たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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もがいたヤツだけが生き残る。それ、カイジのポリシー。
そいつらもちょっと似てる。だから生き残ってもいいんじゃないかって思った。


第六幕『みにくい白鳥の子』-4

 

 

 数千キロと離れた場所に移動する際、一番時間効率が良いのは転移装置の利用だ。

 端末を特定地点に下ろすのも、はじめに比べれば早くはなったが、それ以上にこの技術が発展する方が早かった。

 

 とはいえ、これも万能ではない。

 装置を構築している術式は非常に精密であり、特に座標を特定するための情報量は膨大となる。

 既存のものを模倣しても座標を変更することが出来ず、装置の構築に携われるのは魔術局、技術局に所属する中でも一握りだとかなんとか。

 私は魔術に明るくないため知識としてしか知らないが、少なくとも短期で組み上げられるものではない。

 往復を考えると二つの装置の構築が必要であり、未だ以てこの世界における大事業の一つと言える。

 地を駆け、海をも渡り、そして空は諦めた人々が編み出した、距離を飛び越える手段。

 それでも誰一人自在な技術としては独占出来ない、最高峰の術式。

 

 ――しかし、どんなものにも例外は存在する。

 

 座標を素早く特定し、短時間で術式として組み上げ、転移という結果を出力する規格外の業。

 多分、こればかりは向こう数千年経っても人間には手の届かないだろう魔術の極致。

 それを成せる者が、二人いる。

 この世界における魔術の頂点と、二千年間彼女の弟子として腕を磨いた愛娘。

 ――要するに、ヘカテとブリュンヒルデである。

 

「着きました、お母様」

『ありがと、ブリュンヒルデ』

 

 魔術の使用法としてナンセンスとされる、その場で組み上げたものを使用するという使い捨てによる行使。

 個人的に使うにしても、何かしらの道具に焼き付けて使用するのが基本的な中で、そんな即興使用は普通は行われない。

 戦闘の手段に魔術を選択したワルキューレたちも然り。その場で一つ一つ使い捨てで組むなど、侵略種を前にしている状況では悠長に過ぎるのだ。

 だからこその魔術礼装。

 魔術を仕込んだ礼装を携帯し、状況に応じて使い分けるというのが彼女たちの定石だ。

 礼装の方向性は多種多様。牽制用の魔弾を放つ銃砲やら、衝撃を与えることで過剰に込めた魔力を爆発させる爆弾やら、魔力の放出が齎す推進力によって自爆覚悟な突撃の威力を向上させるジェットやら。

 あまりにあまりな戦い方でなければ、私もそれを否定することはない。出来る限り危険の少ない、得意な戦い方をすべきだ。ジェットについてはその日の内に禁止させた。

 

 ――ともかく。

 ワルキューレだろうと礼装による魔術行使は当たり前のもの。術式一つを取っても構築に手間の掛かる魔術は、使い捨てに向いていないのだ。

 ヘカテは例外だった。元々魔術はヘカテに伝えられたもので、彼女はそれに特化した力を持っていた。

 複雑な術式でも数秒あれば組み上げ、即興で使用することが出来るために礼装を必要としない規格外。

 そんなヘカテの無形構築を、ブリュンヒルデは習得した。

 流石に師に速度で勝ることはないものの、それでも即興の魔術だけを武器として侵略種と真っ向から戦うことが出来るほどに。

 まあ、どちらかというと彼女は防御的な魔術の方が性格的に得意のようだが。些か過剰に過ぎる気もする防御性能はヘカテさえ引くほどだ。

 魔術の腕でヘカテの次点にあるブリュンヒルデならば、他の術式に比べれば時間や負荷は掛かれど転移を組み上げることも不可能ではない。

 数分間であってもワルキューレたちのネットワーク中枢という役割が疎かになるのは良くないため、ここ数年、それを行うことは殆どなかった。

 しかし今回は例外。

 ブリュンヒルデも、ワルキューレの誕生に異変が生じたことは察したようで、その場所に自ら赴くことを決定した。

 私も端末を回収して転移に同乗。

 この状況は出来るだけ早めに確認しておかなければならない。付近に転移装置はないし、その場に端末を出現させるより此方の方が早かった。

 

『――気を付けて、ブリュンヒルデ』

「はい、お母様も。いざとなれば、私が何としても守ります」

『それ逆。私が守る方』

 

 流石にそれは譲れない。

 この端末は極論何度破壊されてもいいものだけど、ブリュンヒルデに代えは利かないのだ。

 さて、転移で訪れたのは人気のない樹林。

 文明の手が伸びていない。そのような場所には侵略種も殆ど落ちてこないため、ワルキューレたちが近くを飛ぶこともない、秘境とも言うべき場所。

 荒れていない自然の姿を端末を通して視界に収めているというのは割と貴重な時間だった。

 余裕がない状況だと分かっていても、少しの間目を奪われてしまうほどに。

 いいな、この場所。落ち着いたらまたみんなと来たいものだ。

 だけど――今はそれどころじゃない。

 この光景に見惚れているばかりではいられない要因が、そこにいる。

 

「向こうも――気付いたようですね」

『ん。あの子凄いな。ワルキューレだけど、ワルキューレじゃない。単独で持っている力は、もっとずっと大きい』

 

 人の姿を取り、そこから姿が大きく変化することのないワルキューレの中でも、特別幼い容姿を持って生まれた彼女。

 それが、“元々は”ワルキューレではない、違う何かであることはすぐに分かった。

 その因果は不明だが、本来の――あの小さな身体に秘められた力は凄まじく大きい。

 今の姿であれば、全容を振るうことは不可能だろう。

 だが本性の大きさを見るに、それを十全に振るえたならば、勝てる者はこの世界でもどれだけいるだろうか。

 私の本体、セイちゃん、あとはアトリとエクリプスが勝てるかどうか、かな。

 そんなレベルの、一級の危険人物(ワルキューレ)

 ブリュンヒルデは警戒を隠さない。私も注意こそするが――何だろう。

 あの子に定められた“星の滅び”、少し歪んでいる。

 

 炎の如く赤い長髪と金の瞳。

 手足の先は黒く、目元に走る黄色い紋様は瞳と同じく爛々と輝いている。

 側頭部から伸びる黒い角。

 そして、左胸――心臓の位置に痣のように広がっているのは――霜?

 全体で炎を形作るような印象の彼女の中で一際異質な冷たいものが、体の最も温かい筈の部分を覆っていた。

 

『――体の調子はどう?』

 

 此方を怪訝な表情で睨め付けてくる彼女に、とりあえずは問い掛ける。

 どういう経緯があれど――その前提があったにしろなかったにしろ、あの体は彼女にとって初めて得るものである筈だ。

 生まれて、体を持つということに戸惑い、上手く手足を動かせない子も時々いる。

 彼女の場合、立って、動かすことは出来ているが……。

 

「……は?」

 

 私の問いに対して、意味が分からないとばかりに彼女は声を漏らした。

 少し掠れた、響くような声。

 発声はまだ慣れていなさそうだ。それでも、その力を誤って放出してしまうことがないのは凄い。あんなの、普通であれば持て余して暴走させてしまいそうだが。

 

「貴女はその姿を得てまだ間もないでしょう? 何か不都合や不具合はないですか?」

 

 ブリュンヒルデの声色は、普段妹たちと話す時のものより、少しだけ硬い。

 普段通りにしようと意識しているのが見て取れる。意識しないといけないくらい、あの子の異常性は大きかった。

 

「――――大いに。不都合も、不具合も、大いに。俺に起きたことは、理解している。俺が再び肉の身を持ち、よもやそれが矮小な星守の戦乙女の器だとは。しかも――」

 

 その視線は、私からブリュンヒルデに移る。

 驚愕、怒り、或いは別の何か。

 暫しブリュンヒルデにそれを向けていたが――にわかに左胸を覆う冷たさが強くなると、彼女は目を閉じた。

 

「……またも、お前か。お前が、俺の前に現れるのか」

 

 ――?

 まるでブリュンヒルデと面識があるような物言い。

 ブリュンヒルデは覚えがないようだが、彼女のその言葉には何かしらの実感が伴っている。

 人違いか、もしくは――。

 

「……本来、我々ワルキューレは世界の修繕に揺られ、ここに辿り着きます。しかし貴女はそうではない――そういうことですね?」

「直前に微睡む感覚があったことは否定しない。だが、然り。俺には異なる世界を生きた記録(きおく)がある。己が身命を賭した星の終末は叶わず、滅びた筈の魂がここに流れ着いた。そこに何の働きがあったかは知らないが」

 

 違う世界……最近多いね、そういうの。

 要するに、リツカやマシュ、ドーマンにコヤンスカヤ、アルキメデス――彼らと似たような存在、ということか。

 彼らと違うのは、彼女は別世界からの訪問者ではなく、あくまでこの世界で生まれたワルキューレと定義できること。

 その魂、その力の由来がどこにあったにせよ、私にとっては娘であることに間違いはない。

 

「異なる世界――そこにいた、私と似た誰かと縁があったと」

「然り。俺は貴様らに滅ぼされた。それが、よもや同質の星守に生まれ直そうとは。――――クク。やはり、俺は運命への叛逆もままならぬか」

 

 どういう訳か、この世界に流れ着いた、誰かの魂。

 それがワルキューレとして生まれた。その魂に根付いた力を、尚も有したままに。

 自嘲するように笑う彼女の言葉をひとまず、全て信じるならば、どこかの世界で彼女は己のやりたいことを成し遂げられず、道半ばで倒れたのだろう。

 つまるところ、運命というものに負けた。

 その望みがどういうものだったにせよ――そこには強い想いがあったというのに。

 なるほど――何かが縁になったというなら、この世界に来る訳だ。今もなお、滅びの運命に抗おうとしているこの世界に。

 

『――ねえ』

「なんだ」

『君の、元々の名前は? 覚えているんでしょ?』

 

 膨大な炎に、氷を包含した矛盾の力。

 それを以てどこかの世界に終末を齎そうとした誰か。

 そうであろうとも良い。気にすることはない。

 

「――俺はスルト。氷焔の巨人王であった者。古き時代の終わりを望まれ、それに抗い、星の終わりを望んだ者。己が見られぬ筈の明日を望まなかった者だ」

 

 ――この世界においては、過去の罪などどうでも良いことだから。




■セファール
自身の世界で発展している技術についてはだいぶふわっとした認識しかない。
ヘカテによって魔術が伝えられた当初、学んでみようとはしたものの、セファールという存在に理解出来るものではなかったのである。元女神の推測大当たり。
既に構築されたものに魔力を通して起動することは出来る。
新たに生まれたワルキューレの異常性を感知して確認に向かい、そこでかつて星を滅ぼそうとした者と出会う。
たとえ星の終末装置だろうと、ワルキューレとして生まれた以上は娘である。どこぞの姉より理屈は通っている。

■ブリュンヒルデ
ヘカテの独自技能であった魔術の無形構築を体得したセファールの次女。
魔術においてはヘカテの次点を行き、他のワルキューレたちでさえ及びもつかない技術を誇る。
戦闘能力もこの世界においてトップクラスだが、単純な戦闘では彼女の上を行くワルキューレもいる。
本領は守勢。特に彼女が携わったセファールの神殿の防備はセファールもドン引きするほどの強固な防衛力を持っている。

■魔術礼装
ミスティックコード。この世界において発展した魔術の形式。型月における同名単語とは異なるもの。
組み上げた魔術を焼き付けた道具全般を指す。
魔術の性質上、その場で組んで使うことは非常に稀であり、礼装を介して使用するのが一般的。
この世界では魔術は当たり前になった文化で、日常的に使われる。汎人類史における電化製品が此方では魔術礼装として発展している例は多く、一般人であろうと一日中魔術礼装に関わらない日がある人物というのはそうそういない。
道具全般と先述したように、用途は日用品から武器まで幅広い。防衛機構も魔術礼装の一種。
一部のワルキューレが戦闘に使う、己の戦法に則した専用の魔術礼装はそのワルキューレの象徴でもあり、本人とセットで語られることも。
例えば――技術局を長年支えてきたワルキューレ・リラエアが空で戦っていた頃に使用していた、複数の防衛機構を縮小して携帯し、敵に向けて弾切れになるまでぶっ放す重武装は彼女の象徴。魔弾の軌跡が複雑に絡み合いながら敵を追う光景に当時の技術局は湧いたそうだ。

■スルト
そこに性転換タグがあるじゃろ?多分ラグナロク編で最大のサプライズ。
北欧異聞帯において敗れ、どういう訳か性転換し幼女に転生を果たした誰得巨人王。大神「は?」
それにしてもこの世界、戦力の補充に見境が無さすぎである。
だいぶややこしい経緯を辿っており、とある事情からだいぶマイルドな補正が掛かっている。
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