流石は某到達点のジョ○フ似の兄貴だぜ。
やることがちげぇや!
今回は石楠花くんが久しぶりに真面目に頑張っています。
会場のボルテージは既に最高潮にまで達していた。
今大会最強クラスの実力者。いや、プロヒーローを含めたとしても上位クラスの実力を誇る両者の対決だ。注目しないわけがない。
『さぁ始まるぜ準決勝!!相対するは最強クラスの男達!範囲殲滅能力最強クラスの男!轟 焦凍!!そして単体殲滅能力最強クラスの男!石楠花 鱗!!』
ステージの中央で互いが見つめ合う。
どちらもやる気は十分、しかし轟は前の緑谷との試合で考えることができたのか、少し浮かない顔をしている。
『一体どっちに勝利の女神は微笑むのかぁ!?運命の準決勝!START!!』
そして試合は始まる。
しかしお互いに攻撃をするどころか、一歩たりとも動かない。
『アレ?あの…もう始めてくれていいぜ?えっ、どうした本当に!?』
プレゼントマイクも観客たちも戸惑いが溢れる中、先に行動を起こしたのは石楠花だった。
「どうしたソーダ味。浮かない顔しやがって。トイレでも行き忘れたか?」
「いや、そうじゃねぇ」
開幕石楠花のペースで話しかけるが轟に一蹴される。
そして自分の意見をポツポツと言い始めた。
「俺は緑谷と戦ってから、自分がどうするべきか、自分が正しいのかどうかわかんなくなっちまってんだ」
「ほう?」
「今、どうしていいかわかんねぇ。さっきは一瞬アイツを忘れたから炎を使えた。でも今は思い出しちまったから使っていいのかどうか…俺にはまだ清算しなくちゃいけねぇことが沢山ある」
轟の自問を聞き、噛み締めるように目を瞑る。
家族の問題、自分自身の問題、それらは簡単に「はいそうですか」と切り替えられるものではない。
じっくりと考え、石楠花が出した答えは……
「ふんっ!」
「ぐっ…!?」
ビンタだった。
「テメっ…!」
「たしかに色々な事情があるんだろう。お前がそう思わなきゃいけないような事情が。まぁ、試合が始まる前に緑谷と話してるところを偶然聞いちまったからある程度は知ってるんだけどな」
「お前っ…聞いてたのか!?」
少なからず轟に動揺が走る。誰にも聞かれたくない自身の秘密を、あろうことかシリアスから無縁のような男に聞かれていたのだから。
「それを聞いてたから、さっきエンデヴァーに会ったけど「五月蝿え」って言っといた」
「あのクソ親父っ…!」
自分の父が目の前の男に接触していた事実に衝撃を受ける。そしてそれに対する石楠花の反応にもびっくりするのだが。
仮にも世間ではNo.2ヒーローと呼ばれている人物に向かって、事情を知っていたとしても「うるさい」と言えるであろうか?
やはり目の前の男はちょっと変わっていると思った。そして胸が空く思いもした。
「たしかに清算しないといけないことは沢山ある。話し合わないといけないことも沢山あるだろう。そして…お母さんともな」
「…ッ!?」
「母の個性だけで1位を取る、父の個性は使わない。その考えを否定する気はない。でもさっきの試合で緑谷に言われたろ?どっちも君の個性じゃないかって」
そうだ。言われたばかりだ。
そしてその事実が轟の原点を思い出させ、同時に迷いも生ませた。
だから今石楠花が出来ることは迷いを取り除いてあげること。
「どっちも凄ぇ個性だ。凍らせる個性に燃やす個性。それらは今お前の体の中にある。でも凍らせれば母の力を借りたことになるのか?ならねぇだろ。燃やせば父の力を借りたことになるのか?ならねぇだろ。今のお前はただ現実を見ようとしていないだけ。お前の力はお前の力だ。誰のものでもない自分だけの力だ。そこに家族の意思はない。
自分が本気を出さない言い訳に家族を使うなよ」
「…っ!?」
ぐうの音も出ない正論がいつもふざけた石楠花から飛び出し、轟は動揺する。だが言っていることは正しかった。
今までも、そして今も自分の気持ちを押し殺し、復讐に取り憑かれていた自分は真剣に戦いを挑んでくる相手を見ていなかった。いや、見ようともしていなかった。
それは緑谷との戦いで気付いたはずなのに、また自分のことばかりを考えてしまっていた。
自分の夢を緑谷が思い出させてくれて、そして力との向き合い方を石楠花が気付かせてくれた。
轟の左半身から僅かながらに炎が噴き出る。いや、炎とは言えないほどの火種程度の出力であるが。それほど自分でも気付かぬほど無意識に個性が噴き出ている。
つまりこの試合の向き合い方を、覚悟を決め始めているという証拠。
「轟、お前はまだ真の意味で自分の個性を知らないガキみたいな状態だ。その個性を家族の個性としてじゃなく、自分の個性として使ってこい」
瞬間、轟の体から炎と氷が展開される。本日2度目の、緑谷という男がぶち壊した概念を、石楠花もまたぶち壊した。
だが炎を使うことによって生じる問題が、この会場にはある。いや、いるといった方が正しい。
「焦凍ォォォォォオオオ!!!そうだ!それでいい!!考えることは何もない!血を受け入れ、己を受け入れ、俺の宿願を達成しろ!!」
「五月蝿えぇぇぇ!!父親だかNo.2だか知らんが人の夢に介入すんな!!自前の炎で裏庭で焼き芋でも焼いてろ!!」
「「「(えええええぇぇっ!?何でアイツNo.2ヒーローに喧嘩売ってんの!?)」」」
肩書きなど石楠花の前には関係ない。
石楠花は『運命』というものが大嫌いだ。
誰かに決められたレールの上を走るだけの人生なんて、彼にとっては死んでいるも同然なのだ。
だからこそ、息子の人生を強制する行為などクソ喰らえだ。
自分の人生は自分で決める、自分がどうありたいかも自分で決める。だからこそ、今までの轟は見るに堪えなかった。
「よく聞け、轟 焦凍。俺は俺の道を違える気はない。これから先もずっとな。だから困ったことがあったら俺にいいな。友達の悩みは聞くものだ」
「俺たちは友達…なのか?」
「一緒に授業受けて、飯食って、話して、今から本気の殴り合いをするんだ。友達に決まってるだろ?だから何でもいい、困ったことがあったら相談に乗る。親のことを気にしているなら、そんなもの俺にとっては障害にすらならない。
プロヒーローだの何だの、そんな肩書き俺には関係ない。
轟を含めて、人々は開いた口が塞がらなかった。
邪魔する奴とはヴィランも、そしてプロヒーローも含まれているのだろう。だからこそ多くのプロヒーローたちの前で、テレビでも見ている多くの観客たちの前で、全員を敵に回すような発言には度肝を抜かれた。
まさに天上天下唯我独尊。
自分だけの道をただ真っ直ぐにひた走る男。
だが不思議なことに、この試合を見ている全ての人は、不快な気持ちにはならなかった。
自分勝手な考え方だろう。
それでも観客たちの心には春風のような暖かな風が吹いた。
ひどく懐かしいような、そして背中をずっと追いかけていたくなるような生き様に、人々は高揚感を隠せなかった。
そんな観客たちの心の変化を石楠花は感じたのかどうかは誰にも分からないが、それでも石楠花の話は続く。
「俺はこの試合でお前の攻撃を避けない。全部迎え撃つと決めた。今決めた」
「そうじゃないとお前と向き合えない気がする。今まで自分の感情をぶつける術がなかったが、今お前の目の前には俺がいる」
「だから全力でかかってこい。大丈夫……」
「お前の思春期、俺が受け止めてやる」
▽
お互いが微笑を浮かべた後、先に動き出したのは轟だった。
轟が初手に使ったものは……左手。
つまり今まで頑なに使わなかった戒めの象徴でもある炎の個性を使ったのだ。
これには石楠花もニッコリ。
自分の覚悟が轟に伝わった証拠でもあるのだから。
その初手に放たれた炎を石楠花は…
避けずに仁王立ちで迎え入れた。
炎の着弾点には依然変わらぬ姿勢で立つ石楠花がいる。
だが炎の直撃を受けて無傷というわけでもなく、ところどころが赤くなっていた。
「中々熱いじゃないの、お前の思春期」
「やっぱり…お前はイカれてるよ」
「褒め言葉として受け取っておこう」
一言二言会話をした後、轟は大氷壁を放つ。
会場を突き抜け空にまで届くような氷が石楠花を包み込み、その姿が見えなくなった。
『おおーっと!氷の塊が石楠花を包み込んだァ!?大丈夫かアレ!?生きてるか!?』
身動きが取れぬ程の氷に覆われ、観客たちは石楠花が動くことができず凍死するのではないかという考えがよぎり始める。
しかしそれはいい意味で裏切られる。
『何だ…?氷の塊から異質な音が聞こえて…嘘だろ!?石楠花の奴!凍らされたことなど関係ないかのように歩いて脱出しやがったァ!?』
腕を振るうこともない。足を振るうこともない。ただ真っ直ぐに歩いていただけ。それだけで氷は割れ、悠然と氷塊の中から現れた。
「焼くか冷やすかお好きな方を選びな。それでも俺はボイルや刺身にはならないがな」
「やっぱり…これぐらいで倒せるわけねぇか」
石楠花は氷塊に拳を叩き込む。すると氷塊は跡形もなく砕け散った。たった一発のパンチで自身の何十倍も大きい氷塊がガラスよりもさらに粉々に砕け散る様を目の当たりにしても、轟は怖気付かない。
「初めて本気で人に向けて両方を使う……だから…」
「早々に負けてくれるなよ?」
「上等だ、思春期小僧」
戦いは過熱していく。
▽
轟が炎を使えば、石楠花が拳の風圧で吹き飛ばす。
轟が氷を使えば、石楠花が氷を粉砕する。
ステージには炎と氷が吹き荒れ、正反対の物質が混合するこのステージは幻想的な雰囲気を醸し出す反面、まさに地獄を体現していた。
地面は荒れ果て、一人の男が歩みを進めるたびにひび割れていく。
さらに容易に近づくことができない冷気や熱気がステージを覆っており、常駐していたセメントスとミッドナイトは既に避難している。
まず人が踏み入れられないであろう環境へと変わり果てたステージの中心では、その元凶たちがしのぎを削っている。
「おおおおおおぉぉっ!!」
「いいねぇ!楽しくなってきた!」
片や石楠花、炎と氷を避けることなく迎撃しているため上着は吹き飛び、体が顕になっている。幸いなことにズボンは破れていない。体には霜がおり、ところどころが焼け爛れている。
片や轟、自身の個性の使い過ぎによって損傷し、さらに石楠花の放つ拳の衝撃波によって吹き飛ばされ、全身隈なく傷を負っている。
お互いに接近戦はなく、石楠花は轟を殴り飛ばすことはしていない。もし石楠花が轟を殴るとすると、紙切れのように吹き飛び、壁に真っ赤な花を作り出すことになるだろう。
それをわかってか轟も石楠花に近づくことはせず、遠距離から今までの鬱憤を晴らすかのように全力で個性を使い続けている。
それでも石楠花を倒すことはできない。
どれだけ凍らせても動作一つで粉々に砕かれる。どれだけ燃やし続けようと動きが止まることはない。全身が燃えていようが拳を繰り出し、熱波と衝撃が轟の体を突き抜ける。
轟の攻撃は確実に効いている。
確実に効いているが、身体中が燃え盛りながらも恐ろしい笑みを浮かべて動き続ける化け物への決定打にはならない。
轟は自身の個性を限界を超えて使い続けるため、今にも倒れる寸前だった。
しかし石楠花の限界も近づいている。
避けることなく全ての攻撃を一身で受け止め続け、平然としているがダメージは蓄積される。
ハジケリストとして人外じみた体力を持っているが、シャコとは水中に生息する生物。熱さにも寒さにも本来ならば弱いのだ。
しかし持ち前の人外じみた体力と精神力で痛みを内に抑えつけ続けているだけ。
だからこそ、この試合の決着は着々と近づいてきている。
それは両者も分かっている。
自分の体力の限界を悟った2人の行動は奇しくも同じだった。
「石楠花……次の一撃で最後だ…」
「あぁ。それでどうよ?個性を全力で使って少しはスッキリしたか?」
「あぁ……なぁ石楠花…」
「あん?」
「ありがとな」
「どういたしまして」
力と力が衝突し、閃光が迸る。
▽
スタジアム内に衝撃がほとばしって数秒、漸く粉塵に覆われていたステージの全容が見えてきた。
見るも無惨に変わり果てたステージ。そのステージで起こった爆発の中心にいた元凶の2人は大丈夫なのだろうかと観客やヒーロー、クラスメイトたちが心配になったころ、ぼんやりと一つの影が見え始める。
『マジで何つー衝撃だよ…!大丈夫かアイツら!?それでこの試合の結果はどうなった!?クソっ、煙で見えやしねぇ!いや!ぼんやりとだが見え始めてきたゼ!そしてステージ!ステージか?まぁいいステージ上に立っている人影は一つだけ!ハッキリ見えてきたぜ!hands up盛り上がれ!準決勝一回戦!この地獄の宴の勝者は……………
石楠花 鱗だァァァァァァ!!』
ステージ上で片腕を天に突き上げ立っている石楠花が映し出される。
轟は衝撃によってステージ外の壁際まで吹き飛ばされていた。
余波で無事なところが見つからないほどに荒れ果てたステージの中央に立つ石楠花。湧き上がるスタジアムの中、石楠花は倒れた轟に向けて歩みを進める。
互いにボロボロである。それこそ無事なところが見つからないほどに。
倒れ伏した轟の元に辿り着くと目が合った。
「よぉ、Mr.思春期。今の気分はどうだ?」
「ふっ…悪くねぇな」
互いに微笑を浮かべ、石楠花が轟を担ぎ上げる。保健室へ運び込むためのロボットがやって来たが、思春期を脱出した友の搬送をロボットが行うのは味気ない気がしたからだ。
瓦礫を踏み分け、出入り口へと歩き出す。そんな2人の背中には称賛という名の惜しみない歓声と拍手が注がれた。
出入り口へと向かう道中、2人は笑顔で会話をしていたという目撃が上がっているがどんな会話をしていたのか、それは2人にしか分からない。
準決勝 勝者 石楠花 鱗