この世はクソだが娘は天使だ   作:小森朔

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 気づいたら妖精なっていたオリ主がキャストリアのお母さんになってカカアの天下を敷く。

 キャストリアかわいいよキャストリア。うちのカルデアにはいないけど。





娘が天使すぎて死にたい

 拝啓、世界すら隔たってしまった先の父上様、母上様。

 ご息災ですか。私が居なくなってからHDDは処分してくれましたか。

 父さんがエロ動画を集めてるのは知ってたから、たぶん私の記録媒体も同じように処分してくれてると信じてます。というか、生前に言ってたのに処分し損ねてるとかないよね? 

 

 こちらは、どうしようもない世界に来てしまいました。

 でも、なんとか生きています。

 

 

「くぉらアルトリア! こんの馬鹿娘、早く風呂に入りな!」

「うわッッッ、おかーさん、いきなり入ってこないでよ!!」

 

 

 あなた達の娘はクソ共ことブリテンの妖精になり、はや10年が経ちました。

 毎日キッツイですが、何とか生きてます。

 

 始めも今もとっとと死にたかったものですが、目標ができてしまって早々に死ぬこともできません。

 

 

 

 

 徹夜のゲーム後になんか知らない場所にポップする、なんて転生を体験したことも衝撃だったけど、それ以上に状況がクソなうえ、転生先はとんでもねぇ場所だった。

 

 

 まず、ポップした場所がブリテン。

 この時点でワンアウト。生活習慣が生きてくうちに普通に身に付くと思うなよ。浮かないためにあれこれ知ったり身に付けるのはめちゃくちゃ大変だったし、必死だった。

 

 次に、種族と土地。種族は妖精國の妖精でした。しかも生まれ育ちがティンタジェル。これで一気にスリーアウトだ。

 ふざけんなよもう少し優遇しろよ、とは思った。村長も周りもだいたいクソ。

 自分のことで手一杯なのはわかるけど、それでも共同体がなんで成立してるかわからないレベルで自分のことしか考えない。そのうえ、なんか邪魔と言うか吊れそうな奴いたら娯楽半分で吊るみたいな奴ばっかりだ。お前らがくたばれよ、とは何度思ったことか。

 

 

 それでも、面倒なのと怖くて本音は言えなかった。

 存在税はどうにか払えるし、腹も減っていてもギリギリ餓死やら消滅は免れていたのだ。

 妖精にあまり食料は必要ない。でも、私たちは弱くて、維持のためには時折食事をすることも必要だった。文字通りの「糊口を凌ぐための魔力供給手段」としての食事は、とんでもなく不味い。

 そこで相手を殺す余力はなかったし、それで殺しあいなんか始まったら高確率で捕まって尋問。死ぬのは比較的嫌でないが、痛い死に方はしたくない。

 

 知識があるだけに絶望も早かったけど、知らなかったら余計にきつかったとは思う。そうでなくても死だよ。

 モースにこそならなかったけど、私が発生したのはだいたい女王歴1990年ごろ。つまり、予言の子が生まれるまでもかなりの時間がある頃だった。

 

 その頃はどうだったかって? ほとんど変わらなかった。下手したら、今よりももっとひどかったかもしれない。

 ティンタジェルは海に近い場所でモルポンドを稼ぐ手段も限られている。それでもなお村をどうにかこうにか切り回していたのだ。

 その時点で村はどうしようもなく終わっていた。それでも、生きる他なかった。

 

 

 とっとと死んでしまいたい気持ちは、どんどん膨れ上がっていっていた。

 

 

 それでも死ねなかったのは、単に「今死ななくてもどうせみんな滅ぶ」と知っていたからだ。

 事前知識があるってすごいね。あいつらがのうのうと生きてるのに私だけ死んでたまるかよって気持ちになれたから、まあまあ普通に生きて来れた。

 

 

 

 

「まーた部屋ん中で杖ぶん回してアンタは! ほら、とっとと身綺麗にするんだよ!」

「もうちょっと、もうちょっと待って! 今いいとこなの!!」

 

 杖をぶんぶん振りながらアルトリアが言う。

 魔術の勉強は、うまくいっているんだろうか。楽しくできているだろうか。

 

 アルトリア。私の可愛い子。伸びた髪はそろそろ括ってやらないと。

 あのクソ村長め、恥だの何だの言わねぇと納得しやがらないのがいちいち腹立つ。この子は居るだけで十分凄いだろうが。こんなに可愛いし努力家なんだぞ。

 

「アンタはいっつもそうでしょうが! ほら、勉強しながらでも飯は食いな!」

「……いいの? やったー!」

「跳ね回らないの!」

「痛ぁ!?」

 

 ぴょこぴょこ跳ね回るアルトリアに、ごちんと拳骨を落とす。

 アルトリアの部屋、物置ということにしている場所には色々なものを置いてあった。火薬なんかは外で弄らせていたけど、それ以外の危なくないものや扱いさえ知っていれば安全なもの──例えば、細々とした刃物なんかは自由にさせていた。

 それにしたって、病気になったりしないように言い含める必要はあったし、他の連中がどうこう言わないように見つからないことを徹底しなくてはならない。同じ村の奴らだが、アルトリアを嫌っているのが多すぎる。

 

「北の犬星がてっぺんに来るまでに入んなかったら、尻を六つに割ってやるからね」

「えーっ、ひどいよ! おに! あくま!」

「ハンッ、せめてアタシに勝てるようになってから夜更かししな!」

 

 傍に立て掛けられた杖に視線をやる。

 この子が勉強をするとき、いつもこれを持って訓練をしている。……下手に見られて、取り上げられることがなければいいが、取り上げられてしまったらどうしよう。

 アルトリアはまだ弱い。生活をどうにかするための魔術や体を守るための魔術がなくては、いずれ村を出てから苦労する。少しでも見つからないようにしなくては。

 

 

 

 ティンタジェルは終わった村だ。とっくの昔に終わっているのに、うっかりと延命してしまった場所だった。村の食料は乏しいし、他にモルポンドや魔力を獲得する手段だって少ないし、下手をしたら仲間内で口減らしだってしようとする。

 でも、この子が流れ着いたときに積み込まれた宝物で、この村はどうにか食い繋いでいた。食い繋いできてしまっていた。

 

 

 今はまだいい。私も小麦だって育てているから、こっそりやろうと思えばパンでも麺でも作れる。アルトリアも食事はさほど必要ないのだが、それにしたって細すぎた。食わせなくては、それなりの力も出ないだろう。

 

 海辺で塩害があるせいもあってか野菜はあんまり育たないけれど、場所によっては小麦も綿も育つ。私の畑も塩の影響が強いけれど、塩に強い作物から始めたお陰か、いくらかは育っている。カツカツだけど、だからこそこの子を引き取っても文句は少なかった。

 けど、他の連中は不器用だから、取りあえずの小麦を作ってもあんまり使えないし使わない。食べるのは分かりやすく食べやすい野菜や、時たま獲れる獣の肉ばっかりだ。それで娯楽がない、肉を食いたい、レストランにいきたいなどと言う。ここにはろくな物がないという。

 

 ふざけんな。それで、この子は痩せっぽちなのだ。私もいなかったら、きっともっと痩せていただろう。必要ない、とさほど要らない、は別だ。親代わりがいてなお、こんなに、折れそうなくらい手も足も細いのに。食わなくなったらどうなってしまうのか。

 

 でも、作物があればこの子の腹は満たしてやれる。野菜と水と塩があれば、あとは麦を使ってそれなりのものが食べられる。

 寒い日はスープで、暑い日は少し遠いけれど、近くの川の水流で冷やして。

 

 

 でも、他の奴らはそんなことをしたがらない。見張ってなかったらアルトリアに仕事を肩代わりさせようとするやつだっているぐらい。妖精だから、税で取られるのに魔力頼りで出力するばかりで、ちっとも工夫をしようとしやしない。

 モルポンドになるようなものばかりを求めてるくせに、工夫なんてない。本当にずっとアルトリア頼り。終わりきっている。

 

 

 

「おかーさん、お風呂入ったよ!」

「お馬鹿なアリー、冷えるでしょうが! 早く髪を乾かしな!」

「きゃぅあ!」

「ほぅら、自分でやらないからだよ!」

 

 バサっと布を被せて、思い切り髪をワシワシ拭いてやる。

 金髪は汚れていない。時々前髪は切ってやるけど、後ろは伸ばしっぱなしだ。

 

「まったく、次は自分でやりな!」

「えー! おかーさんがしてくれるのがいい!」

 

 ……まただ。

 この子は私の言うことに抵抗するけれど、思いっきりやっても嬉しそうに笑っている。

 ほっぺたを挟んでうりうりと揉みくちゃにすると、くふくふ嬉しそうに笑う。

 

 

 ばかみたいだ。私たちはひどいやつらなのに。この子の助けになんて、ちっともなってやれやしないのに。

 

 

 

 

「おかーさん」

「なんだい、アルトリア」

 

 

 ……ああ。

 

「あした、おかーさんもいっしょにいこ?」

「はいはい。そしたら、明日は水汲みも粉引きも早く終わらせなくっちゃね」

 

 

 早く。

 

 

「おかーさん、だいすき」

「……ああ。私も大好きだよ、アルトリア。私の娘。可愛い可愛い、私の子」

 

 

 早く、死んでしまいたいのに、未練が増える。

 

 

 

 

 神様、お願い。

 どうか、どうかこの子だけは幸せに生きさせて。

 

 食べたいときにはお腹いっぱいにご飯を食べさせて、こんな平たい布じゃなくて温かい布団に寝かせて。明日の仕事なんて考えないで、ただ広い野っ原を走り回って転げ回ればいい。

 人間のように。でも、妖精として生きていけるように。

 ただそれだけをできるように、幸せに暮らせるようにしてやりたい。

 

 そのために、私が死ぬのはかまわない。私たちみんなが滅んでしまったらいいのに。

 どうか、どうか。

 

 ああ、私たちの罪が濯がれずにみんな死んでしまったらどれほどいいことか。

 それでこの子が生き延びれば、どんなに嬉しいことだろう!




 もともと被殺願望杯に参加したいなと思って書き始めました。企画が一年前の日付だと気づいたのが投稿後です。アホの極み。
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