たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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第九幕『旧き神話の終焉地(ラグナロク)』-1

 

 

 大穴の開いた嵐が最も近く見える、巨神国の端。

 荒れた波の打ち付ける断崖に、その存在は降り立つ。

 

 追想した軍神の一撃という招集に応じるように飛び出してきた黄金の輝き。

 その眩しさとは裏腹に世界を裂く脅威性をこれでもかと感じさせる、どこか懐かしい“強さ”がそこにあった。

 遠視を得意とするワルキューレによって共有された視界を、ドーマンが投射して映し出す。

 それは人型に――人間に見えてはいるが、人の身で届くとは思えない巨躯だった。

 落ちてきたと同時に大地に罅が入る。罅から更に広がるように、赤黒い紋様が大地を走る。

 そして、その文様が、文字通り世界の罅となって、たったそれだけで僅かに世界を傷つける。

 

「巨人種もかくや……力は比べるべくもありませんね。人にここまでの権能押し付けるとか、流石の私もドン引きです」

「成り立った世界、必ずや破壊せしめてご覧入れる――大方そんな意思表示でしょうな? なんとも無粋なものです。舞台から壊し始めても面白くないでしょうに」

 

 荘厳で煌びやかな光輝は、印象だけでは呪詛とは思えない。

 だが、その両腕は確かに、世界一つなど壊してしまえそうな力があった。

 

 三メートルは超えようかという威容を包む、黄金の鎧。

 自信に満ちた――固まり切った真紅の瞳は、迷いなく私を捉え離そうとしない。まるで、与えられた使命によってそれを強制されているように。

 嵐の巻き起こす暴風に、鎧と同じ黄金の長髪は靡く。

 右手に握られているのは、分厚い刃を持つ大剣。石板の如きその刀身には、かつての秩序が刻んだであろう古の規律が荒々しくも几帳面に刻まれている。

 人の子であった頃の面影など、その顔立ちくらいしかない。

 個性の大半を不要とされ、その分懐かしき神性を注がれた器が、そこにあった。

 

「ダレイオス三世に匹敵する巨体、それに、あれは――」

 

 何より異様なのは、その腕。

 不自然に露出した黒い両腕には、地を走るのと同じ赤黒い紋様が駆け巡る。

 その二本が、彼の呪詛にして権能の中心だった。

 確信する。あれは私を傷つけ、殺し得る。文字通り世界を引き裂くことが可能な代物だと。

 

「……間違いありません。乖離剣――ギルガメッシュ王が持つ、原初開闢の宝具と、同じ力を感じます」

「ははぁ、なるほど。汎人類史であれば、私たちの誰もの弱点となる黎明の一振りと」

『何か知っているの?』

「ええ。遥か原初、まだ天と地さえ定まっていなかった混沌を切り分け世界を創った剣。それゆえ世界に対して絶対的な優位性を持つ、開闢の言祝ぎ。大方その力をあれの基になった人間に注いだということでしょう」

 

 世界を創る。世界を支える。世界を壊す。

 いずれも、ただの人間が成すには耐えられない所業であることは分かる。

 如何に後天的にそれに足る力を持ったとしても、器そのものが世界との差があり過ぎるのだ。

 

 ――これを成したかつての神は。

 この人間ならば耐えられるという期待も、別に持ってはいなかったのだろう。

 そのようなこと、どうでもいい。興味の対象ではない。ただ、与えた力を解き放ち、上書きされた新天地さえ砕けば、それでいい。

 神とは身勝手なものだ。そんなことは知っている。

 そして、その決定こそが秩序となる。私が世界ではない頃はそれが当然だった。

 

 即ちこれは、そんなかつての時代が遺していった産物。

 旧き世界との訣別は、終わっていなかった。世界を取り戻さんとする神々の、最後の一手。

 切り札とするのに相応しい権能なのだろう。

 

 何となく、胸の奥に冷たさを感じてそれを見下ろしていれば、ヘカテに言葉を投げられる。

 

「……念のため言っておくけど、セファール。あの権能、かつての私より上のものよ。つまり、今の私だとまともに受け止められるかすら不安なくらいの」

『――だけど、私が受けるともっと危ないってことだよね』

「理解があるようで何よりだわ。アレは立っているだけで開闢の渦を起こし、世界(あなた)を挽いて傷つける。言わば、聖剣と同じくらい、貴女にとっては天敵なの」

「私なら一撃で世界真っ二つにできますが」

「マウントが世界規模で不謹慎だ……」

 

 確かに聖剣もあれも、私の弱点だ。だが、聖剣はまだ私を斬ることはない。それはもっと先の話。

 その終わりを、正しく迎えるために。私はあれによって終わる訳にはいかない。

 私とセイちゃんが決めたそれを、ヘカテが理解して、賛同を示してくれた時はあっただろうか。

 

 元・女神であって、だけど人の理解できる範疇で親身な彼女は、世界ではなく人類の味方だった。

 文明を教え、鍛える、霊長の師として、常に想定外に驚き、想定外に期待してきた。

 

 この世界の上に在りながら、ただ一人、価値観の隔絶した存在。

 世界の終わりに寄り添わず、世界の“イマ”を庇護する者。

 それが、ヘカテ。この世界で一番の過保護の名前。

 

『大丈夫。この世界の終わりは、まだ早い』

「――上等。全力で守られなさい、私たちの世界(セファール)

 

 何が言いたいかは分かっていた。

 これでも一万年以上の付き合いだ。時々よく分からないだけで、基本的には言葉の裏だってお見通し。

 この戦いが始まってから何度目か分からない、ヘカテの大きな決意。

 私はそれを、ただ受け止める。ヘカテの女神としての、そしてこの世界に生きる一つの命としての矜持だと知っていたから。

 

「今聞いた通り、敵は世界を切り拓く腕を持っている。だけど、アレは尖兵に過ぎない。本命はあの嵐の中。まだこの段階では、こっちの全力を出してはいけない」

 

 この場の全員に、ヘカテは言う。

 あれと嵐は別のもので、同様に脅威ではあるが、ゆえにあれを倒しても決して油断は出来ない。

 力を温存した上で、世界を裂く相手と戦わなければならない。或いは、カルデアの面々には馴染みが薄いかもしれない。

 だが、大丈夫。世界の脅威との戦いというなら日常茶飯事。今だって、世界中で繰り広げられている。

 それが今回は相手がとびっきりだというだけ。

 寧ろ、底が見えているだけ有情だとも言える。

 それに――この世界には、“細かいことを考えないことができる”プロフェッショナルがいるのだ。

 

「その先兵とやらも、本命も、全力を出し続けて斬れば良い。簡単な結論ですね」

「それが出来るのは貴女だけなのだわ」

 

 全力を使ってあれも嵐も両方斬る。そんな考えを当然に抱ける、この世界の希望が。

 

「貴女とアトリ、エクリプス、オフィーリアが出なさい。それから汎人類史の四人、貴方たちは待機。嵐の影響を受けない貴方たちは、本命が出て来てから尽力してもらうわ。ヒルデ、貴女はワルキューレの統制を続けつつ三人の援護。状況次第で私の防御術式を補佐してくれる?」

 

 手早く指示を出し、方針を確定させる。

 セイちゃん、アトリとエクリプス、そしてオフィーリア。

 この世界の戦力の最上位によって、黄金の呪詛を吹き飛ばす。

 NFFサービスの四人は、その後の嵐への対処に集中してもらう。彼らが何より、消耗を気を付けなければならない。

 私には特段、役割は定められない。

 私のすべきは生きること。無論、ここから幾らか手の出しようもあるが、極力それもせずに、壊されないことを第一とする。

 

「問題ない。いくぞ、(エクリプス)。セイちゃんはいつも通りだが――オフィーリア、お前は大丈夫か? どうも調子が悪そうだが」

「……いや。俺はいつも通りやらせてもらう。加減はせんぞ」

「それなら安心だ。私やセイちゃんが加減せずとも、お前ならば対応できる。期待しているぞ」

「……」

 

 うん、オフィーリアの活躍は目覚ましい。

 アトリにも勝る膂力と、珍しい炎を扱う力は、昔から戦い続けてきた娘たちにも劣らない。

 ということで、特に気負わないことで全力を発揮できる娘だから、アトリもセイちゃんもあまり圧を掛けないであげてほしい。

 

「それじゃあ、行きましょう。手早く終わらせて、本命に移りますよ」

 

 聖剣を引き抜き、セイちゃんが言う。

 何やらリツカとマシュが目を見開き、こそこそと話し始めたが、そんなことを気にも留めず、アトリとオフィーリアに近付いて転移術式をまとめて組みやすい位置に立つ。

 早くしろとばかりにセイちゃんはヘカテに視線をやり、ヘカテもまた向き直った。

 

「間違っても、死ぬんじゃないわよ」

「そういうのいいです。いつも通りに出立して、いつも通りに戦って、いつも通りに戻ってきて。いつも通り、明日を迎えるので」

「――そ。なら、いつも通り無双してきなさい。アトリも、オフィーリアもね」

 

 しっしっ、と追い払うように、ヘカテが手を振るう。

 その片手間で転移術式は瞬時に組み上がり、セイちゃんたちを嵐の最前線へと送り出した。




■黄金山脈
本イベントのボス一人目。
この世界における乖離剣を内蔵したクソデカ金ピカ黄金聖闘士。そのため通常攻撃で対界レベルの一撃が飛んでくる。
世界を力押しで壊せる神々の切り札であり、超が付くほどの新天地特攻。

■セファール
タワーディフェンスのタワーポジション。

■聖剣使い
アクティブスキルも宝具もないけどボスエネミーみたいなHPしたサポートNPC。

■アトリ
アクティブスキルも宝具もないけどボスエネミーみたいなHPしたサポートNPC。

■三叉路のヘカテ
彼女はこの世界の終わりを認めている。
趣味が良いと言える終わりではない。個人的には、正直言ってあたまがおかしい。
だが、人がそれを信じるのだ。彼らが見据える先へと導く自分が、それを認めてやらなくてどうするのか。

■ワルキューレ・オフィーリア
胃が痛い。ボスエネミーみたいなHPしたサポートNPC。サポート三騎でのイベント戦で一人だけスキルも宝具も使える。
新進気鋭のワルキューレとして活躍中。
個体差はあれど、世界を守るという存在意義から、ワルキューレはいずれも高い戦闘能力を備えて生まれてくる。
そしてこの時代。戦禍の中で多く生まれる同期たちの中で、特別小さい躯体ながらも、熟達した戦士たちを凌駕するほどの才覚を持ったのがこのオフィーリアである。
その膂力は巨人の如く。その気迫は太陽の如く。
終末に現れる勇者のようなチートっぷりなのだが、如何せん最上位の連中が集まっているこの場では戦力としてさほど目立たない。近接戦闘を得意としていないブリュンヒルデやヘカテから三秒譲られれば多分勝てるってくらい。
一応、持ち前の怪力スキルもあり、単純な筋力で言えばそれこそセファールの次点。
速攻で再会したカルデアのせいでずっと曖昧な表情で沈黙していたが、嵐の尖兵を討つ大役に聖剣使い(本世界第一戦力)とアトリ(本世界第二戦力)と共に抜擢。
アトリ(本世界第二戦力)からは自分たちの全力の戦いについてこられる者と信頼を置かれている。胃が痛い。

■藤丸立香
「あれって……エクスカリバー……?」

■マシュ・キリエライト
「はい……きっと、この世界での正当な所有者が、彼女なのでしょう」
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