職場体験当日
「コスチューム持ったな?本来なら公共の場じゃ着用厳禁の身だ。落としたりするなよ」
「はーい!!」
「伸ばすな。「はい」だ芦戸」
「みんな!丸太は持ったな!!」
「黙れ石楠花」
かーっ、いよいよ職場体験だ!テンション上がって来たぜ!!ワクワクの波動が全身から際限なく溢れ出てくるぜ!うおォォォォォォスペぺぺぺぺぺぬきょぱぺぺぺぷるぷるぽぷぱばプぺぺぺぺぺぺ!!
「石楠花が真顔なんだが、何か存在がうるさいよな」
「分かる、今虚無みたいな顔してるけど全身から馬鹿みたいなこと考えてんだろうなオーラが出てるよな」
「うおォォォォォォスペぺぺぺぺぺぬきょぱぺぺぺぷるぷるぽぷぱばプぺぺぺぺぺぺ!!」
「「うわぁ!?急にうるさくなったし壊れた!?」」
何て失礼なスケベコンビだ。俺ほど叡智に溢れたオーラを醸し出している男はそういないぜ?修行僧か俺かだろ。だが奴らも職場体験でテンションが上がっての口の軽さだろう。許してやることもないこともないな。結論極刑だ。
「くれぐれも失礼のないように!じゃあ行け」
相澤が軽すぎるGOサインを出してくれた。今からヒーローの一歩が始まるのか〜、テーマパークに来たみたいでテンション上がるな〜。
周りのみんなもテンションぶち上がりフィーバーだけど、残念ながらここで問題点が一つ。
「石楠花は何処に向かうんだ?」
「俺集合場所不明なんよ」
「「「えぇ!?」」」
俺様、集合場所未定な件について。
まじで分からん。集合場所期待要項にはただ一言。クソデカ文字で「待て!」とだけ書かれてた。わざわざクソデカフォントを使ってまで書かれてた。アレはきっと72ptのゴシック体だね。
その時はクソ笑ったけど、今となってはクソ笑えない。俺の1分は都心の土地物価よりも高いんだ、これはもう体で責任を支払ってもらうしかないな。うへへへ、おじさんがねっとりとマッサージしてあげようねぇ!(ねっとりスマイル)。
「どしたん石楠花くん?顔がブサイクだよ?」
「おっ…おぉ…」
「凄いな麗日、あの石楠花がぐうの音も出てないぞ」
「天然ってコエー」
シンプル罵倒すぎて普通に傷ついたわ。麗日恐ろしい子!
天然で自然に言ってるっていうのがポイント高いな。緑谷も前に罵倒されてた気がする。将来は一部に需要があるような、そういうフェチズム系ヒーロー志望かな。
石楠花が生徒達と取り止めもない会話をしている間に、駅構内に荒々しくも甲高い声が響き渡った。
「待たせたな!」
元気溌剌な声と共に出て来たのは、プロヒーローミルコ。事務所不定であるが故に落ち合い場所が決められず、ならば直接迎えに来たほうがすぐさま活動を開始できるため時間を効率化できると考えたのだ。
よって1ーA組がまだ全員が揃っている中、石楠花は職場体験最速スタートを切った。
「時間が勿体ねぇからわざわざ迎えに来てやったぜ!」
「貴方は!?クソデカフォントウサギ!?」
「いいなてめぇ!!いい具合に生意気だ!!」
「貴方はははミミミミルミルミコルココココ……!?」
ヤバい、緑谷が壊れた。ミロのCMに起用できそうなぐらいミとロを言ってる。
しかしまさか直接迎えに来てくれるとは……だからクソデカ待てだったのね、完全に理解したわ。
「こんにちは。貴方がミルコヒーロー、エロウサギですか?私はボブです。好きな食べ物はバランです」
「体育祭で見てたが想像より遥かにイカれてるな!イカれてる奴は好きだぜ?容赦なく蹴り飛ばせるからな!!」
「アレ?敵を蹴り飛ばすんだよな?俺が蹴り飛ばされるラインナップに入ってないよな?」
おかしいな?文脈一つでここまで不安になるなんて思ってもみなかった。1週間持つかな俺の体。
「改めて、石楠花 鱗。ヒーロー名は
「私はミルコだ!よろしくなシャカ!!体育祭は見せてもらったぞ!お前をスカウトしたのは躊躇なくぶん殴れる性格と申し分ない実力が決め手だ!敵を見つけ次第容赦なく突っ込んでブッ飛ばしていくから覚悟しとけよ!!」
「当たり前だぁぁぁぁァァァァ!!!」
「うるせぇ!!」
理不尽すぎない?うるさい同盟を結ぼうとしただけじゃないか。うるさいウサギ&うるさいシャコ、合理的だな。アイドルユニット待ったなしだろ。
ていうかミルコここに来たじゃん。ヒーローとヒーロー志望が揃ったじゃん。職場体験スタートじゃん。俺制服じゃん。
「ミルコ、もう職場体験スタートですか!!?」
「ああ、今から行くぞ!ついてこい!!」
「俺まだ制服です!!どうしましょう!!?」
「そうか!脱げ!!」
メスのウサギって潔いんだね。きっと性欲が強い証拠だよ。A組の男どもよりも男らしすぎて感動したわ、これがヒーローか。
だがヒーローとは常在戦場、いつでもどこでも駆けつけなければならない。ならばどこで着替えるなんて些細な問題さ。着替えられなかったから助けられませんでしたじゃあ話にならない。ならばどうする?
全力で着替えるだけさ!!
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「おらあぁぁぁぁァァァァ!!」
「ああぁぁぁぁぁァァァァ!?」
全力で蹴られた。
▽
無事にトイレでコスチュームに着替え、駅から出た2人。他の生徒達は電車や新幹線に乗り、それぞれの勤務先へと赴いて行った。
「記念すべきヒーロー活動最初の一撃がまさか味方ヒーローからの同士討ちだとは」
「テメェがいきなりパンイチになるからだろうが!」
「女性に脱げって言われたものでね、つい」
「公衆の面前で着替えるやつがいるかよ!!文脈汲み取れ!」
「俺は体育祭の半分をパンイチで過ごした男だぞ!」
「それもそうだったな」
あれ、それで納得されんの?
今更ながら俺の評判どうなってんだろう。プロヒーローにまでパンイチのイメージ染み付いてんのかな。
そういえば駅内にいた人もそんな反応だったわ。「キャアァァァァ……なんだアイツか。ならいいや」みたいな反応だったな。これはもう世間が俺=パンイチと認めたといっても過言ではないということだ。俺は常識改変の個性持ちだった…?
俺の公衆猥褻罪が無くなったのはいいことだが、すごく虚しい気持ちになるから早く職場体験に気持ちを切り替えよう。
「で、今から俺たちは何をするんです?」
「何をするって、人助けて悪い奴ぶっ飛ばすんだ」
「シンプルイズベスト」
「一つの場所でちまちますんのは性に合わねぇ。動いて動いて探し出して蹴り飛ばすんだ!!シャカもその口だろ?お前は私と同じ匂いがするからな!!」
「ミルコほど臭くないんで気のせいですね」
「ブッ飛ばすぞクソガキ!!?」
大丈夫、芳醇なメスの香りがするだけです。何も問題ないですよ。
「ったく…おら、さっさと行くぞ」
「イエッサー!……ふと思ったんですけど、どうやって行くんです?」
「跳んで」
「跳んで?」
嘘だろ?どんなパトロールするのかと思ったら想像の5倍脳筋だった。ウサギに跳躍で追いつけってか?
「何だ?アレだけ派手なことして目立っといて私に追いつけすらできねぇのか?」
「俺ボクサーなんですけど。パンチャーなんですけど」
「なら気合いで着いてこい、まずはそこからだ。機動力がなきゃムカつく奴を追いかけてブッ飛ばせねぇじゃねぇか」
「抱っこして連れてってくれてもいいですよ。おんぶでも可」
「じゃあな、さっさと来いよ」
何の迷いもなく俺置いて跳んで行った。そんなことある?何の迷いもなく俺を切り捨てて跳んで行ったよ。もう少し悩んでくれてもよかったのに。僕ちゃん傷ついちゃうよ?
いや待て。ウサギは寂しいと死んじゃうって聞いたことがある。ならこれは遠回しなメッセージか?早く私を捕まえて♡という新手のメッセージだろ。絶対そうだわ、そうに違いない。あの背中がそう物語っている。
「というわけで捕まえに来たぜバニーちゃん」
「何だ、ついて来れるんじゃねえか!あと誰がバニーちゃんだ、蹴り飛ばすぞ!」
シャコのパンチは生物随一、瞬間火力で真空、プラズマ、果ては太陽まで創り出せるシャコパンチにはオールマイトであろうと敵うまい。
普通のシャコならパンチしかできないだろう。だが俺は人型のシャコだ。ならその出力を足でも出せるようにすればいいだけなのだよ。
加減を間違えると地面を蹴り砕くどころか陥没して辺りのビルごと倒壊する恐れがあるけど、力加減さえ出来ればウサギの跳躍にも追いつけるし、大気を蹴って空中移動できるし、なんならオールマイトにさえ追いつける。
決勝戦で爆豪のかっちゃんに蹴りを放ったけど、あれは神技のような力加減だったと思う。もう少し弱ければ逆に俺がやられてたし、加減の調整ミスってれば爆発するミンチが完成していたことは永劫内緒にしておく。
ひとまず俺は機動力という点をクリアできたのだ。
「バニーちゃん、前方で人垣が出来てるよ」
「シャカ、お前は後で蹴り飛ばす。で、人垣?事件か?何処だ?」
「前方約3キロ先ですね」
「見えるか!?よく見えるなその距離を!」
「シャコの視力はシャコシャコなのよ」
「よくわかんねーが本当ならよくやった!突っ込むぞ!!」
俺の目にかかればボヤ探しなんてあっという間さ。上空なら尚更な。地上にいるよりよく視える。やはりシャコは空へと進出すべき生き物No. 1なんだよ。人シャコが保証する。
「私の耳にも騒動が聞こえて来たぞ、どうやらヴィランが出たらしいな。お手柄だなシャカ!」
「ええ…何でこの距離で聞こえんの…ヤバヤバわっしょいじゃん…」
「その耳よりも早くに察知した目を持つ奴に言われたくねぇな!目標はすぐそこだ!ブッ飛ばしに行くぞ!!」
「ヒャッハァァァァァァァァ!!」
人垣を避けて2人で華麗に着地し、騒動の場所まで赴く。
しかしめちゃくちゃ人いるじゃん。右見ても人、左見ても人、後ろ見ても人、前見ても兎、上見ても人………いや、何で上見ても人いるんだよ。
「おらおらどけぇ!!邪魔する奴はぶち殺すぞ!!」
ヴィランでした。いやどうやって浮かんでんだよ。足元どころか主犯の周りにうっすらと視えるのはガラスか?ガラスを生産する個性、それじゃ浮いてる説明がつかない……ガラスを自由自在に操れる個性か?どちらにしても練度すげぇよ。ヒーロー目指せますよお兄さん。
そして面倒なことに人質をとっているときた。
「ヒーローミルコ現着!……チッ、人質か!」
「チッ、またヒーローか!どけ!奪えるもんは奪った、あとは安全に逃げるだけだ!痛いのは嫌いだからなぁ…!この女がどうなってもいいのかぁ!!」
上空約5メートル、高度はもっと上がるのか?上がるなら今頃逃げてるか。それか仲間を待ってる?それはない、周りを見ても怪しい動きをする奴はいない。よって主犯は奴1人。
ぐちぐち言ってる間に逃げないのは他のヒーロー達に囲まれているから。だがガラスで覆われているのに何故強行突破しない?しないということは衝撃に弱いのか、はたまたガラスを浮かせられるだけで移動はできないかだ。
何故ヒーロー達は攻撃しない?ガラスの強度が分からず、失敗すれば人質が危ないから。奴は攻撃手段を持っているのか?ガラスを操れると仮定した以上攻撃手段は無数に考えられる。あれは本当にガラス?俺の目で見た結果既存のガラスだ、近くの店のガラスが割られ散乱している様から辺りのガラスを使用している。
今ちらっと聞こえた話ではあのガラスはかなり頑丈。衝撃に弱い線は無くなった。多分ガラスを何層にも重ね合わせて強度を補強しているのだろう。
今の最適解は………
「ミルコ、ちょっと耳を」
「あぁ!?どうしたシャカ!」
「…………」
「そりゃいいな!!でもいけんのか?」
「俺は不可能を可能に変える紳士だぜ?」
「くそ生意気だな!だが乗った!!現状それしかなさそうだ」
オーケー、なら作戦開始だ。別に作戦って程のものではない。俺だからこそできる脳筋戦法だ。
「おら!早く武器を下せクソヒーロー共!!そうだ!少しでも攻撃の意思を見せたら即この女を…「お姉さん目を瞑って!」…誰だ俺の話を妨げるやつは…!」
その言葉の続きが紡がれることはなかった。
何故なら…… 幾層にも重ね決して割れることのないと思っていたガラスが、一瞬にして粉々に砕け散ったのだから。
一欠片も残ることなく星屑のように粉々に砕けたガラス。足場も砕け地面に落ちるまでの時間がやけに遅く感じる。これがゾーン、または走馬灯という体感時間が緩やかに感じる現象なのだろう。
だからだろう、こちらに向かって一直線に向かってくる鬼のようなウサギを目視できたのは。
足がこちらに緩やかに振り下ろされるまでを知覚し、そして……ヴィランの意識はそこで途絶えた。
石楠花が何をしたのか、それは実に簡単なこと。
人差し指を親指で固定、極限まで力を圧縮し、一気に弾いて解放する、これだけだ。
オールマイト並のパンチを人差し指と親指という二点で実現させた。
言うなれば簡易空気弾、または簡易レールガン、本当の名はデコピン。
いくらガラスが分厚かろうと、ガラスは一点に集中する力には弱いのだ。それが音速で飛んでくる空気の塊なら尚のこと。
事前の打ち合わせ通り、ヴィランブッ飛ばし委員会のミルコがヴィランを蹴り飛ばして戦闘不能にし、人質が割れたガラスで怪我するよりも早く石楠花がお姫様抱っこで救出。
無事、最小限の被害で事件は解決した。
「大丈夫かい?お嬢さん」
「はっ…はい…!」
あまりにも鮮烈すぎるデビュー。
石楠花は1人の女性の心を盗み、シャコとウサギの職場体験1日目がスタートした。