たとえば、こんなセファール。   作:けっぺん

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真名

 

 

 街を少女と共に出て――何故か結構な数の人に見送られた――数日。

 老人の言っていたことを、どうにも考えてしまう。

 その事実の受け取り方としては随分と呑気な方だろうが、それも仕方ない。

 だって、この六年間ずっと怪物だと思っていたものが、神様だったとか突然言われても。

 ねえ、少女ちゃん、少女ちゃんや。

 

「……」

 

 返事がない。寝ている訳でもない。

 というか目が合っているし、多分伝わっている筈だが。

 少女ちゃん? 何となく不満そうなのは呼び方の問題か。

 なら、聖剣使いちゃん――セイちゃんでどうか。

 

「通り過ぎてるんですよ。変な略し方しないでください。聖剣使いで良いです」

 

 まあ、それでいいんだけど、何というかあまりにも他人行儀が過ぎる気がする。

 そういえば、とてつもなく今更なのだが名前はなんて言うのだろう。

 そもそも、それを知らないから呼称に困るのだ。喋れないので呼んでいる訳ではないが。

 

「本当に今更ですね。名前なんて忘れましたよ。これまでの旅はずっと“聖剣使い”で通ってますし。何処に行っても、そう名乗れば伝わるので」

 

 凄いなそれ。やはり肩書としては伝説のものだったりしたのだろうか。

 いや、それより名前忘れたの?

 

「あった気はするんですけどね。村では呼ばれていたでしょうし」

 

 何でもないことのように、少女は言った。

 あまり触れるべきではないことかもしれないが、大丈夫なのだろうか。

 

「まあ、別に何も。聖剣使いとなってからの積み上げているものは忘れませんが、それより前にあったことなんて特に重要でもないので」

 

 俺に言えた話ではないが、だいぶ独特な考え方だ。

 そこまで使命に意固地になっているのだとしたら、これまた申し訳ない。

 ――そういえば俺もセファールという名前以外この体について大して知らないな。

 

「まあ、昔の名前はどうでもいいんですが……名前と言えば、一つ気になることが」

 

 ん? 何でしょう。俺が知っているようなものであれば答えるよ。

 まあ、この世界の常識もないし、知識でいえば彼女の方が何倍もあると思うけど。

 

「駄目元で聞きますけど、この聖剣の名前を知りませんか?」

『――エクスカリバー』

「えっ」

『えっ』

 

 ――あ、喋れた。

 

『――喋れる』

「いや、ちょっと。聖剣の名前以上の衝撃叩き込んでくるのやめてくれませんか。何も頭に入ってこないです」

 

 いつの間に言語能力が解放されたのだろうか、この体。

 口は開けていないし、何処から声を発したのかもよく分からないが、俺にも聞こえたし、彼女にも聞こえているっぽい。

 どういう理屈かはどうでもいい。これでアイコンタクトがなくとも彼女との会話が出来るようになったのだ。

 これは革命ではないか。やった。

 

「目を合わせていると余計な情報入ってくるのでもう見ない方がいいですね。何か用があれば喋ってください」

『――それは。やめてほしい。傷つく』

 

 どうも、話したい言葉がそのまま発声される訳でもないらしい。

 ある程度意図は酌んでくれるものの、まるで自分以外の誰かが代弁しているような片言。

 俺こんな口調じゃないし。まだレベルとか、そういうのが足りないからか。

 だがこれは大きな一歩だ。ここから始まる俺のトーク力向上。

 

「はぁ……いや、うん。こんな衝撃のおまけ付きで知りたくなかった、聖剣の名前。で、なんでしたっけ」

『エクスカリバー』

「……何で知っているのかってのは置いておいて。教えてくれてありがとうございます。ここまで名称不明の聖剣だったので、色々不便ではあったんですよ」

 

 まあ、不便だったろうね。

 ちゃんと名前が付いていた方が、聖剣使いとして名乗る時も格好が付くだろうし。

 

「――エクスカリバー。確かに、その銘はしっくりきます。まだあの時の輝きは見せてくれませんが――」

 

 沈みかけの日に剣を翳し、小さく微笑む少女。

 その姿は一つの“絵”として様になっていて――思わず、見惚れてしまった。

 とてもではないが、その聖剣が電池切れの玩具だとは言い出せないほどに。

 

 何かに浸っているらしい彼女に、言葉を掛けるのは野暮に思えた。

 聞きたかったことは聞けなかったが、まあ、また後でも良いだろう。

 彼女にとって、今はとにかく、大切な時間であるのだし。

 

『――私が。神を食べていたの。知っていた?』

 

 この口……口じゃないかもしれないが、空気を読むということを知らないのか。

 彼女ぽかんとしているじゃないか。

 

「――え? ……ああ、はい。というか、知らない訳がないでしょう。貴女を知っていて神喰らいの業を知らない者が世界の何処にいるというんですか」

『……』

「…………えぇ……?」

 

 知らなかったのは自分だけだったという衝撃の事実。これは聖剣の名前をたった今知った彼女に匹敵するのではないだろうか。

 しかも、少女のあまりにも常識であるかのような反応。彼女の頭痛の種を増やしてしまったらしい。

 この六年間、ただひたすら、知らずに神様と戦い、ボコボコにして挙句の果てに食べていたとか。

 いや……だって、ねえ?

 見るからに怪物って見た目のおっかないのが殺意マシマシで襲い掛かってくるんだもの。

 この体は速く走れる訳じゃないし、戦うしかない訳で……。

 

「……で。なんでそれで神殺しに飽き足らず食べるって発想に至るんですか。食事は必要ないって昔言ってましたよね」

『……湧き上がる……食欲?』

「アウトですね」

 

 アウトだね。

 前世が信心深かったということもないが、神様を敬っていないというほどでもない。

 それをむしゃむしゃしていたことを今更知る俺。

 どんなバチが返ってくるか知れたもんじゃない。……襲ってきたのって、バチを当てに来ていたのか?

 

「私、時々考えていたんですよ。人を襲わず、ただ神々を喰らうだけの巨人。それを討つという私の使命は、どこから発生したものなのかって。この手の考え事は山ほどしてきましたが、その大半がこの瞬間無駄になった気がします」

『ごめん』

「この件で最初に謝罪されるのが私でいいのかって感想ですね」

 

 ……しかし。神殺し、神喰らいか。

 あの怪物、その怪物も全て神だったのか。

 いつかのロボットも、この前の嵐の怪物も、全部。

 その悉くを殺して、殆どを喰らってきたのか。

 

 取返しがつかないことをしたという気持ちがありつつ、不思議と罪悪感は小さかった。それは、あまりにもやらかしたことの現実感がないためか。

 一番は、そうだったのかという微妙な納得。

 受け入れるのに時間も掛かるし、だったら今後はどうするのかという疑問も生まれる。

 また、神がやってきた時、俺はどうすればいいのだろう。

 神と呼ばれているからには、確かな存在意義がある筈で。それは俺という自身の正体も知れていない身とは比べ物にならない重大さがある。

 ならば、抵抗せず受け入れるというのが、やるべき――

 

「……」

 

 ――――いや。

 決めたではないか。俺のこの生に幕を引くのは、この少女に委ねると。

 その使命を全うさせることこそを俺の最期とすると、彼女の前で宣言したのだ。

 ――誓ったのだから、それは守らないと。

 

 その前には誰の手によっても殺されない。だからといって、逃げることも出来ない。

 ……そんな理由で、これまでの神喰らいを受け入れて、今後も続けていっても良いのだろうか。

 

 ――良いのだ。

 俺が何を一番優先するべきかなど、考えるまでもない。

 どうあれ今の俺がこの世界で結んだ縁など、あの聖剣とそれを担う彼女だけ。

 であれば、その少女の使命が、少女の存在が無意味に消えることこそ、何よりも恐ろしい。

 俺のやってきたことは肯定しよう。この後、如何な形で償うとしても、受け入れよう。

 彼女の一切を、否定しないために。

 

「……大体しか伝わってきていませんけど。またなんかやっちゃった気がします」

『――気にしなくていい』

 

 彼女には何の責もない。これは俺の決意であり、俺が勝手に決めたことだ。

 だから、彼女にはどうか、気負うことなく強くなってほしい。

 ……その聖剣で強くなれれば、だが。この聖剣、どうやって彼女に伝わったんだろう。本当、各所で締まらないのでどうにかしてほしい。




■セファール
むしゃむしゃしてやっていたのを知った。反省している。
聖剣使いと二人旅。手や肩に乗せて旅をする姿は正に神と巫女の如し。そんな関係ではない。
あと喋れるようになった。ただし発声はやや不自由で、思っていることがそのまま出せない。
神喰らいの業に気付いたが、苦悩もそこそこに聖剣使いの使命を勝手に秤に掛けて続行を決意。耐久力がまた上がった。

■聖剣使い
セファールと二人旅。揺れすぎるので何度かキレた。
(セファールがそうと知らずに神を)むしゃむしゃしていたのを知った。何かと頭痛の多かったここ一年くらいで一番の頭痛に見舞われた。
聖剣の銘を初めて知ったがセファールが喋ったというそれ以上の衝撃を叩き込まれたせいでいまいち感動しきれない。
あと、また自分が原因でセファールが何か余計なことを考えたようでまた頭が痛い。
セファールなりに悩みがあるのだろうし、そこを目を見て読み取ったりしないくらいの空気の読み方は出来る。向こうは出来ない。


■聖剣
如何なる経緯であろうとも、銘をつけるという行為は特別なものである。
役割を与えられるだけであったものは、命銘をもって己の意味を“識った”。
刮目せよ神々。喝采せよ人々。白き巨人よ、その結末を悟れ。この星の生まれる刻を、我ら妖精は言祝ごう。
束ねるはすべての希望。ただ一振りの星の聖剣。
――その銘、『■■■■■■■■■■■(エクスカリバー)』。
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