たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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第一幕『彼方に至る方程式』-2

 

 

 「カルデア、特異点、サーヴァントにマスター……」

 

 話を聞いたところで、殆ど理解出来ることはなかった。

 彼らが話したことは何もかも、この世界の基準で理解するにおいて難解過ぎる。

 まるで、初めて母様に抱いた疑問のような、自身の価値観とは異なる何か。

 

 ある程度噛み砕いて理解するならば、彼らは紛れもなく、人間である。

 そして、先の世――明日や明後日ではなく、何千年も未来からやってきて、この時代に発生した、本来の歴史にはなかった異常を正しに来た――とか。

 

 あまりに荒唐無稽だ。寝物語にすらならない、笑い話の類。

 それを証明する手段も持ち合わせていない。強いて言うならば、彼らの明らかにこの世界のものではない装備のみ。

 そう、この世界のものではない。

 彼らがこの世界の、未来の人間なのだとすれば、母様の気配が無さすぎる。

 未来がどうなろうと母様こそが世界であるという事実に代わりはない。

 だというのに、母様の気配が一切感じられない。であれば――先の世というよりは、異邦の民と言った方がしっくりと来る。

 

 何らかの手段でこの世界にやってきた、別の世界の誰か。

 正体不明な人間という存在の落としどころとしては、無難と言える。

 別の世界そのものをあり得ないものだとは思わない。

 何故ならば、ずっと昔から“知らない世界”についての智慧を有する妹がいるのだから。

 ブリュンヒルデの記憶に、生まれた頃から焼き付いていたという別世界の知識。

 それを疑うことはなかった。母様もまた、それを聞かされた時から信じていた。

 あの時の母様はまるで、此処とは別の世界があることを知っているかのようだった。それを指摘し、問うてみたところ、答えは曖昧なものではあったが。

 

「信じていただけるでしょうか……アトリさん」

「はっきり言って、お前たちの話は分からなかった。先の世から来たのだとすれば、お前たちにはあまりにも母様の気配がない。だが――」

 

 その結論を正直に話すべきかと少し迷い、躊躇う必要はないかと決断する。

 どの道、この世界に居場所のない人間であれば、何を思われようとどうでもいい。

 

「お前たちの持つ技術は知らないものだ。別の世界からやってきた異邦人という立場なのであれば、理解は出来ずとも納得は出来る」

「そ、そっか……」

 

 ――彼らの目的が、その特異点の修正とやらであれば、現地の民の認識としてはそれでも十分だろう。

 どのような形であれ、相手を納得させその活動が出来る立場を構築すれば良いのだから。

 私自身の納得の落としどころとしては、そんなところだった。

 結局、最終的に決めるのは母様だ。母様が悪と見なすならば私は彼らを破壊するし、母様に危害を加える素振りでもあれば、また同じ。

 先程の剣士――あれがサーヴァントという存在か。

 やはり長い時間は顕現させておくことが出来ないようで、既にこの場にはいない。

 だが、あれと同じような存在が他にいても、同時に使役出来るのは二か、三体と見た。彼の魔力量から見て、それ以上は体が耐えられまい。

 そう考えれば、やはり脅威として考えるには小さい。それはそれで、一つ疑問は生まれるが。

 

「それで。お前たちはこの世界で何をしようとしている。その特異点の修正とやらに必要なことはなんだ?」

「それは――これから探さなきゃならない。俺たちはまだこの時代を殆ど知らないし、正しい歴史からどう変わってしまっているかも、何が原因となっているかも分からない」

「……何とも場当たり的だな。私たちが言えた話でもないが」

 

 他の世界に赴く手段があったとして、こう――事前調査とか出来ないのだろうか。

 原因が分かっていて、それを正しにやってきたというならまだしも、たった二人で赴いて何も分からない状態から始めるなど、真面目に言っているか不安になる。

 

「だから、恥ずかしい話だけど、教えてほしい。この世界の常識を。さっきの敵とかも含めて」

「はい。お願いします、アトリさん!」

 

 しかし――その無知を隠そうとしない気概には、悪い気は起きなかった。

 それを隠して、ただこの世界に順応しようと、例えば母様の縁者を偽っていればすぐにでも破壊していたが。

 真摯なその瞳は、とりあえずすぐに手を掛けるには足らない存在だと、受け入れても良いと思えた。

 

「……少し待て」

 

 私の独断で連れていくのでも良いが、彼らのような出自であれば聞いておく必要があると、通信術式を起動する。

 こと魔術は慣れない身ではあるが、日常的に扱う程度のものなら流石に苦労はしない。

 ――ちなみに大掛かりなものや慣れないものであれば、弟に力を借りる必要がある。私は戦闘担当なのだ。

 

『――はい、お姉様。ちょうど良かった。私も、連絡をしようと思っていました』

「そうか。先に話すが、小さな侵略種二名と接触した。確かに、これまでのものとは違う――別の世界から来た人間だという」

『やはり……実は、こちらでも二人、別世界の民だという者を確認し、聖剣使い様が接触しています。人間ではなく、サーヴァントなる存在だとか』

「ふむ……サーヴァントという単語は此方の二人も知っていた――別動隊の可能性はあるか」

 

「――先輩、あの通信装置、私たちが使うものとはまったく異なる技術体系です。魔術の一形式のようですが……」

「この時代の魔術、ってことなのかな。にしてはやっぱり、もの凄く近未来的というか……魔術と科学が交差する……?」

 

 何やらこそこそと話し合っている二人とは別にやってきた存在。

 サーヴァントというなら、先の剣士のような、強壮なる輩だろうか。――セイちゃんなら大丈夫か。二人くらいならば眠っていても対処出来よう。

 

『ひとまず、四人を集め状況整理を行う必要があるかと。お姉様、一度戻ってこれますか?』

「分かった。徒歩の二人を連れていくため、ここからでは少し時間が掛かる。道中で侵略種を確認したらそちらを優先するが……」

『はい。お願いします。どうかお気をつけて』

 

 ブリュンヒルデの声色は、硬かった。

 今の積み重なる苦難の別方向からやってきた異常。

 彼女にとっては頭の痛い事態だろう。少しでも、私が抱えることが出来れば良いのだが。

 だが――これは彼女にしかどうにもならない事象だ。私たちは、彼女の持つ智慧を、彼女からほんの断片しか聞かされていないのだから。

 

「――お前たちの処遇を決める必要がある。暫く歩くが、構わないか?」

「っ――ああ。けど……」

「分かっている。歩きつつで良ければ、この世界について教えよう。もっとも――お前たちがこの世界の何を知っていて、何を知らないのか、判別がつかないが」

 

 彼らをブリュンヒルデ、そして母様のもとへ連れていく。

 その間に、常識程度は伝えておいても良いだろう。

 話す内容で不審な反応を示すものがあれば、二人への処遇を決める要因になる。

 

「では、行くぞ、カルデアの――リツカ、マシュ」

 

 

 

 ――はっきり言って、ここまでだとは思わなかった。

 侵略種については、私たちも正体不明である以上、知らなくても良い。

 だが、母様を――セファールを知らない世界とは一体どういう世界なのか。

 母様の力が感じられないどころか、その存在が認知されていないなど、流石に想像できなかった。

 

「……少なくとも、私たちの時代において、セファールという存在は常識としては存在しない……と思われます。無論、わたしたちが無知である可能性はありますが」

「……それはこの世界で口にしない方がいい。少なくとも私たちにとって、母様は世界そのものであり、すべての母だ。どう受け取られても文句は言えないぞ」

「そ、そうですね……すみません、アトリさん」

 

 オメガ地区を中心に何重にも張られた防護結界によって、母様の姿はここから見えない。

 ゆえに、未だに彼らは半信半疑といった状態。

 それなりに長い時を生きているからか――彼らのそうした無知に湧く怒りはない。

 妹たちの中でも気が短い者たちが見つけなかったのは、彼らにとっては幸いだろう。

 

「それから、侵略種か……空から落ちてくるものでなくても、別の何処かから現れた以上俺たちもその括りだったってことだよね?」

「だった、ではなく現在進行形だがな。母様がどういう決断を下すかは、私の知るところではない――」

 

 母様が彼らを認めないと断ずるならば、結局はそこまでだ。

 私が面倒を見るのは母様のところに連れていくまで。

 それに――

 

「――来たか」

 

 ――道中で果てるならば、私にとっても単なる時間の無駄でしかなかったということ。

 

「ッ、マスター! 高高度から高密度の魔力反応が接近! 先程の侵略種と思われます!」

「――アトリ、こんなにたくさん来るものなのか!?」

「そうだな……ここ数年はこんなものだ。“いつ終わるのか”と疑問は抱いても、“何故多いのか”など今更のことでしかない」

 

 やはり呑気な道中とは行かなかった。

 落ちてくる黒い輝きを見上げ、得物を握る力を強める。

 まだ居住区には遠い。ここから逃がさないよう、戦えばいいが――

 彼らはどうするか、と考え、すぐに決める。何も役割を与えないでは彼らも手持無沙汰だろう。

 

 ――手を貸せ。そう言おうとした時だった。

 彼らに、幸運――或いは運命というものが宿っていると感じたのは。

 

 

 

 落ちてきたその体が、途中で停止する。

 侵略種が翼を広げた訳ではない。

 飛行でも滞空でもなく、停止。その場でもがいているさまは、引っ繰り返って起き上がろうとしているかのようだった。

 

 リツカやマシュの表情からして、彼らが何かをしているという様子はない。

 であれば――此方にゆったりと歩いてきているあちらの男の仕業なのだろう。

 

「――やれやれ。頑なに召喚に応じるまいとしていた偏屈屋を無理やり引っ張り出したと思えば……歪、実に歪な世界なものです」

 

 リツカが呼んでいた使い魔と同じだな。

 あれもサーヴァントか。とはいえリツカとの繋がりは感じられないが。

 

「……サーヴァント、ですね」

「ええ。ちょうど貴方たちに声を掛けようとしたタイミングで闖入者が現れたので、咄嗟に手が出ましたが……まあ容赦いただきたい。こちとらサーヴァントの何たるかを頭の片隅にしか置いていないもので」

 

 しかし、あの剣士とは違って随分と、戦士らしくない男だな。

 力も比べるべくもない。人間を凌駕してこそいれど、驚くほどの域にはいない。

 強いて興味を覚えるのは、彼がその右手に掲げる巨大な天秤。

 尋常ならざる魔力を放つその機構が、侵略種を現在もあの場に留めているのだろう。

 

「……お前は誰だ。リツカたちの知己ではないのか?」

「さて。断言は出来ませんが、初対面かと。何分、人に仕える意義を見出せず――人類史そのものを拒絶していた筈が、どうしてこうなったやら」

 

 その、冷めた――達観した目に感じる、人間嫌いの相。

 そういう手合いは、この世界にはひどく珍しい。なるほど、やはり別世界だ――。

 隣人の手を取れない者が多くいれば耐えられないほどに苛烈な戦いの中で、これほどの目をした者は生まれまい。

 

「まあ呼ばれた以上、協調を見せる用意はありますが。誰何されたならば名乗りましょう」

 

 辞儀だけは丁寧に、完璧なまでの整った形で見せて。

 ここまでで十二分に“理屈屋”らしさを表現した男は、名乗った。

 

 

「サーヴァント、キャスター。真名をアルキメデス――シラクサのアルキメデス。どうぞ、お見知り置きを」




■藤丸立香
これまでのどの特異点とも違う空気に妙なものを感じなくもないカルデアのマスター。
現状、「北欧神話ってこんなんだったっけ」という感覚で、北欧異聞帯のように何かしらの間違いで北欧神話が変化したのであれば、何がどうなってこういう世界になったかと考えている。
ぶっちゃけそのセファールとやらが特異点の修正対象ではないかとも思っているが、流石に言えばデッドエンド確定なことくらいは察した。特異点か否かはともかく世界が歪んだ原因というのは大正解だし言えば死ぬことも大正解である。

■マシュ・キリエライト
特異点というより本当に別世界みたいだと感じている後輩。
ちなみにセファールについては大西洋異聞帯で初めて聞いたという旨の台詞があるため、この時点では立香もマシュも知らない段階。
今後の異聞帯攻略での認識が色々とぶれそうで心配である。

■アトリ
とりあえず未来人ではなく異世界人と判断した。
別世界の話についてはブリュンヒルデからの知識で耐性が付いているつもりだった。
しかし、まさかのセファールの知名度さえない世界で流石に呆れ果てた。
ひとまずセファールのもとに連れていくまでは二人の面倒を見るつもり。ただし、途中の侵略種の接近等で守ろうとはしないし、不運にも死んだらそこまでだと思っている。

槍マシュブリュンヒルデ
――こことは決定的に異なる、セファールが討たれた世界の知識を生まれた時から持っている。
それを決定的なバグだと感じ忘れようとしていたが、どうやっても捨て去ることが出来なかった。
“母のいない世界を空想した”という罪悪感に苛まれていたところをセファールたちが感付いて話を聞いたところ、誰あろうセファール自身が“別の世界の知識”を肯定した。
セファールもまた、ブリュンヒルデとはまた別の世界について、ある程度の知識を有していたのだ。
母は肯定の後、その知識をこの世界の繁栄に活かしてほしいと頼み、一切の否定がなかったことで彼女は救われる。
それから、この世界の技術体系は、何よりセファールの望みで――少なくとも“外面やつくりのみ”はその別世界に似通うものになりつつある。

■アルキメデス
ブチギレ顔芸おじさん。特異点に召喚されていたキャスタークラスのサーヴァント。Fateシリーズでの初出はEXTELLA。
シラクサのアルキメデス。古代ギリシャの数学者。
浮力を利用して物体の重さを量るアルキメデスの原理をはじめとして、ねじの発明、円周率の探求、当時のギリシャの数学観ではきわめて異例な巨大数の計算――その功績を列挙すればきりがない、人類史にあまりにも多くの貢献を果たした人物。
科学者として、てこの原理を応用した投石器や太陽光の反射を利用した熱光線など多くの攻城兵器、防衛装置を発明したが、その逸話によりサーヴァントとして召喚された際は、自身の装備に対人補正が掛かる殺戮技巧スキルが付与されてしまう。
あらゆる物事を理屈付けて考える人物。感情の機微なども己の計算に含め、完全な計算によって至る正しい結末を至上とする。
予想外があっても、それを基に計算を修正できる合理性の怪物。
ノリとテンションで生きる、計算式のない低級サーヴァントが天敵。
「FGOに実装されたらハロウィン巡業させてえ」とか、「エリちゃんシリーズと一緒にパーティ編成してえ」とか、心無いマスターに心無い展開を熱望されているかわいそうな人。

■侵略種
すまないカドック! 話の途中だが侵略種だ!
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