『という訳で、友達が出来た――』
何かがお腹を掠めていった直後、スッ、という小さな音が聞こえた。
――なんでセイちゃん、聖剣振り抜いてるの?
ヘカテと出会ったことを早速報告しようとしただけだと言うのに。
彼女はこっちの場所を観測して向かってきてくれるとのことで、向こうの端末は消去してセイちゃんのもとにやってきたのだ。
こういうめでたい報せは早い方がいい。
こうしてセイちゃんの小屋にお邪魔するのは久しぶりだが、こんな物騒なお約束があった記憶はないぞ。
「……」
『……セイちゃん?』
「……真夜中の挨拶にしては礼がなってないんじゃないですか、セファール」
『あっ』
そうじゃん。今、真夜中じゃん。
ヘカテのいたところは昼間だったし、昼夜の感覚が壊れるな。
で、そんな風に昼も夜も分からないような輩が真夜中に浮かれた報告をしにやってくれば、聖剣に選ばれし聖剣使いはそれを振るうも吝かではないと。もう少し躊躇ってほしい。
ほら、なんでベッドに転がっていたのか知らないけど、セイちゃんにあげた再生機能付きの端末、巻き込まれてまたぶった切られているから。
無表情で目開いた自分の端末が真っ二つになって、それが再生していくの見るの普通に気持ち悪いな。
しかし、夜中に起こしたセイちゃんがここまで不機嫌だとは。
一瞬こっちに向いた殺気だけでまた死ぬかと思った。
寝ていてもすぐに不測に対応できるよう、聖剣を傍に置いているらしい。不測の私はあと一歩踏み出していたら上半身と下半身が何度目かの別れを告げていただろう。
……うん。私が悪かった。昼間に出直した方が良いな。いつまでもこの不機嫌なセイちゃんに捉えられる範囲にいるのは不味い。
『……ひ、昼にまた来る』
「……いいです……朝になったら聞くので、寝てください。夜は寝る、時間です」
『え?』
殺気が萎んでいき、こくりと船を漕いだセイちゃんは、手に持っていた聖剣をベッドの傍に転がす。鞘にくらい仕舞った方が良いと思う。
眠気の限界……というか、現在進行形で寝惚けているのだろう。
おもむろに手を取られる。そのまま妙に強い力で引っ張られ、ベッドに転がされた。
……んん?
『セイちゃん?』
「うっさいです。とりあえず静かにしててください」
……んん。
んん……? ……んん。
なるほど、寝惚けたセイちゃんはこうなる訳だ。
もうセイちゃんに意識はない。大変寝つきが良くていらっしゃる。
ただいまの私といえば、お腹を抱えられて身動きの取れない状態である。
何という事態。セファールを抱き枕にした唯一無二の人物だ。
『――――』
――いや、うん。いいんだけど。私としては別に構いはしないんだけど。
たとえば、もしもセイちゃんが朝起きて、このことを覚えていなかった場合。
身に覚えのない私の端末が増えていて、しかもそれが動いて喋るという意味の分からない状況とならないだろうか。
それはそれで面白そうだが、私はそれなりに学習しているのだ。
多分、そんな風に朝を迎えれば間違いなく私はセイちゃんを弄るし、その後私の端末には残機があるのをいいことに怒ったセイちゃんに真っ二つにされるのは目に見える。
あと、そもそもこんな状況では私が寝られない。
私はセイちゃん全肯定巨人だが、だからと言ってこういう事にはもっと順序を踏むべきなのだ。
よし、意識の共有を切ろう。
命をかけてセイちゃんとの同衾を楽しむほど私の命は軽くない。セイちゃんは端末の私をやけに軽くみている節があるが、軽くないのだ。
共有の切断を実行する。明日の朝、また違う端末でお邪魔しよう。
「あの。起きたら貴女の端末が増えていたんですが」
『バグったかもしれない。回収する』
十年以上の付き合いは伊達ではない。
やはりセイちゃんは覚えていなかったし、彼女にとって昨晩の抱き枕は完全に怪奇現象であった。
私も命は――端末の場合惜しくはないけど死にたくはないので、あえて罪を被る。
これは端末の不具合である。保証期間は十年だ。
「……いえ、このままにしておいて、害がないなら大丈夫です。修復機能も付けてくれると嬉しいです」
『的にするならそっちの一つで十分では』
「……、……あれです。複数人との戦いを想定して」
『少なくとも私は増殖する予定はない』
なんだ複数人との戦いの想定って。
セイちゃんって
その瞬間がどうなるかは知らないが、もしかしてセイちゃんは私が無数の端末でも使役して襲い掛からせる対戦闘員パートでもあると思っているのだろうか。
私としては意識の有無にかかわらず、自分と同じ姿の端末を量産して、それがばったばったと切り捨てられていく様子を鑑賞する趣味はない。
今だって、視界に二つ端末が映っている時点でかなり狂気を感じている。
『とにかく、あれはそういう前提で作っていない。回収する』
「……殺生な」
『なんて?』
よく分からないが、名残惜しいと感じているのなら……まあ、嬉しいとは思わなくもない。
望むのなら、後でもう一つあげるのも考慮しよう。
それはそれとしてあの端末は回収させてもらうが。
端末を削除し、小屋の外に出てきた、その時。
「……中々に狂気な話していたわね。これが私たちが希望を託した聖剣使いの――」
「――ふっ」
「ヒィッ!?」
ちょうどここに辿り着いたらしいヘカテの呆れ声に反応するかのように、セイちゃんが聖剣を振るった。
なんかこういうの覚えている。声に反応するロックでフラワーなおもちゃ。
「なに!? なに!? なんなのだわ!? 聖剣使いってのは問答無用な戦闘狂なの!? アレスだってもう少し前置きとかするわよ!?」
「いえ、何となく不愉快な評価をされかけていたので、一応塗り替えておこうかと」
「狂気の方向性さえ変われば貴女的にはOKなの!?」
へたり込んだヘカテを見下ろしつつ、セイちゃんは構える。
あ、これ追撃する気だ。
ヘカテは仮にも元・女神だし問題ないとは思うけど、セイちゃん結構人見知りする性格なんだね。
「ストップ! 私たちは分かり合えるわ! そう、私そこのセファールに賛同してやってきたの! 人間を導くようにって!」
「彼女からの説明がない以上、暫定で不審者でしかないですが」
「セファール! セファールッ! さっきの盟約が物理的に切り捨てられつつあるのだわ! ここで助けないと世界が大変なことになるわよ!」
そういえばヘカテ、随分早いな。
彼女の全速力がどれだけかは知らなかったが、数ヶ月、早くても数日くらいは掛かると思っていたのに。
「あっ、ヤバいこれ本気だ! 本気で死ぬやつ! 大丈夫! 大丈夫よ! 私いい人! いい元・女神! 天罰とか下さないからっ!」
「元・女神……? ……亡霊なら斬っても不敬にはならないか」
「その“元”の解釈は考え直す余地があるわ! もうちょっとだけ広い見識を持ちましょう!」
「あまり面倒なことは考えない主義なので」
「そこをなんとか! さすればその剣技、更に進歩するわ!」
もしかすると、彼女が教えようとしている技術とかっていうものと関係しているのかもしれない。
それが人々に齎されれば、遠方との交流ももっと楽になるだろう。
「セファール! 何やってんのよセファールぅ!」
『え?』
気付かない間にヘカテが精神的に限界を迎えたらしい。
此方に縋ってくる彼女にじりじりと迫ってくるセイちゃん。
このままだと不味いな。私まで巻き込まれる。
「誰だか知りませんが、誰の許可を得てセファールに触れているんですか。新たな世界の神なんですよ」
「貴女セファールの巫女にでもなったの!?」
『セイちゃん、この子、新しい友達。通称へかてさま』
「その呼び方やめてくれるかしら!? 通称じゃないし!」
流石に纏めて斬られたくないので、フォローを入れる。
セイちゃん、どうどう。
「友達……?」
「うん、そこも突っ込みたいわね! 友達になった覚えはないわよ! あくまで協力相手だと思って!」
『…………』
「無表情のままなんか悲しそうな雰囲気出してるのこわいんだけど!」
むう、なかなか愉快なコミュニケーションが取れたし、仲良くなれたと思ったんだけど。
ここまで否定されるのはちょっと悲しいぞ。
……一瞬セイちゃんに差し出すことも考えたが、落ち着け私。人々を導くことは必須課題。
そのためにはヘカテの助力は非常に大きい。
「何セファールを傷つけてるんですか」
「そっちにも飛び火すんの!?」
うん、とりあえずセイちゃんを止めよう。
このままだと多分、あと一分もしないうちにヘカテが真っ二つになってしまう。
私は助けを求められれば手を出さずにはいられない巨人なのだ。
■セファール
セイちゃん全肯定巨人。
夜中に友人が出来た報告をしに行ってキレられ抱き枕にされる、文明を蹂躙し破滅を呼ぶ白き巨人だった筈のモノ。
朝まで端末と意識を共有していたら聖剣使いを弄って真っ二つにされる予想をしていたが、その通りである。巨人の直感:E。
ちなみに手順がどうこうとかごちゃごちゃ言っているが同衾自体は経験がある。というか本編でもやっている。
友達認定されなかったので思わずヘカテを差し出しかける危険思想の持ち主。
■聖剣使い
セファール厄介聖剣使い。
寝ているところを起こされることが嫌い。セファールだろうと叩き切るくらい嫌い。
そのまま寝惚けてセファールの端末を抱き枕にした。その出来事はすっかり忘れたので朝起きたら家に端末が増えていて困惑した。
ヘカテを襲ったのはとりあえず不審者認定が主な原因。変な杖持った得体の知れない機械少女が自分を馬鹿にしてきたらそりゃ斬るでしょ。
セファールを斬るのは自分なのでそれ以外が傷つけたら気に入らない危険思想の持ち主。
■へかてさまヘカテ
今回最初以外ずっと叫んでいた苦労人。
セファールと盟約を結び、人間を導くためにやってきたらその人間の希望に斬られかけた。
一応、本人の力でこの危機を脱せなくはないのだが、あまりにも想定外過ぎて頭に入っていない。
新天地のはじまりとなった二人がどっちも危険思想の持ち主なので「大丈夫かこの世界」と思わずにはいられない。