バッドエンド・ガールズ   作:青波 縁

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016 覚悟

 

 真っ暗闇に君はいる。

 

 キキキ。

 キキキ。

 

 真っ暗闇に僕はいる。

 

 ジジジ。

 

 全てが嘘へと書き換えられるのに、■■は幾度も夢の世界へ旅立つ。

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 みんな、笑ってる。

 在りもしない夢物語を願う君を。

 

 手にした鍵は、銀の鍵。

 それはドリームランドへ誘う門の鍵にして、影絵たちが恐れる第三の魔道具(アーティファクト)だった。

 

 泡沫の夢は終わりを願う。

 無謬の理は死を綴る。

 

 「さあ、ニューゲーム開始(スタート)だ」

 

 幸福な未来を目指そうと、僕は世界をやり直す。

 そう、彼女が語る夢を叶える為に──。

 

 ◇

 

 手に握られた銀の鍵を見て、思い出す。

 さっきまで、自暴自棄になっていた僕をフィリアが救ってくれたことを。

 

 「────」

 

 そして、その所為で彼女が影絵たちに蝕まれ、この『夢』から消えたことも。

 

 「──っ」

 

 涙が出るのをグッと堪える。

 駄目だ。

 今はまだ、涙を流す時じゃない。

 泣いていいのは、全てが終わってからだ。

 

 「そうだよ。……先ず、『記憶』ってヤツを取り戻さなきゃ」

 

 そいつを取り戻さないことには、また過負荷(オーバーロード)を起こして倒れてしまう。

 終わりだ。

そうなってしまったら、今度こそフィリアがくれた機会(チャンス)を無駄になってしまう。

 

 「まだ部屋に居るかなぁ、真弓さん」

 

 憂鬱だ。

 だけど、フィリアの夢を叶える為にはやらなくちゃいけない。

 そう思って、部屋へと戻ろうとした時──。

 

 ピシリ!

 

 「──っな!?」

 

 寮の壁、──というより見える全てのものに亀裂のようなものが走る。

 

 ザー、ザー。

 ザー、ザー。

 

 そして、僕を取り囲もうと何処からともなく影絵がワラワラと集まっていく。

 

 「早すぎないか、これー!」

 

 集まっていく影絵の一つが僕を蝕もうと手を伸ばす。

 

 「や、やばい!」

 

 魔術破戒(タイプ・ソード)じゃない、この場合は幻影疾風(タイプ・ファントム)の方が疾い。

 

 ドクン。

 心臓が高鳴るとコンマの世界へと意識が誘われる。

 

 「──っつぅ」

 

 一手先が読めるみたいに錯覚し、迫る影絵たちの魔の手を避けていく。

 

 「っらぁあああ!!!」

 

 真弓さんと会って、寮館ロビーの鏡前に行かないといけない。

 きっとフィリアもそれを望んで、この銀の鍵を僕に託したんだ。

 

 ダカラ、ハヤクシナイト。

 

 「あ、アレ?」

 

 全身に力が抜け、その場に膝をついてしまう。

 

 「嘘、──デショ?」

 

 意識が朦朧し、立てない。

 

 キキキ!

 キキキ!

 

 影絵たちが嗤いながら、動けない僕にのっそりと覆いかぶさる。

 

 「ヤ、止メテクレ!」

 

 身体が動けない。

 ノイズが頭の中を駆け回る。

 一刻も許さない、絶望的な状況。

 

 「──止メロォオオオ!!!」

 

 影絵たちに体が浸食される中、必死で叫んだ。

 それは、もう必死になって叫んだんだ。

 

 だからなのか。

 

 「ハァアアア!!!」

 

 影絵たちを一掃する、虹の極光が届いた。

 

 「ゴメン遊ばせ!」

 

 タン! タン!

 

 虹の極光に続いて、あらゆるモノを打ち貫く魔弾も炸裂した。

 

 キキキィ!

 キキキィイ!

 

 僕を覆っていた影絵たちが退いていく。

 それは、奇跡だった。

 

 「おい、勇貴! 大丈夫か!?」

 

 幻想の焔がノイズを取り除こうと優しく包み込む。

 

 「火、トリ? ソレニ、シェリア会長とシスカ、マデ?」

 

 「ああ、そうだ。此処まで、よく頑張ったな」

 

 火鳥が僕を起こす。

 何故か知らないが、先ほどまで立つことも儘ならなかった体に力が戻っていく気がした。

 

 「これは、貸しだぜ」

 

 火鳥が僕の方に手をかざすと、影絵たちの嘲笑が聞こえなくなっていく。

 

 「──っ」

 

 火鳥が何かしたのか、それとも予期せぬエラーが起きたのか。

 否、その両方だろうか。

 

 カツン。

 

 「おいおい。こいつは、愉快なことになってるなぁ」

 

 影絵たちが退いたかと思いきや、廊下の向こうから男の声が聞こえてきた。

 

 「哀れな虫けら共がみみっちいことしてると思ったら、随分と面倒なことが起きてるではないか」

 

 中途半端に芝居掛かった台詞回し。

 不穏な気配が、不規則な足音(リズム)を奏でる。

 

 「全くもって精が出るじゃないか。──まあ、その無駄な足掻きも此処で終わりなんだがね」

 

 それは、一言で例えるなら『邪悪』そのもの。

 下卑た妄執、浅ましき自己愛の塊。

 悪という概念に形を与えた存在が、真っ直ぐこちらに歩いてくる。

 

 「────」

 

 神を目指した愚か者が、ポリポリとくすんだ金髪を掻きながら──。

 

 「喜べ、ゴミ共! この我、ウェイトリ―=ウェスト様が直々にお掃除してやろう!」

 

 大きく手を広げ、僕らに向かってそう告げた。

 

 「ウェイトリー=ウェスト?」

 

 突如現れた第三者は、悪意に満ちた笑みを浮かべながらブンと腕を振るう。

 すると、何処からともなく異形の怪物が褐色の男の背後に現れる。

 

 「ギギギ、ギギギィイ」

 「シッ、シャアアア!」

 「プシュウウウ! プシュウウウ!」

 

 狼のような顔だった。

 天使を思わせる翼も生やしていた。

 ギョロっとした目玉が幾つも飛び出した、無数の緑の触手に全身が覆われた何かであった。

 

 「シュルルル! シュルルル!」

 

 百獣の王を連想させる前足が振るわれる。

 無数の蛇の頭を持つ尻尾が威嚇する。

 

 寮館の廊下に現れた怪物は、二メートルを超える体格を保ちながら創造主(ウェイトリ―)の命令を待っていた。

 

 どうやら、悠長な時間はないと見て間違いない。

 

 「奴は抑えておく」

 

 ガシャン。

 シスカが剣を構える。

 

 「お急ぎくださいまし」

 

 シェリア会長が先を促す。

 指を向けた先に狭い通路が目についた。

 

 「そう、だね」

 

 意識を先に向ける。

 随分と奥の方に来たのか、僕の部屋まで走っても三分は掛かりそうだ。

 

 「勇貴、くれぐれも権能(チート)は使うんじゃねぇぞ。只でさえお前の体は限界なんだ。これ以上の酷使はさっきの二の舞だからな!」

 

 火鳥が僕に忠告する。

 

 「──分かったよ」

 

 ……どうやら、部屋までは徒歩で向かうことになりそうだ。

 

 「みんな、ありがとう!」

 

 そうして、全速疾走で部屋へと向かう。

 

 「──ッハ! お前らのようなゴミ共が神であるこの我に歯向かうとどうなるか教えてやろう!」

 

 耳障りな男の叫びが木霊する。

 

 「ウ、ウウウ、ウウウウウ、ヴォオオオオン!!!」

 

 それを合図に、異形の怪物が暴風となったのだ。

 

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