たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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第七幕『レジスタンス』-1

 

 

『ヤバいかも、これ』

 

 ――それを感じ取って、最初に出てきたのがそんな感想。

 まともなものとは思っていなかったが、ここまでだというのも予想外。

 この世界に当然のようにある、けれども侵略種と比較すれば、どうとでもなる天災とはまた違う。

 それは、世界を滅ぼすに足る嵐だった。

 

 巨神国に程近い海の上で、予兆もなく空気が荒れたのが大体一時間前。

 侵略種たちとは違う、この世界に発生した異常。リツカたちとも違う、巨大な規模。

 何より、異常ではあるが異物感はない。どこか懐かしいような、それでいて悍ましい悪意を宿した風が吹き荒れていた。

 

「――これはこれは。“頑張ろう”、“負けるものか”と前向き一辺倒な世界において、この突き刺さるような憎悪。なんとも、なんとも、新鮮でありましょうや、セファール殿?」

『ちょっと静かに』

「ンン――」

 

 煽るドーマンを黙らせる。これがなければ文句の出ないほどブリュンヒルデの助手として優秀なんだけど。

 しかし、なんだろう。この痛いほどの気配は。

 侵略種であれば、このような悪意は感じない。ただそれが己の役割だとばかりに、私たちを害するためだけにその力を使い尽くす。

 けどこれは――その存在本来の役割とは違う悪意だ。

 そう作られただけでは出せない鋭さ。理由があり、実感があるからこその強い感情だった。

 

「どうします? 手っ取り早く片付けますか?」

「少しだけ、待ってください。今ヘカテ様がこちらに向かっているそうです」

 

 逸るセイちゃんをブリュンヒルデが止める。

 正直、その選択は間違っていないかもしれない。これは放っておいてはいけないものだし、下手を打てば手遅れという事態も考えられる。

 だが、それはヘカテに尋ねてからだ。

 ここ最近ずっと姿を見せていなかったヘカテが、久しぶりにブリュンヒルデに連絡を寄越した。

 そして、こっちに向かってきているということは、何か話があるということで、状況からして“これ”に関わることだろう。

 

「そうですか。――で、そちらはどうしてここに?」

『私が呼んだ』

 

 リツカ、マシュ、コヤンスカヤ。それから最近ここに居ついているドーマン。

 絶賛防衛機構の改良に手を貸してくれているアルキメデスを除く、別の世界からやってきた面々。普段はこの神殿の屋上庭園にやってくることはない異邦の客人。

 直近の異常といえば彼ら。私たちでは知らないことを知っているし、何か知恵を借りられないかということで集まってもらったのだ。

 対するこちらの世界のメンバーは私、セイちゃん、アトリ、ブリュンヒルデ。

 それから、リツカたちと同じ理由で来てもらった私の娘(ワルキューレ)の新顔、オフィーリアである。

 ――ところでどうしたんだろうね、オフィーリアと、それからコヤンスカヤ。

 苦虫を十匹くらい同時に噛み締めたような顔してるけど。

 

「……」

「……」

「……コヤンスカヤ? どうしたんだ?」

「…………いえ、既視感とかその手の類でお二人が何も感じないならそれでいいです。ただ、まあ。“この世界すげーな”って改めて感じただけで」

 

 よく分からないが褒められて悪い気はしない。

 多分、コヤンスカヤは彼女の世界にいたスルトと面識があったとか、そういう話だろう。

 紆余曲折あったがオフィーリアという名前を受け入れた彼女は既にワルキューレの一人だ。もう過去を詮索することはない。

 とはいえここに来てもらったのは、リツカたちと同じ理由。

 特殊な出自だ。もしかすると知っていることがあるかもしれない、と。

 

「――久しぶり。揃ってるわね」

 

 オフィーリアとコヤンスカヤが妙な睨み合いを続けているうちに、ヘカテが転移してきた。

 

『お帰り、なんか錆びた?』

「錆びたわ。もう本当、勘弁してほしいって感じ。私、万能艦じゃないってのに」

 

 肯定するのか。確かに、最後に会った時よりさらにくすんだ感じだけど。

 大丈夫かな、ヘカテ。あそこまで――あそこまで自分の体を重そうにしていること、今まで無かったぞ。

 こちらの心配を他所に、ヘカテは見知った面々を見渡した後、初対面の子たちに目を向け――

 

「……うわ」

「誰とも存じませんが、初対面でドン引きされる筋も無いのですけど」

 

 コヤンスカヤを見て止まる。ヘカテといいオフィーリアといいどうしたの?

 

「なんとも凄いのが来たって思っただけよ。けど、この世界じゃそういうのはウケないでしょ。人間の足掻き方が違いすぎて」

「……否定はしません。とはいえ私、今回は“そちら”ではなくビジネスとしてこの世界と付き合っています。契約分は真面目に働かせていただきますので、よしなに」

「そ。なら私からは何も言わないわ。それで、そっちのはいいとして――」

「拙僧の扱いが雑すぎでは?」

「喋らせると長いと判断したのだわ。今はそんな余裕ないの」

 

 何やらヘカテ、コヤンスカヤについて察したらしい。

 彼女の本質は私には表面くらいしか理解できないけど、ヘカテの場合はもっと深く把握できているだろう。

 まあ、この世界に何かするつもりでなければ、そういう“悪”であっても私は何も言うつもりはないのだが。

 コヤンスカヤの大したビジネスマンシップに頷いたヘカテの視線はドーマンを通り過ぎ、リツカとマシュに向けられる。

 話したことないのに、相変わらずヘカテは人を見る目があるな。確かにドーマンに喋らせておくと気が滅入るってブリュンヒルデからも苦言されているけど。

 そういう道化というか、狂言回しみたいな役割を気に入っているとか何とか。

 実際に自分の言葉の巧みさたるや、別の世界において唯一の王に幾度となく世界を作り替えさせているほどの領域にて――みたいなことを自信ありげに嘯いていた。碌でもないことになっていないか一抹の不安を抱く。

 

「そっちが本命ね。別の人類史からの人間たち。なるほど、大したものを背負っているじゃない」

 

 ともかく、コヤンスカヤとドーマンより、ヘカテが関心を持っているのはリツカとマシュのようだ。

 

「本命……? 君は――」

「物怖じは無し、と。セファールの前だからか、それだけの場数があるからか……」

 

 というかリツカたちが来てからヘカテはこちらに顔を出していなかった筈だけど。

 別の世界から来たとかそういう事情は既に把握しているようだ。こういうところに、時々彼女が元・女神だというところを感じさせる。

 

「私はティターン神族の裔。新月の魔女。冥府の案内人にして、星を照らす導きの一灯。そっちの人類史では残っているかしら、ヘカテの名は。貴方たちから感じられる神代の気配はあくまで後付けのものみたいだけど?」

「ヘカテ……それって――」

「はい――わたしたちの人類史では、ギリシャ神話にその名前があります。メディアさんやキルケーさんに魔術を授けた女神です」

「知っているなら良し。その二人が誰かは知らないけど、こっちの人類史では潰えた神々唯一の生き残りってことになってるわ」

 

 私がリツカたちの世界で倒されていた一方で、ヘカテは向こうでもしっかり魔術の師匠になっているらしい。

 凄いな、世界が変わってもやっぱりお人よしだ。ヘカテはヘカテだということか。

 弟子まで有名になっている辺り流石といえる。その子たちも魔術の腕は卓越したものなのだろう。ただ、ヘカテが世話を焼き過ぎて世間知らずになっていないか不安だが。

 ん? どしたのヘカテ。

 

「――普通は伝わるのよ、こういう風に」

『なんの話?』

「都合悪いこと忘れていると後で痛い目見るわよ」

 

 そして謎の恨み節である。

 疲れ切っているからといって機嫌を悪くするのは如何なものか。

 ほら、皆困惑しているぞ。誰もついていけてないじゃないの。

 

「――ともかく。貴方たちの事情は把握しているわ。この中心部の防衛に余裕ができる日が来るなんてね。まずはそこに礼を言っておきましょう」

「あ、ああ――けど、俺たちはとにかく、目の前の“出来ること”にぶつかっていっているだけだ。根本的な解決には何も――」

「そこは貴方たちに頼むところじゃないわ。だって――特異点、だっけ。それの解消に来たんでしょう?」

 

 どこから把握しているかは知らないけれど、ヘカテは実に話が早い。

 特異点のことを話題に出すと、リツカとマシュは目を見開いた。一方で、コヤンスカヤは怪訝な表情である。

 

「やっぱり……侵略種は特異点の発生による影響じゃないのか?」

「ええ。数が加速度的に増えているのは影響の一端かもしれないけど、存在そのものは関係ないと断言出来る。貴方たちの目的はあくまでこの世界の、この時代を歪ませているものでしょ? なら、思い当たるものがあるわ」

 

 マジでか。もしかして現状だと私よりヘカテの方がこの世界のこと、理解しているのかな。

 感覚としてこの世界を感じられると言っても、感覚そのものが鈍くなっている訳だし。

 

「以前――貴方たちより前に、別の人類史からこの世界に来た者がいたの」

『何それ知らない』

「あれだけ巧妙に存在を隠していたらセファールどころかヒルデも気付かないわよ、きっと。私が見つけたのはその残滓だったから、もうこの世界にはいないと思うけど、色々とこの世界に干渉していたみたい」

 

 リツカたちより前――やっぱり知らないな。

 ヘカテが見つけた段階で残滓であったということは、彼女が気付くもっと前からこの世界にいたのだろう。

 何をしていたのかも分からない。“それ”そのものがもういないということは――検証するのも、もう不可能か。

 

「干渉の内容で、分かったのは一つだけ。よりにもよって、今触れられたくない一番厄介なものを叩き起こしてくれたわ」

『厄介なもの?』

「ええ。適当に夢を操って安らかな方に導いてやろうとしたけど、流石に無理だった。この世界に在るだけだったそれを現界させる程の膨大な魔力リソースを受けたのだと思う」

「膨大な魔力リソース……聖杯、でしょうか。わたしたちが観測した特異点の異常は、これまで大半が聖杯の影響によるものでした」

「あれが貴方たちと同じ人類史から来たなら、それかもね。ともかく、本来目を覚ますべきでなかったものが目覚めた。それは立派な、世界の歪みと言えるものよ」

 

 細かい部分はよく分からないが、ともかくヘカテがこれまで姿を見せていなかったのは、その何かの対処に追われていたからか。

 そして、ヘカテの推測によれば侵略種が増えているのも――この世界が滅亡に向かっているのも、その何かによる可能性があると。

 では、その何かとはなんなのか。

 前置きが長いのは好きじゃない。目で訴えれば、ヘカテは呆れたように溜息をついてから、言った。

 

 

「――恨み、怒り、使命、希望――この世界が見捨てたものが、この世界に刻んでいった呪詛よ」




■ワルキューレ・オフィーリア
「……侵略種ポイント、累計報酬の管理はここで行っている。規定数に達したらここに来い。クク、落ちたものだ。この俺が店番などとはな」
・TS転生した
・ブリュンヒルデとかいた
・オフィーリアと名付けられた
・カルデア(あとコヤンスカヤ)と再会した←今ここ

■セファール
この世界を褒められるのは悪い気はしない。

■コヤンスカヤ
褒めてない。

■藤丸立香
この「異聞帯となる世界」において、彼は主人公ではない。
そのため、彼の視点では多くが不明なままに状況は加速する。

■三叉路のヘカテ
錆びた。
シリアスな状況だと知ってはいるが、それはそれとして元々の自分たちの名乗りのスタンスを理解してくれる人間たちが来たことは割と嬉しい。
ちなみにこういう前置きが好きじゃなかったり理解がないのはセファールと聖剣使いくらいである。
藤丸たちより先に来た、他の世界からの者――即ち大神によってこの時代に歪みが生じたと語り、大いなる災厄の目覚めを打ち明けた。

■大神
何もしてない。
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