休日、クラスの連中は商業施設に買い物に向かっている。
俺も爆豪勝衛門の首根っこを掴んで集合場所に馳せ参じようと思ったけど、友達の家族のお見舞いほど重要なことはない。
なんなら合宿セットは事前に準備済みだ。ごめんな、俺が遠足ウキウキ完璧マンで。用意完璧なんだわ。悪いね先生、必要な物の予想は完璧なんすわ。
今は轟と並んで病院に向かっている。
「入院することは数えられないくらいあるけど、お見舞いする側に回るのは滅多にないな。とりあえず花火持ってきたんだ、病室で楽しもう」
「ふざけんな、絶対に止めろ」
花火ダメか。じゃあ詰んだな。花火で団欒出来ると思ったんだが、これは別のタイミングで使おう。
「轟はお母さんのお見舞いにどれぐらいの頻度で行くんだ?」
「時間があれば行って話すようにしてる。体育祭でお前らと戦うまでは行ってなかったから…大切な事を気づかせてくれてありがとう」
「いいよいいよ。なら今度緑谷も誘おうぜ」
「ああ」
いいね、家族とは話せるうちに話しておくもんだ。今気づけて良かったな。俺の功績か?なら多少の無茶は許されるな。
「友人枠でお見舞いするなら、呼び方を変えてみることから始めよう。他人行儀だと怪しまれるからな。俺のことを終生の友!マイベストフレンド!彼と友達になるために雄英に入学したんだ!って紹介してくれたんだろ?」
「いや、そこまでは言ってねぇ」
そこまでは言ってないのか……
それぐらい誇張してくれても良いんだけどな。
「病院では友達のことを下の名前で呼ばないと追い出されるらしいぜ」
「そうなのか…?」
「しかも母親の目の前で名前呼びさせるために看護師が見張ってるらしい」
「そうなのか…?」
「俺は『ブラザー』と呼ぶから、『お義父さん』と呼んでくれ」
「ふざけんな」
しっかりした自我が残ってたか。今の流れで轟家公認のお義父さんになれると思ったんだけど。うぇ〜いエンデヴァーくん見てるゥ〜?君の息子にお義父さんと呼ばせてまぁ〜すぅ!
適当なことばっかり話してたら病院に着いちまった。轟って聞き上手だよな。たまに正論が飛んでくるけど話しやすいぜ。嘘が事実になって返ってきやがる。ごめんな緑谷、変なこと吹き込んだかもしれん。
「着いたな。病室までの案内頼むぜ」
「あぁ、お母さんの病室はこっちだ」
「君可愛いね。天界から迎えにきた天使かと思ったよ。まだ寿命を迎えていないはずなんだがね」
「……♡」
「石楠花、そっちじゃない石楠花」
「君も可憐だね。まるで荒野に咲く一輪の花だ。私が摘んでしまってもいいかい?」
「……♡」
「石楠花、こっちだ石楠花」
待ってくれ轟、今いいところなんだ。もう少しでヘブンのドアが開いて俺の経歴に記録されるんだ。
だから大丈夫だ、迷子じゃないから。襟元掴んで引き摺らなくても今度こそちゃんと進むから。
「ここがお母さんの病室だ」
「やべぇ、今になって緊張してきたな。歯はちゃんと磨いた、お土産の落雁は持った、あれ?俺の花火は?」
「受付で没収されただろ」
「そうだったわ」
俺の花火が……部屋で線香花火する予定だったんだが…
きっとエモいぜ。エモいってなんの略なんだろうか?ドラ〇〇んか?未来に帰るシーンの情緒を「えも」で再現してんのか?
まぁいいや。お見舞いに来ました──!
「入るよお母さん」
「俺が来たぜハニー」
「まだ黙ってろ石楠花」
轟がドアを開けてくれたそこには……儚げなやべえぐらい美人な女性がベッドに座っている。
マジか、おいマジか。轟の顔面偏差値の大元はお母さんでしたか。今からアイドル目指せますよ。ガキどもを一捻りしてやりましょう。
おいおい、これで経産婦ってマジか。えっ?俺と同級生ですか?轟のこと2歳くらいで産んでます?
「いらっしゃい焦凍……そちらの方は?」
「紹介する、学校の友達の石楠花。ほら…前に話した」
「あぁ…!あの!」
「ちょっと待て、それ大丈夫な内容だよな?」
気になりすぎる。確かに友達の話はしたって言ってたけど、反応見る限り大丈夫じゃない時の反応だったぞ。レアアイテム見つけた時だぞ。
「謎の力でどっかに飛んで行った服を石楠花がパンイチの状態で追いかけてた時にミッドナイトに見つかって、鞭で縛り上げられてパンイチのまま廊下を引き摺り回されてた話をしたぞ」
「ふざけんなお前」
俺に恨みでもあんのかお前。思い当たる節がありすぎるけどよりによってソレを話すのはダメだろ。轟家の印象が鞭に縛られて引き摺られる半裸の変態ってことになるだろ。
「笑ってくれてたぞ?」
「笑う以外に選択肢がねぇよ。最悪友達は選びなさいって説教コースだよ」
懐が深くて良かったよ全く。いや、全く良くないわ。ただ俺の恥部が漏洩しただけだ。
「仲良いお友達が出来て良かったわね焦凍」
「ええ、こちらこそ焦凍くんにはいつも仲良くしてもらっています。彼には助けてもらいっぱなしですよ。ご挨拶が遅れてしまいましたが、私 焦凍くんの親友の石楠花鱗と申します。これ、つまらない物ですが良ければどうぞ」
「まぁ、ご丁寧にどうもありがとう。気を遣わせてしまって……私は、焦凍の母の冷です。改めて焦凍と友達になってくれてありがとう」
「焦凍くんは私の親友ですよ。日々切磋琢磨させていただいてます。彼と話していると、負けないように日々頑張ろう!って気にさせてくれるんです」
「誰だお前、石楠花を何処にやった」
「ふざけんなお前」
前に百にも言われたよ。俺が真面目に話すのそんなにダメか?人が変わったか疑うレベルでダメなのか?
挨拶は基本中の基本です。挨拶で始まり、礼儀で終わるのです。礼儀を欠いた行動なんて人間がすることじゃないね。
「冷さんはお美しいですね。よろしければ私としっぽり温泉デートなんてどうですか?」
「ふざけんなお前」
何でだ?人妻は温泉に誘う、常識だろ?まだ俺の礼儀の範疇なんだ。
「ふふっ…聞いていた通り面白い子ね、焦凍と友達になってくれたことに感謝しないとね」
「お母さん、石楠花の言うことは全部嘘なんだ。嘘を言わないと死んでしまう生物だってクラスのみんなが言ってた」
「嘘に塗れた言葉の中、本心から言ったセリフが今なんですよお母さん」
「黙れ」
言葉がキツいね!お母さんの前だよ?落ち着いて落ち着いて。どうどう。
だが本当に母親の前では嬉しそうな顔するな。その顔をもっとクラスメイトの前で見せてもいいと思うんだが。
……いやダメだな。学校でファンクラブが出来る。俺の人気が二分してしまう。それだけは阻止しなければ。
「ファンクラブは作らせねえぞ!じっちゃんの名にかけて!」
「急にどうした?」
「俺のプリティーな女性ファン達が焦凍に寝取られる未来が見えた」
「何言ってんだ?」
「まぁ、焦凍は学校で女子に人気があるの?」
「そりゃもちろん!焦凍くんは毎日女子を取っ替え引っ替えしてご飯を食べさせてもらったり、抱き寄せながら授業を受けています!」
「まぁ…!そうなのね…!」
「ふざけんなお前、違うんだお母さん」
弁明しているが俺は未来の可能性を語ったのだ。もしかするとそうなるかもしれないからな。チャラ男轟、それはそれで見てみたくもある。
「お母さ〜ん、洗濯物……あれ?焦凍も来てたの?それと……」
おいまた美人がご降臨なされたぞ!一体どうなってんだよ轟家!姉か?おい姉か!?姉なんだろ!?天は二物を与えずというが潤沢に与えすぎだろ。今この空間の顔面偏差値で世界取れるぞ。
良かったねぇ、エンデヴァー似じゃなくて冷さん似で。エンデヴァーの血は根絶されている…?
「姉さん…紹介すんの不安だけど、クラスメイトで友達の石楠花。ほら……前に話した…」
「あぁ!体育祭で焦凍と戦ってた…!それと、パンツ一枚で縛られながら引きず…られてた…って……」
「ふざけんなお前」
俺の恥部が姉にも説明済みなのかよ。轟家何人いるか知らないけど大半知ってるんじゃね?
めっちゃ顔を赤らめて目を逸らされたじゃねぇか。どうしてくれるんだ、美人が1人俺を見捨てたぞ。
「お前姉ちゃんにもソレ説明済みなのかよ。俺の世に出してはいけない黒歴史がどんどん拡散されてんだけど」
「ん?姉さんに話したのは、石楠花が発明した謎の道具の影響で石楠花と葉隠のコスチュームが消し飛んだ時に、目を血走らせながら葉隠の裸をガン見してたお前が女子達にボコボコにされて縛られてパンイチのまま引き摺り回されてた方だぞ?」
「ふざけんなお前」
謎にレパートリーつけて話すなよお前。
何?轟家には俺が女性にパンイチで引きずられた話が2種類伝わったの?この世の終わりだろ。
そら顔赤らめてこっち見るわ。指の隙間からチラチラ見るわ。俺は今、イケメンの変態ということになる。変態に顔は関係ないのだよ。必要なのはやり遂げる心さ。
「んんっ…!初めまして、焦凍の姉の冬美です。焦凍と仲良くしてくれてありがとね!」
切り替えがすごいな。教育が良かったと見るね、母親の。エンデヴァーの教育だったら、「フン…」からの無視だ。マジで遺伝子ナイス働きをしてくれたと思う。
「こちらこそ初めまして。私は焦凍くんのベストフレンド、石楠花 鱗と申します。冬美、俺と結婚してくれないか?」
「ええええっ!?」
「ふざけんなお前」
「えっ…えっと…!家族で食卓を囲むような…幸せな家庭を築いてくれるなら……」
「姉さんしっかりしろ。きっと夏の熱さにやられたんだ。正常な思考ならそんな決断を下さねぇ。こいつは変態だ」
「ふざけんなお前」
決断下す可能性だってあるだろ。一目惚れはこの世に存在する神の遊び心なのだから!
……ポロッと漏れたけど、闇の深さが伺える言葉だったな。大丈夫!笑顔が絶えない食卓にするから俺に身を委ねるだけでいいんだよ!さぁ…まずはクレープを半分こしに行こう。
「ふふっ…!もう仲良くなったようで安心したわ」
「母さん、これだけは絶対に違うと俺でもわかる」
「焦凍…いや義弟。俺のことをまずお義兄さんと呼ぶことから始めよう」
「ふざけんなお前」
病室が明るくなる。そうだよ、家族の団欒はこれで良いんだ。
冷さん、息子さんは元気ですよ。俺は少しでも貴方が元気になるのならふざけ倒しましょう。元気は気から、楽しんでもらえれば少しはマシになると信じています。
そして、いつか家族で食卓が囲める日が来ることを信じています。エンデヴァーは俺が殴っとくんで。何なら旦那に立候補させてください。冷さんの足を毎日舐めますんで。
「よし、家族が揃ったなら俺のとっておきを話すしかないな。『爆笑!轟焦凍日常列伝』を!」
「そんなもんねぇ」
「あれは確か5年前……」
「お前と知り合ったのは3ヶ月前だ」
「他クラスの女子に頬擦りしていたところから始まります」
「ふざけんなお前、そんなことしてねぇよお母さん、姉さん」
たっぷり1時間弱話してきた。途中氷漬けにされそうになったけど、お母さんとお姉さんが喜んでいたので、心なしか轟も嬉しそうだった。
そろそろ時間だということで帰る際、また焦凍のことを教えて欲しいと頼まれた。そして、これからも仲良くしてほしいと……
本当に立派な母親だ。心の底から敬意を称するよ。轟焦凍、お母さんをこれからも大切にな。
冷さんと冬美さんとも連絡先を交換したよ。手始めにパンツの写真を送ろうとしたけど、轟に殴りかかられて止められた。
なのでとりあえず轟にエロサイトのスパムメールを送信しておいた。横で引っかかってクリックしそうになったので全力で止めた。エンデヴァーにITリテラシーの教育を求めます。
なんか緑谷が敵と遭遇したらしい。
何かと問題を引き寄せるよな。掃除機か?
とりあえず隣の轟と現地に向かうことにする。