夕方。それは小学生は遊びから帰る準備をし始め、中高生は部活に励む者や家でゴロゴロする者に分かれ、大人達は仕事が終わる時間が近づきソワソワし始める時間である。
そして俺も学校が終わり、今は自分の部屋で漫画を読みながら惰眠を貪る最中だ。
仮にも花の中学三年生であり、来年には最も入るのが難しいとされる高校の受験を控えた学生の生活がこれでいいのかと言われそうだが気にしない。俺はやるときはやる人間なのだ。やる気スイッチさえ押すことができれば問題ない。
人間というものは休憩を挟まなければ生きてはいけないのだ。その比率が人によって多いか少ないかだ。たまたま俺の休憩比率が勉強2:休憩8という割合なだけだ。俺は何も悪くない。受験生だから勉強という風習を作り上げた世間が悪いと思う。
しかし今日は実にツイている日だった。
朝の占いでは見事に1位を獲得し、面白い一日を過ごせるでしょうというお言葉を得た。学校に向かっている最中では曲がり角で食パンを加えた女の子にぶつかり胸に手が当たるというテンプレ的男子わっしょい型イベントに遭遇。
その後ビンタをされたが何も問題はない。感触を脳内保存しておく。
学校に到着すると目の前の女の子がサマーソルトを決めたかのように派手に転倒し、盛大に下着を見せびらかす事件が発生。
が、周囲には俺しかいなかったため紳士的に救助する。
その間に下着の柄を脳内アルバムに最高画質で保存し色褪せない思い出にする作業を俺は忘れない。一瞬の隙であろうと見逃さない。俺は出来る男なのだ。
その時に「かわいい柄だね」という女子が喜ぶような誉め言葉も残しておく。ちょっとした気遣いも俺は忘れない。もう一度言うが俺は出来る男なのだ
その後お礼と共にビンタをされたが依然問題はない。俺の脳内は潤った。
帰り道、隣のクラスのイガグリ型の瞬間湯沸かし器が絡んできた。
何かと優劣をつけたがる思春期真っ只中を体現したかのような性格をしているが、根は真面目なので非常に扱いやすい。
魔法の呪文「出来ないの?」を使うと、「出来るわ!」と言いながら率先してやってくれる。非常に扱いやすいツンデレである。
今日は家に帰ってお母さんの手伝いをするように言っておいた。クソクソ言いながらキレていたけど魔法の呪文を使うと「出来るわ!」と言いながら帰っていった。イガグリは優しい。
キレながら帰るイガグリを携帯で保存しておく。普通に面白いからフォルダが潤った。
さて、今日の流れを振り返ったが中々充実した一日を過ごしたよな。
そうそう、俺は早急に帰って気づかなかったがどうやらヘドロ型のヴィランがどこかで暴れていたらしい。そしてその人質の友達が助けに行ったらしい。美しき友情かな。ヒーロー仕事しろよ。
で、そのニュースを見たわけだが被害者がバリバリ顔見知りのイガグリ型瞬間湯沸かし器だった。助けに入った友人らしき人物は湯沸かし器が目の敵にしているもさもさワカメ君だった。
どちらも知り合いという奇跡にびっくりしたよ。湯沸かし器とワカメなんて絶対相性いいのになんであんなに仲悪いのか。一度ワカメを助けたことがあるが、それ以降湯沸かし器に絡まれるようになったしな。
関わりなんてその一度だけだから名前も知らんが、よく廊下でぶつぶつ言ってるの見かけるから頭のネジが外れたやつなんだろうな。
まぁ、テレビ出演おめでとう少年たちよ。あいつらは体頑丈そうだし怪我の心配は大丈夫だろ。知り合いをテレビで見るという貴重経験をしたわけだし、ゆっくり晩飯まで今日の復習でもします「デク!!!」か。いや何事?
えっ、なんで俺の家の前に湯沸かし器とワカメの相性抜群コンビがそろってんの?お前らさっきまで元気にテレビ出演してたじゃねーか。
「俺は…てめぇに助けを求めてなんかねぇぞ……!助けられてもねぇ……!!あ!?なあ!?一人でやれたんだ!!」
いつにもまして荒ぶってるしあいつプライド高いもんな。だがよそでやれ。近所迷惑だ。俺の部屋からばっちり見えてんだよ。
そしてワカメよ、湯沸かし器が去っていった背中を回想が始まりそうな物思いにふけった顔して眺めるんじゃねぇよ。お前の心のモノローグが聞こえてきそうで怖いんだよ。まぁ、静かになったから全然いいけ「私が来た!!」ど……
オオオオールマイトォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
えっ!オールマイト!?なんで!?
なんでこんな何の変哲もない路地にオールマイト!?
うわ凄ぇ!やっぱり画風が違う!テレビで見るより実物で見る方が5割増し濃く見えるぜ!
それよりもナンバーワンヒーローがワカメ君と親しげに話しているのが今世紀最大級に気になるんだけ「ゲボォッ!!!」ど……
……おいおい、目の錯覚か……?
オールマイトが目の前でひょろひょろホラーマンに変身したんだけど…?
えっ…理解が追い付かないんだけど?
「君がいなければ…君の身の上を聞いていなければ口先だけのニセ筋になるところだった。ありがとう!!」
「そんな…いや、そもそも僕が悪いです!仕事の邪魔して…無個性のくせに生意気なこと言って…」
ちょっとそこ普通に話し進めないでくれます?
こちとら普通に混乱の真っただ中なんですけど?ていうか何普通に話出来てんの、ワカメ君。
いや、そもそも話が成立しているのはワカメ君があのオールマイト?の姿を知っていたってことなのか?もし知らなかったのならばものすごいスピードでぶつぶつ言いながら自分の世界に入り込むはずだろうし。それに彼が重度のヒーローオタクだというのはよく耳にするしな。
ということは、やっぱり彼はオールマイトの知り合いで、アレがオールマイトの本当の姿であると…
うん…いろいろ言いたいことや聞きたいことがあるけど……
人ん家の前で何やってんの?
何そんな堂々と街中で正体晒してんの?
オールマイト危機管理能力低くない?
たまたま見ているのが俺だけだからいいけど、周りに見られていると思わないのかな。オールマイトはナンバーワンヒーローなんだからパパラッチとかいっぱいいるでしょうに。
「君はヒーローになれる」
あっ、話聞いてなかった。
でもワカメ君が号泣してるところを見るにオールマイトに認められたのか?
そりゃ、あこがれているヒーローからヒーローになれると言われたら嬉しいわな。
俺だって言われたら目から滝を流す自信がある。おい、そこ代われ。
本当なら外に出てサインでも貰おうかと思ったがおとなしくしてるか。わざわざ大ニュース案件の現場に自分から首を突っ込む道理もないしな。今日見たことは墓場まで持っていく秘密としておこう。俺が気遣いができる優等生でよかったな、オールマイトよ。
「君ならわたしの"力"を受け継ぐに値する!!」
おい、何を口走ったあの骨は!?
いや、いきなり何言ってんだこいつは!?4月1日ならとっくに過ぎたぞ?
オールマイトの個性と言ったら誰もが知らない今もなお推測され続けている不思議の一つだろ!
「私の個性は聖火のごとく引き継がれてきたものなんだ!!」
どうもご説明ありがとうございます。
いや、それ以前にオールマイト危機管理能力低すぎぃィィィィィィィ!!
「力を譲渡する
ワン・フォー・オール
ワン・フォー・オールかー。そっかー、すごいなー。
うん、ほんとにね…………
人ん家の前で何やってんの!?