「……斬りにくいんで、こっちに来てもらえませんか?」
二度、三度と聖剣を振るい、剣光を嵐に飛び込ませたあと、埒が明かないとセイちゃんが言葉を投げる。
実際あの聖剣は効果的ではある。呪いを削り、切り裂くことは出来ている。
だが、斬ったところで代わりの呪いは延々と湧き出てくる。
これではジリ貧になるばかり。手っ取り早く片付けたいのは同感だ。
「……いや。わざわざ剣持ってるあんたに近付くとか馬鹿なこと――」
「いいよ。だって、神様が一番怒った人間があなただもん。わたしが、食べてあげなきゃね」
「――あったのだわ! ヒルデ!」
「はい!」
渦巻く風と巻き上がる海で形作られた蛇竜の大口が、セイちゃんたちに迫る。
ヘカテとブリュンヒルデの障壁にその牙が突き刺さり――耐えたのは数秒。
風と水の圧に負けた壁がぶち破られ、しかしその数秒でオフィーリアは空高く飛び上がって攻撃を回避。
そしてセイちゃんが蛇の顔に向かって一閃。縦に真っ二つになりつつも勢いを止めない牙の接近から、その場にいるのは問題外と悟ったようで、退避の準備を整えていたアトリが伸ばした手を取った。
二人を乗せたエクリプスの豪脚に追いつける者などこの世界にはそういない。
誰もいなくなった大地に形を崩した嵐は“落ちる”。瞬間、
『ッ――』
私という存在が、擦り減ったことを感じた。
呪詛による、世界への攻撃行為。それそのものが
世界を分かつ剣の力を、あの嵐は受け継いだのだろう。億分の一にも満たない自身が蝕まれ、解れていく感覚は、侵略種の攻撃に近かった。
つまるところ、私に対する憎悪の集大成。
あの旧き理たる嵐には、かつてこの世界が置いてきたすべてが注ぎ込まれている。
今の世界に生きるすべてを憎む。今の世界そのものを怨む。
そんな想念が極まれば、世界を滅ぼすことさえ叶う――そういうことなのだろう。
「ふぅむ。神どもも“らしくない”手を打ったのう」
……で、この子は誰?
リツカたちの傍にいつの間にか立っていた、人の姿をした竜。
「……ヴリトラ、なんでここに?」
突然の登場に呆けているマシュより先に復活したリツカが問えば、ヴリトラと呼ばれたサーヴァントは喉を鳴らして笑う。
「き、ひ、ひ。なんぞわえに近い気配を感じての。これはよほど面白い展開になっておる。となれば来るしかないじゃろう?」
「観光気分……!?」
随分良い性格しているらしい。
観光ならもっと平和な時に来てほしかったな。こんな戦いじゃなくて、楽しい文化もたくさんあるわけだし。
というか、この子別に人間の味方とかじゃないぞ。サーヴァントってそういうのもいるの?
リツカたちはものすごく大きなものを背負っている。不安要素さえ力を貸してほしいっていうのは、賛同できる部分もあるにはあるけど……。
「貴様の簡易召喚を利用したゆえ、長持ちはせぬがのう。
「……えっと、状況が状況なので単刀直入に聞きますが、ヴリトラさんに似た気配とは?」
「あの嵐の根本たる力はわえと似ておる。神話が成り立てばわえのような存在は得てして現れる。蛇や竜の形を取り、天に頂く神に討たれる“役割”――
「『宿命の神敵』……神話において、絶対的に神々の対立者として在ることを示す、インドラさんのスキルですね?」
「うむ。つまるところな、あれは在るだけで神を脅かす。この世界の土壌が神そのものだというのなら、あの嵐は風の一凪ぎさえ、対界宝具に等しかろうよ」
ううん、言っていることはところどころしか分からないけど、訳知り顔の彼女は嵐のことを、この場の誰よりも理解しているみたいだ。
恐らくは、かつて同じような立場だったゆえの私見。
正直、聞かされる側の“
もう少しこちらが有利に……気分だけでもなれるような情報を教えてくれないものか。
「き、ひ、ひ。しかし、しかしじゃ。世界が危機に陥っていればこそ、人間どもが死力を尽くしておるのじゃろう? うむ、好い! このような終末を乗り越えてこそじゃ!」
「しまった、性癖だった……!」
ねえ、これ本当に大丈夫? 私たち、娯楽として消費されてない?
もしかしなくても、リツカのカルデアにおいてとびっきりの危険人物じゃないか?
「ヴリトラ、今はそれより手を貸して! 風とか津波とか、どれでもいいから堰き止めたりできない!?」
「えー。これにわえが手貸すのは違くない? あの呪詛の中心がインドラのヤツだったらともかく、有象無象の神々のごった煮じゃしなあ」
「そんなこと言っている場合じゃありません! ヴリトラさん、お願いします!」
ふむ? ヴリトラとやらはぶつぶつ文句を言いながらも、腕を振るってその異能を発動させる。
途端、岸壁に絶えず叩きつけられていた津波が嘘のように停止した。
まるで岸壁の少し前に障壁があるかのようだ。皆のところにまで届くのは、無害なさざ波だけになってしまった。
「わえを消波ブロック扱いするの、世界広しといえど貴様たちが初めてじゃぞ。しかもサーヴァントの状態じゃと、結構無理があるというか……」
「す、素晴らしい力です……! ヴリトラ様、ですか……? すみませんが、そのまま維持をお願いします! ヘカテ様、あれを模倣した術式を組めれば……!」
「ええ、カルデアの手札の多さがありがたいわ! リツカ、そいつを暫く現界させ続けなさい!」
「
あの異能……堰き止める概念に特化した障壁は、少なくともこの世界においてはまだ成立していない技術。
効果的と見るや、すぐさまブリュンヒルデとヘカテが解析に入る。
うん、頑張ってくれるのは嬉しいけど、ヴリトラだいぶ無理してない?
サーヴァントって器、能力にかなり制限が入っているらしいし……。
「ええい、こうなったら自棄じゃ! 神敵相手の権能合戦に負けてなどおられん! 目にもの見せてくれる! マスター、令呪を寄越せ!」
「了解――! ヴリトラ、できる限り障壁を維持して!」
あのままではきつい……と思いきや、ヴリトラの魔力が膨れ上がった。
あれは……リツカとの間で、なんらかの強力な契約が交わされたみたい。
それがヴリトラの限界を引き上げて、この世界において力を振るうに足る存在へと昇華させたのだ。
「……よくわかりませんが、これでもっと、気にせずに戦えるようになったってことですか?」
「ええ。あんたたちはこっちを一切気にしなくていいわ。一刻も早く、あの嵐を消し飛ばしてほしい、けど……」
しかし、安堵したのも束の間。
崩れた風は徐々に、黒雲の塊の如き嵐の形へと戻っていく。
嵐の目が開く。口が開く。風の集った牙が覗く。
こちらの対策を見て取ったのだろう。より憎悪の密度は高く、より高まった殺意を、大口から溢す。
より、この世界を脅かすための、はっきりとした脅威になったような感じ。
「ンン、どうやら怒らせてしまったようですな。旧き神話の最後の抵抗、その片割れは容易く切り捨てられ、本命の嵐もさしたる傷を負わせられないまま対処されようとしている――より“直接的”な手段に出るのも致し方ありますまい」
「うん――これが一番、確実だもんね。殺してあげる、世界も、みんなも。別の世界の、あなたたちも!」
ッ――まずい。明確な邪魔をされたことで、たった今ようやくあの嵐は、リツカたちを敵と定めた。
それまで認識していたかすら怪しかったが、ここからは違う。
相変わらず、あの呪詛はリツカたちを対象としないだろう。けど、嵐の圧だけでも、彼らには十分すぎる脅威。
正真正銘、今この世界にあるすべてを、あの嵐は喰らう対象としたのだ。
「ッ、霊基反応確立! ですが……カルデアにあるどの霊基パターンにも該当しません! 先輩、これは――未知のエクストラクラスです!」
「ここにきて……! ヴリトラ、何か心当たりはある!?」
「知らんわ! 同じ神敵とはいえわえとは神話体系も違う! それに、どうせ汎人類史ではあり得ぬクラスに据えられていよう!」
だけど、その一方で、存在がはっきりしたということは、つまり……。
「――斬れるようになったってことですよね」
うん、セイちゃんの言う通り。
相槌を打つ前に振り抜かれた聖剣が輝き、極光が蛇竜の額に突き刺さる。
「それじゃあ、全然足りないよ。神様の恨みは、そんな光で切り裂けるものじゃないもん!」
「……ヘカテ。どうにかしてください。もう少し凝縮させて聖剣で呑み込めるくらいの大きさにするとか」
「無茶言わないで! 蛇竜の向こうの黒雲を見なさい! あれ全部が本体になりつつあるのよ! そうなったらあれの規模は、この大陸さえ超えるわ!」
大陸を超えて、海を覆うほどに巨大な嵐になりつつある、呪いの塊。
その中心に渦巻く魔力は、あまりにも圧倒的。あれほどの侵略種は一度たりとも見たことがない。
だけど、同時に――これ以上にはっきりした敵もいない。
『――ヘカテ』
「……何よ、セファール」
『あれが、最強の敵。そうだよね?』
「――――ええ、きっと。あれ以上はないし、あれを討てばこの長い戦いは終わるでしょう」
『うん。なら、全力を出しても、構わないかな』
とはいっても、私はあくまで守られる立場。戦うことなんてできないが。
それでも、ここでできることはある。向こうが旧い理のすべてをぶつけてくるのなら、こっちだって出し惜しみなしだ。
『リツカ。サーヴァントって、まだまだいるんだよね?』
「え……――ああ、まだまだ頼れるサーヴァントが、たくさんいるよ」
『それなら……いくらでも喚んでいいよ。
そう宣言することに意味がある。
本来、個人に託すべき加護ではないけど、今回ばかりはいいだろう。
リツカとマシュなら、耐えられる。ほんの一時だけど、セイちゃんに匹敵するほどの世界の後押し。
こうすることで、私たちの世界の外からの助力は最大限になる。
リツカが誰かと紡いだ絆が――そのまま嵐を削る、この世界を護る矛になる。
「この魔力……! すごいです、先輩、これなら!」
「うん――カルデアからの連続召喚で総力戦ができる!」
リツカが召喚するサーヴァントたちの攻勢を、反撃の狼煙にする。
「……いいわ。ここからはあんたたちの喚ぶ英霊を主力にする。嵐の影響を受けにくい異なる人類史の力で、あれの勢力を限界まで削るのよ」
ヘカテの言葉で方針が定まる。
少しの間不満そうにしていたセイちゃん――それからオフィーリアも――だったが、それが何より有効だと理解したのだろう。
こうなれば、二人も……他のみんなも、徹底してサポートに回るだろう。
それならそれで――リツカとマシュに、そのサーヴァントに……この世界のサポート力というものを見せてやれるぞ。
「それから……英霊の座から情報をダウンロードしたわ。あれが該当する
攻撃開始の直前、リツカのもとにヘカテが転移し、最後の情報を伝える。
「――
■ヴリトラ
天を司る神と戦う宿命にある蛇竜……その共通点から、嵐の特性を見て取った。
戦いに参加するより人間の足掻きを見ていたい。こんなん最高の肴じゃろうが!
■セファール
立香とマシュに世界からの後押しと、とっておきの魔力の提供を行った。
■コヤンスカヤ&ユーリンボ・ドドーマン
ここらでサポートとして使用可能になる。
忘れられているかもしれないが時系列は二部三章前。先行体験クエストである。
■破天海域
総力戦:『セイヴァー/破天海域』
戦闘体系:マスター全員で挑むレイドバトル
特殊ルール:セファールの加護によりパーティ編成のコスト上限が撤廃
【パッシブ効果】
マシュ・キリエライト:『セファールの加護:A』
自身の攻撃力を100%アップ
全サーヴァント:『セファールの加護:C』
自身の攻撃力を50%アップ
【バトルギミック(敵)】
『クラス:セイヴァー』
すべてのクラス相性が等倍になる
&[人の力を持つサーヴァント]に対して攻撃優位、防御劣位
&[星の力を持つサーヴァント]に対して相性劣位になる
『対英雄』
攻撃を受けた時、敵単体の攻撃力をダウン(5ターン)&防御力をダウン(5ターン)&自身に呪い状態を付与(10ターン)【デメリット】
『呪鱗複合体』
自身の呪い状態のダメージを回復に変換&呪い状態の数だけ攻撃力をアップ
『破天海域』
エネミーターン終了時、敵全体のHPを減らす&呪い状態を付与(10ターン・解除無効)&呪厄状態を付与(10ターン・解除無効)
【バトルギミック(味方)】
バトル開始時、選択したサポート以外の支援がランダムに発動する
『聖剣使いの支援』
敵単体のHPを90%分減少させる
『アトリ&エクリプスの支援』
味方全体の宝具威力をアップ(3ターン)&宝具使用時のチャージ段階を1段階引き上げる(1回・3ターン)
『ブリュンヒルデの支援』
味方全体に無敵状態を付与(1ターン)&弱体無効状態を付与(3ターン)
『ヘカテの支援』
味方全体のNPをすごく増やす&アーツ性能をアップ(3ターン)
『オフィーリアの支援』
敵単体にスキル封印状態を付与(1ターン)&『対英雄』の効果を停止(1ターン)
『コヤンスカヤの支援』
味方全体のバスター性能をアップ(1ターン)&クリティカル威力をアップ(1ターン)
『ユーリンボ・ドドーマンの支援?』
敵単体の防御力をダウン(3ターン)&宝具に対する耐性をダウン(3ターン)&味方全体の防御力をダウン(10ターン)&混乱状態を付与(3ターン)
【サポートNPC】
フレンドの代わりに本イベント専用のサポートが使用できる
(ワルキューレ・オフィーリア以外は宝具使用不可能、聖剣使いとアトリは全カード性能が大幅にアップ)
・『聖剣使い』(セイバー)
・『アトリ』(ライダー)
・『ワルキューレ・オフィーリア』(セイバー)
・『コヤンスカヤ』(アサシン)
・『ユーリンボ・ドドーマン』(アルターエゴ)