たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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ウルト兎様より、本作の異聞帯のタイトルイラストをいただきました!
本作のタイトルページに掲載しております。素晴らしくかっこいい。


偶像

 

『ひどくない?』

「……っ」

 

 死んだ。本気で一回死んだ。

 意識の共有をした分身が、本当に死んだ。

 セイちゃんに真っ二つにされて、意識の共有が中断された。

 

 最後に聞いた言葉から、どうもこの分身が私であるということを知らなかったらしい。

 とりあえず分身を修復し、落ち着かせて話を聞いた。

 何を突然血迷ったのか。

 おかげで本体の方で宥めることになった。

 それで聞いた真相は、まあ、別に長々と語るようなことでもない。

 

 ――要は、私の分身を私の娘だと勘違いして衝動的に殺意が沸いたらしい。

 

 ごめん。ちょっと待って。分からない。やっぱり私セイちゃんが分からない。

 娘だと思ったってのは百歩譲るけど、“父親は誰なのか”のくだりと、娘だからとぶった切ったのが本当に分からない。

 そろそろこの世界において常識になったかもしれないが私は白い巨人セファールだ。

 何者かに作られた存在であり、何かしらの種族の一個体ではない。

 生殖能力もないし、セファールとはあえて言うなら単独種である。父親云々の前に、その対象となり得る存在として該当する個体がこの宇宙に一体もいないのだ。

 というか、セファールにそういう生態があったら困る。

 こんな星一つ丸ごと掌握できるような巨人、他にいて堪るか。

 

 そして、仮に私の娘がどういう訳か産まれたとして、何故それをあんなに濃厚な殺意付きで斬ったりしたのか。

 私だったから良かったものの、別の意識を持っている別の生命だったら大惨事だぞ。

 あれか。いつか私を斬らなければならないから、その娘で訓練とかリハーサルとか。そんなことある?

 いや、確かに私以外であれば、セイちゃんが知らないうちにこの世界にいたというのは想定外を生む可能性がある。

 だからと言って問答無用が過ぎないか。私はセイちゃんにそんな蛮族になってほしいと願った訳ではない。

 

 ――で、そんな、呆れにすら至らないくらいには馬鹿馬鹿しい勘違いをどうにか聞き終えた訳だが。

 セイちゃん、顔を両手で覆って絶賛悶絶中である。

 この手の勘違いは得てして恥が生まれるものだ。いらぬ勘違いを向けていた者にバレれば、尚更に。

 ちなみに聖剣はセイちゃんがゴロゴロしている場所の近くに転がっている。担い手の醜態を見てあの玩具(つるぎ)は何を思うのか。

 私としては、まあ、このままでも困るし慰めたいとは思うのだが。

 そうだとしても。如何に私がセイちゃん全肯定巨人だとしても、流石にその勘違いでぶった切られればそれなりの感情は抱く。

 あまり詰るつもりこそないが、少しくらいは文句も言いたくなるものだ。

 

『確かに、説明もせずに突然この大きさで現れたのは、少しは非があるかもしれない。でも、そういう勘違いをしたならすぐに剣を向けるのはどうかと思う』

「……っ」

 

 少しだけ思い出したのは、セイちゃんと出会って間もない頃。

 確か、聖剣に選ばれたばかりだと言っていたっけ。

 あの頃はセイちゃんは無鉄砲で、自暴自棄になっているかのようだった。

 ただただ闇雲に私に聖剣を叩き付け、それしか出来ない自分を恥じているような――そんな印象を受けていた。

 

 今回のそれとは羞恥の方向性が違うだろうが、どこか懐かしさを感じる。

 どちらかというと、無気力なようで面倒見の良い性格のセイちゃんだからこそ、こういう仕草は珍しい。

 その弱さを一体誰が知っているだろうか。

 この様子をずっと見ていたくはある。正直、物凄く“そそる”のだが、そろそろ転がるのはやめたらどうだろうか。

 草と土まみれになっているぞセイちゃん。

 

「っ……っ……」

『……』

 

 ――まあ、もう暫くこのままでいいか。

 それより聖剣だ。冷静に考えると、私今あれに斬られたな?

 前世の記憶と精神はもう、大半が思い返すことも不可能なほどに曖昧になってしまってはいるが。

 あの聖剣が武器として成立するようなものではないことは覚えている。忘れる訳がない。

 セイちゃんがそれを使って鍛錬を積み、剣士として成長していたのは知っているし、この体が人間にも及ばないくらいの強度であるのは事実だが。

 それに今、斬られたのか? このセファールが?

 

『……』

 

 何だろう。あの聖剣、いつの間にかすり替わっていたりしていない?

 もしかすると、この時こそが違和感を解消すべき時なのか。

 放り捨てられた聖剣に、セイちゃんの様子を気に掛けつつも手を伸ばし、

 

『……っ?』

 

 妙に――妙に嫌な感覚を覚え、手が引っ込められた。

 問題ない。問題はないとは思う。あの聖剣に触れたところで何も、私の身に起きることはない。

 だが、何か、あの聖剣を私の存在そのものが天敵と認めてしまっているような――

 いや確かに私はセイちゃんとその聖剣によって終わると、そう決めてはいる。

 そしてこれこそが聖剣であると、誰しもがそう願い、確信しているのだが……この釈然としない気持ちは何か。

 

「……何してるんですか。聖剣は渡しませんよ」

『あ、セイちゃん』

 

 復活したらしい。だいぶ乱れた格好で、頬を赤く染めたセイちゃんが前に出てきて聖剣を手に取った。

 今の格好だけ見れば、あらぬ間違いでもあったのではないかと思えるものだが、その実、単に悶絶していただけである。

 街の誰もそれを見ていないし、それを目撃したのは私だけ。何も問題はない。

 

「……なんか、すみませんでした」

『え、ああ、うん』

「貴女が死んでいないようで何よりです……私のうっかりで世界が終わりとか、神様にも妖精にも顔向け出来ませんよ」

 

 律儀だねセイちゃん。

 神々は最後の最後でセイちゃんに手を出して、それが世界が変わるきっかけになった。

 私はそれなりに思うことこそあるが、セイちゃんが何を思うような相手だろうか。

 それでもって妖精は――見たことないが、セイちゃんにあの聖剣を渡した存在じゃなかったか。

 その時点でまともでないような気しかしない。まあ……こうして聖剣が縁を結んだからこそ今があるということも否定できないので、妖精については悪い印象は持っていないが。

 

『一応、存在の中心は本体だから。分身が死んでも死なない。死ぬほど驚いたし、怖かったけど』

「だからすみませんって……本当に反省しているんですよ。もうちょっと、存在を感じ取れるようにならないと……」

 

 よく分からないが、セイちゃんの鍛錬の方向性が定まったらしい。

 それで彼女が強くなれるのなら、まあ、死んだ価値もあったと言うべきか。

 

「……その体でもそこそこ、考えていること分かりますね。その狂った思考、そろそろやめた方が良いですよ」

『セイちゃんに言われたくない』

「私は貴女よりはまともです」

『そうでもない』

「いいえ。私の方がまともです。人間なめないでください」

『そっちこそ、世界(セファール)なめないでほしい。世界(セファール)こそルールだ』

 

 やいのやいのと言い合う。

 それはいつもと変わらないが、違うのは私とセイちゃんのサイズ比。

 巨人と人間という、数百倍ものサイズ比ではなく、今は殆ど同じくらいの背丈。

 ゆえに言い合いの中で――自然な流れのように、彼女が私の頬を摘まんだ。

 

「…………」

『……セイちゃん(へいひゃん)?』

 

 無表情のセイちゃんに頬をふにふにとされる謎の時間。

 彼女の今の感情は何も伝わってこないが、これ私もやり返してよいパターンだろうか。

 

「……セファール。この分身、意識共有しなくていいので、もう一つ作れます? 壊してもすぐに治るようなのが良いです」

『出来ると思うけど後半の要求が不穏過ぎてやりたくない』

「動けなくても良いです。ちゃんと立てるだけのもので大丈夫なので」

『話聞いて?』

 

 分身はやろうと思えば量産できるだろうし、意識の共有をせず、行動の命令も組み込まなければ即ちそれはただの人形。

 それに自動修復を掛けるのは――やったことはないが、それ一つ作るだけならそう難しくはないと思う。

 だから私にとって負担ではないのだが、一体この少女は何を受信したのだろう。

 その分身の頬を引き千切ってストレス発散とか考えていないだろうか。そんなにストレス溜まっているのだろうか。街の人で鬱憤を晴らされるのは困るけど、かといって私の分身がサンドバッグになるのは悲しい。

 

 ――そして、何だかんだでセイちゃんの説得に折れて、分身を納品したのは数日後。

 後日、それが彼女が剣の鍛錬をするための、都合よく再生する“的”になっていたと知り、私はセイちゃんと本気で喧嘩をしたのだった。




■セファール
誤解が解けたので存分に聖剣使いとイチャイチャしていた。本話は本当にそれだけだった。
羞恥に悶える聖剣使いを見て、良からぬ扉が開きかけた。その扉が完全に開かれると人間に厳しすぎる世界になるのは必定となるため、聖剣使いのみがカギを開けられる。
聖剣使いの要求に負け、マテリアルボディを一体納品。
結局目的は明かさなかったため、『家での寂しさを紛らせるとかそういう理由なのではないか』と自分に言い聞かせたのだが、後日それが剣の錆になっていたと知り、流石に怒った。
世界最古の“的”である。
――これは巨人と聖剣使いの初めての、思想の対立による争いとされている。
その原因は巨人が贈った自身の偶像であるとされ、このことから後の世では巨人の偶像を作るのは基本的に禁止とされている。(諸説あり)
それが許されるのはごく僅かな民のみで、ゆえにほんの僅かなそれを巡り醜い激しい争奪戦が繰り広げられているとかいないとか。

――彼女を元に霊基を仮想した場合、アンチセル/ヴェルバー02という特殊クラスがあてられる。その他、この世界限定のルールで裁定者の適性を持つ。
本来最も適性の高かった降臨者としての性質は、世界との同化によって失われており、この世界に顕現した場合は降臨者となることはない。
また、これから先、彼女がどのような結論に行き着くとしても、獣の性質を手に入れることは決してない。セファールという存在の構造上、最初に定義されるのは『破壊』であり、『愛』が最初に定義されることがないためだ。
『愛』→『悪』の流れが完成したとしても、セファールの存在意義として最初に『破壊』が存在するため、それは『愛ゆえの悪』ではなく『破壊ゆえの愛ゆえの悪』という、獣とは違う歪んだ災害となるのみである。

■聖剣使い
誤解が解け、その誤解をした事そのものに対する自分という存在が分からなくなり、羞恥に抱かれて溺死しかけた。
一応立ち直りはしたのだが、度々これが原因で揶揄われるようになるため、ある意味では受難の始まりである。
斬ったのは耐久力の低いマテリアルボディではあったのだが、『巨人の分身を斬った』という事実は瞬く間に街に広がり、聖剣使いの力を疑う者たちの心変わりに一役買った。
マテリアルボディを要求したのは的のためというのは前述の通り。いつかセファールを斬るという運命を果たすための予行練習である。
……まあ、それはそれとして、剣を振る時以外は小屋の中に入れてはいるらしい。室内での扱いについては不明である。

――彼女を元に霊基を仮想した場合、性別情報にジャミングが掛かり、剣士であると同時に巨人の分体という特性が付与される。一応元はただの人間である筈なのに本人から宝具までワケの分からん霊基である。
霊基の検証を行った伝承科出身、降霊科出身、現代魔術科のロードという三人の魔術師曰く「この存在を構成するものがあるとすれば、それは別の銀河の粒子である」「ウォーズじゃ、セイバーでXなウォーズが来る」「何がIFの人類史だバーカ! 滅びろ異聞帯!」とのこと。

■聖剣
聖剣使いが装備時、自身に[セファール]特攻状態を付与+[セファール]に対して宝具威力がアップする状態を付与+[セファール]への攻撃時、防御力アップ状態と回避状態と無敵状態を解除する状態を付与。
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