林間合宿編(裏)、始まり始まり
「酷い目にあったぜ」
「まだ許してませんわよ…?」
「はい…」
金◯スタンガンという拷問を乗り越え、足を先に進める。
あれは状況と策謀がベストマッチした故に起きた悲しい事故だったんだ…
速攻で着替えて元通り。罪の結晶はその場で証拠隠滅してきたよ。やっぱ証拠は隠滅するに限るよね。
ジャージのズボンをマフラーとして使わせてくれとお願いしたけど、スタンガン却下された。
パンツをフェイスマスクとして使わせてくれとお願いしたけど、こちらもスタンガン却下された。
肝試しのために森に入ってから俺は怒涛のスタンガン連打をくらっているが、もしかすると肝試しとは何回スタンガンを身に受けるかを競う競技なのかもしれん。まず間違いなく俺が優勝だろう。
「うぅ…もうお嫁に行けませんわ…」
「安心しろ、俺が………その右手のレコーダー何?」
「ボイスレコーダーですわ」
「……何故ボイスレコーダー?」
「録音するためですわ」
危な。
もう少しで自由が摘み取られるところだった。俺はまだ自由が良いんだ!解放の戦士でいたいんだ!うおぉぉ!響け解放のドラム!
「鱗さんのお腹からとんでもなく空腹音が鳴り響いていますけど大丈夫ですの?」
「大丈夫、自由が故の音色だから」
「大丈夫ですの!?普通お腹からリズミカルな音は響きませんことよ!?」
どうやら俺は解放の戦士にはなれねぇみてぇだ。空腹の戦士にしかなれねぇ。船から飛び降ります。
それにしてもさっきからそのボイスレコーダーずっと録音中のままなんだけど。迂闊に余計な事話せないんだけど。
「一旦その右手の物騒な機械を仕舞おうか」
「大丈夫ですわ。いざという時の護身用ですので」
「一旦電源をOFFにしようか」
「大丈夫ですわ。電源はOFFですので安心していつも通り話してくださいまし。では先程の話の続きから始めましょう、うぅ…もうお嫁にいけませんわ…」
「いや見えてるから。電源付いてる周波数めっちゃ見えてるから。何なら電源ランプついてるから」
「…チッ」
「あれ?舌打ちされた?」
すげぇ舌打ちされたんだが。しかも「空気読めねぇなぁコイツ、潔く諦めろよ」っていう気持ちが込められたような目で俺を見てくる。
潔く諦めていいかもしれないが、その場合ドナドナされ、ですわ!され、リンゴンリンゴン一直線だ。とんでもねぇ人生のレールに乗せられてノンストップ直行されちまう。
何とかボイスレコーダーをOFFにしてポケットに入れてもらえたが、生殺与奪の権は依然握られたままだ。
一回目の前でボイスレコーダーを握りつぶしてみたんだが、新しいボイスレコーダーが生えてきた。ヤバすぎる、無限録音機じゃん。
どう足掻いても俺の助かる未来が見えないんだが、もう少し足掻かせてもらおう。まだ学生を堪能したいんだ、だからまたボイスレコーダーを取り出そうとしな……何ぃ!?ボイスレコーダーが5個に増えてるだと!?何を録音すんだよ!?
ボイスレコーダー攻防戦を繰り広げていると、いつの間にか中間地点にたどり着いた。
あっという間だね。これがデート……時間が一瞬で過ぎると聞いていたが、まさかここまでとは…!
でもその一瞬の時間が限りなく濃かったよなぁ。
ブラックコーヒーが甘く感じるくらい濃い時間だった。これぐらい濃密な人生を送れると思い出しか残らないだろうな。一字一句思い出せるかもしれん。
「あら?中間地点に到着しましたが……ラグドールさんがいらっしゃいませんわね?」
「そうだねぇ、いないねぇ。大丈夫、ゆっくり目の前の机に近づいてみよう。大丈夫、何もないから。大丈夫大丈夫」
「もうその大丈夫が何一つとして信用できませんわ!?」
大丈夫、大丈夫だから。安心して、僕大丈夫だから。
「あちきだよ──!!」
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!?」
「大丈夫、目の前の茂みからラグドールが飛び出してくるだけだから。うん、全くもって大丈夫。パンツ大丈夫?」
「今を持って、私の鱗さんへの信頼がマイナスに突入しましたわ」
「申し訳ございませんでした!以後気をつけます!パンツも脱ぎます!」
「綺麗な土下座だにゃん」
俺がパンツ一枚脱ぐだけで信頼が回復するんだ、安いもんさ。
人間とは如何に非を認めかどうかの生き物、謝罪切腹パンツ脱ぎ…これが人間の生き様だよ。覚えておきな。
「中間地点到達おめでとにゃん。残りも頑張らないとね。B組は怖かった?」
「はい、漏「鱗さん…?」……モロだしで走り回れるくらい怖かったであります!」
「別の意味で阿鼻叫喚になるから絶対にしちゃダメよ」
確かに怖かったぜ、特に今な?横から絶対零度の殺気を当ててきやがるぜ。鱗の鱗が5割り増し縮み上がっちまったよ。
まぁこの程度でへこたれる俺ではないがな!
さて、辿り着いた証明を受け取ってゴールを目指しつつ、如何にしてより怖がらせるか…あとボイスレコーダーを生み出さないようにするかを考えて……ん?
「ラグドール!!」
「どう…きゃっ!?」
ズガァン!!
おいおい…危機一髪ラグドールを狙った一撃は抱き寄せて回避できたけど、こりゃ…
「何で…っ、何でここにUSJで出会った敵がいますの!?」
「落ち着け百、アレとは別だろ。脳剥き出しのところとか似ちゃいるが、腕がハンマーになったりしなかった。あと細ぇ」
「そうですけどっ…!一体何で…!?」
「ラグドール、無事ですかい?」
「あっ…ありがと…っ、いやそれよりも…!」
「ええ」
何でこんな奴がここにいるのか…
気づけば視界の端に急に現れやがった。だがさっき一瞬だがモヤのようなモノが消えていくように見えた…
という事はだ……
あのワープ野郎がここにいるって事か。
何故合宿先がバレた…?まさか…、いやそれよりも。
「お前、今躊躇なく頭を狙ったな?」
「ネホヒャンッ!」
「あぁ、言語が通じない系ね。ならそんなハンマーで頭を狙えばどうなるかなんて分かるわけない…あぁ殺す気なら理解なんていらねぇか」
「鱗さん…!」
「石楠花くん、ありがと。もう大丈夫にゃん」
何でここにいるかなんてこの際考えなくていい。今は余計な事に頭を使うな。
今はただ……平穏を奪う目の前の悪意を捻り潰すことだけを考えていればいい。
「ラグドール、個性使用許可を」
「それは……でももし何かあった場合に自衛が出来ないとダメか…っ、わかった!石楠花くん!八百万さん!プロヒーローラグドールの名において、個性の使用を許可するにゃん!責任は私が取るけど、過度な戦闘はダメよ!安全な場所に避難するために使いなさい!」
いたずらに力を振り回すだけなら誰でも出来る。俺たちは何だ?ヒーローを目指してる者だろう。まずは人として筋を通す。許可なく個性を使えば目の前のクソと同じになっちまうからな。
「ネホヒャンッ…!!」
目の前のクソが腕を増やした。腕?かは分からんが、腕をドリルやハンマー、チェーンソーといった武器に変形させていく。
殺意だけは無駄に高いな。測る基準がUSJにいた2体しかサンプルがないが、もし同じ造りならパワーは強化されてるだろう。
現にラグドールを狙ってハンマーを振り下ろした場所には小さなクレーターが出来てる。個性の影響かどうかは分からんが、少なくとも並の強化系個性持ちぐらいは力があると見ていいな。
まぁ、だから何だという話だ。
「前衛は俺がやる。ラグドール、アイツをサーチしてくれないか?」
「鱗さん!ここは一旦引きましょう!危険ですわ!?」
「生徒に戦わせるわけには行かないにゃん!戦闘を許可した訳じゃない!2人とも今すぐここから離れなさい!」
「最善は全員逃げることだ、分かってる。でも奴さん逃がしてくれそうにもないし、きっと武器ぶんぶん丸力任せタイプだろアイツ。ラグドールも百も、一発でも当たれば致命傷になりかねない。だから殿は俺だ。パワータイプにはパワータイプをぶつけるのが定石よ」
敵の狙いがまるで分からん。撹乱か揺動か…だが真っ先にラグドールを狙っていたからプロヒーローを戦闘不能にするためか?
他の奴らがどうなっているか確認したいが…木が鬱蒼としすぎてよく見えん。一枚壁ぐらいなら何とかなるんだが、何重にも障害物がある状況下では電磁波を捉えられん。ただ目が良いだけに成り下がる。
そしてワープの奴がいるって事は、どこにでも敵を呼び出すことができるという事だ。目の前のクソとワープ以外にもまず間違いなくいるんだろうが……クソが、ワープのせいで人数が絞り込めん。
もし狙いがプロヒーローであるなら、広場には間違いなく敵がいる。肝試し後発組は最悪かち合ってる可能性がある。無事に宿舎に避難してくれているといいが。
だが宿舎も安全かと言われるとそうでもない。イレイザーとブラドがいる。もしプロヒーロー狙いなら間違いなく狙われる。何処だよ安全な場所。
そして考えうる最悪のケース。
その①、俺の目の前のクソみたいな改造が一番最弱であり、USJで暴れたような奴が送り込まれて生徒のみを襲っている場合。
その②、ワープ野郎が俺たち一人一人の場所を把握していて、各自にクソ改造人間を送り込んでいる場合。
状況が全く分からんが、最悪これらが考えられる。
①の場合、オールマイト並のパワーなら少なくとも木が吹き飛んだり、地響きがするはず。そんな被害が感じ取れないから現状①は起きていない。もしかしたらこれからという線もあるが…
②の場合、一塊りの俺たち宛に送られてきたから否定しきれない。相手の戦力が測れないから、結局確固たる証拠がない。
だから結局のところ……
「早急に目の前のボケナスを叩き潰して、辺りに散らばる蛆虫共を一匹一匹駆除すればいいだけの話だ」
「ネホヒャン!!」
「五月蝿い理解できる言語を話せ」
俺に振り下ろされるハンマーを紙一重で躱し、ドリルやチェーンソーを使った突きや薙ぎ払い、振り下ろしをいなしていく。
どれだけ腕が多かろうと、どれだけ力が強かろうと、結局は使い手次第。技術も無く、自分の意思さえこもっていない攻撃なんぞ、所詮園児のごっこ遊びと同じようなものだ。
「舐められたもんだ。力量差も理解できず、この程度で襲ってきたのか」
「ネホヒャンッ!」
「この程度で俺たちの青春を台無しにしたのか」
「ネホヒャンッ!!」
「この程度で女性に手をあげ、殺そうとしたのか」
「ネホヒャンッ!!!」
「自惚れるなよ、下等生物が」
ドガァァァァァァンッ!!!
悪魔の如き上位者の振り下ろす一撃が、脳無の顔面に突き刺さった