たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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幕間『人理/学士』

 

「学士殿! 障壁術式三連装分の転換機構が組み上がりました!」

「無駄が多い。発動時に緊急事態が予想される機構において悠々と停止確認を行う暇があるか。転換後に回し、障壁を展開出来ない時間を極力減らすことを優先しろ」

 

「アルキメデスさん、牽制用術式の改良案です」

「これで構わない。後は出力礼装の量産に注力しろ。どうせこの戦いには間に合わんのだから、急ぐな」

 

「最高ですね。大破した術式の修復をここまで短縮できるなんて……いや待て、ここの作り必要か? 無ければより効率的な――」

「それに気付けるなら上々だ。私が見る限りあと六割は修復時間を短縮できる。宣言した以上、お前たちだけでやってみせろ。長期的に見て、その思考は時間の浪費にはならない」

 

「はははっ! やったぞ同志アルキメデス! 魔力炉臨界突破を安定させる基盤が出来た! 『赤い暁星計画』、偉大なる一歩だ! 人道のその先に真理が見えたっ!」

「誰が同志だ! 仮にも技術局トップであれば下らん趣味嗜好に時間を使うな! 機動軍神だか何だか知らんがこの世界にその技術はまったくもって不要極まる! というかそんなモノに手を出すとしてそもそも何故手始めが自爆機構の用意なのだ!」

 

 

 たった一つの結論に向けて歩む種族は、合理的である。

 召喚を受けて暫く経った私の目に、その“群体”は好ましく映った。

 

 なるほど道理だ。こういう世界であれば私が召喚に応じる可能性もあろう。

 汎人類史――人間たちが個々に己の命題を見出すところから生を始める、極めて非効率的な世界。

 私の見識は、その中に留まっていた。

 ゆえに、召喚に応じることは一度もない。幾度望まれようともその全てを拒絶する。

 それが理屈屋の人間嫌い、アルキメデスという英霊だった。

 

 そんな私が召喚されたということは、自然と状況は二択に絞られる。

 個々の英霊の主義主張など省みている場合ではない人理の緊急事態か、私の信条に則った状況下での召喚だったか。

 或いはその両方だという可能性もある。

 前者を組み入れるとなると、ある程度この異質な世界が齎す汎人類史の危機というのも推測できる。

 その上で――この剪定事象、否、遠からず剪定される運命にあるこの世界に肩入れするというのは損失だろう。

 だが、私は汎人類史が招いた非合理の清算には関心がなく、カルデアに指摘するつもりもなかった。

 編纂事象と剪定事象の重みの差は、現状この世界が剪定されていない以上度外視するとして。

 この世界が、少なくとも汎人類史より合理的かつ効率的な発展を生むことを確信しているがために。

 

 セファールに支配された世界、とすると聞こえは悪い。

 人理にとってはこの上なく都合の悪い世界だろう。

 地球外の知的生命体によって作り替えられた新天地。

 

 それによって、人間という種は可能性の幅を失い、可能性の強さを得た。

 安息を失い、平等な勤勉を得た。

 完全な世界を得て、世界の外を失った。

 

 歪な世界だ。

 いつ崩れてもおかしくない土台の上に成った強固な道。

 可能性の枝分かれはすれど、目的、方向性だけは定まった幹。

 閉ざされた世界。たった一つの、妄信する終わりのために邁進する世界。

 されど、決まり切った道程というものは合理性を生む。他の目的を持たないからこそ、最短で解に行き着く姿勢が確立される。

 

 皮肉なものだ。

 人外――外よりの降臨者が理を書き換えたことで、初めて人類は“美しい”と思える種族に近付くなど。

 このように成長性のある社会であれば、いずれ来たる終わりの際には汎人類史など比較にもならない、整った式を描いていることだろう。

 少なくとも、この世界は私をして、導く価値があると感じさせるものだった。

 

 私は汎人類史の英霊である。

 私の召喚にどういう意図が絡んでいたにせよ、それが汎人類史のためであるという事実に変化はない。

 それは理解しているとも。もしも、他の事象が分岐点となった並行世界であれば、私もカルデアを軸として動いていたに違いない。

 

 だが、決定的に汎人類史と道を違えた世界においては、別だ。

 ここまでこの世界と関わってきて、私は確信した。

 

 ――ああ、この世界は、美しくなる。

 粗の目立つ式さえ整えてやれば、その先を、更にその先をと高みを目指すことが出来る。

 今後の時代においても試練となるであろう侵略種なる存在との戦いは、平和という発展への最適解を脅かしてこそいれど、屈してなるものかという、愚かではあるが確かな意思がそれを補っている。

 心底から驚いた。人類とは、目に見えた終末を指し示してやることで、ここまで効率的になるのかと。

 であれば私は。この世界を理解し得る私は。この世界の不明に対する解を見出したいを思う私は。

 ――――この世界に在ることこそ、相応しいのではないか。

 

 

 腹立たしくはあるが、どうにも不明な点はある。

 

 セファールが人類の庇護を望んだ理由。

 この世界の成り立ちに深く関わっているそれは、今や答えが喪失しているといっても良い。

 そもそも遊星の尖兵たるセファールはこの星の文明を破壊し、収穫を終えれば機能を停止するという一種の機械に過ぎない。

 意思のようなものは存在せず、ただ文明に対して力を振るう理不尽の化身である筈だ。

 それが、何故人間を――発端を辿れば、聖剣使いという個人を認識し、天敵であるそれとの共存を望むようになったのか。

 曖昧ではあるが初めからそうだった。それがセファールの回答だった。

 そうである筈がないし、元より当てにはしていない。だが、セファールが“人間を模倣して出力している人格”が回答として出したものだ。全く異なるというのも考えにくい。

 

 そして、聖剣について。

 まず、あの聖剣の出自こそ不明ではあるが、伝承通り妖精が齎したというならば、今なおその輝きが保たれているのはあまりにもおかしい。

 星の内海は既に無い。世界には裏も表もなく、かつての星の意思は既に潰え、神々の加護も最早木っ端が残るばかり。

 そんな、神秘が形を変え切った世界で聖剣が輝きを保つのは、世界全ての人間の祈りを束ねたとしても不可能だ。

 これについては、有力な考察こそあるがどれも真実だと断言できるものではないというのが現状。

 人間の代表でありながら、人間の在り方とは隔絶した精神を持つ聖剣使い。

 彼女自身が聖剣に対して一切の疑問を抱いていないというのだから始末が悪い。

 神々が、そして妖精がいた時代に彼女が聖剣の解析を――担い手として当然の責務を果たしているだけで、この謎は消えていたものだというのに。

 

 これらに確たる解を齎したいというのは、自然な帰結であった。

 退去してしまえば、これらは解答のない問いになる。

 関わった身としてそれは許容できない。

 本召喚に命題を見出すのであれば、これらの数式だ。この世界を形作るセファールと聖剣というピースがどのように成立したか。

 いわばそれは私に対する挑戦という訳だ。実に不合理、かつ非生産的な問い掛けではあるが、この世界の人類の成長を待ちながら解き明かす題材としてはちょうど良い。

 導くべきものと、解くべきもの。

 これらが揃えばなるほど、私が意思に反して召喚されるのも納得できる。

 

 そう、自身の召喚の理由に行き着いた時、私は汎人類史を裏切ることを選んだ。

 探偵の真似事ではないが、この世界の行く末を想像し、カルデアという組織が介入したことを考えれば、いずれこの世界が汎人類史と本格的に敵対することは容易に分かる。

 だが、それになんの躊躇いがあろうか。

 己の功が成した汎人類史だろうと、未練はない。そも、それを齎したのは群衆に対する寛容の証。

 なんら価値など感じていない以上、別の人類史に手を貸すことに負い目など覚えようもない。

 来たるべき時、私がこの世界に齎した進歩が汎人類史に牙を剥く。至極どうでも良いことだ。

 

 ――さて、ひとまずは、ここを乗り越えてもらわなければ想定外となるが。

 神々の呪詛との決戦。旧き世界への清算。アレへの敗北は即ちカルデアの敗北であり、汎人類史の敗北。

 セファールさえ出陣する大一番とはいえ感慨など持てず、私の目は防衛機構の改修、修繕に勤しむ人間たちに向けられている。

 ごく一部、カルデアに所属するどこぞの英霊から理論の飛躍した非常識を輸入したらしく、計算式を失い始めた技術者こそいるが、大局に致命的な欠陥を生むほどではない。

 人々がここより先に進歩できるかどうか。それはこの新天地そのもの――つまりセファールがどれだけ旧き理に抗えるかに委ねられている事だろう。




■アルキメデス
頭のおかしい世界に放り込まれてそれなりに経つ。
理性の怪物である彼だが、それゆえに一つの方向性に対して邁進する、汎人類史とは異なる社会性に理解を得た。
その結果、見事洗脳され汎人類史との決別を誓う。
ついでに解答などない命題への遥かなる挑戦も始まった。エウレーカできる日は来るのか。

■セファール
人間を模倣し意思を出力している……とアルキメデスは考察している。
人間がセファールに憑依したという大前提に至るほど学士殿は未来に生きていないのである。

■聖剣
学士殿「なんで輝いているんだ……?」
セファール『なんで輝いているんだ……?』
妖精「なんで輝いているんだ……?」

■『赤い暁星計画』
プロジェクト・マルス。
技術局特別主任リラエアの晩年を飾る一大プロジェクト。
かくも赤き叛逆の暁星、乱世の梟雄が振るう中華ガジェットは、異なる世界の技術者に浪漫(ローマ)を与えた。
やけに仰々しい名称だが、始まろうとしている神々の呪詛との戦いとは一ミリも関わらない。
本筋と並行してなんか進んでいる、クリアするとちょっとお得かもしれないサブイベントのようなものである。


★ウルト兎様よりアルキメデスのシンボルイラストをいただきました!

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