いや、人ん家の前で何やってんの?   作:ライムミント

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おまた せ!


性義のヒーロー

 

 

 薄暗い路地に大人が2人、子供が3人。そのうち1人の大人と2人の子供は倒れ伏し、残った子供に狂気に身を包んだ大人の一線が叩き込まれようとしていた。

 

「氷に炎、言われたことはないか?"個性"にかまけ挙動が大雑把だと」

「化けモンが…!」

 

 倒れ伏した緑谷と飯田が助けに入ろうとするが入れない。今目の前で猛威を振るっている敵、ヒーロー殺しであるステインの個性により身動きが封じられている。

 

 だが動かなければ振るわれた刃が間も無く轟を切り裂くだろう。頭では分かっているのだが、もがけどもがけど力が入らない。焦りを生み、さらに悪循環に陥る。

 

 個性を解くことが出来ず、景色がスローモーションのようにゆっくりと轟を肩口から切り裂かんとするまであと数瞬……

 

 

 

 

 パキッ……

 

 

 

 

「何?」

「はっ!?」

 

 突如上空から2人の間に降ってきた偉丈夫が割って入り、刀の側面に拳を叩き込んだ。

 

 刀は側面からの衝撃に弱い。放たれた異形の一撃に耐え切れるはずもなく、刀身は真っ二つに折れる。その場の全員の驚愕を残して。

 

 特に緑谷、飯田、轟の驚愕は計り知れない。

 

 何故なら刀を折り、窮地を救ったその人は、ひどく馴染みのある、それこそ最近まで近くでその背を見続けたヒーロー志望だったのだから。

 

 異形が如く太い腕、頭部から天を衝くように伸びる触角、見知ったスーツに身を包み、安心感ある声が鼓膜を揺らす。

 

 間一髪、拳一つで刀をへし折った新手に警戒し、ステインは距離を取る。

 

 長年の戦闘経験から、推測できる目の前の男から発される圧倒的な力の波動を警戒しながら。

 

「今日は…ハァ、よくヒーロースーツを身に纏う子供に会う日だ…、だが子供にしては些か闘気が滾りすぎている……貴様は誰だ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「援◯はダメだぞ!!!」

 

 

 空気が死んだ。

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 時は少し遡る…

 

 

 

「ヒーロー殺しぃ?」

 

 ヒーロー殺しってアレだろ?今巷を騒がせているアレだろ?あんまりよく知らねぇけどアレだろ?インゲニウムって確か飯田の兄だった筈だからアレだろ?

 

 ニュースで最近よく見るし、ミルコの情報によればヒーロー殺しは保須市に出没してるらしい。ていうか保須市って飯田の職場体験先だった筈……あっ(察し)。

 

「ヒーロー殺しにはかなりの数のヒーローがやられてる。跳び回ってヴィランをぶっ飛ばしてるうちにかなり保須に近くなった。なら蹴り飛ばしに行くだろ?」

「愚問だね。1+1=35ぐらい当たり前な答えだな!」

 

 流石だぜ。容赦なく蹴り飛ばしに行くその姿勢、見習わねば。

 俺も容赦なく殴り飛ばす気概を持つべきだと思うんだ。何事にも拳で抵抗しないと。15歳、拳で。

 

「そうと決まれば保須方面に向けてパトロールだ!行くぞシャカ!大きい事件がなけりゃ今晩には着くだろ」

「オーケー、遠征ついでにおやつ買ってくるわ」

「遊びじゃねぇんだぞ。300円までな?」

「遠足じゃねぇんだぞ。バナナはおやつに入りますか?」

 

 勿論入るよな?俺は何かといちゃもんつけて変わり種のおやつを持っていく派閥だぜ?オラッ!テメェうさぎだろ!?だったら落雁はセーフだよなぁ!?

 

「よし、今から向かうぞ。遅れんなよ?置いてくからな」

「おやつも買った。トイレも済ませた。ボランティアもした。人を救って感謝の言葉を耳に刻み込んだ。ノンストップで保須に向かえるぜ!もう俺に死角も忘れ物もねぇ!完璧さ!」

「服着ろよ」

 

 忘れてたわ。

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

「もう暗くなってきたぜ?まだ着かねぇの?」

「てめぇが半裸のせいで職質受けまくるから遅くなってんだろぉが!!」

 

 うん、まさかの足止めだったわ。

 まさか国家公務員の敵は国家公務員だったなんて…!おのれ公明!巧妙な罠を…!

 

 警察に見つかり追いかけられる。

 ミルコが釈明。

 俺氏、服を着る。

 いつの間にか服が脱げる。

 ヒーローに見つかり捕獲される。

 ミルコが釈明。

 俺氏、服を着る。

 いつの間にか服が脱げる。

 マスコミにすっぱ抜かれる。

 ミルコが釈明。

 俺氏、服を着る。

 いつの間にか服が脱げる。

 以下ループ…

 

 素晴らしい負のサイクルだ、永久機関が完成しちまった。ごめんよ先生、多分またニュースになるけど笑って受け止めてくれ。

 

 だが周囲の人たちを笑顔にすることはできた。

 学校帰りの学生も、買い物帰りの主婦たちも、泣いている子供も、憔悴しきったサラリーマンも、空を駆ければ皆上を向く。笑顔振りまき帰路に着く。

 

 笑われていこうじゃねえか、服一枚安いもんだ。

 

「安くねぇよ!後始末する身にもなれ!」

「今日でお互いに謝罪スキルが上達したよな?記者会見もバッチリだ」

「蹴り飛ばすぞ!?」

「今蹴り飛ばされた!?」

 

 そんなに強く蹴り飛ばさなくたっていいだろ!?強めの愛情表現か?可愛いやつめ。

 

「ヴィラン予備軍みたいな挙動をしてる男なのに、何で市民からの印象が良いのか疑問だわ。パンイチを擁護する人が大勢いたしな」

「パンイチの先駆者として意見を言わせてもらうと、人は心に仮面のようなパンツを被っているんだよ。俺はそれをペルソナ曰く、パンソナと読んでる」

「くだらねぇこと言ってねぇでさっさと行くぞ。何がパンイチの先駆者だ」

「あっ、ミルコはパンソナ派よりもペルンツ派?中々攻めた思想してるね。なら俺にお尻を触られても仕方がないね」

「何がだよ!?尻触んな!?」

 

 くそー、ペルンツ派閥か。キノコタケノコ論争に燃料を投下する存在だな。許せねぇよ、お尻磨きの刑に処す。さわりさわり。

 

 なお空中で触る模様。空中じゃあ逃げられないねぇ!念入りに磨き上げようねぇ!もみさわもみさわ。

 

 

 空中3回転捻りサマーソルトキックで地上にリバーススラムされたわ。鼻血出た。

 

 

「前が見えねぇ…」

「馬鹿が。悪人はいずれそうやって地獄に叩き落とされていくんだ……んっ?なんかやけに明るくないか?」

「状況を教えてくれ。俺今顔がアスタリスクだから目と鼻と口がやられている」

「なら今どうやって話してんだよ」

 

 心の声を感じ取っているのさ。愛が成せる技だよ。

 

 よし戻った。俺のシャコシャコアイで見渡してみると……めっちゃ燃えてんじゃねぇか。

 

 あとなんかキモイのが空を飛んでいる気がする。気のせいか?今の距離だと米粒ぐらいの大きさにしか見えないが、あのキモさは俺が吹っ飛ばしたキモイ奴の親戚だろ。きっとそうだよ。

 

 

「ミルコ、家屋の倒壊、炎上を確認。怪我人も多数。あとヴィランっぽい奴も見える。被害の元凶かな?早急に向かおう」

「何!?なら急ぐぞ!飛ばしていくが、疲れたとか抜かすんじゃねぇぞ!」

 

 流れゆく景色を尻目に、立ちはだかるビル群をぴょんこぴょんこと跳び超え、やっとこさ保須市へと到着したが…酷いな。

 

 瓦礫や硝子が散乱しているし、ヒーローが避難誘導をしてはいるが空を飛べる奴がいるのなら安全な場所への避難は難しい。てか安全な場所が何処かすら分からん。

 

 保須にいるのはヒーロー殺しだけじゃないのか?ヒーロー殺しに乗じて悪さを企む馬鹿が出たのか、それともヒーロー殺しは徒党を組んでいたのか…

 

 このキモイ奴らが俺が学校でぶっ飛ばした奴と関係があるのなら、このキモイ奴の背後には癇癪持ち熊手ファッションと自立式黒モヤ掃除機、そしてラジカセ勘違い面白おじさんがいることになる。

 

 最悪なのはヒーロー殺しと結託している後者だが、さてどうしたもんか…

 

 今は考える時間が欲しいが、どちらにせよ俺がやることは変わらん。まずは目の前の脳みそ剥き出しブラザーズを殴り飛ばしてから考えよう。俺は考えるな感じろタイプだからな。

 

「じゃ、アレをぶっ飛ばしに…ん?」

 

 何だ?何か緑谷から位置情報が送られてきた。

 

 アレか?彼女にここに来て欲しいっていう催促メールか?思いっきりグループラインに打って誤爆してるし、まわりくどすぎるだろ。要件を打ちなさい。

 

 いや待て、えっ?彼女えっ?何?あいつ彼女いたの?嘘だろ?えっ?爆豪嫉妬ボンバー警報か?

 

 いや、違うな。IQが1万と2千はある俺の頭脳がフル稼働して導き出せる答えが、そんなちゃちな筈がない。

 

 これはアレだ。意味深な感じを装って女子の気を引きたい拗らせた思春期特有のアレだ。きっと職場先で女子成分が足りなくて奇行に走っちゃうアレだ。可哀想に緑谷少年、俺はウサギのフェロモンに包まれてるよ。

 

 冷やかしに行きたい。超行きたい。普段なら嬉々として冷やかしにいくが、今は街が緊急事態。後ろ髪を引かれる思いだが、騒ぎの元凶をぶっ飛ばして心を冷静に……この位置情報、近くね?

 

 えっ?緑谷も保須市にいるの?俺が言うのも変だけど、何で?

 

 飯田が保須のヒーロー事務所を志望してたはずだけど、緑谷も保須のヒーロー事務所に行くって言ってたっけ?まぁ、ミルコみたいに飛び回ってここに来た線が1番濃厚な……まさか!?

 

 

 保須にいる飯田

 飯田が保須にいることを知っている緑谷

 保須にやってきた緑谷

 保須の位置情報を送信(遠回しなアピール?)

 位置は路地裏(意味深)

 暗がりに男2人、何も起きないはずはなく…

 

 

 俺のIQ1億と2千万の頭脳がベストアンサーを導き出しちまったぜ。まぁアレだ、多様性社会が成せる真実だと思うよ。結婚式には呼んでくれ。

 

 

 だがもしも、もしもだ…

 

 もし俺のベストアンサーが外れていたとしたら…

 

 もしヴィランに遭遇して、ヒーローが近くにいない場合の緊急通報だとしたら…

 

 もし要救助者を発見した場合の苦し紛れの一手なのだとしたら…

 

 

「ミルコ、申し訳ないが別行動をとっていいか?」

「あん?どうした?」

「職場体験でここに来ているらしい友達から意味深な位置情報が送られてきた。緊急かもしれないから、そこに向かおうと思う」

「成る程な。なら私も行った方が早いんじゃねぇか?」

「いや、その間にも被害が拡大するかもしれないし、心に一生消えない致命傷を残すようなBでLな光景が待っているだけかもしれない」

「一体何が起きてんだよ!?」

 

 分からん。賭けみたいなもんだ。万が一の可能性でない場合、俺は目が爆発する可能性がある。不謹慎だけどピンチであってくれと祈りに祈ってる。不謹慎だけど。

 

「機動力に優れた俺たちは別々に行動した方が救出効率がぐっと上がるだろう。なに、俺もかなり経験は積んだ。先導する先輩が超優秀でしたんで」

「嬉しいこと言ってくれんじゃねぇか。確かにそっちの方が効率的か……よし!ヒーローミルコが許可する!シャカ、存分にむかつく奴をぶっ飛ばして人を救ってこい!私は目の前のキモイのを蹴り飛ばしてくるからよ!」

 

 許可は大事だからな。俺たちはまだヒーローでもない卵なのだから。報連相は大切、テストに出るよ。

 

 あっ、ミルコもうキモイ奴を蹴り飛ばしてんじゃん。連続踵落としじゃん。敵さん地面にめり込んでんじゃん。俺の出番あるかこれ?

 

 でもまずは気になるメッセージの解決に赴きますかね。ピンチなら助ける、相引き現場なら吐瀉物を撒き散らしながら記憶を消去しつつ全力で撤退。

 

 さて、鬼が出るか鬼が出るか、それとも鬼が出るか。

 

 

 そして冒頭に至る。

 

 

 

 

 

 

 

 ▽

 

 

 

 

 

 

 メッセージの地点についたと思ったら、まさか轟と刀を持ったコスプレおじさんまでいるとは。

 

 アレか?4人で集合してた感じ?4人でアハハのウフフなことをする予定だった感じ?壁際にもたれかかったヒーローらしき人もいるな、なら5人か。なかなか攻めすぎだろ。

 

 まぁ、これはピンチな方ですね。目が蒸発するような悍ましい現場じゃなくてよかった。本当によかった。敵の襲撃だから状況的には全然よくないけど。

 

 現場についたと思ったら緑谷と飯田が地面に這いつくばってるし、轟が斬られそうになってるし。とりあえず間に入って刀はへし折っておいたけどさ。

 

「で?目の前のあんさんがヒーロー殺しって認識でOK?」

「石楠…いやシャカくん!?どうしてここに…?」

「職場の方針で飛び回ってた。そしたら位置情報が送られてくるもんだからさ。俺としてはお前らが揃ってる方が驚きだよ」

 

 散り散りに散った同級生3人と路地裏でばったり、恐ろしい確率だろ。今年の宝くじ当たるんじゃねぇかな?

 

 さて、目の前のコスプレおじさんが件のヒーロー殺しだとして、凄え血走った目で見つめてくんだけど。俺何かしたっけ?刀を折ったって?多分元々刀身が脆かったから触れただけで折れたんだよ多分。なのでノーカンで。

 

「貴様…、良い拳だった。的確に刀身のみ狙う…、中々面倒な相手が来たもんだ」

「ありがとう、すごく嬉しい。私はペンです。あなたはボブですか?」

「人語を理解しないイかれた獣のようだが…、ハァ…貴様は何故そのスーツを身に纏う?何のためにヒーローであろうとする?」

 

 このおじさんは何を言ってるんだろうか?ヒーローである理由?そんなの……

 

 

 

 

 

「理由や意味なんて何もないだろ」

「…何?」

 

 

 

 

 

 

「人は何かに縋りたくなるもんだ。そこに特徴的なヒーロースーツがあれば、縋り先も見つけやすいもんさ。偉大なる偉人たちの功績かな?」

 

「だが俺は別にスーツは偉大だとは思わない」

 

「ヒーロースーツを纏っていても精神が伴っていないヒーローや、意味を履き違えたヒーローを俺は腐るほど見てきた」

 

「スーツを着れば自覚が出るって意見も聞くが、その程度の自覚ならばゴミ箱にでも捨ててしまえ」

 

「大切なのは、己の肉体が、精神がヒーローたらしめるかどうかだ」

 

「ヒーロースーツに意味があるんじゃない。誰が着ているかに意味があるのさ」

 

「当たり前のように手を差し伸べて、当たり前のように協力して、当たり前のように笑顔にする」

 

「そうした誰もが簡単に明日から実践できることを、息をするように実行している者たちにこそ意味が生まれてくるんだよ」

 

「最近のヒーローは、やれヴィランが出ないだの、犯罪を解決してヒーローであろうとする傾向が多すぎる」

 

「別に自分からヒーローであろうとする必要なんてないんだ。人を笑顔にする日常の、俺の、俺たちの人生そのものがヒーローとしての軌跡だから」

 

「要は俺が歩んだ道のりで、俺が付けた足跡が何を築いていくかってことさ」

 

「ヒーローなんて自分から名乗るもんじゃない」

 

 

 そんなの…

 

 

「至るものだから」

 

「おまえ…いいな…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや言葉のギャップが激しすぎない?」

「緑谷…俺も同じことを思った」

「僕もだ」

 

 

 

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