たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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※本話には特殊タグを使用しています。


独白

 

 やあ、この夢を見ている誰か。

 

 私は誰かって? そんなことはどうでもいい。だって、私はこの物語に関わるつもりはないからね。変に話して余計な縁を結んでしまっても困る。

 そうだな、親切な夢のお姉さんと呼んでくれ。何? 真名を知っているって? ――ああ、そうか。もしかしなくても特殊な生い立ちをしているね? そっちの私と知り合っているなんて。

 まあ、それなら話は早い。

 一応言っておくと、私はそちらの世界の私とは別の存在だ。

 例えば、不可侵の妖精郷に引き籠っていたとしても、ね。

 この世界には妖精郷はもうなくて、私も当たり前に外を歩いているからね。この私はちょっと特別なんだ。

 

 さて、キミに知ってほしいのはこの世界のはじまりだ。

 この世界が正しい人類史から外れてしまったのは、二つの時代が強く関わっている。

 一つは一万四千年前。汎人類史においても重要なターニングポイントだね。

 そしてもう一つは――今だ。

 数年くらいは誤差があるかもしれないけど。文明に大きな変化が起きない程度のものだし、それでいいかな。

 

 極東の国の地方都市で一つの小さな不幸が起きた。

 世界すべてを見渡せば、一日に何千、何万とあるような、取るに足らない事件。

 通り魔のあまりにも理由のない衝動によって、一人の青年が襲われた。

 その青年は人並みのドラマこそ歩んできたけれど、類稀な運命力を持っていた訳でも、悲劇に打ち勝つ特異性を持っていた訳でもない。

 だから、当然のようにそこで青年の運命は終わった。

 彼にとって、その日は大きな幸運を拾った“当たり”の日だった。その時まではね。

 ん? その幸運って何か? いやあ、それはプライバシーだし、言わない方が彼のためじゃないかな。

 とはいえ、この後の話に関わってくる訳だし……ううん。

 わかった。話そう。どうか笑わずに聞いてほしい。一応だけど、彼の結末だった訳だからね。

 

 とても欲しかったのに予約競争に負けた『聖剣のレプリカっぽい玩具』を諦めきれず知り合いを頼ったら高額で譲ってくれるとのことだったので早速その知り合いを訪ね、件の玩具を受け取った帰りだったのさ。

 ……なんだいその顔? 転売ヤー死すべしフォーウ? 何かの物真似かい?

 

 ともかくだ。そうして青年の人生が不幸にも終わったのと同時。

 とある超常の存在が、ちょっとした気紛れを起こした。

 こちらも良くある話さ。この世界に残る特異な神霊、或いはそれにほど近い何かが起こした奇跡。

 その瞬間に死んだ青年を過去に飛ばし、世界に可能性を増やしてみようという実験だ。

 過去を知識として持つ現代の人間が、過去に飛んで何を起こすか。考えたことがある人もいるんじゃないかな。

 ところが。今回、ことを起こした存在――もう神様と呼んでしまおうか――がちょっとばかり強い力を持ったヤツでね。

 青年は過去に飛んだ。飛び過ぎた。神様が想定したよりも過去に飛んでしまった。

 その青年が今わの際に強い感情を向けていた聖剣のレプリカも一緒に飛んだ。

 一万四千年前の世界に、ね。

 

 さて、飛ばし過ぎはしたものの、青年は神様の望んだ通り、とある存在に取り憑いた。

 その存在に宿っていた人格を上書きして成り変わった。

 そして、もう一方で聖剣のレプリカは……まあ、何というか、とんでもなく厄介なことになった。

 

 ここらでネタバレをしてしまおう。

 青年が憑依したのはセファール。この、今から一万四千年前という時代に遊星から放たれ、この星の文明を蹂躙し尽くした白き巨人。

 当時の神々の悉くが歯が立たず、世界は終わりかけた。

 セファールを討ったのは、一振りの聖剣とそれを担う人間だった。

 星の内海から出でた聖剣が起こした奇跡。これが今の今まで世界が存続できた要因の一つだ。

 たとえセファールに青年が憑依したとて、すぐにこの聖剣によって物語は終わる――それなら、話は早かったんだけどねえ。

 

 聖剣のレプリカは、どういう訳か星の内海に転がり落ちた。

 そしてそれを見つけたのは、妖精たちだった。

 彼らは一つの使命を持っていた。この星の危機に対するための、聖剣を鍛つことだ。

 言うまでもなく、セファールを討った聖剣は彼らの努力の賜物だったんだよ。

 ――ところで、妖精たちは純粋でね。基本的に自由な彼らは目先に“得”があれば、特に考えずにそれにありつこうとする。

 そんな彼らが聖剣作りに手を付けようとしたところに転がってきた聖剣のレプリカ。

 ああ、もうどうなったか分かるだろう?

 

 ――うん。これでいいか。これでその分遊べるぞ!

 

 宿題を拾い物の提出で済ませた訳だね。

 もちろん、それは何の神秘もない、というか剣ですらない紛い物だ。

 そりゃあその時代にあるにはおよそ考えられない技術の賜物ではあるけれど、だからといってセファールを前にすれば何の意味もない。

 これで世界の命運は決まった。

 詰んだ世界は、抵抗もむなしく滅びるだけ――。

 

 ……とは、ならなかったんだよね、これが。

 

 世界は決定的に分かたれてしまった。

 もう汎人類史には決して辿り着けないほどに間違えてしまった世界だが、不思議とそのまま続いていった。

 一万四千年。その長い、とても長い月日を、汎人類史と同じように経て、まったく違う文明に育っていったんだ。

 歩んできた苦難は負けず劣らず。

 しかし、それで屈することなく人々は歩み続けた。

 偉大にして絶対たる、最後の神の庇護の下で。

 

 その神の名は。唯一の王の名は。

 巨神王セファール――或いは白王セファール。

 自らが齎す筈の滅びを良しとせず、世界のバッドエンドを良しとせず、一万四千年間、世界に命を供し続けた者。

 そしてその傍らには人類の希望。贋作を真作へと昇華させた剣聖。

 王の宿敵にして盟友。全ての終わりまで、共に世界を庇護することを王と誓い合ったはじまりの勇者。

 

 はじめにこの二人があって。

 光を喰らう名馬を駆る戦士の娘が作られて。

 誰もの希望に罅が入り、終末を予感した大いなる戦いを超え、戦乙女の長が人間の戦士と結ばれて。

 そして、多くの戦乙女と人間の一人ひとりが次なる危機はいつかと空に目を向ける。

 ゆえにこそ守りは盤石、ゆえにこそ誰もが平和を享受する。

 

 ああ、罪の有無など数えまい。望むならば門を開こう。

 来たりし者、生まれし者、楽園を脅かす存在でなければ迫害はしない。

 娯楽に生きるも良し、知識を極めるも良し。

 ただし願わくば、力をもって外敵を討つ戦士たらんことを――。

 

 

 

 ……。

 

 …………うん。分かっているさ。

 

 そうとも、この世界は正しい人類史ではなく、異聞として切り離された。

 剪定の結末を逃れ、ゆえに他の異聞と、汎人類史と戦うことを義務付けられたのだろう?

 胸糞悪い展開だ。こちらの世界の誰も、そんな戦いは望まない。

 だがね。やるべきことは変わらない。

 

 この世界を壊しに来るなら、それもいいさ。

 そういった手合いを相手取ることはこの世界の得意分野だ。

 

 では、そうだな。他の異聞と、汎人類史と戦う一つの世界として、名付けようじゃないか。

 地球という惑星の新たなるかたち。

 全域が世界防衛の最前線である、星の降る白き地平。

 

 

 

 

 深度_■■
      A+

 

ロストベルトNo.8

 終 天 の 流 星 雨 
 終 星 雨

 

BC.12000 了自己域 ■■■■■

 

 

 

 

 積まれた罪は清算される。門は誰をも拒まない。

 ここより先は新天地。過去を洗った天秤に、乗るのは今と未来のみ。

 罪無き者には楽園を。罪有る者には天命を。

 ――過ぎたるものには監獄を。混沌に潤うあの場所も、新たな贄は拒むまい。

 

 まったく、世界とはかくも残酷なもの。

 これでは観客を気取ることさえ出来やしない。

 ひどく億劫ではあるけれど、動くとするか。

 私がいないと、この世界にどうにもならない事態があるというのもまた事実。

 いやあ、異聞帯だなんて、上手い仕掛けだ。そりゃあ、客観的に見てみれば、この世界が切り捨てられるのは当然だ。

 どんなに素晴らしい、可能性に満ちた世界だって、人々が歩みを止めない世界だって、詰む時は詰む。

 土台と骨子の限界か。気付いていたのに変えられないというのは、難儀だねえ。




■太平洋異聞帯
汎人類史の白紙化の際、他の七つと同時期に発生した第八の異聞帯。
太平洋中央部に存在し、その規模は大西洋異聞帯に匹敵する。
とはいえ、異聞帯としてはクリプターにとっても異星の神にとっても都合が悪く、あくまでも彼らの本命としては大西洋異聞帯となっている。
空想樹は早々にこの世界の機構に組み込まれており、成長も望めない状態でありながらも異常な速度で規模を拡大しており、侵略の意思は強い模様。
人々に向上心があり、それが確かな結果を生み、尚も先を目指すことのできる可能性に満ちた世界。
しかし、“土台”と“骨子”に致命的な問題を抱えており、緩やかに滅びへと向かっているとされている。
大西洋異聞帯の環境的に、衝突することになるとだいぶ厄介なためキリシュタリアの頭痛の種。

■神様(仮)
現代において、神霊の権能ないしそれに匹敵する何らかの強大な力を持つ何者か。
享楽的な性格であり、過去の時間軸に一般人を飛ばし、それにより変わった未来を観測することを楽しみとしていた。
今回はありったけの力を使ったところ、一万四千年前の白い巨人に一般人を憑依させることに成功。ちなみに偶然。
とりあえずその物語を楽しもうとした結果、えらいことになった。

■妖精
人が振るう聖剣を作る役目を担っていた一万四千年前の妖精たち。
どこぞの異聞帯のきっかけみたくサボタージュの意思があった訳ではなかった。
そのため、聖剣鋳造の直前の段階まで行っていたのだが、そこに転がり込んできた聖剣のレプリカを見て「これでいいか」と提出。
結果としてえらいことになった。

■聖剣
太平洋異聞帯における聖剣。
本来はどこかの世界において、運命的なアニメ映画の放映記念とかで作られた聖剣の玩具。
デラックスな外見で光るし音も鳴る。さらに鞘も付いてくる。
神様(仮)の力で一般人に巻き込まれて一万四千年前の世界に飛んでいき、妖精たちが提出した結果、奇しくも当のアニメ映画に登場する騎士王に良く似た顔の少女の手に渡った。
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