特異点、ね。
聞いた限りでは、どうにも違和感が拭えなかった。
やはり私の認識として、彼らが別世界の人間であるというのは変わらない。
彼らの言うレイシフトってのは、過去のとある地点に対して行うもの。だというのに、彼らには私の気配の残滓すら感じられない。
勿論、未来――彼らの時代まで私が生きているという保障は何処にもないのだが、私の死は世界の死――考えにくい事態ではあった。
彼らは侵略種の存在すら知らないという。
私たちは一万年の間、戦ってきた。これがたった一つの時代に異常が発生する特異点とやらの影響とは思えない。
別世界で確立されたレイシフトという技術に不具合が生じ、ここと繋がった――そういう憶測は出来なくもないが。
果たして、何をどうすればそうなるか。
別世界の智慧を持つブリュンヒルデも、彼らの技術については知らなさそうだ。
あと、何か知っていそうな者といえばヘカテだけど……近いうちに戻ってくるかな。
『――半分くらいは分かった。その異常とやらは、侵略種の事?』
「それは――分かりません。確かに侵略種という存在はわたしたちの時代には伝わっていませんが、そこまでの長期に渡り継続してきた以上、この特異点で修正しないといけない対象ではない可能性は高いのです」
「確かに……だけど」
マシュと見解は一致した。
カルデアがやってきた根本の原因は、他にあると見える。
だけど――だからといってリツカもマシュも、納得はしなかった。
「――流石に、今起きているそれを、見て見ないフリは出来ないね」
「――! はい! 襲来する侵略種の対処をお手伝いしつつ、特異点修正の手掛かりを探す。これがわたしたちの行うべき最善と判断します!」
リツカとマシュは顔を見合わせて、そんな結論を出した。
……何だこの子たち。せめてもう少し迷う素振りとかしない?
まるで、そういう未知の相手に慣れ切っているような。しかし決意に軽薄さはない感じ。
『……今こうしている間にも、侵略種は次々と降ってきている。そっちを手伝ってくれるのはありがたいけど、それと調査を兼ねられる?』
「それは……無理そうだったら、調査は後回しだ。目の前で困っている誰かを助けるのは、その時しか出来ないから」
――ドーマンは知らないが、コヤンスカヤが口いっぱいに詰め込まれた苦虫を噛み潰したような表情になった。
……嫌悪感を抱くのも、呆れるのも分かる。正直、寒気を感じた。
別に、この世界の邪魔をしないというのなら、あちこち調べるくらいどうでも良かった。
特異点とやらに構っている暇はないし、それがこの世界に悪影響を与えるとして、そちらを別世界からやってきた彼らが対処してくれるなら願ってもない。
だが、彼らはあろうことか、この世界に来た目的を後回しにしてでも、侵略種を優先すると言った。
たまたま彼らがそういう性格だったとして、だからと言ってこんな、命がいくつあっても安心できない状況でそんなことが言えるのか。
もしかすると、ここに来るまでたった数体としか会っていないかもしれない。全てアトリが対処したから、脅威を感じていないのかもしれない。
だが、侵略種の強さはピンキリだ。
アトリたちが死にかけることだってままあるし、セイちゃんが一体を相手に三日三晩全力で戦い続けるなんてこともあった。
彼らが侵略種と戦える力を持っていたとして、その場合は尚更、特異点どころではなくなる。
だって、そんな人物であれば、碌に暇がなくなるくらい手を貸してほしい状況だ。
ブリュンヒルデは今もワルキューレの皆を統括している最中だ。彼女を中心としたネットワークを通じて、世界各地に指示を出している。
アトリとセイちゃんも、この場にいる事は珍しい。ほぼ毎日、私やブリュンヒルデが“被害が大きくなりそう”と感じた場所に行って対処を行っているから。
侵略種を相手にまともに戦える者が――この世界には、あまりにも少ないのだ。
『――そう言った以上は、頼りにしたい。力を借りて、返せるものは何もないけど』
「はぁ……そこはそれ。彼らへの報酬は私から支払わせていただきますので構いませんわ、セファール様。貴女との――この世界との契約はそういうものでしょう?」
『ん――なら、よろしく』
コヤンスカヤの思惑と、リツカとマシュの思惑は決定的に異なる。
というか、彼らは恐らく敵同士だ。友好的ではないというレベルではなく、殺し合いすら考えられるほどの。
だが、この場で共闘してくれるならそれでいい。
見たところコヤンスカヤはビジネスライクは徹底する主義だし、少なくとも契約が終わるまで――リツカたちがNFFサービスとやらの一員である内は、敵と見なすことはないだろう。
――それが対等な同盟相手であるか、部下であるかは置いておくとして。
「……では、お母様。そういう形で?」
『うん。この世界の外から来た、この子たちに協力してもらえば、“この世界の限界”も超えられる』
勿論、まだこの世界の限界でも勝てないなどと決まった訳ではないが。
底が見えるよりも前に、他の力を借りられるのならば、勝ちの目が増える可能性だってある。
『ブリュンヒルデ、ネフェレを呼んで。アルキメデスの護衛と監視を任せる』
「分かりました。あと、コヤンスカヤ、ドー――」
「――謎の仮面キャスターリンボ! またの名をユーリンボ・ドドーマン! にて!」
「…………はい。――コヤンスカヤ、ドドーマン、リツカ、マシュの四人とは、此方で入手した戦況を連携して動いていただきたく思います。その前に……そう、拠点となるべき場所の提供が必要ですね」
……これだけ負荷が掛かっている今のブリュンヒルデに、ドーマンの相手は厳しそうだな。
意味の分からない――話が通じないともいう――相手は彼女の天敵だ。数年前のような平時ならばともかく、今の彼女に任せていたらネットワーク諸共ショートしてワルキューレたちの連携が崩れかねない。
かといって、他のワルキューレに任せる訳にもいくまい。特にドーマンのせいで。
セイちゃんやアトリもあまりこの場で時間を潰している訳にもいかないし……仕方ない。
「――お母様?」
手から雫を一滴落とす。
使い魔作成の応用。今運用している端末と同じように、意識を共有する小さな体。
あまり意識を共有する体を増やすと思考が纏まりにくくなるし、せめて運用に負担の掛からない小さなもので。
落ちた雫が形を取り、肉塊の柱に――なりかけたので慌てて修正し、腕が四つ生えた黒いヒトに――なりかけたのでまた修正し、三十センチほどの、二頭身の私を作り上げた。
どうだ、この即興端末作成。これなら前衛芸術とは言えまい。
見て、聞いて、それを
これならば、本体も戦闘用の端末も疎かになることはない。
基本的には、彼らについては信じたいし、その意思も込めて戦闘能力は付けない。もし、万が一何かがあった時――それを察するためのもの。
端末から彼らを見上げる。基本的に私は人を見下ろす方が圧倒的に多いし、なんか新鮮だな、この光景。
『君たちの監視はワルキューレが行うのは難しいと判断した。手間をかけるけど、その端末を連れ歩いてほしい』
「端末……使い魔、分身の類でしょうか」
『そんなところ』
「――監視、ですか。セファール様、契約を行った以上力を尽くさせていただく所存ですが、信用がありませんか?」
『戦えるような端末じゃないって辺りは、信用と取ってほしい。流石にこの状況で他の世界からやってきた誰かを、監視もなしって訳にはいかない』
心配せずとも、プライベートは意識するつもりである。
その辺りの空気を読めるのがセファールなのだ。
「……確かに、説明しただけじゃ怪しさは抜けないよな。俺はそれで良いと思う。コヤンスカヤたちとの協力関係も、それで少しは信じられるようになる」
「あら、カルデアはまだ疑いが強いご様子。今回の事象に当たる気概としては、私そちらに負けていないという自負なのですが。それと一つ訂正を。協力関係ではなく、正確には雇用関係です。お忘れなく」
……うん。私がいることで余計な争いが一旦無くなるのであれば、それも良いことだ。
対処の手間が増えるようなことは避けてほしい。切実に。
「では、案内していただけますか、セファール様。そちらでお二人とはよぉく話し合いましょう。私たちがここに来た経緯も含めて」
『分かった。――じゃあ、マシュ。頼んだ』
「え!? 何を――はっ、理解しました。マシュ・キリエライト、万全をもってセファールさんの端末を運びます!」
端末がマシュに抱えられる。
なんかこれも慣れてない? カルデア、小動物とか飼ってたりする?
「――セファール。あの端末、私にも貰えませんか?」
『あげた訳じゃないんだけど』
「そこは重要じゃないんですよ」
『三千侵略種で手を打つ』
「乗りました。早速狩ってきましょう」
「お母様、聖剣使い様……侵略種を変な単位にしないでください……」
セイちゃんも欲求不満だものね。
私も鬼じゃない。ずっと頑張ってきたし、ご愛顧価格で提供しようじゃないか。
■セファール
第五異聞帯における神王ゼウスのように、各地で起きている出来事を細かに把握することは出来ない。
正確には、出来なくもないが他が疎かになるため、世界の土台を担う身として実行できない。
■コヤンスカヤ
相変わらずのカルデアの善人っぷりに若干具合が悪くなった。
まあそれはそれとして――この世界の危機をどういう訳か特異点として発見してしまった彼らのどうしようもない不運には少しだけ同情した。
■ユーリンボ・ドドーマン
ワルキューレと相性が悪すぎてセファールが自ら監視に動く羽目になった。
能力としては並のワルキューレを凌駕し、彼に勝てるほど先頭に秀でた個体は彼らの監視を行うほど暇ではない。
実際、彼であれば、精神の弱いワルキューレを呪術で侵し、それを感染源としてネットワークを通じて大惨事を引き起こすことも可能といえば可能。
■藤丸立香
目の前で誰かが困っていれば遠回りだろうと手を伸ばすカルデアのマスター。
セファールにドン引きされているのは知らない。
■マシュ・キリエライト
目の前で誰かが困っていれば遠回りだろうと手を伸ばす後輩。
セファールにドン引きされているのは知らない。
■監視用小型端末
セファールがNFFサービスを監視する目的で作り出した、三十センチちょっとの小型端末。
リアルタイムで意識の共有を行っている訳ではなく、見聞きしたものを本体に送るという方式を取っている。
そのため、若干のラグがあり、戦闘能力も持っていない。
持っていないとは言うが、セファールの使い魔という性質上、低ランクのサーヴァント級の霊基を持っている。
本特異点におけるマスコットキャラ。ヴィイを彷彿とさせる人形っぽさでフォウくんの後釜を狙う。
■フォウ
「む? 何をこんなところで壁に埋まっているのかね君。
てっきりいつものように彼らのレイシフトに同行しているものかと思ったが。
……何? 特異点の側に物凄い拒絶をされて吹っ飛ばされた? 何を言っているのかね?
意味の分からないことを言って非建設的なことをしているなら来たまえ。
インド異聞帯でペペロン某を捕らえた際の尋問用にボロネーゼを試作しようと思っているのだよ。
君、肉だけじゃなく麺類も割と好きだろう? さあ、さっさと壁から出てきなさいってば。
……なんで私、君の言葉が分かったのかね?」
■聖剣使い
★★★★☆ セファールが至った新境地
あまり芸術に精通した身ではありませんが、今回のデフォルメされた二頭身のセファールというものには強い感銘を受けました。普段見ているセファールの姿とは異なり、神秘性ではなく可愛らしさというものを重視したそれは初めて見た時は受け入れ難かったのですが、戦いの最中にふと思い出してしまうような魅力があったのです。こういうセファールもあるんだなと“理解”したとき、それまでの私の視野の狭さを痛感すると共に新たな扉を開く音がしました。購入して実際に間近で見ての感想ですが、各部の造形は意外と細かく、セファールの成長が感じられました。また、触れてみるとセファール特有の冷たさの中にある温かさがあったのも高評価です。ただ、体に走る紋章についてのみは粗い点が気になりました。頭身の変化やデフォルメの関係もありますが、これについてはセファールの大きな特徴であるため気を遣ってほしかったところです。この点の成長を期待し、評価は星四つとさせていただきます。
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