たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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第六幕『みにくい白鳥の子』-1

 

 

 別世界からやってきた五人を迎え入れて、五日。

 それだけで、少なくともこの巨神国内で守りの薄い場所の状況は劇的に変わった。

 

 まずは、ドーマン。

 彼は、ブリュンヒルデが一手に引き受けていたワルキューレの状況共有ネットワークについて、補佐を行っている。

 そもそも、彼女がどれだけ高い能力を持っていたとしても、世界中に散らばっているワルキューレたちを纏めることは負荷が大きすぎた。

 ドーマンはそのネットワークにアクセスし、その維持や伝達を自身の能力で効率化しているようだ。

 正直なところ、彼らの中で一番、何というか、血迷いそうだったのがドーマンであり、ワルキューレたちによる防衛の要であるブリュンヒルデを補佐させるのは大変不安だった。

 ところが、優秀極まりない補佐だというのが実情。

 ブリュンヒルデも十分に警戒してこそいるが、それでもドーマンが預かった負担と比較して楽になったようだ。

 流石にこのネットワークに何かあったら致命的だし、油断は出来ないけど――ブリュンヒルデの疲労が少しでも軽減されてほしい。

 あとはブリュンヒルデの癒しになるような時間が少しでも増えればいいんだけどな。友達の――()()()、シグくんも侵略種迎撃で中々戻ってこれないようだし……。

 

 次に、コヤンスカヤ。

 彼女は防衛機構の対空礼装を見た翌日には、大量の砲弾を納品してきた。

 形を保った砲弾は生産工房の真上に落ちてきた侵略種のせいで生産スピードが激減している。

 魔力だけを撃ち出すより確かな威力があるそれを、当面困らないほどに持ってきたコヤンスカヤはそれはもうありがたがられている。

 何処から調達してきたかは企業秘密とのことらしい。

 コヤンスカヤたちの世界からとかかな。だとしたら同じ規格の砲弾があるというのも不思議な話だが。

 

 ――そういえば、アルキメデス。

 彼もまた、着目したのは防衛機構についてだった。

 ネフェレの報告によると、ひたすら街を練り歩きながら――

 

 

「意味が分からん。計算式も無くこの構造・構築の結論に至る因果があるか? いや普通はあり得ない。そも、何故私はこの世界に召喚された? やはりセファールか? それもあり得――なくはないか。人の呼び声、人理の求めに応じるくらいなら、私であればそちらに応じるだろうが、断定するには不明点が多すぎる。どうなっている。汎人類史とは異なる世界であるとは認めよう。だが、そのような異例事態であれば抑止は何故人類悪など野放しにしている? 冠位の一騎も寄越さず私を先に召喚した理由は何だ? ――ええい、計算が纏まらん。何処もかしこもなんだこの景観は。汎人類史から着想だけをくり抜いてきたかのような……いや待て落ち着け。今の比喩は飛躍が過ぎる。ともかく計算式を見つけなければならん。幸いセファールのような外宇宙由来の知的生命体にも理解し得る式は存在すると見える。ならば、それが統べる世界もその式をトレースすることで……そもそもセファールの存在意義の変化を不具合と切って捨てて良いのか? そこに何かもっと大きな前提があったらどうする。推論に過ぎんが、この着眼点は悪くない。隠れたそれがその他の解に至る式となっているやも――」

 

 

 ――みたいなことを延々と呟いていたらしい。

 あまり口数の多くないネフェレがそれを記憶して棒読みかつ早口で復唱してきたのがちょっと怖かった。

 彼も(セファール)についての知識はあるようだ。何だろう、リツカたちは知らなかったみたいだけど、向こうの世界でもそこそこ知名度高いのかな、私。

 ともあれ、アルキメデスはその後、空に向けて展開された防衛機構の修復の様子を眺めてから、それを手伝い始めたとか。「無駄が多い。実に無駄が多い。不足はないがそれでは時間の浪費と採算が合わん」とか言いながら。

 当然、担当の人々は当惑していたものの、その初めて見たとは思えない術式捌きに感心し、一部の人々は早くも教えを受けているとのこと。

 サーヴァントってのは強い力を持った存在って認識だったけど、彼については知識と技術面でその能力を発揮するらしい。

 まだ彼からは回答を貰っていないけど――力を貸してくれるってことでいいのかな。

 

 

 ――そして、リツカとマシュ。

 

 二人は実働部隊として、オメガ地区の付近に落ちた侵略種の相手をしてくれている。

 ここは巨神国の中心地であるため、必然的にワルキューレを多人数配置しているのだが、おかげでかなり余裕が生まれた。

 今日もまた、防衛機構の砲撃で落下地点を調整し、普段アトリたち騎馬部隊を中心とした地上戦を担当するワルキューレが戦闘を行う、街から少し離れた平原で二人は戦っている。

 

 いや、二人というか、実際に戦うのはマシュと、リツカがこの場に呼び出している別のサーヴァントなのだが。

 彼は数多くのサーヴァントと契約を行っており、状況に応じて適切なサーヴァントを一時的にこの場に呼び出し、戦闘を代行させてそれに指示を出したり援護を行う役割らしい。

 で、マシュは唯一カルデアという組織からリツカに同行することが出来た存在なのだとか。

 サーヴァントは維持できて数分。アルキメデスたちよりも存在が薄い感じで、何だか影みたいだ。

 

「■■■■■■――!」

 

 ……存在が薄いとかはまあ良いとして、あれ、大丈夫なのかな。

 これまで見てきた剣士とか弓兵とかとあまりにも毛色が違い過ぎるというか。そもそも意思疎通出来ているの?

 確かに、今相手をしている大型の侵略種は砲撃の一斉射でも倒し切れない耐久力がある。

 突破するのにはそれを超える力――というのは正しいのだけど。

 

「――! 敵性体のチャージ攻撃を確認! こちらで受けます、マスター、呂布さん、隙を見て攻撃を!」

「任せた、マシュ! 突撃タイミングを合わせて――今!」

「■■■■■■■■――――!」

 

 直撃すれば私の戦闘用端末も一撃でぺしゃんこになりそうな突進を僅かにずらしつつマシュが受け止め、隙を作ったところに突っ込んでいく赤い猛将。

 唸り声にも怒号にも聞こえる咆哮を上げながら、二メートルを超える巨体はその長い得物を叩き込んだ。

 生粋の戦士ということなのだろうか。先程からリツカの指示を受けて真っ直ぐ突撃するばかりで、マシュとの積極的な連携は取れていない。

 どちらかというと、マシュが彼に合わせて、戦いやすいように動いている感じだ。

 指示への応答も叫んでばかりだし、会話という手段すら戦いの中では無駄だと断じているかのような戦いぶり。

 その一撃はアトリとエクリプスが息を合わせての突撃(チャージ)に匹敵するのではと思わせるほどだった。

 侵略種をよろめかせ、容赦なく追撃を加える彼に、本日特別に技術局から同行したワルキューレの一人、リラエアは興奮気味だった。

 

「凄いです、お母様。彼ただの人間じゃないです。体を外的パーツで補強して各部を最高効率で運用できるように作られています。凄い、凄すぎ、発想もコンセプトもひたすらイカレてる、非人道的過ぎて真似出来ねえ……!」

 

 マシュの代わりに私の小型端末を抱えながら息を荒げている。

 何だろう、リラエア、君そんな性格だったっけ。侵略種との戦いで飛ぶ力を失ってから百八十年くらい。技術局を引っ張り始めて長いけど、昔は今の言葉の前半が素の性格だった。

 ……良い変化なのだろうか。最近は技術局って割とこういう人多いらしいしなぁ。リラエアのこの性格が技術局全体に影響を与えたのか、リラエアが影響を受けたのかは知らないけど。

 

「っ、マスター! 向こうに次の侵略種が!」

 

 ――と、その時。

 連続して二体、誘導されて落ちてくる。

 この数を同時となるとリツカたちだけだとちょっと厳しいかな。

 近くのワルキューレを呼びつつ、防衛機構の支援を集めようとしたが――それを見たリツカはすぐに対応した。

 

「マシュ! 俺たちは向こうを相手取ろう! ――陳宮、呂布のサポートよろしく!」

 

 同時に複数人のサーヴァントを呼ぶというのも、負担は掛かるけど不可能ではない。

 そんな彼自身の説明を証明するように、リツカはこの場にもう一人サーヴァントを呼びだした。

 褐色肌の眼鏡の男が、私たちの近くに立つ。

 

「陳宮さん! ここをお願いします!」

「ええ、承りました。軍対軍の戦でない事は残念ですが、呂布殿を援けよと呼ばれて不満を言えよう筈もありません。では、異郷に我が飛将軍の武勇を刻みましょう!」

「■■■■■■――――!」

 

 リツカはマシュと共に、新たに落ちてきた侵略種の方に走っていく。

 なるほど。彼は支援を行うタイプのサーヴァントか。

 だが、今まで戦いを見ていたところ、あの赤い人は防御をほぼマシュに任せていたような。

 

『大丈夫なの? あの子、制御難しそうだけど』

「勿論。今の呂布殿は些かばかり思考力が失われており、その武を十全には振るえぬ状態。であれば――こうしてやればよろしい」

 

 男は何処からともなく取り出した弓を構え、矢ではない何かを放つ。

 そしてそれは侵略種ではなく、赤い人の方に突き刺さった。威力は無いようだし、撃った本人の表情からして誤射でもなさそうだが。

 ――次の瞬間、なんか赤い人の体から魔力を帯びた電気がバチバチと放たれ始め、突撃してきた侵略種を、得物を変形させた籠手で受け止めた。

 凄い防御力だけど、大丈夫かな。先程とは違う意味で。

 

『何したの?』

「彼の強化と同時に、思考回路にちょっとした刺激を与えました。肉体に染みついた戦闘技能をより直感的に発揮できる方向に。敢えて言えば、今の彼は大変に思考力が失われているが、その武は勢いで発揮できる状態ですな」

「人間。貴方、人の心って知ってます?」

「政ならまだしも、戦であれば目を瞑っておくべき余事、と心得ておりますが」

 

 突撃してきた威力そのままに侵略種を弾き返し、更にトンファーのような武器に変形させて反撃を始める。

 放つ電気の勢いは増す一方だ。凄い体に悪そうなんだけど。

 

「ご覧なさい。あれこそは乱世の梟雄が振るう可変超兵器。我が国に伝わる軍神蚩尤に準え六つの奥義を有する無双宝具!」

 

 どんどん武器を振るう速度を上げていく赤い人の勢いに圧され、遂に侵略種が体勢を大きく崩す。

 そこに矛の形に戻した武器を突き刺したところで、私は勝ちを確信する。

 今の速度であれば、ここからの追撃で侵略種を倒し切れる。

 そう考えたのは、傍の男もまた同じらしく――不敵に微笑み、思わずとばかりに拳を握り、指示を出した。

 

「――呂将軍! ここで自爆です!」

『え?』

「は?」

「■■■■■■■■■■■■――――ッ!」

 

 ――自爆命令。数秒、何が起きたか分からなかった。

 咆哮を上げた赤い人が一瞬輝いたかと思えば、彼の魔力が爆発的に増大し、実際爆発した。

 魔力を帯びた風が私たちを過ぎていく。

 恐らくは、戦いの終了した場。

 そこには侵略種の破片たる結晶が転がるばかりで、赤い人は残っていなかった。

 

「いけませんねえ。戦術無き敵は単純に過ぎる。私と呂布殿と戦うのであれば、我が策の一つや二つ崩してくれなくては」

「――失礼、理解が及びません。私の認識機能に障害がなければ、そのリョフ殿とやら、爆散したんですけど」

「ええ、爆散しましたね。相互理解の上、自爆していただきました」

 

 見間違いじゃなかった。

 しかも今の戦い、彼の策通りに進めたってことは最初からこの自爆が前提だった。

 

「此度は好例ではありませんが、戦とはこういうもの。敵方の将と味方の将が死力を尽くして相打てば、後は小兵の小競り合い。仮借なく、加減なく、温情なく、そして命の価値に区別なく――冷血非道と誹られようと、勝利するための苦渋の決断です。分かりますね?」

「いや分かんねえよ」

『リラエア、口調口調』

 

 そうか……凄いな、リツカたちの世界。

 残念だけど私たちの世界では合わないぞ、その戦法。人々にも娘たちにも、誰一人自爆なんて許可させないし。

 ……というか、ドン引きしつつもリラエアが興味持っていたの、なんか嫌な予感するなあ。技術局の子たち巻き込んで変なことしないといいけど。




■ユーリンボ・ドドーマン
下手を打つと自身の計画が崩れかねない状況であることから、リンボとは思えないほど真面目。
明らかに任せてはいけない仕事をしているが、一応真面目。ただし、“お姉様に寄りつく変なのが一人増えた”とワルキューレたちの士気は若干下がった。
ネットワークを通して呪術を用いてワルキューレたちの強化も行っており、それがやけに優秀なため世界を守る白鳥たちとしては至極複雑であった。
――――若干、割と、大いに血迷うつもりはあったが、ブリュンヒルデの居場所がセファールの御膝元であったこと、ブリュンヒルデの精神性と僅かなネットワークの乱れすら許容しない洞察力が式神リンボで介入出来る域を超えていたこともあって断念したという。

■アルキメデス
「だから――! ッ――、だからどうしてこういう結論になる! くっ、何が足りないどこを間違っているいつミスを犯した。分からない……確かに不明確な点はあるが、それらに配置した仮定はいずれも自然かつ論理的なもの。たとえ間違っていたとしても、最終的な結論は理解できるものに落ち着く筈だ。だのに、何故だ。何故、何処をどう計算しても“聖剣は電力で動く”などという訳の分からない結論に行き着く! どれだけ高次の計算を紡いでも、あたかも最後にゼロを掛けるが如く! ……落ち着けこんな戯けた解になる筈がないどこかの計算が狂っている、もしくは――召喚の不備、か? アルキメデスという計算機(れいき)を形作る歯車が足りていない……? ――――間違っているのは、私なのか――?」

■呂布
叫んでばかりだと売上が伸びないため、最近めっきり見なくなった正統派バーサーカー。
叛逆の暁星は均霑に輝いた。真昼間だけど。

■陳宮
ゲステラ。他人の命でやるステラ。スーパーアーラシュメーカー。アーラシュは間違っちゃいないがお前は間違っている。慈悲無き者。カムランの丘で高笑いする男。五百年の妄執で呪われる男。3ターンで12人葬る男。いざ尋常に射出。味方なら神様だって殺して見せる。フレンドガチャから出てくるのに友情を全否定する男。人権(無視)サーヴァント。宝具演出が本当に演出な男。「……おぞましや、汎人類史……」
侵略種の対応に追われる藤丸に代わり、呂将軍のPRを全力で行った超軍師。
自身の宝具に思考調節のコマンドを乗せ、モーション変更攻撃機能の拡張を行った。
ただその梟雄っぷりを喧伝するだけならまだしも、この世界において些か特別過ぎる意味を持つ“軍神”という単語を使ったことなどで――とある技術局のワルキューレに強く“刺さった”。
これがとんでもないやからしであったことなど、彼の知略をもってしても予測できる訳がなかった。
ちなみに、彼のFGOにおける初登場は中国異聞帯のため本来であればこの時点でカルデアとの縁はないが気にしてはいけない。

■シグくん
セファールがやたらにブリュンヒルデの『友達』と強調する謎に包まれた人物。
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