「反省しました?」
「ええ、はい。それはもう」
「……マシュ、なんで今俺たち付き合わされたんだ?」
「……すみません先輩。わたしにもよく……恐らく、勢いとかノリとか、そういう類の同調圧力かと」
「何故、私まで……」
何だったんだろう、今の一幕。
街の方にまで届くんじゃないかという高笑いを上げていたドーマンを、コヤンスカヤがどこからか取り出した長銃の銃身でぶん殴った後、どういう訳か四対一の戦闘が始まったのである。
多分、NFFサービスなる名称を無断で利用されたコヤンスカヤが激昂して、リツカとマシュ、それからまだ名前を知らないサーヴァントを巻き込んだってことなんだろうけど。
今のを見た感じ、コヤンスカヤは何処からか出現させた銃火器の数々が武器らしい。
あれ、凄いな。私もそういうものがあると知っているだけで、この世界では技術として存在していないものだ。
この世界で発展したのは、魔力を使った砲とかなのだ。
で、マシュはあの盾を使った防御役。
華奢な見た目だが、装備の支えもあって、ドーマンの変な術を見事に防いでいた。
残るサーヴァントはよく分からない。歯車みたいなものを振り回してドーマンを殴ったり、クレーンみたいな機械を振り回していた。
そしてリツカはその指示か。戦う力は殆どないものの、彼が後方から戦える者たちに指示を出す、という役割らしい。
結果、ドーマンは見事に叩きのめされ、一応コヤンスカヤも鬱憤が晴れたらしい。
「セファール、大丈夫ですかこの人たち」
『こう、凄いことはやってくれそうな気がしない?』
「凄いことをやらかしそうな気配はしますね」
確かにまあ、危険な賭けの部分が大きくなった気はしなくもない。
ノリで一つの組織になってくれたことで分かりやすくはなったけど、ドーマン以外は納得していなさそうだし。
「そろそろいいか。じゃれ合いは程々にしておけ、リツカ。母様の前だ」
「――っと、そうだった。ついコヤンスカヤたちのペースに……」
とりあえず一区切りついたタイミングで、アトリが話題を修正する。
うん、そろそろ真面目な話をしたい。後で部屋とかは用意してあげるから、遊ぶのはその時にしてほしい。
「……俺は藤丸立香。カルデアという組織から、この時代の特異点――異常を修正するためにやってきました」
「同じく、マシュ・キリエライトです。マスター――藤丸立香のサポート、及び護衛として随行しました!」
「――ふむ。私も名乗るべきですか、これは。キャスターのサーヴァント、アルキメデス。この地に召喚されたため、彼らとは先程出会ったばかり。カルデアなる組織とは無関係です」
あ、本当に無関係だったんだ。
この地に召喚されたってのが分からないけど、ともあれ出会ったのは偶然ということ。
ドーマンやコヤンスカヤと面識があるのは、リツカとマシュだけで、アルキメデスはそれとは違う理屈でやってきた。
目的としては――この世界の異常を正すため。それでいいのだろうか。
……よし、考えるのは後だ。名乗られたのだから名乗り返さなければなるまい。
そういう経験、実は殆ど初めてである。遂にあの時のあれを実践する時が来たのだ。
『――――我は白き巨人。神代の終焉。
(――な、なんか突然雰囲気が変わりました、先輩!)
(ああ……凄い、まるで台本を読んでいるみたいに棒読みだ!)
『ゆえに称えよ、我はセファール。巨神王セファールと!』
――我ながら上手く名乗れた気がする。
これでヘカテも浮かばれたのではないだろうか。いや、ヘカテ死んでないけど。
『――――どうよ?』
「え!? あ、はい! よろしくお願いします、巨神王セファール様!」
『堅苦しいしセファールでいいよ』
「先輩! この方、全力で勢いだけで話しています!」
あ、バレた。
いやドーマンが勢いだけで話していたし、この人たちそういうノリなのかなって思ったんだけど、どうやらマシュはそうではないらしい。
対して、リツカの方は若干、こっちのノリにも理解ありそうだ。なんか経験でもあったのだろうか。
「いつそんな名乗りなんて考えたんです?」
『ヘカテに考えてもらった。出会った時』
「どれだけ温めておいたんですか。これだけ使われないとか、ヘカテも草葉の陰で泣いてますよ。まあヘカテ死んでないですけど」
(――未来のこの方、こんなんでしたっけ?)
(ンン。“ノリ”の片鱗は見えた気もしなくもないですが、さて)
まあ、草葉の陰って例えは割と洒落ているのではないだろうか。
ヘカテ、昔は冥界に住んでいたって話もしていたし。今はもう冥界も含めて、世界は全部検めてしまっているけれど。
「……とりあえず、そちらの初対面の方もいますし、私も改めて。NFFサービスのタマモヴィッチ・コヤンスカヤです。先程、セファール様と契約を結び、この世界に手を貸すことにいたしました」
「私はアトリ。セファールの娘の長だ――力を貸してもらえるのはありがたいが、契約とは?」
『ん。アトリ、そこは大丈夫。悪い話じゃない』
「……そうか。母様がそう言うなら」
「また何か悪巧みの気配が……」
「あら、信じられていないご様子。カルデアのお二方とは、今回ばかりは割と利害は一致していますわ。少なくとも――首に牙を突き立て合うような関係とはなりません」
ううん。何だか、あまり仲良い関係という訳でもなさそうだ。
ドーマンとコヤンスカヤ、リツカとマシュはそれぞれ、別の組織か何かに所属しているのだろう。
リツカもカルデアとか言っていたし。
で、前者の二人はNFFサービスとやら。ドーマンの暴走でカルデアの二人もそれに巻き込まれた、という形で合っていると思う。
私たちにも余裕がある訳じゃないし、この世界で争われるのは困るな。
それを収束させるほど暇な者が誰もいないのだ。よし、この方針で行こうか。
『コヤンスカヤ』
「はい?」
『さっきの契約、NFFサービスとやらの名前を使ったってことは、他の皆にも適用されるってことでいい?』
「は?」
「ンンッッフ――」
だってそうだろう。
NFFサービス最高経営責任者に、新入社員が三人。
コヤンスカヤがNFFサービスの名を懸けて契約を行ったのだ。彼らにもそれが適用されるというのは当然ではないか。
「ちょっとお待ち……いえ」
コヤンスカヤは咄嗟に異を唱えようとして――それを中断して考え込む。
困惑した様子のリツカとマシュ、そして未来を悟ったように溜息をつくアルキメデスを順に見て、ニヤリと笑った。まるで獲物を前にした獣のようだった。
「――ええ、はい。それは勿論。一度社名をもって誓った以上は期待通りの成果を挙げますとも。そのためにも、我ら全員で手を貸しましょう」
「ちょっと待て、コヤンスカヤ。話が見えない!」
「この世界を正すため、お互い協力しましょうと言っているのです。勿論、
此方の認識を利用して、コヤンスカヤは未成年だろう少年少女を懐柔に行った。
明らかに彼らから搾り取れるだけ労働力を搾り取って使い捨てる目だ。
当然、リツカとマシュも折れることはないらしい。
「そ、そんな話に乗れる訳ないだろ!」
「そうです! わたしたちはカルデアとして、この特異点にやってきたんです!」
「あら。ですが歩合制、お好きでしょう? カルデアなんて超絶ブラック企業に所属していれば、お金も素材も幾らあっても足りないですものねぇ」
「うっ」
「か、カルデアではちゃんと月単位でお給料が支払われています!」
「ええ存じておりますとも。ですがそれでは数多のサーヴァントたちを運用するリソースには到底なり得ない。求めるのは
「うっ」
「ね、年に二回ほど、カルデアではお得な特異点が発見されます! そこではわたしたちが頑張れば頑張るほど、無制限にQPや再臨素材が――」
「ああ、なんかこう、箱を開けていく的な? あれ、貯めるより開ける方に体力使うんですよねえ。リツカさん、毎回開封に何時間掛けてます? あの時間、どうしようもない虚無を感じません?」
「うっ」
「あれは発展途上なのです! いつか、そう――いつかの夏ごろには、手に入れた資材を百個ほど一斉に開封できるような特異点が発見される気がします!」
「なんかそれQP手に入らなさそうな予感がしますが……ともあれ今この機会を逃す手はないのでは? QP、再臨素材、種火。働きに応じて幾らでも提供しましょう。汲めども尽きぬ侵略種討伐、似たような経験はあるでしょう?」
「うっ」
「先輩! 欲望に負けてはいけません! 確かにカルデアは慢性的な資材不足ですが――」
「――言うなれば採集決戦、やってみません?」
「よろしくお願いします」
「先輩――――ッ!」
あ、負けた。欲望には勝てなかった。
マシュは圧されつつも最後まで挫けなかったが、リツカにはコヤンスカヤの言葉一つ一つが強く突き刺さっていた。
カルデアって組織大丈夫? 話はよく分からなかったけどとんでもなく不毛な作業繰り返してるの?
「はい、契約成立ですね。マシュさんはどうします?」
「くっ……ここまでカルデアの状況悪化をどうにも出来なかったわたしにも責任はあります。先輩のブレーキ役として、わたしが参加しない訳にも……!」
「OJT、二名承りましたー! 後は、そっちのサーヴァントだけですが――」
「そろそろこの空気に吐き気を覚えてきたので他人に戻りたいのだが――それよりセファール、と言いましたか?」
そういうノリはとことん嫌いらしいアルキメデスが話を振ってきた。
まあ、彼がカルデアとも別の所属なら今の誘惑にも興味ないんだろうなあ。
『何?』
「一度、この都市を見回る権利をいただきたい。この世界に手を貸すかの解答は、その後に」
『監視付きで構わないなら』
「ええ、勿論。口喧しく話しかけてくるような者でなければ、いてもいなくても」
ブリュンヒルデと目配せする。
彼が何かをしようとした時、止められるような誰か。
そうだな――ネフェレを監視につけておこう。あの子は無口だし、彼がこの世界のためを考えてくれるなら、邪魔もすまい。
「では、ひとまずカルデアの二人と雇用関係を結びましょう。セファール様、彼らへの指示は此方で出しても?」
『そっちの方で纏めたなら任せる。それより、認識を合わせたい。リツカたちが来た目的も含めて』
「ああ、そっちの話ってまだでしたっけ。なんとも、こういう立場も面倒ですねぇ」
今、こうしている間にも、侵略種は次々と落ちてきているのだ。
いつまでも和気藹々と話している訳にもいかない。
結局カルデアが何なのか。敵ではないが、本当に味方なのか。一体何を知って、ここまで来たのか。
その辺りは把握しておかないと。いつ、彼らが敵になっても良いように。
■セファール
異星側とカルデア側が別の勢力であることは何となく理解した。
しかし、先のリンボの暴走もあったし、そっちの方が分かりやすいということで全員NFFサービス所属という形で受け入れることにした。
全体的にあれな空気になっており、セファールも染まっているが、これは現在進行形で端末が戦闘状態で本体の思考力が少し落ちているため。多分。
■ユーリンボ・ドドーマン
NFFサービス最高経営責任者。
セファールとしては、“最高経営責任者”については法螺なんだろうなという認識。NFFサービス所属という点の誤解は解けていない。
■コヤンスカヤ
NFFサービスを変な覆面呪術師に乗っ取られた。
それは後で分からせるとして、セファールの誤解もあり穏便にカルデアを利用できる点は有効活用できる形に。
日々のリソース確保に苦心するカルデアを篭絡し、一時的に藤丸とマシュを雇用した。
ちなみにラグナロク終息に積極的なのは、それが太平洋異聞帯成立の必須事項であるからと認識したため。
コヤンスカヤ自身にも目的があるため、異聞帯が今の理解と異なる形になるのは望んでいない。
提供される技術についてもさほど学ぶ時間があるとは思っておらず、実のところ契約については損害の方が大きい。
先を見据えた未来への投資というヤツである。
■藤丸立香
トンチキ特異点の空気に呑まれたカルデアのマスター。
侵略種採集決戦の誘惑に負け、一時的にコヤンスカヤと共闘することを決定した。
多分大量の素材をカルデアに持ち帰り、新所長たちに驚かれた後、詳細を話してしこたま怒られる。
箱イベの一箱開封機能はよ。
■マシュ・キリエライト
トンチキ特異点の空気に呑まれた後輩。
藤丸が侵略種採集決戦の誘惑に負けたため、全力で舵切りを行う方針に切り替えた。
そう、時には先輩の手綱を握ることも後輩の重要な役割なのだ。法螺貝吹いている場合ではない。
■アルキメデス
トンチキ空気を察して逃げた。
■へかてさまヘカテ
死んでない。
■採集決戦
きのこ「そうそう、人類悪ってこういう事よ」
二〇一六年の末、終局特異点は当時イベントとして実装された。――そう、魔神柱を狩るレイドイベントである。
当時は再臨素材を数百と貯めておくことも難しい環境。そこに現れたのは、最終決戦だからと放出された美味しいドロップ素材。
決戦は当たり前のように魔神柱を奪い合う地獄絵図へと変わり、平日だと言うのに深夜も勢い止まらず凄まじい速度で狩られていき、特に美味しい素材を落とすバルバトスは十二時間ほど経った翌朝には狩り尽くされた。
魔神柱を貪り合い狂喜しはしゃいでいたマスターたちは己をラフムに例え、その強欲と我先にという醜悪さに「ソロモンが人理焼却したくなる気持ちが分かった」と悟りに至るものまで現れた。
また、上記のバルバトスが死んだ際に生まれた「殺したかっただけで死んでほしくはなかった」はこの採集決戦を象徴する格言である。
事件簿コラボではバルバトスだけ復活。「断末魔が長いから黙って死ね」「早く殺したいけど死んでほしくはない」「山の翁の宝具で倒せば断末魔をキャンセル出来る」と心無い罵詈雑言の嵐が飛び交い、人の業とは何たるかを考えさせられる事態となった。