いや、人ん家の前で何やってんの?   作:ライムミント

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ハジケ帰ってこォォォォォォォォォォい!


格闘家の意地

あの…俺はオールマイトったら名前じゃないですよ?みんな大好きプリティー少年石楠花 鱗ですよ?

 

『君は衰えた。だからこそ確実に始末する為にニ体目を寄越したんだ』

「衰えたも何もまずは人違いなんですが…この場にオールマイトのオの字も見当たらないですよ?」

『だから….オールマイト、君を信じている生徒達の前で死んでくれ』

 

コイツ全然話聞かねぇ。

あっ、録音放送か。

 

そして脳無が動き出す。

 

「早い…が!俺の動体視力の前では見切れない速さじゃない」

「じょうじ」

「俺じょうじじゃないよ?よく言うけど。」

 

躱して打つ、打っては躱す。

だが何だろうかこの違和感は…

こちらの攻撃は当たる。だが当たる瞬間に衝撃を減らす為に絶妙にズラされている。

 

そして鱗にも相手の攻撃が少し当たっている。普通ではあり得ないのだ。素人の攻撃に当たるという行為自体が。

 

だが当たっている。そして目の前の相手の行う動きに妙な既視感があった。

 

 

「(何でアイツ『ボクシング』を知ってるんだ?いや、それよりも何故『中国武術』や『タイ武術』を戦闘に組み込んでいるんだ?これじゃあまるで俺と……)」

 

 

 

その問いに答えるかのようにラジカセが起動する。

 

『手こずっているようだね。それもそうさ。この脳無は特殊でね?普通の脳無と違うんだよ。違いは元にした個性と作り方だね。実験として()()()()に個性を与えてみたんだ。するとどうだ!個性を持ったゴキブリが誕生したわけさ!それを人間大に改造してね。人間大のゴキブリは初速度で時速300kmのスピードを出せる。そして全身が筋肉だから人間を遥かに超えたパワー、そして痛覚がない。いいことずくめじゃないか。だからこそゴキブリの運動能力を最大限に活かせるように体を改造しているのさ!ゴキブリに個性を与えるだけでここまで強くなるなんて大発見だよ……!』

 

 

じゃあ俺みたいな奴かよ。俺は人間大のシャコだけどこいつは人間大のゴキブリか…そこに俺達以上の体に改造したと…えっ、詰んでね?めっちゃ詰んでね?

 

てかゴキブリに個性を与えるって何?個性ってあげれるもんなの?しかもゴキブリに?絶対友達いねぇわコイツ。

 

 

『与えた個性の話をしよう。それが『()()()()』さ!君の個性までは模倣出来ないが、戦い方はまるで本人の様に全て模倣する。素人には効果が薄いが、戦闘能力の高い者に対しては無類の強さを発揮する。そりゃそうさ!鏡に映った自分と戦っているようなものだからね。もちろん力も君に近づけて造ったから君の個性を模倣出来なくても問題ないんだけどね』

 

 

やっぱり自分と戦ってたわ。えっ、じゃあコイツは俺が学んで来たことを使えるってこと?俺並みの技術を持ったオールマイト?詰んでね?

 

 

『だからこそこの脳無は特別なのさ!この脳無の名前は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()()()

 

 

 

名前かっこいいなおい。

 

 

『録音だから君が何を話しているのかも知らない、どんな絶望した表情をしているのかも分からない。君を直接見れないことがとても残念さ!頑張ってくれたまえ、オールマイト!生徒達が目の前で死んでいくぞ?さぁ、テラフォーマー…殺せ

「じょうじ」

 

その言葉を残してラジカセは役目を終えたかのように壊れた。そして壊れた瞬間に飛び出してくる。

 

「あぁぁぁぁぁぁラジカセがぁぁぁぁ!知らない人の黒歴史がぁぁぁぁぁぁ!!」

「じょうじ!」

「お前はカサカサ動くな!夢に出るだろ!」

 

 

 

人間大のシャコVS人間大のゴキブリ、異種族対戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

プロ対プロの試合は長くなることが多い。その理由としてはどちらもその種目を長い年月かけて練習してきた確固たる実力があるから。

 

攻撃が当たる瞬間に少しズラす。

より的確な部位を狙う。

 

技量が似ていれば似ているほど、明確なチャンスを物にしない限りずるずると長引いていく。

 

ことこの試合にしてもそうだ。

 

 

「じょうじじじょうじ」

「何話してるか知らんが、俺はやはり強かったということだけは分かる」

 

クソッ…全然決定打がねぇ。

俺凄かったんだな。絶妙に当たる瞬間に衝撃を流されてる。

 

石楠花 鱗。シャコの視力を用いた動体視力でゴキブリの筋力を上乗せした脅威のスピードで放たれるパンチ、キックを紙一重で躱していく。

 

テラフォーマー。ゴキブリの体だからこそ体も強靭で熱に強く、多糖類アミロースで出来た甲皮を全身の気門から入る酸素で直に燃焼させることで爆発的な運動量を得ている。さらにお尻の辺りに尾葉(びよう)という感覚器官があり、空気中の僅かな空気の流れも察知することができる。だからこそ鱗が動いたときに生じる空気の変動によってどう攻撃されるかを予測し、的確に躱していく。

 

 

 

 

だが差は着々と開いていた。

鱗の度重なる戦闘、そして全身に受けたダメージによる疲労、左腕再生のためのエネルギー使用、左目の負傷、ハジケすぎによる体力の消耗。

 

片やテラフォーマー。痛覚無視、疲労無し、人間を一捻りできるパワー、新幹線の最高速度と同じスピード、尾葉による空気の流れの把握。

 

 

その差は圧倒的であった。

 

 

 

 

 

 

 

パキッ…

 

「くっ!」

 

拳が軽く掠るだけで簡単に折れていく骨。ひび割れを含めると全部で10か所以上折れている。それでも尚鱗は攻撃することをやめない。今ここで攻撃する意思を放棄してしまうと自分を含めた生徒達が殺される未来しか見えないから。

 

「クソったれ!毎度毎度俺の骨をウエハースみたいに折りやがって!!ミートローフにしてやろうか!」

 

 

攻撃は止めない。

 

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

躱して打つ。打っては躱す。

 

 

 

 

打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して打って躱して、そして………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ズルッ……

 

 

「は?(滑った?何だこれは………血?)」

 

 

 

目の前の存在に気を取られ周りが見えていなかった。掠るだけでも皮膚が裂け、骨が折れ、血が飛び散る。だからこそ気づくのが遅れた。辺りは大量の自分の血で濡れていることに。

 

 

 

 

 

だからこそ………

 

「ヤベ……ッ!?」

 

 

 

 

 

 

 

ドンッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の隙をつかれて打たれた。

それが、格闘技の世界なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鱗とテラフォーマーの戦闘は生徒達にも見えていた。

だからこそ生徒達は信じられなかった。

 

クラス内で最強と言われ、オールマイトしか勝てないような相手にも勝った、今を生きて乗り切るための希望。そんな男に衝撃が広場まで届くオールマイトのような一撃を叩き込まれ、倒された。

 

 

皆が絶望に覆われる中、石楠花をよく知る人物たちは信じていた。あいつはこんなところで死なない!必ず立ち上がると!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じょうじ…」

 

テラフォーマーは次の獲物を探していた。

命令はただ一つ。『殺せ』。

先ほどの男は強かったが渾身の一撃を叩き込んだ。もう動かないだろう。そう見切りをつけ、人が多い場所へ向かうため背を向ける。

 

この男の戦闘を模倣した瞬間、自分が明らかに強くなったことを自覚していた。突然強くなったことを自覚した生物がとる行動は主に二つ。

 

一つはより高みを目指すために努力を続け、自分を強くしてくれた人や事象に対して感謝すること。

 

 

 

 

 

 

そして二つ目は………『()()

 

 

 

 

 

 

 

 

だからこそ()()した。勝負に勝ったと思い込み、背を向けてしまった。

 

 

テラフォーマーは造られた存在。だから知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()』を知らない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()?」

 

 

 

気づけば背後から声をかけられ、肩に手を乗せられていた。

 

テラフォーマーに心というものは備え付けられていない。にもかかわらず冷汗が止まらない。後ろを振り向くことができない。体が震える。今振り返れば殺されるのは自分だと理解してしまった。

 

 

 

それは生物なら忘れることができない感情………それは『()()()

 

 

どんな強者でも心の奥底に眠る感情。

 

 

 

 

 

そこからの行動は早かった。

殺られる前に殺る。そのために振り向きざまに渾身の一撃を顔面に叩き込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、止められた。

 

 

 

 

 

渾身の一撃を受け止められた。

まるで打たれる場所が分かっていたかのように。

 

 

「うん、やっぱりか」

 

 

 

そしてテラフォーマーは腹に拳を受ける。

先ほどまで受けていた拳。にもかかわらず重さが先ほどの比ではなかった。

 

 

「やっぱり俺は強いな。戦っていて分かったよ、俺の強さが身に染みて。だから感謝しているんだ。俺をまた一段階強くしてくれて」

 

テラフォーマーは理解できなかった。この男が何を言っているのか。

 

「やっぱり気づいてないね。そりゃそうか、それは俺の技術だから」

 

そして鱗はお構いなしと言葉を続ける。

 

「どうやら俺はジャブを打つ時、()()()1()()()()()()()()()()()()

 

何を言っているんだこの男は?死にかけなのだ、さっさと殺してしまおう。そう思い繰り出す攻撃が………先ほどまで面白いように皮膚を割き、骨を折っていた一撃が………当たらない。

 

「うん。やっぱり右腕を使う時も、避けるときも、足を使う時も、全部に特有の癖がついていたようだ。客観的に自分を長時間見る機会なんてないから初めて知ったよ」

 

何故だ!何故当たらない!?そう焦るように次々と繰り出すが悉くいなされる。

 

 

「本当にありがとう、テラフォーマー。客観的に自分の動きを見続けて、自分の攻撃をくらって打撃の威力を分析できる機会をくれてありがとう。そのおかげで俺は………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

その言葉と同時に鱗の腕が轟音を響かせながら落ちた。いや、落ちたように見えた。

 

テラフォーマーはよくわからなかった。落ちたのは手から肘までを覆い守っていたシャコの甲殻?鱗?

 

 

 

 

だが一つ言えることは………()()()()()()()()()()()()()

 

 

地面に落下したと同時に地面が陥没する。

それは人が身に着けるには重すぎて扱いきれない重り。

それは攻防一体型の鎧。

 

石楠花パパ率いるCOSMOS社が鱗の細胞で一から作った心身一体型の武器。その名も………

 

 

 

 

 

 

 

 

甲殻一体式パワーリスト"ガナ・フライ・ナウ"

 

 

 

 

 

 

怒れる獣の(おもり)が今外された。

 

 

 

 

 


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