たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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~セファールによる世界同化開始から約五年後~

「過去編と現代編について、サブタイで見分けが付くようにしてほしい」という要望があったため、現状のクリプター回にはサブタイに「/intro.」を付与しました。
この後も、現代の時系列となる回は区別可能な文言を追加したいと思います。
過去編の年代はガンガン飛ぶため↑のやつで判断してくだしあ。


日輪

 

 早いもので、世界のテクスチャの上書きを始めて五年が経とうとしている。

 そろそろ達成率は九割を超えた。恐らく、この冬の内には終わるだろう。

 五年間この街――もう国と呼んで良いか――のはずれにいて、色々と変わったものもある。

 まず、国の周囲は完全に海になった。

 例の神の力を浴びた地面の上だからか、記憶にある限りの海とは思えないくらい、“力”を感じる。

 この国の人々曰く、神秘とかエーテルとか、そんな言い方をするらしい。

 そんなものが豊富な海って大丈夫なのだろうかと思わなくもない。

 

 そして――そんな海が目の前に広がっていれば、足を浸してみたくなるのが人間というもので。

 人間じゃないね。ここの皆はそんなことしないみたいだし。

 目の前にまで海が広がってきたら入ってみたくなるのがセファールというものだ。これはセファールならば間違いなく該当する習性だ。一人中一人がそうする。該当率百パーセントだ。

 

 懐かしさを感じるその冷たさに調子に乗り、ちょっとだけ――ちょっとだけはしゃいでしまい、私の力を少しだけ放出してしまったらしい。

 文明浸食とか、遊星の紋章による力の逆流。

 結果として――国土が広がった。私から発された力が海に波紋を広げていき、固まった。

 私と同じ、星空色の水晶が如き広大な土地が出来上がったのだ。

 あの国の方には影響は出ていない――陸地と繋がったので歩いて此方までやってこれるくらいだ。

 一応、国の人たちは気にしていなかったし、広がったここは好きに使ってほしいと言ったら感謝された。良い人たちである。

 ――セイちゃんにはしこたま怒られた。多分、今までで一番怒られた。トラウマである。

 メチャクチャに叱られて暫くの間会ってくれなかったので本気で落ち込んだ。涙の星が降るところだった。涙の星ってなんだ?

 

 ともかく、こっちの土地も上手く使ってくれているようで、限られた国土を少しでも農業などに使おうとするほか、家屋が出来始めている。

 あと、最近になって何か私の近くを使った事業を行っているらしいが――結局何してるんだろう。

 

「――神殿の建設だよ。昨年言っていた、セファールの分体のためにと」

『――――おぉ』

 

 思い出した。そういえば去年、そんなことを言っていた。

 私の分身端末について、強度も確保しそれなりに使い物になるようにはなった。

 そのため、端末で活動することが増え、そうすると欲しくなるのが寝泊まりするための家である。

 別に私も年中無休でテクスチャ上書きに勤しんでいる訳ではないし、そんなことは無理だ。そして眠るのであれば、端末と意識を共有させ、寝具で寝た方が良い。回復力の問題ではなく、落ち着くという意味で。

 何となく、それとなく要求してみたものだし、最悪セイちゃんの小屋でもいいのだが、迷惑も掛かるしね。

 

「ほら、やっぱり忘れてたじゃないですか。だから良いっていったのに」

「そういう訳にもいかないんだ。神を奉るのだから、相応の代物を建てなければ不敬と……捉えられなさそうだけど、まあ、そういうこと」

 

 珍しくセイちゃんと共にやってきたのは、私に出来た二人目の友人である。

 この国の指導者――王様ではなくて神官という立場らしいが――で、つまるところ、私の声を聞く者であるとか。

 まあ、こっちの接し方が接し方なのもあって、彼としても対応が雑になっている節はあるが、友人としてはそちらの方がありがたいというものだ。

 フランクな話し方も、私たちが望んだ結果応じてくれたものだ。彼も他の人間とは割と別次元な生き物だし、あまり不審がられることもあるまい。

 

「というか、首痛くなるんで端末出してください」

『ん――』

 

 セイちゃんの要求に応じ、指先から一滴のリソースを落とす。

 もう端末の作成も手慣れたものだ。地に落ちた力はすぐさま形を成し、一メートル六十センチの私を作り上げた。

 私を見上げるのも大変だろうし、そもそも千メートル上空とか見えているか分からないからね。

 

「いい加減、衣類も作れるようになりませんか? 人はとうの昔に裸での生活を抜け出しているんですから」

『残念ながら全裸を恥と思う価値観はセイちゃんを助けた時に消えたらしい』

「人を意味分からない方法で助けた時に意味分からないもの失くさないでくださいよ」

 

 というか、あの全裸の白い女巨人で十年も過ごしていれば衣服の概念などどうでも良くなる。

 こちとら全裸で神々と戦いを繰り広げてきたのだ。縛りプレイもいいところ。あの頃に指摘しなかった自身に文句を言えというのだ、セイちゃん。

 そんな視線での説得も空しく、ワンピース型の衣服に体を突っ込まれる。前世では当然そんなことなかったとは思うが、少なくとも今は衣服が苦手である。なんかこう、胸の穴にある演算ユニットに触れてなんか気持ち悪いのだ。

 ……演算ユニットだよね、これ。こんな剥き出しでいいの? いや、良くないでしょ。だから神々が皆これ狙ってきてたんだよ。明らかに“これ弱点です”ってデザインしてるもん。

 心臓でも何でもないから壊されたことは何度かあるし、壊れても思考力が若干落ちるだけでその内修復されるのだが。

 

「まったく……。らむくんもいるんですからね。もうちょっとこう、考えるべきことを考えてください」

『らむくんがセファールに発情するならそれはそれで凄い発見ではある』

「本人の前でそういう話する? 言っておくけどボクはとっくに枯れ果てているからね。変な勘違いはしないでほしいな」

 

 まあ、イエスと答えられても応じるつもりはないけど。

 女子二人――年齢も外見も気にするな――女子二人の話題を苦い表情で否定するのは、私やセイちゃんよりも小さな背丈の少年。

 ふわっふわの羊のような髪を伸ばし、もっふもふのコートに身を包んだ十歳ちょっとと思しき子供。その側頭部にはくるりと丸まった角。あざとい。

 ――というのは外見のみの話。その実、私やセイちゃんの十倍は軽く生きている人間である。

 名をらむくん。……本名は長いし呼びにくいので割愛。

 

 彼はこの国がまだ、近くにあったというだけの村や集落だった頃から人々を指導してきた人間だ。

 何があったかは詳しく聞いていないが――大昔、とある神に惚れられて、その祝福を受けて老いるどころか、馬鹿みたいに長い寿命が尽きるまで病気で死ぬことも出来なくなった身らしい。ついでに羊っぽい角も生えた。もう神様が分からないぞ、私。

 それから数百年、もう年齢を数えることもしなくなったらしいが、長く生きたことで貯め込んだ知識をもって人々を導くことを命題としている。

 

 らむくんとは、私が嵐の神と戦った後、街の土地を貸してくれた一件からの仲だ。

 その時にセイちゃんが彼と出会い説得してくれたことから縁が始まり、私はテクスチャの上書きを始めてから紹介された。

 間違ってはいけないのが、彼は私と会った時かららむくんであった。

 セイちゃんが「名前が長くて覚えにくい」という理由でそう呼んでいたので、私も倣った。いや、私は名前覚えているけどね。

 

 彼はその謎のカリスマをもって、この国を“セファール信仰”なる方向性に舵を切らせた。

 私の行き当たりばったりが招いた当然の結末、因果応報の果てである。

 私としては無害な巨人でいられればそれで良かったが、身勝手な理由で神々の世界という当たり前の法則をぶっ壊した以上、こういう方向になるのは当たり前である。

 つまりはそういう、セイちゃんが昔言っていた、“加護があるという思い込み”のための受け皿である。

 仕方なくも、受け入れるしかないことだ。これまでの神々の代替は最低限やるつもりではあったのだし。

 らむくん曰く、“ここを神から守ったんだ、それは神にしか出来ない御業の筈”――と。

 屁理屈にも程がある。神嫌いだからって何でも言って良い訳じゃないぞ。この体がたまたま神々より強かっただけだ。それに、猛烈に強くなった今のセイちゃんならあのくらい倒せる筈だ。

 

「ちょっと、余計なこと考えないでください。たとえ生き残りがいたとしても神様殺しとかやりませんからね。あと、まだそんなに強くなっていないです」

「いや、■■■■■の強さはボクも太鼓判を押したい。この前なんて、国に残った希少な神鉄を真っ二つにしていたじゃないか。既に宿った神気も落ちていたものとはいえ」

「だからあれはもう持ち主の方に謝って許してもらったんですってば。なんですかいつまでもねちねちと」

『斬鉄剣ならぬ斬神鉄剣を成した。今こそ念願の神殺しの時』

「念じても願ってもいないんですよそんなこと。ああもう凄い、神様を食糧にしていた巨人と神様嫌いが集まって最高に不遜」

 

 ふむ……念願じゃないのか。

 私の見立てとしては、そろそろ神をも斬れる剣士になっていると思うんだけどなあ、セイちゃん。

 

「まあ、彼女の神殺しの時はいつか来ると信じよう」

「ここまで露骨に友人の不幸を願うことあります?」

「話が進まないからね。で、だ。セファール、君のために建造する神殿なんだが、君自身の希望も汲み入れたい。何かあるかい?」

『快適性』

「身も蓋もないな……なんかこう、全部黄金で、みたいなぶっ飛んだのを想像してたんだけど」

『そんなに趣味悪く見える?』

「彼女の剣の鍛錬に自分の分身を延々とぶった切らせるくらいには」

『それはどっちかというとセイちゃんの趣味』

「趣味じゃなくていつかの使命のための予行練習です」

 

 そうは見えないんだがなぁ……。

 使命の訓練やらリハーサルであるのなら、あんなに嬉々とした表情で私の分身を斬ったりしないと思うんだけど。

 私知ってる。この親友、最近真っ二つじゃなくて、十字に斬ったり三枚おろしにしたりバリエーションを増やしてきているのだ。

 損壊からの自動修復までかなり短いのに、その間で。

 私、“終わりのその時”ってのは一撃で斜めにばっさり――みたいなのを想像しているんだけど、もしかしてセイちゃん、私を細切れにでもするつもりでいらっしゃる?

 

「それを互いによしとしている辺り、どっちも十分悪趣味だし狂っていると思うな」

「セファール、寝台の上に昼も夜もずっと星空を映していられる仕組みとかどうですか? 雨の日でも雲に隠れないような」

『絶対に欲しい。らむくん、頼んだ』

「共闘への移行が早すぎないか?」

 

 そういうものだ。これぞ私とセイちゃんの運命パワー。

 ともあれ、セイちゃんの案は本気で欲しい。流石、私の星空好きを良く分かっている。

 うん、それが出来るというのなら、私も神殿の完成を楽しみにしよう。呆れ顔のらむくんだが、彼ならきっちりとこなしてくれるはずだ。




■セファール
遂に本格的な信仰が始まった。
海に浸かるとテンションが上がって国土を広げる。そこはセファールの力が結晶化した地上の星空と呼ぶべき地平であるが、きっとこの時代の強い人間たちならばこの上すら耕して見せるだろう。
また、二人目の友人が出来た。やっぱりまともではない。まともな人間にとっては、セファールは畏れ多い存在であるからだ。多分。本人が残念だからではない。きっと。
ちなみに全裸派。というかこれまでずっと服を着る文化がなかった。前世はそんなことはない筈。メイビー。
端末の外見は手が小さくなり、人間相当のバランスとなったセファール。服を着るとヴェールやらリボンやらはなんかこう、都合よく外に飛び出すとか。

■聖剣使い
相変わらずその剣はひたすらの研鑽だけで力を積み上げている状態。
最近、神気は薄れてきていたとはいえ、神が齎した神鉄を斬った。色々な事故があってのことらしい。
生まれて初めて、人間の友人が出来た。まともな人間ではないが。
全員が全員、“人”の域に収まってはいないため、彼女たちが集まると人外染みた威圧感に満ちた異空間になる。本人たちは無自覚である。
この国に住み始めて五年が経過したが、老化が止まっているため外見は十九歳の時のまま。
女神の呪いによる衰弱で失われた色素の上から、髪先と瞳のみがセファールの星空色に染まっている。
元々の容姿から印象は随分と変化したが、やはり“彼女が持つ聖剣の本来の担い手”たる騎士王の面影は残っている。

■ムー巨神国
太平洋上に浮かぶ島国。本来は大陸と地続きであったのだが、嵐の神の権能により大地が思いっきり捲り上げられ、更に戦いが終わった後さえその余波は大地を切り崩していき、広い海となったとか何とか。
一人の神官を指導者とし、セファールを信仰する国。
元々は近隣の村や集落が一つになって出来た街であり、方針を定めるための一応の指導者こそ存在したものの、国としてあった訳ではなかった。
当時、国とは神の権能によって興されるものだった。土地神もいないこの地域は弱く、力を合わせるために自然とそれらが集まったという。
そしてこの街は、大きなことを成す前にとある神話体系の創造神によって滅ぶ筈だった。
神代において神々の行いというものは悉く正しいものである。ゆえに、当然の帰結としてこの街は滅ぶ筈であった。
これを巨人は救った。当たり前の滅びは回避された。死闘の末に、その街を神の罰から守ったその巨人に、心を動かされた者がいた。
それから少し後、巨人は全ての神を平らげ、世界の法則を書き換える大事業に着手する。
そこに神々の時代の終わり――そして、かの巨人こそがこの世界の最大最終の神となることを悟り、その神気の加護の下、大偉業を支える国となったのだった。
――要はものの見方の違いというやつである。神が罰しようとしたのは巨人だし、その巨人がたまたまそこにいたという理由で巻き込まれて滅びようとしていただけだったのだが、結果論とか神々至上主義の価値観とかが合わさった結果、信仰を断ち神々の時代に終止符を打った国として、世界の中心にして最先端となることが運命付けられた。

■らむくん
ムー巨神国の始王。正確には神官であり、国の方向性を決めた者。
外見は羊の毛を思わせるふわふわとした長い薄緑色の髪と、くるりと巻かれた角が特徴な十代前半の少年。体つきも華奢だが、とある魔獣皮のもふもふコートでそれを誤魔化している。
ただし子供に見えるのは外見だけで、既に数百年を生きた身。ショタジジイである。
当時――人間であった頃、彼は今よりももっと西方に住む羊飼いの家の息子であった。
幼いながら信仰に篤い身であったのだが、ある時その美貌を、とあるきわめて人間好きな神に見初められ、その祝福を強引に授けられた。
それは、まだその神が人間を理解し切っていないながらも人間を愛した結果の犯行。即ち、成長の停止による永遠の美である。
神が彼一人に齎した祝福――疫病と医術を司るゆえの、不浄を清める抗体ナノマシンにより、彼は病すら遠ざかる完成された生命体となった。なってしまった。
その所業に幼いながらドン引きし、神罰を受けないよう神が寝静まった頃に夜逃げを敢行。その神の信仰地域から脱出し、神に頼らず生きていくことを決めた。
そんな経緯からか、神を苦手としている。祝福の名残からか神性にすら届かないが、太陽の出ている時に限りごく僅かな奇跡ならば引き起こせる。神の愛の成せる執念か。
存在の異質さは他の人間にはカリスマという形で理解される。かつての村でも長を務めており、巨神国となる街においても指導者の立場であった。男女ともに通ずる幼い美貌による魅了ではない。断じてない。
嵐の神の一件において、その暴虐に神への不信は怒り、憎悪へと変わりかけていたが、白い巨人が街を守ったことに――真の神性というものを垣間見た。
世界の変革に伴い、巨人――巨神を信仰しそれを支えることを決めたが、その信仰対象や、彼女と唯一対等な聖剣使いの態度がやたら軽いことには頭を悩ませることになった。もう諦めた。
当たり前だが“らむくん”は巨神と聖剣使いからの愛称であり、実名ではない。「もう少し長く、意味のある名前」らしいが聖剣使いが「覚えにくい」という理由で略したことで運命は決まった。もう本人たちから呼ばれることはないだろう。もしかするとラムセウム・テンティリスくんとかそういう名前かもしれない。
――この妙な愛称が後に日輪神官(ラ・ムー)という指導者の称号となることなど彼は知らない。


★ウルト兎様よりらむくんのイラストをいただきました!

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