たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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第六幕『みにくい白鳥の子』-3

 

 

「本日の侵略種討伐数、八十二体ですね。初日に比べてちょっと効率落ちてます?」

 

 その日の夜、記録用のコンソールを叩きながら、コヤンスカヤはリツカたちの仕事ぶりをやや辛辣に評価した。

 数だけで見ると確かに昨日までより少ないけど仕方ないんじゃないかな。

 今日来たの、格が上から数えた方が早い連中ばかりだったし。

 あの格の侵略種を一日でこれだけ相手に出来るの、この世界でもそんなにいないと思う。

 本来の力を発揮できないというのに、侵略種を倒し得るサーヴァントたち。

 リツカが召喚することが出来るのが、その総数から見ると一パーセントにも満たないというのだから恐ろしい。どんな世界だよ、リツカたちの世界。

 

「ま、それならそれで渡すものが減るだけですけど。はい、本日分です」

 

 コヤンスカヤがリツカたちに渡しているのは、サーヴァントを運用するのに必要な資材らしい。

 何処から持ってきたか分からない赤黒い骨だの紫色の心臓だの得体の知れない物体ばかりだった。

 これ使っているの? カルデアって組織大丈夫? これの性質を何らかの正しいリソースに変換しているならともかく、シグくんみたいな使い方していないよね?

 あと、別に気にしていないけど、空間魔力占有値(QP)だっけ? これ、この世界の魔力使って作っているよね?

 それでそっちの世界のサーヴァントの運用できるのだろうか。

 コヤンスカヤやドーマンが言うには、この世界の魔力と向こうの世界の魔力って厳密には違うものみたいだし、サーヴァントたちに変な影響とか出ない?

 ……大丈夫か。

 コヤンスカヤはそれを認識していたし、彼女がことビジネスに関して真摯であるというのは理解した。

 リツカたちへの正当な報酬も、まともなものなのだろう。

 

「――本日は運が悪かったと割り切って、明日挽回しましょう、先輩」

「――そうだね。黄金の果実を用意しておこう」

 

 あれ体に悪そうだからあまり食べない方が良いと思うんだけどなぁ。

 そうまでしてあの資材欲しいのだろうか。大変だな、リツカたち。

 資材の価値はよく分からないけど、ああして本気になるほど欲しいものなのだろう。

 強いていえば、あの魔力の活性に役立ちそうな金色の火、あれと似たようなのは知っているぞ。昔、本当にこの世界で生き始めて間もない頃に食べた記憶がある。

 今はもう食べてもまともに成長出来ないだろうけど、あれ美味しかったからな。あれに執着するのは少し分かる。

 

「意気軒高ですこと。それでは、セファール様、私どもの本日の業務はここまでとさせていただきますが」

『ん。お疲れ様』

 

 定時での戦闘終了、大いに結構。

 実際のところ、この時間以降の侵略種対応に余裕があるかと言えばそうでもないのだが、サーヴァントたちが戦うためにリツカの存在は必須であるとのこと。

 彼の気力が重要である以上、無理はさせられまい。

 コヤンスカヤが業務終了を宣言したのと同時、NFFサービス臨時社屋たるこの建物に入ってくる者が二人。

 アルキメデス、そして彼の監視役であるネフェレだ。

 

「あら、偏屈学士様。相変わらず不機嫌そうで」

「――不機嫌だ。実に不機嫌だとも。不自然、不可解、不愉快極まる」

 

 うわ、凄いイラついてる。眉間に皺が寄りまくってる。

 ネフェレが冷静な子で良かった。ちょっと気の早い子だったら敵意ありと判断して切り捨てていたかもしれない。

 

「えっと――アルキメデスさん。何かあったのですか? わたしたちは別行動でしたので、何がなんだか――」

 

 とっつきにくい雰囲気に負けず、マシュが問う。

 これまで何度か戦いを見てきたけど、この子たちの勇気、たいがい身の丈に合っていないな。

 頼っている身であまりこういう事を考えるのもどうかと思うが、もっと身体的にも精神的にも熟した適任者はいなかったのだろうか。

 

「……私は数学者だ。数式を用いてあらゆる術理の解を算出することが、この霊基に望まれた役割だ。そのような英霊もカルデアにいるだろう」

「は、はい。数学者のサーヴァントなら、召喚例がありますが……」

「さぞ偽りなき霊基、偽りなき姿、偽りなき力であるに違いない。――そうだ。我らは間違いがあってはならない。その式に過ちがあってはならない。その私が――!」

 

 どうしたんだろう、彼。

 興奮した様子で机を荒々しく叩いたかと思えば、途端に脱力してソファに腰を下ろす。

 

「――どうやら、霊基の不調のようでして。サーヴァントとして備わった能力、その殆どが十全に振るえる中、たった一つの計算式にだけ答えが出せないのですよ。このような事、あってはならない不具合だ」

「……その計算式って……」

「この世界の真実。何度計算し直そうと、理不尽な解にしか至らない」

 

 ――理不尽で出来たような世界だし、当然じゃないだろうか。

 正直、私も自覚があるぞ。客観的に見ればどうしてこうなったと言わざるを得ないようなことも多い。

 それを、どれだけ凄くても別の世界の、別のセファールという存在を前提として認識している彼がたった数日で理解することは出来ないと思うが。

 

「難儀ですねぇ。答えが出せないなら出せないで良いでしょうに。それは即ち“辿り着くには早い”ってことなんですから。今を生きる人間ならまだしも、英霊の身でそれより先に踏み込むのは無粋ってヤツですよ」

 

 煽りおる、コヤンスカヤ。

 どちらかというと今回の場合は“辿り着くには早い”というより“世界観が違う”という側面が強いと思うが。

 ところが向こうの世界としては正論であったらしい。リツカやマシュはまるでコヤンスカヤがまともなことに驚いたように顔を見合わせている。

 対して、アルキメデスはコヤンスカヤを一瞥した後、天井の照明装置に目を向ける。目、死んでない? その照明装置の術式、二百年くらい前にらむくんが組んだ死ぬほど飾り気のないものだし、見ていてもリラックス効果とかないよ?

 

「ふん、流石に玩弄対象のこと程度は理解していると見える。貴女にその性質があるように、私にも性質がある。私がこの世で唯一美しいと感じるものは、絶対不変の数式のみ。その解を求める機能に不備が生じるなどあって良い筈がない」

「どういう式で何処に至ったのかは興味もありませんが、私はどうも前提か認識が間違っているような気がしてならないんですけどね。ま、悩むのは良いですが、防衛機構の改造については、一度手を付けたなら途中で放り出さないでくださいね。こっちの手間が増えますから」

「言われずとも――この世界の方向性、人類という種の在り様は、少なくとも汎人類史よりは合理的だ。まともに物を考え、理解し、吸収する至極当然の事が出来ているうちは、その式の無駄を修正してやることも吝かではないとも」

 

 実際、凄い助かっているみたいなんだよね。アルキメデスによる術式改良。

 元々は修復の仕方を修正しただけらしいのだけど、それを基盤にして運用コスト削減を手掛けたところ、更に助言をしてくれたとか。

 たった数日で時代が百年は進んだ気分である。凄いなそっちの世界。

 コヤンスカヤが納めてくれた砲弾もまた、凄い。何かが凄い。

 技術局の子たちが調べた限り、この世界で作られているものと変わりないというのだが、これが使ってみると、妙に威力が高いのだ。

 コヤンスカヤ自身が監督している場合のみの現象らしいが。何かしてるのかな。

 

 本命の答えが出ていない様子のアルキメデスには申し訳ないが、手伝ってもらっている状況は本当にありがたい。

 誘導など知ったことかと術式を突き破って街中に落ちてくる侵略種というのも珍しいものではないのだ。

 そうなれば被害は甚大だ。全土のワルキューレを集め、私やセイちゃんもその場の用事を切り上げる事態になる。

 ――この数年、そうなってしまい、更に最悪の事態にまで行き着いたことだってある。技術の結集した、この巨神国の中でさえ、だ。

 それでも折れない。誰一人、もう駄目だと諦めた者はいない。

 ゆえに――

 

「っ、と……慣れないな、この感覚」

「は、はい……セファールさんが放つ世界を修復する波、ですね」

 

 世界の不和を修正していく。陥穽を埋め、亀裂を縫って補修していく。

 皆が生きるための、完全な世界へ。皆が戦っているのだから、せめて彼らが立つ土台だけは、あるべき姿を保たんと。

 その波の中で零れ出るように、戦禍から人々を守る使命を持った娘たちが生まれてくる。

 どうやら、私の思考は大体、生まれてくる時に共有されてしまっているらしく、彼女たちには――この決意だか強がりだか、自分でも判然としない感情を知られている。

 だからこそなのだろう。彼女たちが、この世界に命を賭してくれるのは。

 どうにもならない遣る瀬無さを覚え、それもまた感付かれているのだろうなと思っていると。

 

『――む?』

「何かありました?」

『……ん。なんだろう――ちょっとだけ、様子の違う子が、生まれてきたみたい』

 

 ワルキューレたちは生まれると、ひとりでに私のもとに集まってくるけれど。これは少し、見に行った方が良いかもしれない。

 私の娘であるのは間違いない。けれど、純粋なワルキューレとは違う。

 

 感じ取れる性質は、どちらかといえば――世界の敵となるものみたいだ。




■藤丸立香
金色で光沢のある果実を齧って戦う姿はセファールをドン引きさせた。
『色合いからして絶対に体に悪いので栄養補給ならちゃんとした料理を食べてほしい』

■マシュ・キリエライト
金色で光沢のある果実を齧って戦う先輩を全力で守る姿もセファールをドン引きさせた。
『リツカのブレーキ役と豪語していたマシュすらあの様子とかカルデアって組織が心配になる』

■コヤンスカヤ
殺戮技巧(人)――その時代にある人類の兵器を自在に使い、威力は『人類が使う場合より数倍のものになる』というスキル。
これにより自身の指揮下で防衛機構を運用している場合やたらと火力が上がる。
仕方のない契約上の話とはいえ、この能力を人類を守る側として使うのは如何なものかと思っていなくもない。

■アルキメデス
まるで月の王が赤子になった世界線の如くごちゃごちゃと捩じくれた理不尽なルートに辿り着いた苦労人。
サーヴァントには睡眠は必要ないし老化もないが徹夜業務に明け暮れ身も心も擦れ切った社畜のような雰囲気を醸している。
重要な点には答えを出せない一方で、防衛機構の修復や改良は物凄い勢いで進んでいる。誇張抜きで百年単位の進化を果たしており、素で異世界チートみたいなことをしている。実際“みたい”じゃなくて異世界チートである。
兵器を作成して運用している訳ではなく、あくまで改良案を提供しているだけのため、各種防衛機構に彼の殺戮技巧(道具)スキルは乗っていない。

■種火
FGOにてサーヴァントのレベルアップに利用する素材。
数名のサーヴァントの発言によると、実際に食べるし美味しいらしい。
第二部にてその正体が判明した。年代的に例のトリックスターがこの世界に生まれていたかどうかは不明だが、少なくとも似たようなものをセファールは食べた。
ちなみに、種火が通称となっており効率的に収集できるクエストの名称も「種火集め」だが、実際に素材の名称に「種火」と付くのは最低レア(イクラ)のみである。

■上位の侵略種をこれだけ相手に出来るこの世界の戦力
セファール(端末含む)、聖剣使い、アトリ、ブリュンヒルデ、へかてさま。
それから戦士としての道を歩んで数百年というレベルのワルキューレたち。あとちょっとおかしい人間約一名。
一騎当千のワルキューレたちは世界全土に派遣され、各所で戦っているが、それでも少ない。戦力が一人二人増えるだけでありがたがられるレベルで。

■数学者の英霊
身長250cm(鎧込み)、体重500kg超(鎧込み)。通称蒸気王。
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