時間が…!時間が足りねぇ……!これからも頑張りますが遅くなったらすみません!
雄英体育祭 本番当日!!
ここは控え室。生徒達は各々の方法でリラックスしている。その中でもいつも通りなのが1人。
「皆準備は出来てるか!?もうじき入場だ!!」
今日も元気な飯田。まぁ体育祭なんてめっちゃアガるよね。朝から全力で起床出来たもん。
その時人に話しかけることが少ない轟が緑谷の名前を呼んだ。
「緑谷」
「轟くん……何?」
「客観的に見ても実力は俺の方が上だと思う」
「へ!?うっうん…」
アイツスナイパーかよ。真顔でヘッドショット決めてきたぞ。何だあの曇りない眼は。ガリガリ君自信味かよ。
「峰田、お前がアレ言われたらどうする?」
「イケメンは滅べと思う」
「お前らしい答えで安心したぜ」
非モテを擦らせた男の回答がコレなんだ。さぁ、緑谷は何て答える?
「おまえオールマイトに目ぇかけられてるよな?別にそこ詮索するつもりはねぇが……おまえには勝つぞ」
「おぉ!!クラス最強候補が宣戦布告!?」
まだ轟のターンでごじゃったか。オールマイトに目ぇかけられることがそんなに嬉しいか?ここは補足しておかないと!
「まぁ待て轟」
「石楠花……」
「確かに緑谷はオールマイトに目をかけられている。2人でご飯食べたり、2人でイチャイチャしたり、2人で誰にも見られないようにこっそり仮眠室に入って行くぐらいにはな。だが2人には秘密の関係性ってものがあるんだろう。察してやれ」
「そうか…そんな関係だったのか…、すまなかった緑谷、デリカシーに欠けた」
「待って!!??違うから!?」
我ながらナイスフォローだろう。イチャイチャしてるのかは知らんが秘密の関係性(個性関係)であることは確かだしな。うん、嘘はついてない。
若干みんなの緑谷を見る目が優しくなった気がする。気を強く持てよ緑谷少年!
「石楠花、俺とお前には差がついちまったかもしれねぇ。だが俺は俺の目的のためにお前にも勝つ」
「おぉぉ!!今度は最強が最強に宣戦布告!?」
「オイテメェ!俺抜きで話してんじゃねぇ!!」
「どうしたかっちゃん。話に交ざりたいのか?」
「違うわ!殺すぞ!テメェに勝つのは俺だ!!」
みんな血が沸っちゃって〜。そんなにギラギラした目で見られても俺そっち系じゃないから気持ちに応えられないぜ?まぁでも……
「俺は別に自分が最強!とか思い上がっちゃいないが、売られた喧嘩は買うのが『落雁の石楠花』としての本分だ。負けねぇよ?」
「上等だテメェ!!」
「ああ」
「ぼっ….僕も負けない!」
そして入場して行く。
雄英体育祭開幕!
▽
『雄英体育祭!!ヒーローの卵達が我こそはとシノギを削る年に一度の大バトル!!どうせてめーらアレだろこいつらだろ!?敵の襲撃を受けたにも拘らず、鋼の精神で乗り越えた奇跡の新星!!ヒーロー科!!1年!!A組だろぉぉ!!??』
「わあああ…人がすんごい……」
「大人数に見られる中で最大のパフォーマンスを発揮できるか…!これもまたヒーローとしての要素を身につける一貫なんだな。そして彼を見てみろ緑谷君」
「えっ?」
飯田が指さす方向には鱗がいた。
ムーンウォークしている鱗が。
「何で!?」
「いや、周りを見てみるんだ」
観客達はと言うと……
「すげぇ!アイツムーンウォークめっちゃ上手いじゃねぇか!」
「この大舞台で入場の場からインパクトを残す登場、肝が据わっている子だな」
「アレが『雄英のマイケル』か…」
「周りがソワソワしている中、1人だけムーンウォーク登場か……やるね」
「ヒーローは実力だけじゃなく人気も要素の一つだ。彼はそれをよく分かっているようだ」
「思いの外高評価多くない!?」
「やられたよ…!僕も今からムーンウォークをするべきか…?」
「やめて飯田君!?」
『B組に続いて普通科C・D・E組…!サポート科F・G・H組も来たぞー!そして経営科…』
今気づいたけど雄英ってクラス妙に多いよな。サポート科が3クラスもあるなんて知らなんだ。どっかにぶっ飛んだ奴いねえかなー?
全クラスが集合し、いよいよ始まろうとしていた。司会はミッドナイトがしている。
「選手宣誓!!」
「18禁なのに高校にいていいものか」
「いい」
「18禁だからこそいるべきだと思う」
「静かにしなさい!選手代表………!」
そして選手代表が発表される。
「1-A!石楠花 鱗!!」
「「「正気か!?」」」
「どういうことだてめーら」
おいおい、俺が選手代表に決まってるだろ?何がおかしいんだよ?
「おいちゃんとしろよ!?テレビに映ってるんだからな!?」
「A組のヘイトを買うんじゃねーぞ!?」
「放送事故一直線だろ!?」
「変に目立つ気しかしない………」
失礼な奴らの集まりだぜ全く…
「俺がそんなに信用無いか?」
「「「ない」」」
「即答は傷つくぞ」
仕方ない…真面目方向で行くか
「まあ見てな?最高の開会式にしてきてやるよ」
「「「不安しかない!?」」」
そして壇上に上がり、ミッドナイトからマイクを預かる。
「やあみんなこんにちは!!雄英の物理的ロケットパンチこと石楠花 鱗ちゃんだよ!みんな盛り上がっていこうぜ!あっ、このテンションに関してはノーコメントで!A組みんなこんな感じだから!!」
「「「アイツやりやがった!?しかも巻き込みやがった!?」」」
会場は微笑に包まれる。それもそうだ、入試1位がどんな奴かと思ったらあらゆる方向にぶっ飛んだキャラが濃い男が出てきたのだから。
「おいおい、そんなテンションじゃ体育祭乗り越えられねーぜ?テンションが低すぎて地面から藻が生えそうじゃねーか。そんなテンションの低さで雄英生やプロヒーロー名乗れんのか!ああん!?」
「「「(アイツ何でヒーローにまで喧嘩売ってんの!?)」」」
生徒達の考えが一致した。
「よっしゃもう一回行くぞ!盛り上がってるかお前らぁぁぁぁぁぁ!!」
「「「おぉぉぉぉぉ………」」」
「まだ声が小せぇ!!一番大きい声上げた人にはこの『俺監修18禁ヒーローミッドナイトセクシー日常写真集』を贈呈するぞ!!」
「「「おぉ………」」」
「何でテンション下がってんのよ!?そしてアンタは何でそんなもん持ってんのよ!?」
「作りました」
「無駄に器用ね!?」
ミッドナイト写真集では威力にかけるか…後で峰田にでも売りつけよう。
「ならこれでどうだ!!『俺監修オールマイト写真集』でどうだ!!」
「「「うおォォォォォォォォォォォォォォォ!!」」」
「オールマイトに魅力負けしましたねミッドナイト」
「アンタの秘密ここでバラすわよ?」
「すみません!!」
まあ存分にふざけたから良しとしよう。下で緑谷が荒ぶってるし。どんだけオールマイト好きなんだよ。
さて、ここからは本気モードだ。
「この中で我こそはヒーローになりたい!って考える人どれくらいいる?」
今までふざけまくっていた奴がいきなり真面目な雰囲気を出したので全員困惑する。
「まぁ事前に話聞いてたから結構いると思って話を進めるね?今のままじゃヒーローなんて夢のまた夢だよ?」
コイツは何を言っているんだ?
いきなり喧嘩を売られたような気分になる生徒が多数出現し、一触即発の雰囲気になる。
「だってそうだろ?今みた限りヒーロー科の引き立て役だ!なんて思ってる奴が多かったからな。見れば分かる、俺目がいいからね。やる気が全く感じられない。何でそんなに牙を折られちゃったの?実力が足りなかったから?個性がヒーロー向きじゃなかったから?」
その言葉が図星な生徒は多数いた。ロボ退治の試験をクリア出来なかったものが、ヒーロー向きではない弱個性と言われたものが普通科や経営科に多数在籍している。
そしてテレビ中継なんてお構いなしに言葉を放った。
「俺……無個性や弱個性だって考え方、大っ嫌いなんだよね」
時が止まった。
それもそうだ、誰もが口にしないようにしていた事柄を何の躊躇もなく、それも生中継の舞台で言い放ったのだ。
「まぁ、ガキが何言ってんだ!って思っちゃう人がいるかもしれないけど、ヒーローがヴィランを倒すだけの職業だと勘違いしてない?戦闘向きでない個性であっても必ず何処かにはその個性を必要としてくれる人がいる。別に敵を倒すだけがヒーローじゃない。ゴミ拾いをする人や率先して小さな事でも人の助けをする人は、誰かにとって『ヒーロー』となる」
先程までガヤガヤしていたはずの声が聞こえない。スタジアムが無音となり、鱗の声だけが響く。
「無個性って考え方もそうだ。無個性だから目指しちゃいけない?そんなはずはない。大昔は個性なんて無かったし、『個性』が無いなら『人間』を鍛えればいい。人間の能力なんてまだ誰もゴールを知らない。なのに皆個性ばかりを鍛えたがる。面白い話だ。確かに命を懸ける仕事だ。力が無ければやっていけないって意見も守れないって意見もある。でもみんながヴィランを倒すことに特化していたら、誰がサポートするんだ?誰が市民を守るんだ?」
誰もが聞き入った。鱗ではない人が同じことを言っても非難されるだけだが、聞き入ってしまう『何か』が鱗にはあった。
「『ヒーロー』ってのは難しい言葉さ。人によって意味が変わっちまう。だから各々が模索して自分なりのヒーロー像を描くんだ。俺にとっては皆が見て見ぬフリをする中、『大丈夫?』と声をかけてくれた人が『俺のヒーロー』だった。個性が無いから?ヒーロー向きの個性じゃないから?考え方が甘いんだよ。何の変哲もない行動や、ちょっとした一言で人は救われるんだ。個性が有る無い?関係ない、個性が強い弱い?関係ない、個性がヒーロー向きヴィラン向き?関係ない……
人を救う権利ってのは、みな平等にあるんだよ」
たった1人、そして体育祭の選手宣誓という何の変哲もない状況。時間にして5分も満たないこの一瞬が、人々の未来を大きく変えた。凝り固まった思考をほぐすのには十分すぎる程の言葉の重みがあった。
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
会場が、テレビを見ていた人達が、個性というどうしようもない悩みを抱えていた人達が歓声を上げるほどに。
「そういうわけで!本当にヒーローになりたいなら元気出してかかって来い!!ヒーロー科普通科サポート科経営科、そんな括りは関係ねぇ!今のところは俺がお前らの1番だ!ヒーローになりたきゃ俺を引きずり下ろしてでも勝ち取ってみな!それでも俺は宣言する!やる気溢れるお前らに勝ち、もう一度俺が天に立つ!最初の体育祭だ!盛り上がって行こうぜぇぇぇ!!」
「「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」
雄英史において、これ程までに会場が一つになったことがあっただろうか?それほどのヒーロー生徒関係なく盛り上がりを見せている。
『おいおいイレイザー!!アイツ最高かよ!?会場を!テレビの前のリスナー達までもまとめ上げやがったぜ!!』
『ああ、これがアイツの才能だろうな。アイツは言動はバカだが人を惹きつけるカリスマ性がある。そこらのヒーローをもう超えてるんじゃねぇか?言動はバカだが』
聞こえてますぜ先生?ちょっとバカバカ言い過ぎてねぇですかい?それよりもミッドナイトがビクンビクン恍惚な表情で震えてるんだけど大丈夫?より18禁指定されない?落雁食う?
「石楠花お前最高かよ!?」
「やる気が湧いてきたぜ!!」
「その通りって思っちゃったよ!」
「漢らしいぜ!!」
出迎えが凄いな。俺金メダル取ったっけ?
「な?俺だって真面目にやれば出来るんだよ」
「最初がアレだったけど後半で帳消しだな」
「ありがとな、しょうゆ顔」
「ここで名前間違えるか!?」
まぁみんなやる気満々になったみたいだし、バッチオーライ!後は結果を残すだけだ。これだけ啖呵切った奴が最後まで残れませんでしたなんてフリが効き過ぎてるだろ。がんばろ。
「石楠花くん!!」
「どったの緑谷?」
「スッキリしたよ!ありがとう!」
「う○こでも漏らしたか?保健室行けよ?」
「違うよ!?」
どーいたしまして。コイツもオールマイトに出会ってなかったら今ここに居なかった可能性があるんだもんな。人生ってのはどうなるか分からねぇもんだ。
さぁ、俺は俺の出来ることを頑張りますか!