!!!」

 

 バン!

 部屋を勢いよく飛び出す。

 

 「ま、待って!」

 

 いや、違う。そうじゃない。

 逃げたんだ。

 呼び止めようとする少女から、僕は逃げ出したんだ。

 

 ◇

 

 ぐるぐる回って、ネズミが逃げる。

 キキキと笑って、猫はそれを追いかけた。

 

 今度こそ、紅蓮の少女(アトラク=ナクア)は死んだな。

 呆気ない幕切れにリアクションが取れなかったよ。

 ああ、そうだな。しかし本当、死に顔も無様で滑稽だったね。

 

 何処か遠いところにいる観客たちは嗤い合う。

 好き勝手に批評して、世界にゴミをまき散らす。

 

 気持ち悪い。

 気持ち悪い。

 当然だと言わんばかりの悪意が気に入らない。

 

 「本当、救いがないにも程がある。──そうは思わないかい、フィリアちゃん」

 

 モニターから視線を外し、後ろにいる少女へ声をかける。

 そうすることで、気を紛らせたかった。

 そうしなければ、自分の中の『■■飛鳥』が抑えられそうになかった。

 

 ──でも。

 

 「いいえ。そうは思いません」

 

 七番目の少女は、藤岡飛鳥(ボク)を真っ直ぐに見る。

 

 「……へぇ。これでもまだ彼が、『七瀬勇貴』が立ち上がると思ってるんだ」

 

 知っている。

 その目は、どんな苦境も諦めない、明日を夢見て生きる人間の目だ。

 

 「はい。彼は、勇貴さんはこんなところで止まらない人ですから」

 

 「──っ」

 

 気に入らない。

 ボクは気に入らなかった。

 

 「────!」

 

 だって、その目は『六花傑()』がよくしていたから。

 

 「ああ、そうか。そうか、そうか。じゃあ仕方ない。此処でキミを懐柔するのは諦めることにしよう」

 

 ボクも壊れてる。

 既に残留思念(ヒロイン)ではなくなっており、何よりこの『記憶(■■■■)』だけを愛する上位幻想とボクは成り果てている。

 

 ジジジ。

 

 そうさ。そうでなくては、いけなかったし。

 何よりそうでなければ、あの時、大切なモノを守れなかった。

 

 ────「良かった。此処に君が来てくれて、本当に良かった」

 

 何もかもを捨てて、彼が守って欲しいと言った『記憶(■■■■)』をボクはずっと手放さない。

 

 ────「ありがとう」

 

 だから。

 だから!

 

 「そうですか」

 

 フィリアは何でもなさそうにボクの言葉を受け入れる。

 どうでもいいもののように、自分の状況を受け入れている。

 

 それが。

 

 「うん、そうだ。それが良い。それが良いに決まっテル。何ヨリ、コノ世界ノ事ハボクが一番理解シテルンダカラ」

 

 ──それが心底、憎たらしかった。

 

 「──っ! アハハ、アハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 堪らない。

 堪らない。

 所詮、ボクらは人形だ。

 この意志も誰かの慰み物でしかない。

 

 同じ意志を持とうと人間と幻想の深い溝が埋まらない。

 そうして、ボクは壊れていく。

 壊れて狂わなければ、現状を認識できない。

 

 嗚呼。心が、感情が、魂がない交ぜになって可笑しくなるのを止められない。

 

 「……さようなら、絶対なる知識を司る魔術師さん」

 

 キィイ、バタン。

 固い扉が開く音と共に少女は何もない部屋から出る。

 

 「アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!」

 

 ボクはそれを笑って見送った。

 

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