たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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EXTELLA / Zero Order
いつか、どこかの、アナタたち。-1


 

『――タウ地区に着弾した侵略種は討伐されました。被害は軽微であり、死者も確認されていません。お疲れ様でした、皆さん』

 

 この討伐報告を聞いたのも、何度目だろう。

 接近の通達と同じ数、暫くの後に聞かされるこれにも、もう慣れた。

 太平洋異聞帯における、一万年以上の課題。最早原因を探ることもなく、終わりまでを付き合っていくのだろう侵略種の接近。

 

 他の異聞帯においても、人間にとって脅威となる魔獣やらが存在する世界は多いと聞く。

 それらとは違う――この世界において侵略種は現象だ。

 もう誰も存在を不思議とは思っていない。

 日照り、豪雪、嵐――それらと同じ類の災害であり、それへの対処に全てを投じた異聞帯。

 

 窓から見下ろす人々の歓喜は、紛れもなく本心だった。

 今回侵略種が落ちたタウ地区は、世界の中心地たる巨神王の座するオメガ地区からは離れている。

 彼らは一切、今回の戦いには関わっていなかったというのに、まるで自分たちのことのように、その戦勝を喜んでいた。

 ――まあ、当然か。

 それはタウ地区の勝利ではない。一つの、世界の勝利なのだ。

 

 ――おめでとう、さっさと外部との通信を復旧して。

 もう侵略種について、その一つ一つに注目はすまい。それより、この異聞帯の外が分からなくなる方が、私としては大きな問題だ。

 

「……アヴェンジャー、どう?」

「……まだ、駄目そうですね。この世界全部の注目が侵略種に向いてしまうと、私の存在もそっちに引っ張られるみたいで」

 

 ――アヴェンジャー――私のサーヴァント、エッツェルは、異聞帯の外にその観測の手を伸ばすことが出来る。

 その瞳で見るという千里眼の類ではない。

 もっと曖昧に、何か大きな変化が起きたとか、そういったものが掴める程度だが、私にとってはそれでも助かっている。

 会合の日ではなく、個人同士の通信にも出ない。

 そんな、不安な同胞の状況を探るためには。

 

「――――いやあ、まさかこっちでも修羅場の真っ最中とか。大人しくキリシュタリアさんの方に行っておくべきでした」

「――コヤンスカヤ?」

 

 外部向けの通信が復旧しないことに苛立っていれば、部屋に闖入者。

 今のタイミングでこっちにやってきたのか――そういえば、防衛機構やらのジャミングで単独顕現もブレる、みたいな話を聞いたな。

 いや、そんなことはどうでもいい。

 

「今、何処から来たの?」

「北欧からですが。最後まで見てきた訳ではありませんが、まあ、大方趨勢は見えました。あれ以上残っていても、得られるものは何もないので」

「――――そう」

 

 少し前、アヴェンジャーがカドックの管理していたロシア異聞帯の空想樹が消滅したことを掴んだ。

 カルデアに捕まったカドックは、異星の使徒――あの神父に助けられたようで、大西洋異聞帯まで避難することに成功。

 その後、カルデアは北欧異聞帯に侵入。

 暫くはオフェリアとも通信出来ていたのだが……それが繋がらなくなり、やきもきしていたタイミングで侵略種が接近し、そもそも外部への通信が断たれた。

 カルデアと北欧異聞帯の戦いがどうなったか、分からないが――あそこで活動していたらしいコヤンスカヤの言い分からして、オフェリアもまた、負けたのだろう。

 

「ま、そっちの報告は次に会合がある時にでも。お土産話はたくさんあるので!」

「……悪趣味ね」

「あら、お世辞では値引きはいたしませんよ」

 

 何が土産話だ。コヤンスカヤの悪意に塗れた脚色なんて聞きたくもない。

 

「にしても――まーた侵略種、ですか。眼前の死を否定して、上辺だけを飾った世界を守れたことを喜ぶ――此処の人間は哀れですねえ。何処の世界も、無知が人間の救いになっているのは同じですが、ここまで来ると滑稽を越して何だか悲しくなるというものです」

「……なら侵略種の一つや二つ、買い取ってあげたら? ほんの少しは貴女好みの世界に近付くんじゃない?」

「あ、それは嫌です。まともじゃない方の侵略種ならともかく、この世界の敵はこの世界の敵でしかないので。外に持ち出したところで、空気の缶詰にも劣るお荷物にしかなりません」

 

 ――怪物コレクターの眼鏡にはかなわないか。

 この異聞帯特有の怪物だし、もしかしたらと思ったんだけど。

 まったく――異聞帯にいても害にしかならないんだし、同じ迷惑の一つでも持って行ってくれればいいのに。

 

「――ンン。魑魅魍魎の姿を取る災厄というのもまた、面白おかしき異聞帯もあったもの。とはいえ確かに、外に出しても徒労にしかならないでしょうな?」

「何処から湧いたのよ」

 

 いつの間にいたんだ、このアルターエゴ。

 極東の装束で身を包んだ、美しさに過ぎる獣――リンボと名乗る、異星の使徒の一騎。

 神父ほどではないが、あまり会話したことないぞ。なんでこんな所にいるんだ。

 

「何処から、と言えば。そこの通信用の礼装から、にて。拙僧こう見えて不法侵入経路(ばっくどあ)の作成などもよく嗜んでおりますれば」

「どう見えていると思ってるんですかねえこのクソ坊主は……この異聞帯、侵入には厳しいようですが?」

「ああ――あの異邦人証明とやらで? 忘れもしませぬ、あれは拙僧がはじめにこの異聞帯に参じた折――といってもほんの一ヶ月ほど前なのですが。その際に解いていただきましたが、それが何か」

 

 ――リンボもか。何なんだ、異星の使徒限定の措置か何かあるのだろうか。

 あとその回想の入りっぽいの二度とするな。なんか腹立つ。

 

「はー……ナジアさんは期間延長、私や貴方には証明解除――どういう訳なんでしょうねえ、あの王様……女王様? は」

「さて。滅ぼすしか出来ぬ筈の遊星の尖兵――それに起きた不具合は些か管轄外ですな。この異聞帯の人間たちの妄信ならまだしも」

 

 ……コヤンスカヤもそうだが、この使徒も良くない、な。

 いや、どちらかというと此方の方が害悪だ。

 コヤンスカヤはまだ、ビジネスで付き合っている内には此方にも“得”を作ることが出来る。

 だが、リンボは駄目だ。どうあっても他者の害にしかならない。――何で異星の神はこんなの使徒にしているんだ? 絶対人選ミスだろう。

 

「……本人に聞けばいいじゃないの。何で自分にそんな特別待遇するのかって」

「ンン。拙僧、目に見えた地雷は避ける性質にて。コヤンスカヤ殿、如何か?」

「誰がスケープゴートですか悪辣坊主。あの方、どうも苦手なんですよねえ。得体の知れない信頼感って言うんですか? んなもん向けられる筋合いもないっての」

 

 信頼向ける相手間違ってないか、ここの王。

 だったらまだ私の証明を解除してくれた方がお得ではないか。

 ……いや、そんな押し売りはする気にならないが。

 

「――と。マスター、外が見えました」

「北欧は? どうなってる?」

「空想樹は残っていますが――マスターの言っていた、オフェリアは……厳しいですね。もう大して、時間も残っていないでしょう」

 

 アヴェンジャーが観測した、北欧の異聞帯。

 カルデアが勝ち、オフェリアが負けたことは想像がついていたが。

 ――ロシアの結末を見る限り、カルデアはクリプターを積極的に始末するつもりはないと見える。

 カドックと比べて、戦闘能力で遥かに勝るオフェリアではあるが――生存能力の差が活きたか。

 

「――ナジアさん。今、貴女がどう推理しているかは分かりませんが、オフェリアさんのそれは清々しいまでの自己満足の賜物、単なる自己犠牲に過ぎません。北欧異聞帯は放棄されたんですよ――」

「……今のオフェリアが、そんなことするなんてね。そこだけは、心境の変化が良い方に向かうと思ってたんだけど」

「ンンンフフフフフフフ、所詮は小娘の付け焼刃。運命一つ変えるには足らぬということでしょう――」

 

 コヤンスカヤの言葉から察するに、オフェリアは大令呪を使ったのだろう。

 私はクリプターではない。大令呪は刻まれておらず――あれがマリスビリー・アニムスフィアが何らかの目的でクリプターに刻んだもの、と概要程度しか知らされていない。

 それから、こういう立場になってからキリシュタリアに聞かされたのが、大令呪の行使は自身の命を代償とするものだということ。

 オフェリアのことだ――己の正道のために、そのカードを切ったのだろう。

 ――ここはまったく別の世界。異聞帯を隔てた場所で想ったところで、弔いにはなるまい。

 

「――もういいわ、アヴェンジャー。北欧異聞帯はここまでね」

「はい。今日はもう……?」

「ええ、外に出ていいわよ。アガーテをちゃんと連れて行きなさい」

 

 オフェリアが死ぬ、か。

 まったく、何処までも世界ってのは、順番通りとはならないもの。魔術師だろうが一般人だろうが、そこは変わらない。

 もっとも――報われても良かった、などとは思えないのだが。

 どんな心境の変化があったにせよ、私たちは汎人類史を裏切ったのだ。

 世界規模の裏切り者の末路なんて碌なものにはならないなんて当然。不相応にも程がある感傷だ。

 許されるのは精々、ならば尚更、汎人類史には負けられない、という決意くらい。

 

 ――――?

 

「……アヴェンジャー、ちょっといい?」

「――? どうしました、マスター?」

「コヤンスカヤとリンボ、何処行ったの?」

 

 何か静かだと思って、振り返ってみれば、部屋にいた筈の“気配”の塊みたいな二騎がいなかった。

 どちらも、言葉を残さずに去るとは思い難い。

 アヴェンジャーに聞いてみれば――彼女はその身より大きな杖を揺らしながら、可愛らしく微笑んだ。

 

「お二方、不思議に感じていたようなので。何故自分たちの異邦人証明が解除されたのか。本人に聞かないというなら、ちょっとだけお節介を焼こうかなって」

 

 そして、そんなさも当然のように、自分がやったと申告した。

 

「ちょっと待って。貴女がやったの?」

「はい。理由については――ごめんなさい」

「……そう」

 

 彼女との契約の折、取り決めたことがある。

 サーヴァントとしての力が必要となった時は、令呪を使うことなくそれに応じる。

 その代わり、彼女の目的を詮索せず、口も出さない。

 

「……にしても。異星の使徒二騎をよく手玉に取れたわね」

「まあ――戦えば厳しいでしょうけど。分体(アルターエゴ)ですからね――本懐ではありませんが、私も運命(やく)を羽織るものの一端、泡沫の夢を見せるのは、それなりに簡単ですよ」

 

 ――彼女には、この異聞帯に召喚された、目的が存在する。

 幾つかの目的だけは、絶対に果たさなければならない。

 その時になれば全部話すから、それまではある程度自由がほしい、と。

 今回の、二騎を何処かにやったのは、その目的に該当することであるらしい。

 ならば追及はすまい。それがアヴェンジャーにとって、存在意義にも等しい事情であることは知っているから。




■ナジア・A・ハーウェイ
異聞帯に来てからというもの、仕事(オン)モードが基本となっており、思考の方向性を魔術師としてのものに近くしている。
ゆえに、同胞の死についても感じるものは少ない――少なくするようにしている。

■エッツェル
マスターの召喚に応じたのは確かだが、別の思惑があっての現界でもある。
そのために、二騎のアルターエゴに“それ”を理解させることは必要なことなのだ。

■カドック・ゼムルプス
さらっと流されるどころか描写すらなくロシア異聞帯を切除された。
時速九十キロで走ってロケランぶっ放す神父が助けてくれたので一応無事。

■オフェリア・ファムルソローネ
たとえ、ほんの僅かに歩み寄れたとしても、何かしらの不具合でも起きない限り、破壊を齎すものの在り方は変わらない。
ゆえに無間氷焔世紀は一切の変化なく、炎の巨人王は顕現し、北欧の英雄たちと現代の希望によって滅ぼされた。
少女は大令呪の縛めから解かれ、クリプターとして、人間としての役目を終える。
汎人類史を裏切ったその魂は、救われることはない。その死は、決して逃れられない。
――その小さな身をなおも必要とする何かによって、結末が少しだけ、誇らしいものになることはあるかもしれないが。

■アルターエゴ・リンボ
こいつ喋らせると話が止まらねえな。(何度でも来て、手続きなんていらないから。)

■コヤンスカヤ
こいつもたいがい話止まらねえな。(――ズッ友なんだから、当然でしょ?)
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