たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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最初の侵略種という節目を終えたので、前半はいわゆる総集編。
一話で分かるここまでの「たとえば、こんなセファール。」。


一息

 

 

 さて、次に語るべきことは……大きな出来事でいうと、紀元前五千年ごろになるかな。

 そこでは何と、我らが巨神王に――ん? 流石に飛び過ぎ?

 とはいっても、その間はひたすらに防衛、破壊、修復、発展の繰り返しだったからねえ。

 出来る限り印象の大きな話をしていった方が、こう、盛り上がるだろう?

 ……分かった、分かったってば。それじゃあ、幾つか話していこう。

 まずはその前に、ここまでの話を振り返ろうか。

 結構長い話になった。ここらで纏めておいた方がいいだろう。

 

 まず、事の起こりは一万四千年前。

 他のまったく異なる世界から、一人の青年の魂がやってきて、後の巨神王――この時は文明を破壊する白き巨人セファールの人格を上書きした。

 この時点でセファールは己の目的を忘却し、とりあえずは生きるすべを探し始めた。

 人や、その文明は襲わない。何故ならば、自分が人であったから。如何に自分が怪物になろうと、自我があるなら元・同族を襲おうとはしまいさ。

 セファールが喰らうのは、神だけだった。

 神々は白き巨人の脅威を感じていたし、その存在を知る外宇宙から来た神々が大々的に警告していたからね。

 それぞれがそれぞれの力をもってセファールに挑み、悉くが敗れ、その糧となった。

 

 そんな中で、神の、人の、世界の希望であったのが、巨人を打ち倒す運命を持った聖剣使いだ。

 本来――汎人類史ならば、正しい聖剣を担った正しい使い手が、正しく巨人の横行を終わらせてみせただろう。

 だが、こちらの聖剣の方にも、この世界で最も馬鹿馬鹿しい間違いが起きていた。

 力を発揮できない、正確には発揮する力がない聖剣に選ばれたのは十三歳の村娘。少女はその重すぎる定めを受け入れることが出来ないまま巨人に相対した。

 当然、少女と贋作の聖剣は巨人に傷一つ付けられない。だが、巨人はその少女を殺すことも、追い返すこともしなかった。

 自身に向けられる期待が別のものへと変わっていくことに恐怖した少女は、巨人への何となしの対抗意識に後押しされて、使命を使命としないままに村を出て、巨人を追い続けた。

 セファールから見れば、とても珍しい人間だ。自分を恐れず、突っかかってくる。人の感性が残っていたセファールにとってそれがどれだけ救いとなったことだろう。

 セファールが聖剣使いの少女を友と見るようになるまで、時間は掛からなかった。一方的なものだし、少女は気味悪がっていたが。

 

 まあ、自身を対等に見るセファールとの時間を、少女が居心地の良いものと思っていたのも間違いではない。

 寧ろ自分を殺す気がないというのは分かったからね。少女もまた気を抜くようになっていった。

 心を通わせる――というか、互いに何も考えずに済む関係だ。

 

 それから暫く経って、一つの転機が訪れた。

 とある神話に語られる筈だった創世神がセファールを滅ぼすべく出陣したんだ。

 最強の軍神も早々に敗れ、最早神の存在も明確に弱り始めていた。このままでは不味いと思ったのだろう。

 彼は辺りの被害を気にせず己の力を振るった。それに対して、セファールは近くにあった街を守りつつ戦った。

 自身も重傷を負いながら神を打ち倒し、嵐を収めたセファール。そんな彼女が守ったのが、後のムー巨神国の中心地となる街だった。

 神の暴虐から人を守る巨人。真実はどうあれ、街の民にはそう映っていた。……いや、うん。街の指導者が元々神に不信感を持っていたことが後押ししていたのも否定はしないがね。

 ともかく、こうして巨人は、信仰を獲得した。

 神から信仰を奪った訳だ。神にとっては力の源であり、存在の糧でもある信仰を、ね。

 

 もう、残った神々にセファールを打ち倒す手段はない。

 それでも信仰すら奪われるのはおかしいと、完敗ともいえる現状を認めない女神がいた。

 このまま巨人が主神の如き信仰を獲得し、自分たちは細々と消えていく。そんなことはおかしいだろうと怒り狂い、打倒よりも先にその輝きを曇らせようと決意した。

 方向性は間違っていない。信仰を得ることでこれ以上強くなってしまい、自分たちが弱体化すれば、万に一つの可能性さえなくなる。

 勝てないほどに強いものを失墜させるなら、足を引っ張って弱らせるのは道理だ。

 だが、選んだ方法が拙かった。セファールを輝かせている一端であると、使命を果たす様子もない聖剣使いに矛先を向けたんだ。

 その呪いという名の神罰は、瞬く間に少女を侵す。

 元々、聖剣に選ばれた頃から、別の世界から来た働き者な神霊によって呪いを掛けられ続けていたからね。すぐにそれは馴染んで、少女を死の淵まで追いやった。

 神の選択を知った少女は、優先順位を変えた。神よりも巨人を優先しようと。その神殺しに言い訳を加えてやろうと。

 少女の懇願により、セファールは残る神々を食い荒らし、その力を使って少女を救った。

 命を助けて、同時にその存在を補強し、二度とこんな理不尽などないように救い果たした。

 そうして神のいなくなった世界で、代わりに人々を支えることをセファールは選んで、聖剣使いも対等に並ぶことを決めた。

 始祖の二人による新天地は、こうして誕生した。

 

 その後に出会ったのが、巨神国の指導者たる日輪神官。

 とある神の寵愛を受けて、膨大な生と変わらない肉体を得た人間だ。

 彼と二人は友になり、この巨神国を世界の中心とすることを決めた。

 そしてその巨神国に招かれたのが、唯一残った女神。神性を失った魔女。

 セファールとの盟約により人間に“力”と“智慧”を授けることを決めた彼女は、導き手にして開拓者だ。彼女が齎した技術こそが、今の世界を支えている訳だしね。

 この四人によって進み始めた世界。ところが千年後、災厄の引き金が引かれた。

 

 侵略種との戦いだ。

 

 とある村を壊滅させた黒い星との戦いで、聖剣使いは遂に覚醒した。

 その聖剣を今一度輝かせ、世界を守るべき人々に憧れを与え、立ち上がらせた。

 這うような速度だった人々は、少しずつ、駆け始めた。

 母なる世界を脅かす、侵略種と戦うために。

 

 それから九百年。おおよそ紀元前一万年ごろだね。

 人が、人だけの力で一体の侵略種を討伐した。

 数年、数十年というペースでやってくるうちの災厄の一つ。だが、それがあまりにも大きな一歩だったことは確かだ。

 今まで研鑽してきた技術の方向性が間違いではないと確信付け、そして自分たちでも世界を守れるのだという自信に繋がった。

 ただ守られる存在ではない。この世界を、新天地たる巨神王を、自分たちの手で守るのだ、と。

 

 まだ一歩は一歩だ。世界の何処へ落ちてくるか分からない侵略種を、巨神国だけで討つのは無理がある。

 世界の技術の統一、そして全ての場所で、同じように迎撃を行うため、人の往来、離れた場所との交流は活発化した。

 これはいつからとも言えないが、おおよそ紀元前九千八百年ごろとしておこうか。

 だが、流石に世界の反対側までを行ったり来たりなどというのは負担が大きい。数年を掛けた移動の途中でその場に侵略種が落ちてきて全てが台無し、なんてこともあった。

 どうあっても、自分たちに守るべき力がない場所というのは発生する。

 そうした場所へは巨神王と聖剣使い、それから魔女が向かうようにしていたが、彼女たちをもってしても、すぐに辿り着くなんて不可能だ。

 

 よって、移動手段、そして連絡手段。

 防衛機構に続いて重視されたのは、それらだ。

 魔女に与えられた技術を神官が中心となって解析し、馬や船より速い移動手段を模索し始めた。

 長い年月の末、辿り着いたのが、“力”と“智慧”の集合。

 つまり、機械に魔術を組み込んでより大きな力を持った礼装にしてしまおうと。

 確かに魔女の言うところによれば、効率の良い手段ではあるらしい。だが、そこに辿り着くにはまだまだ早すぎるとのことだった。

 そういう事を考えるのはあと二千年先にしろ。まずはどちらの手段でも難航している飛行技術をものにしてからだ、と。

 

 ――そこから、“人は飛べません”と見切りをつけて、およそ五十年で魔力を用いた海路陸路を問わない列車技術、その後三十年で通信技術の基礎を完成させた時、魔女はドン引きしていたそうだ。

 

 これが紀元前八千年代の後半の出来事。

 こんなことがあったから、あくまで防衛は地上で行われるものでね。

 次第に地上が整備されていくにつれ――巨神王の本体は戦いづらくなった。

 だからこそ、積極的に使われ始めたのが端末体だ。本体も勿論、戦い方は変わっていった。

 そんなセファールにとって、ここに来て大きな力となったものがある。

 

 そう、軍神の剣さ。

 へし折って、呑み込んで、ずっとセファールの体内にあった神剣。

 それをセファールは契機以来ようやく取り出して、武器にならないかと考えた。

 この世界において剣といえば、聖剣使いだ。彼女に比べ、セファールは本体でも端末体でも剣なんて碌に使っていなかった。

 かといって、学ぶにしても遅すぎたし、聖剣使いを師にでもしようものなら悲惨なことになる。彼女の剣技は絶対的に我流。付け焼刃が驚くほどに定着して絶世の一振りになったものだからね。

 あんなの誰かが模倣しようものなら、戦に出たことのない素人の方がマシになるレベル。彼女にしか出来ない超技術さ。

 

 だからこそ、セファールは自身が剣を覚えるのではなく、剣の方を自身に合わせようと決めた。

 嫌な予感のする魔女は現実逃避も兼ねて西方に出張し、その間に神官たちと共同の改造により武器は完成した。

 砕けた軍神の剣の因子の一部を使って作られる、セファール専用の武器。

 セファールと言えば格闘戦。

 ゆえに、その右腕に装着し、極光を束ね、振るう拳で相手を打ち抜く、超改造、超技術、超出力のガントレットだ!

 ……うん、私にも正直なんでこうなったのかよく分からない。魔女は今は亡き軍神に対して、改めて哀悼の意を表したそうだよ。

 

 いや、うん。軍神については可哀想だと思うほかないね。

 他にもその因子で幾つか武器は作られたけど、終ぞ剣らしい剣になったものなんて無かったからね。

 新たな武器が作られる度に、魔女は岬で海を眺めながら「あんたの名前だけは絶対無くさせないからね」と独り言ちていたそうだ。

 

 さて、前置きが長くなったが、私が話そうとしていたのは、それに関連している。

 汎人類史のセファールについて知識を持っているのなら、思い当たるかもしれない。

 セファール、そして軍神の剣。この二つを結びつけることで浮上する特殊な英雄が汎人類史には存在するだろう?

 それは本来であれば、セファールが聖剣によって打ち倒され、その残骸から発見される者だ。

 だからこそ、この世界では存在し得ない……なんてことはない。

 寧ろセファールが現在進行形で主神をやっている世界なんだ。セファール由来の存在なんて、いつ誕生してもおかしくない。

 

 そのはじまりこそが紀元前五千年。

 その時襲来した侵略種は、これまでとは比べ物にならない力を持っていた。

 聖剣使いでも防戦一方となり、セファールの本体が多くの防衛機構を犠牲にしつつも辛勝。

 人の被害こそ軽微だったものの、巨神国の防衛機構の被害は甚大。そしてセファール自身も肉体の三割ほどを砕かれ、再構成までの長い時間、休眠状態にならざるを得なかった。

 端末を神殿に残してこそいたが、そちらにも意識が戻っていなくてね。

 誰もがセファールの身を案じ、祈りを捧げながらも機構の復興に尽力し、それが続くこと三ヶ月。

 心なしか例年より少しだけ寒い冬の、ある朝のことだ。

 

 

 穏やかで、かつ、いつも通り騒がしい、一つの目覚めの話をしよう。




■魔力
第八異聞帯となるこの世界において、多くの機械の動力となる要素。
後年には電気も存在しているが、信仰的な理由もあり、此方の方が未だに大きなシェアを持っている。
大気中に存在する魔力は神代のものであり、俗に真エーテルと呼ばれるものに限りなく近い。
ただし、まったく同一のものではなく、新天地へと切り替わった時点で生成され始めた新物質と言える。
その正体は、セファールがオリュンポスの神々を喰らったことで最適化(テラフォーミング)された体で生成される魔力。
世界そのものがその性質を持っているため、セファールが生きている限り大地から発生する、セファールの呼吸とも言うべきもの。
これを結晶化した魔力塊は神の力の結晶とされ、その上に成る文明を回すための動力として長年使われている。
性質としては真エーテルと同等であり他世界の神代以降の人間には有害なのは変わりない。
ところでクリプターの皆、真エーテルバリバリ健在っぽい異聞帯に私服で入って大丈夫なの?

■軍神の剣
セファールに連なる者たちに愛用されるおもちゃ武器の原材料。
徹底した戦闘の概念で満ちているため、どんな武器にしても強力な性能を持つ。
一応、契機の神々一掃の際に一度だけ剣として振るわれているが、刃も折れており、本来の性能は発揮できていない。
そのため、新たな武器として加工するのは正しいと言えば正しいが、一向にまともな剣が作られない。
軍神の剣と言い張りつつ極光に満ちた右ストレートぶちかます異聞帯などここくらいのものだろう。軍神の拳。
セファールの端末が持つそれは、他の予備パーツを合わせて形成し、振るえば最大五キロメートル三方の範囲に破壊を齎す熾烈・激烈・猛烈・ビッグバンな創世神話全力解放形態が存在するらしい。

へかてさまヘカテ
人間たちのあまりの発展速度にドン引きしている。
セファールが人間の活躍に喜び、それがまた人間の活力になる意味の分からない循環に日々エラーを起こしつつ、そろそろ思考をアップデートすべきか、いや自分がこれに染まったらストッパーがいなくなる、と悩むこと数千年。
軍神の剣が活用される流れになって宇宙猫ならぬ宇宙へかてさまになった。
在り方が変われどせめて軍神の名前だけは残すようにと説得した結果、“軍神”は残ったが“剣”まで残って剣じゃないのに『軍神の剣』を真名とする風習が生まれた。
よって、この異聞帯の最上位戦力は聖剣と多くの軍神の剣を有する。なお剣のカテゴリに入るのは聖剣のみ。もっと正確に言うと聖剣も剣じゃないので何一つ合っていない。
「この世界は何でもかんでも常識(わたし)に対して斜めの解答を返さないといけない呪いにでも掛かってるの!?」とのこと。掛かっているのである。
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