緑谷が敵と会敵、えらいこっちゃえらいこっちゃ。
「敵と会敵……ちょっとした洒落が出来たな」
「今それどころじゃねぇ、急ぐぞ!」
「まぁまぁ、心にゆとりを持ちなさい若いの。敵と会ったけど無事だと連絡は来ている。でも現場見てねぇからな……急ぐぞ轟!緑谷がピンチかもしれねぇ!」
「だからそう言ってんだろ…!口じゃなくて足動かせ!」
俺たちはみんなが買い物に出かけた場所に向けて絶賛大慌てで全力ダッシュ中。
被害は?他のみんなは?連絡だけじゃよく分からん。手遅れであっても現場に向かってみないと見えない景色もある。
敵に会って戦闘したってわけじゃなさそうだが…心配だな。轟も心配そうな顔してる。友達がピンチになってんだ、そら心配だろう。
「近づいて来たからか、人が多くなってきたな」
「ああ…さっきの今だ、情報が出回ったわけじゃねぇ。ヒーローと警察を見て野次馬が集まったか?」
「おいおい、ショッピングモールが一時閉鎖するらしいぜ。そりゃ避難する人と野次馬でごった返すわな。まだ距離あるのにこれだ。フェスでも始まるんか?」
相変わらずの民度よ。危険かもしれない場所に近づくか普通?それで巻き込まれたら文句言うんだろ?私は野次馬撲滅ヒーローになります。シャコのパワーで殴りかかることが私のファンサービスです。
「こりゃ道沿いは厳しいな。よし…焦凍、俺に乗れ。ショートカットする。ショートだけに。これ使っていいぜ、将来のヒーロー自己紹介にどうよ?焦凍のショートがショートカット、ショートツヒーローショートです」
「何くだらねえこと言ってんだ」
「最近のヒーローは持ちギャグがあるもんだぜ?こないだ飯田も考えてたぞ」
「そうなのか?」
「そうなんだよ」
「そうなのか」
そうなんだよ(断言)。良かったな考える手間が省けて。俺も誰かから考えて欲しいな使わないけど。
くだらねえこと言ってる場合じゃねぇわ。ほら俺の背中に乗れ、アルティメットショートカット見せてやる。ショートだけに。
「ほら早く背中に乗れ。個性無しの身体能力で俺に勝てる奴はこの世界に親族ぐらいしかいねえ。見せてやるぜアルティメットパルクール」
「どこ走んだ?」
「屋根の上からビルの屋上」
方法は任せろ街中だから個性使えないけど、俺のスペックは到達点ぞ?人類屈指だ舐めんなよ。
「乗ったぞ…おんぶされたの初めてかもしんねぇ。良いもんだな」
「俺のことをお義兄さんと呼ぶ決心がついたか?」
「それはねぇ」
「俺のことをお義父さんと呼ぶ決心がついたか?」
「それもねぇ」
「両方呼びたいけど甲乙つけ難いって?欲張りだなぁ〜焦凍は!」
「さっさと行け、急いでんだ」
それもそうだな。待ってろよ緑谷!それと何処かで彷徨っているはずのクラスメイト達!シャコバスが今からそっちに向かうぜ?次は終点〜、『緑谷巻き込まれすぎだろショッピングモール』〜、『何してんだ緑谷ショッピングモール』〜、終点で〜す。
「うおっ…!」
0からの加速はウチの十八番だよ。5メートルにも満たない距離で最速に達した速度そのままに壁に向けて走る。衝突直前でジャンプし、壁に右足の裏を設置。
流れる体をコントロールして速度が失われないように右足の力を解放。
反対側の壁に向けて跳躍し、近づいたところで左足の裏を設置。
あとはこれを繰り返せば、国民的配管工の兄弟もビックリの壁ジャンプの完成だ。個性使わなくても簡単に出来るだろ?
壁ジャンプする2人組。マ⚪︎オとル⚪︎ージ。ウロコとトドローキ。
これはもう実質兄弟という神からの啓示では?そういうことだろ。かーっ!神様も粋な計らいしてくれるねぇ!
「喜べ焦凍、俺と冬美の結婚式の牧師は神様が担ってくれるらしい。親族枠で代表スピーチをお願いする予定だけど、あんまり緊張するなよ?寛容な神様だから大丈夫だ」
「どう飛躍したか知らねぇがそんな未来は一生来ねぇ」
頑なに認めてくれない。まぁ焦凍はお姉ちゃんっ子だからな。お姉ちゃんが取られると感じてイヤイヤ期に突入してしまってるんだきっと。時間が解決してくれることを祈るしかない。
それか俺の本気の気持ちを猛アピールして認めてくれるのを待つしかない。どっちも実行しようじゃないか。
話が逸れたな。とりあえず壁ジャンプは成功して屋根の上を颯爽と走ってる。人1人背負っているが、それでも焦凍の全力ダッシュよりも速い。
すまないね。焦凍が遅いんじゃない、俺が速すぎるんだ。俺は速すぎる男シャーカス。
「石楠花…お前これ個性使ってないのか?」
「ああ。素の身体能力だ」
「ヤベェな…」
冷や汗かくほどか?俺はただ人を背負って壁を蹴って上に乗り、人間の誰よりも速く走っているだけだ。何もおかしな事はない。
目の前にビルの壁が見えるが何も問題はない。垂直に駆け上がるだけだ。少しでも足に引っかかるなら、そのまま筋力で自分の体を持ち上げて上に飛ぶ。そしてまた足を引っ掛けてそれの繰り返し。そうすれば壁は登れる。簡単だろ?
「石楠花…本当に個性使ってないのか?」
「ああ。素の身体能力だ」
「ヤベェな…こんど教えてくれ」
「いいぜ、今度冬美さんの手料理食べさせてくれ」
「…………本人が良いなら良いぞ」
おっ、これはお義兄さんになる第一歩達成か?人はこうして不可能を可能に変換して前に進むのだよ。冬美、俺に毎日味噌汁を作ってくれないか?
「もうショッピングモールが見えるぜ。見ろ!人がゴミのようだ!」
「すげぇ数いるな、緑谷は何処にいんだ?」
「任せろ!俺のシャコアイを持ってすれば愚物の群れに紛れる変態を見つけることなど朝飯前よ。シャコシャコ〜ン!発見しました、対象:峰田 実」
「そっちじゃねぇ、でもクラスの奴らはまだいんのか」
「よし!飛び降りるぞ!」
「おい待て!ふざけ…っ!?」
ビルから元気に飛び降りましょう。ごめんなさいね?安全ベルトはありません。
そう、俺たちは風。人は翼がなくても空を飛べるんだ!……重力に負けるがな。
元気よく向かいの小さなビルの屋上に着地。衝撃如きに私の体は破壊されないのだよ。これでも人を背負ってるから振動吸収快適モードなんだぜ?
「大丈夫か?後頭部にゲロ吐くなよ?」
「あぁ、ヒヤヒヤしてぶん殴ってやろうかと思ったけど、ちょっと楽しかった」
「だろ?おんぶは人の本能を解放する作用があるってその道の専門家が言ってたぞ?おんぶ状態ではアグレッシブにならねぇ方が体に悪いらしい」
「マジか…奥が深ェな…」
奥が深いんだよおんぶ。だから将来ヒーローになって子供達におんぶを求められたらアグレッシブに行動しようぜ。お義兄さんとの約束だぜ?
「もう時期到ちゃ……ん?」
「どうした?」
「悪い、ちょっと寄り道して良いか?あそこにいるのは多分……」
「なん…!?おいアイツ…!!」
なんか人のいない路地裏から見覚えのある電磁波が見えたから近づいてみたら……忘れもしないぜそのフォルム。俺の友達達を恐怖に陥れ、先生に重傷を負わせ、俺の腕を一本吹き飛ばしていきやがったファッションセンス抜群の奴ら…!
どうやら向こうも気づいたようだな。ミスったぜ、もっと早くに気づいていれば完璧な奇襲をかけられたのに。まさか街中でバッタリと会うなんて思わねぇって。
この世界に人口どれくらいいると思ってんだよ。なんでピンポイントで会いたくない奴に会うかねェ。何度も会うならボンキュッボンのエロい性癖の煮凝りお姉さんに会いたいもんだ!
展開されたワープゲートに片足突っ込んで今から帰るところなんだろうがちょっと話して行こうぜ!ワープゲート君も一緒にさぁ!緑谷に接触したのお前だろ!!?
「よお熊手ファッション!今日はシンプルなファッションだな!もっと日当たりのいい場所歩けよ!色素消滅ファッションにでも挑戦する気か!?」
「最も殺したいイカれたクソガキじゃねェか!!良いご身分で暇を持て余してんなァ!お前を崩して花壇の肥料にしたら俺の気分がもう少し晴れるかなァ!!?」
「彼は…!危険人物…!?」
「アイツら…!襲撃して来た…!?」
まさか邂逅するとはなぁ…!しかも街中で…!一番困るな、市民に被害がいくかもしれないし、個性も使えない。
とりあえず中指立てておこう……何!?アイツは両手中指だと!?アイツやるなぁ…!
「死柄木弔…!今は…!」
「チッ!……テメェを今すぐぐちゃぐちゃに潰してやりたいが、楽しみはまた今度に取っておこう。今は機嫌がいいんだ…!」
「おいおい連れないねェ!ちょっとぐらいお喋りして……!?」
目の前にワープゲート…!?あぶなっ!?俺だけならいいが、ここには焦凍もいる。巻き込まれたら何処に飛ばされるかわからねぇ。一番厄介だなゲートが。
「じゃあなクソガキ。せいぜい腑抜けた余生を楽しんでおけよ。次は…」
「クソッタレの熊手。テメェも暗い部屋の隅っこで縮こまってな。次は…」
「「俺が殺して/捕まえてやるからよォ!!!」」
ちっ…!捨て台詞を残して去って行きやがった。これだからワープホールはクソなんだ。攻めと逃げにカンストしすぎだろ。
「大丈夫か?轟」
「あぁ…すまねぇ、何も出来なかった…」
「そりゃ俺もだ。奴さん達、もう帰る気満々状態だったからなぁ」
もっと早く気づいていれば何とかなったか?いや、その場合被害が残り個性不正使用で俺だけが割を食う可能性もあった。
考えたくもないが、被害が出ていないコレがベスト……本当に嫌になるクソったれた結果だ。
「とりあえずショッピングモールに向かうか。今なら警察もヒーローもいる。敵連合の主犯格がいたとなりゃ報告しないわけにもいかねぇ」
「そうだな、緑谷の件もある。情報の足しになりゃいいが…」
まずはショッピングモールに向かうしかない。緑谷・クラスメイト達の安否、対応状況、情報の連携、やることが沢山あるな。
「今日は帰りが遅くなっちまうかもな、すまん…焦凍の母親と姉に見送られたばっかでいきなり危険に巻き込んだ…」
「かまわねぇ、俺が見つけても絶対にそうする。発見するのかどっちが速いかの違いだろ」
「そっか……よし!向かうぞ!乗れ焦凍!アルティメットシャ号発進だ!」
「おぉ、飛び降りる奴を頼む」
「もう建物全然ねぇよ」
▽
あの後、警察とヒーローに事情を説明し、詳しい情報を話すため俺と轟も警察署で聴取となった。
かなり暗く夜遅くまで続いたが、俺の持ってる情報、轟の持ってる情報で大分信憑性が増したんじゃないかな。
緑谷も事情聴取だったらしく、偶然バッタリ出くわしたので一緒に外まで向かう。外にガリガリの骸骨のような自称用務員さんが様子を見に来てくれたという体で表にいた。
轟はこんな人いたか?と首を傾げていたが、そんなもんかと納得していた。俺はもう少し疑うことを覚えてほしいね。それと何やってんだよオールマイト。後継者の心配か?
その後迎えに来ていた緑谷のお母さんが大泣きしていたが、親目線で考えれば息子が敵と接触して人質になりかけてたとなったら、そりゃ生きた心地がしないよ。
緑谷、お前の役目は側にいてやることだ。親は泣かせるもんじゃない。
轟もお母さんは入院しているので、冬美さんが迎えに来てくれていた。
俺を含めて凄く心配してくれたので心が温かくなったよ。冬美さん、貴女は心を温める個性の持ち主ですか?冬美、結婚しよう。家を建てて子供に囲まれて食卓を囲んで幸せに暮らそう。ペットも飼って広い庭で遊ぼう。
顔を赤らめてワタワタしていた。可愛い。
隣の轟の人を殺せそうな冷めた目線が辛い。
うん。やはり人の幸せを見るのは気持ちがいいな。俺まで心が安心するよ。