たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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~現代:クリプターによる第一回暗黒円卓会議当日~


会合/intro.

 情報の報告や共有を行う際、私たちはキリシュタリアが担当する大西洋異聞帯にある、円卓を利用して通信を行う。

 これがかの円卓の騎士を模しているならば、あるべきはイギリスの異聞帯ではないかとは思うが――まあ、あの国に異聞帯が出来るとしたら、碌なものになるとは考えにくい。

 こうして、落ち着いた話をするのなら安定した異聞帯に場所を作ってこそだ。

 大西洋に居を構える、ギリシャ世界。

 流石はキリシュタリア。この異聞帯で地位を確立し、こうして場所を用意するまでの早さは私をして驚くべきものだ。

 ――とりあえず、あの意味の分からない世界から追い出されないことに必死になっていた私とは大違いである。

 いや、それは異聞帯の環境の差。仕事である以上、調子を取り戻しては本気になっての繰り返しだったが、それでようやくここまでだ。というか、それさえ危うかった。顧問監督官として、異聞帯から追い出されるとかあり得ない。

 

『いやあ、そっちはどうよナジア。あんたのことだから、もう親善大使! ってな感じで確固たる地位は築けてんだろうけど!』

「……ええ。大正解よベリル。クリプター親善大使。そんな肩書きは獲得したわ。死に物狂いでね。もう番外クリプターとか説明している暇とかないっての」

 

 本日は会合がある日だが、まだ時間は早い。

 キリシュタリアすら来ておらず、私が来て八分後に現れたベリルとこうして雑談に興じているという訳だ。

 

 そう。私は努力の果てにクリプター親善大使として、異聞帯に取り入ることに成功した。

 七日目も終わりかけた、ギリギリのタイミングである。

 異邦人(フォーリナー)証明。これはこの、太平洋異聞帯である世界においてありふれた存在だという外部からの訪問者に対して発行される、七日間の滞在許可証だ。

 七日間――正確には百六十八時間。近くなれば警告が発され、それでも滞在を続けて、この時間が経過した場合――強制退去が行われる。

 何処へって、大気圏外である。

 

 私のような“別の地球”由来の異邦人もいなくはないらしいが――それらに対しても扱いは変わりない。

 何処から来た異邦人に対しても共通した強制退去。

 しかし、例外は存在する。この世界の王など、ごく一部が無視できないと判断した場合のみ発行される延長許可。

 過去僅かしか発行されたことのない延長許可を、私は獲得したのだ。

 

『へえ。あんたが死に物狂いってなぁ珍しい話だ。『西欧財閥の人たらし担当』も名高いナジア・ハーウェイが!』

「その呼び方好きじゃない。等しく悪意があって困る」

『おっとこりゃあ失礼。まあ許せよナジア。互いに地雷は一つずつ、触れないのは恋と愛だけ。それ以外は全部冗談の範囲だろ?』

「まったく、調子がいいね、狼男さん」

 

 まあ、適当な反撃であればこのくらいだろう。

 ベリル・ガットと付き合うにおいて取り決めたのは、互いの一点については絶対に話題に出さないこと。

 私がベリルのそれに触れれば、彼のそれを否定することしか出来ないし、ベリルが私のそれに触れれば、私のそれを否定することしか出来ない。

 それに触れなければ、互いに使いやすい協力相手……もとい、仲間だ。

 

『それで? そんなナジアが苦労する異聞帯はどんななんだ? キリシュタリアが名指しで任せたんだ。よっぽどのものなんだろ?』

「……ええ。ベリル、セファール伝説って知ってる?」

『そりゃあ、まあ。あの手の終末案件はアトラス院の十八番だろうけど、そのくらいなら魔術師なら常識の範囲だろ』

「それが分岐」

『……あー、あれか。セファール完勝ルートみたいな。いや、あり得ねえか。それじゃあ人類史もクソもないよな!』

「うん。和解ルート」

『は?』

「セファールと聖剣使いが和解したルート」

『――――?』

 

 お、珍しい。ベリルのあの表情は初めて見たぞ。

 私たちはクリプターという括りで、汎人類史を敵に回した仲間ではあるが、敵同士でもある。

 いつかそれぞれの異聞帯は争うことになるし、異聞帯の情報はある程度隠した方が良いのだろうけど。

 まあ、このくらいなら良いだろう。そもそも、太平洋異聞帯と言っても、それだけでは想像がつくまい。

 どんな異聞帯であるか、最低限の情報は与えておかないと不和を生むというものだ。

 だからこれは後で皆にも告げておこう。キリシュタリアとデイビット以外は面白い反応を見せてくれる筈だぞ。

 

「セファールと聖剣使いが和解して、一緒に強い世界を作りましょうってなったルート。技術レベルは汎人類史より上で、神代の神秘もバッチリ残ってる。神は全滅しているから神代自体は終わっているけど」

『何そのぼくのかんがえたさいきょうの異聞帯。ナジア、あんた今仕事モードだろ? 冗談言う時じゃないんじゃない?』

「この通信だと分かりにくいだろうね、ベリル。私、碌に寝てないの。隈が出来始めているの。私に。自分の健康管理は基本中の基本のナジア・ハーウェイが」

『お、おう……お疲れさん……。あー、なんだ。こっちの異聞帯来いよ。酒とか旨いぞ?』

「行けたら行きたいものだわ。一日でも何も考えない日があれば良いリフレッシュになる」

 

 各種栄養素はタブレットで補給しているから、今のところ問題はない。

 だが、作り置きも材料もいずれは切れるし、そうなれば――この世界のものを食べなければならないのだろうか。

 魔力の測定に使っていた携帯計器が全て「マジ無理」と臨終したほどの神秘に浸った、神の国の食べ物(この世界の食物全般)を。

 セファールという土壌の上に生った食べ物を。

 私大丈夫? 変な特殊効果(バフ)掛かったりしない?

 

『まあ、なんだ。オレの苦労話でも聞いて元気出せよ。結構な世紀末だからさ』

「聞かせてもらおうじゃないの。まだ気も楽になりそう」

『おうよ。こっちだって空想樹の確保に死ぬほど苦労したんだぜ? 何せ王サマの勝手が酷いのなんの――』

 

 ――さて。

 食事はともかくとして、大使としての立場を手に入れてからはようやく腰を据えてこの世界の知識を溜め込むことが出来ている。

 この技術レベルの高さには理由がある。ただ、異邦人が来るというだけの異常な世界では、当然ない。

 

 強く、発展した人類史。これは、そうせざるを得なかっただけの話。常に最先端のその先を目指さなければ、まともに生きることも許されないほどの。

 異邦人(フォーリナー)の中でも、この世界に対し敵意・害意を持った、敵性生物。

 ――侵略種(インベーダー)

 そう呼称される、この世界全体における共通の外敵にして、この世界において異邦人という概念を当たり前にしたもの。

 その発生は、記録されているところによると一万三千年前――紀元前一万一千年ごろ。

 ちょっと待て。よく考えたら巨人という存在を中心として信仰が統一されている世界で何故西暦がある。あまりにも他の異質が多すぎて分割思考を割けていなかった。後で調べておかないと。

 

 ともかく、記録によれば一万三千年前、空から黒い光が落ちてきた。

 それは数百メートルの体躯を誇り、当時のセファールに匹敵する力を持つ竜だったという。

 セファールは聖剣使いと協力――もう突っ込むまい――協力し、その竜を撃破した。

 しかし、それを皮切りとして、世界を脅かす敵性体、侵略種との戦いは始まった。

 一万三千年――あまりにも長い年月。この世界の人々の歴史は、侵略種との戦いの歴史だった。

 最初は数年、数十年に一度という頻度であったが、今では一年に数十という規模で襲来することも決して珍しくないという。

 それらが齎さんとする滅びに対し、セファールと聖剣使いによる庇護下で生きることのみを良しとしなかった人々は、各々が強くなり、自分たち一人一人が星を守る戦士となる道を選んだ。

 ゆえに、侵略種との戦いには世界が一つとなって対応し、そうでない時はその平和を享受する――それがこの異聞帯。

 

 隙がないな、というのが、ここまでを知っての感想。

 この終わらない戦いというのが人間同士、世界の内で勃発する内乱であるのならば、人間らしい弱さの表れと言えよう。

 だが、この世界にはそれはない。如何に隣人同士で思想に違いがあろうとも、侵略種という共通の敵を前にすれば、誰しもが心を一つにする。

 つくづく、大使としての立場を確立できて良かったと思った。これでもしも敵だと判断されれば、安全な場所に逃げることもままならないだろう。

 

 そもそもこうして滞在の権利を得たものの状況の進展としては大したものではない。

 異聞帯の環境と現時点でのクリプターとしての活動報告を兼ねた今回の会合だが、ハッキリ言ってナジア・ハーウェイの報告としてはかなり点数の低いものとなる。

 何せ、この異聞帯の王である巨神王にも、かの聖剣使いにもまだ会えていないのだから。

 そちらも含め、少しでもこの異聞帯の理解を深めないと。

 ……北欧異聞帯の担当はオフェリアだったか。彼女は北欧神話にも造詣が深かった筈。なんかこう、あの辺りから取り入る方法とか教えてくれないかな。

 

『おや。早いじゃないか、二人とも』

 

 ――と、その時。

 円卓にキリシュタリアたちがやってきた。もう開始の時間だ。

 五分前集合よりも一分前集合。時間を無駄にしないのが魔術師らしいというか。

 

『おう、先に始めてたぜキリシュタリア! つっても互いに愚痴言い合ってただけだけどよ』

「そうね、もう聞いてもらわないとどうしようもないってくらい。ねえキリシュタリア、とりあえず開幕一発殴らせてくれない?」

『な、何を言い出すんですかナジア! あろう事かキリシュタリア様に手を上げるなど――集合時間になりました、仕事外モードであるなら仕事モードに移ってください!』

『構わないよオフェリア。彼女に任せたのは管理に困難を極めると予想する異聞帯だからね。貧乏くじを渡したんだ。ある程度の文句は覚悟していたさ。まあ、通信だから殴ることは出来ないが』

 

 得意げに笑うキリシュタリアの顔がこんなにも腹立つなんて思わなかった。

 さぞ安定した異聞帯なのだろう。いや、此方も世界自体の安定性はあるのだが。

 ――思考を切り替えよう。分割思考を会合に集中。他の異聞帯の情報も収集する必要がある。

 そして彼らならば、私では思いつかないこの異聞帯に付け入る手段を見つけるかもしれない。

 この会合を決して無駄にしてはならないのだ。

 

『さて――では、会合を始めよう。これからは三十日おきに定例の会合を開く。勿論、その間に新たな報告があれば、いつでも開催を提案してくれて構わない』

 

 ――ふむ。

 通信越しだ。あまりそれぞれの顔色が分かりやすいという訳ではないが。

 カドックの体調が悪そうだな。異聞帯の管理が上手くいっていないのだろうか。カルデアへの攻撃に罪悪感を抱いている……という訳ではないようだが。

 それと、オフェリアも多少、気苦労が見えるな。向こうも北欧絡みで頭痛の種でもあったか?

 

『今回の目的だが、それぞれの異聞帯について、分かっていることを報告してほしい。勿論、我々は最終的に敵同士となる。隠したい武器があるようなら、それを避けてくれてもいい。匙加減は君たち次第だ。魔術師同士の政治の一端だとでも思ってほしい。では、始めに私から――』

 

 ――――その時だった。

 キリシュタリアの言葉を遮って鳴り響いた音で、視線が一斉に此方を向く。

 そう、だな。音の主は私の回線だ。音を文字に起こせば、『ぴんぽんぱんぽーん』みたいな、途轍もなくありがちな音。

 当たり前だが会合の最中に私がそんな音でキリシュタリアの報告を茶化すなどあり得ないことで、ひとまず文句を言う二秒前のオフェリアに弁明すべく口を開きかけ――

 

『あー、あー。テステス……。傾聴。月面天文塔アルテミスより緊急の報告です。なお、異邦人(フォーリナー)基本契約により、外部に向けた通信はリソース確保のため六十秒後に強制切断を行いますのでご了承の程、よろしくお願いします』

 

 その口も止まった。

 今、なんて言った? 基本契約……いや、その前。それも後で確認しないとだけど。

 ……月面天文塔? アルテミス? キリシュタリアの表情、今僅かに変わったぞ。

 

『……ナジア。今のは――』

『先程、無人警戒ビットより侵略種の認定信号を受信。着弾予想地点はミュー地区。大気圏突入予想時刻は十七時二十三分です。該当周辺地区は迎撃に備えてください。各防衛線は五分以内に展開を』

 

 ……この回線を捉える通信ハッキングに驚いている場合ではない。

 いや、驚いている場合かもしれない。それ以外の全てがまるで理解出来ないのだから。

 

『――あ。ついでに最近何してるか知らない終身学士さんに業務連絡でーす。第一防衛線に設置された空想重力領域オメガの運用結果報告書をさっさと提出してくださーい。なお、今から二時間以内に提出されなかった場合、わたしの独断と偏見による侵食拷問術式エリザベートへの投獄も吝かではないのでマジでいい加減にしてくださいね?』

 

 ハッキングが終了する。

 そして、残る時間はあと僅か。

 唖然とした視線が五つ。それから、ごく僅か――というかキリシュタリアだけから向けられる、同情の視線。デイビットに至ってはこっち見てもいないし。

 

『――――ふむ』

「うん、私の報告はまた今度で!」

 

 バツン、という音を立てて、通信が切れた。

 ああ――今日も振り回されるなあ。

 異様に負荷が掛かった思考で重みを感じる頭を押さえながら、窓から空を見上げる。

 ――月は、まだ見えていなかった。




■ナジア・A・ハーウェイ
番外クリプター。セファール被害異聞帯同盟の一人。
異邦人証明による滞在期間終了間際まで努力し、どうにかクリプター親善大使という立場を獲得。期間延長という偉業を成し遂げた。
異聞帯状況報告のための会合開幕で放送事故を起こし退場。
クリプターの誰も(デイビット以外)がその受難に同情せずにはいられなかった。

■ベリル・ガット
セファール被害異聞帯同盟の一人。
空想樹の確保に死ぬほど苦労し、しかも異聞帯の王の勝手が酷いらしい。半分嘘。

■太平洋異聞帯
異邦人(フォーリナー)証明を受けて七日間が経過すると大気圏外に強制退去させられる。別の世界の地球からやってきたとしてもそれは共通。
一万三千年もの昔から侵略種(インベーダー)の襲来により強くなることを強いられてきた世界。
ゆえに宙に向けた多くの防衛機構が用意されており、誰しもが世界を守るために空を睨む。
世界を守る戦いに思想の違いという壁はなく、共通の敵を持つからこそ、争っている暇などないのだ。
また、どうやら月にまでその技術の手を伸ばしているらしい。衛星軌道上にレーザー砲持ち込んでいる異聞帯もあるし、どっこいどっこいだろう。

■侵食拷問術式エリザベート
>こんなところにも出てきて恥ずかしくないんですか?
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