「早速だが
そうメッセージを残して先生は去っていった。きっとグラウンドに移動したのだろう。
「じゃあみんなで移動しようぜ!最下位はカブトボーグの刑な!」
「待って石楠花君!?切り替え早すぎない!?」
「緑谷よ、今グラウンドに出ろって言われただろ?なら移動するだけだ。他に何かあるのか?」
「えっ…急に正論?」
そう言って鱗は移動していく。初めは不安に思ったが先生からグラウンドに出ろと言われたのだ。次々と更衣室に移動して行く。何より鱗の放ったカブトボーグの刑が恐怖心を煽り、早足気味で。出会って初日だが「アイツは必ずやる」、何故かそう思えた。
▽
「「「個性把握…テストォ!?」」」
「入学式は!?ガイダンスは!?」
「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」
「ミートローフ早食い大会は!?」
「そんなもん初めからねぇよ、黙ってろ石楠花」
「先生俺にだけ当たり強くない?」
俺先生に何かしたっけ?
「雄英は"自由"な校風が売り文句。そしてそれは"先生側"もまた然り」
「「「……?」」」
「ソフトボール投げ、立ち幅跳び、50メートル走、持久走、握力、反復横跳び、上体起こし、長座体前屈、中学の頃からやってるだろ?"個性禁止"の体力テスト」
そこで一区切りつけ、先生はまた話し始める。
「国は未だ画一的な記録を取って平均を作り続けている。合理的じゃない。まぁ文部科学省の怠慢だよ」
そして周りを見渡し、嫌そうな顔をしながら鱗を見てボールを手渡す。
「今年の首席はお前だな、石楠花」
「うい」
「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「うぉっ!?急に叫んでどうした、思春期?」
無理もない。出会って30分も経ってないのに数々の奇行を繰り広げてきた男が自分達ヒ-ローの卵の中で最も良い成績を残したというのだ。驚かない方がおかしい。
「この頭のおかしい奴が入試1位なのか!?」
「そうだぜ!ここまで頭のおかしい奴なんてそうそういないぜ!」
「頭のおかしい奴と思ってたのに、実はすごい奴だったの!?」
「頭のおかしな奴にもしかしたら筆記負けてんのかよ!?」
「クソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「よし、お前らそこ並べ。『きたねぇ花火だ』の刑だ」
こいつら失礼すぎるだろ。まだ一言も話したことない奴ばかりなのに何をもう頭のおかしな奴認定してんだ。俺なんてまだマシな方だろ。もっとヤバい奴なんてそこら中にいるって。
「こいつは確かに奇行が目立つが実力は折り紙付きだ。奇行は目立つがな」
おい、なんで二回言ったんだ。俺はわりかし普通で健全なんだよ。
「それより石楠花、中学の時ソフトボール投げ何mだった?」
「91m」
「…個性無しだぞ?」
「マジよりのマジです」
そりゃ小さい頃から体鍛えてんだ。それぐらいは投げれるよ。
「…じゃあ個性を使ってやってみろ。円からでなきゃ何してもいい。早よ」
個性を使ってやる…か。まぁとりあえず…
「まずは個性を使うか。…ふん!」
鱗が力むと同時に腕が変形していく。シャコフォルムだ。
「すげー!なんだあれ!?」
「腕がでかくなって触角生えた!異形型か!?」
「かっこいい~!!」
「アレは一体何の個性なんだ?」
そうだろうそうだろう!シャコのカッコよさがみんなにも伝わってきたということか!そうだよ、シャコはカッコイイんだよ!
「性格がアレじゃなかったらもっとカッコいいんだけどな」
金髪、お前の顔は覚えたぞ……!
でもシャコって殴ることにはエグイぐらい特化してるけど投げることに関してはどうなんだろ?ボールを殴って飛ばしてもいいけど本気で打てば多分ボールが死ぬ。というか意地でも投げたい。投げろって言われて殴ればなんか負けた気がする。
ならばパンチを打つ時の腕のスナップを使うか。シャコのスナップの速さなめるなよ。パンチスピード時速80㎞やぞ?
では早速……他人のズラを扱うように優しく持ち、サバをアザラシの口に狙って投げ込むように腕を引いて、元気の出る掛け声を一発。
「かいわれぇぇぇぇぇぇぇぇぇええ!!」
「「「(かいわれ?)」」」
うん、我ながらいい掛け声だ。カスピ海まで飛んだな。
「まず自分の『最大限』を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」
相澤がこちらにモニターを見せる。そこに表示された距離は……
938.7m
まずまずの成績ってとこかな?まだもうちょい飛ばせる気がする。女の子が声援をくれたら多分2000m超えるぜ。
「なんだこれ!?すげー
「900m越えってマジかよ!?」
「個性思いっきり使えるんだ!流石ヒーロー科!!」
みな口々に感想を吐き出していく。目の前の結果に興奮するもの、個性を使えることにテンションが上がるもの、反応はさまざまである。だからこそ相澤の纏う雰囲気が変化したことに気づかなかった。いや、気づけなかった。
「……面白そう…か
ヒーローになるための三年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」
この瞬間に生徒たちは雰囲気が違うことに気づいた。だが気づいたところでもう遅い。相澤は次にとんでもないことを口にした。
「よし、トータル成績最下位の者は見込みなしと判断し……
除籍処分としよう」
「「「はあああ!?」」」
おいおい、除籍ってヤバいじゃん。しかも
でもさっきの言葉に電磁波の乱れは全くなかった。つまり最下位が除籍っていうのは少なくとも嘘じゃないってことだ。
いやヤバくない?何がヤバいって先生初日からフィーバーしすぎじゃない?
「生徒の如何は
雄英高校ヒーロー科だ」
おいおい、なんて楽しそうなこと考えやがるんだよ。ようは全力で取り組んで先生に実力を認めさせりゃいいんだろ?
「因みに石楠花、お前ふざけたら除籍な?」
「ファッ!?」
俺だけなんでそんなハードモードなんだよ!?しかも嘘じゃねえし!!
俺からハジケを取ったら完璧すぎるイケメンクールガイしか残らねえじゃねえかよ!!
▽
[50m走]
俺が走る相手は障子君というらしい。個性は“複製腕”で自分の体の部位を再現できる。俺なら足を複製して動物みたいに走るかな。でも傍から見たら新種の生物みたいになるから却下で。
「俺は障子だ。よろしく」
「よろよろ、俺は石楠花。それより体を複製できるなら背骨とか横隔膜とか複製できんのか!?」
「いや…考えたこともなかった…」
「そっか…まぁ…うん、頑張ろうな…」
「お…おう(露骨にがっかりしたな…)」
記録:2秒72
[握力]
「ミドリンのことかー!!!!」
「えっ、僕!?」
記録:1030キロ
「おいこっちにもゴリラがいたぞー!!」
シャコの捕手ってハサミの進化系なんだぜ?
[立ち幅跳び]
「HEY!!海に向かって大ジャンプだ!」
記録:10m60㎝
[反復横跳び]
「影分身作ってやるぜぇ!!」
「うわ!石楠花のやつめっちゃカサカサ動いてる!?」
記録:282回
「来年あたりには影分身でも作るか」
「石楠花、お前イエローカードな。あと一枚で除籍だ」
「なんで!?」
[ボール投げ]
「お前はさっき投げたから見学だ」
「うぃーっす」
「返事は『はい』だ」
「はい」
さてと、急に手持ち無沙汰になってしまった。ただ見るのも詰まらねぇから素数演算しながらクラスメイトの結果を見て政界の今後について考えるか。あっ、無限出た。凄ぇな緑谷と話してた女の子。名前は知らん。
鱗がクラスメイトの個性について考えている間に何やら周囲が騒がしくなったように感じ、周りを見ると初めて見る顔が後ろにいた。
「お前さっきから凄ぇ記録連発してたよな!可笑しな奴だと思ってたけどすごい奴だったんだな!あっ、俺切島 鋭児郎!よろしくな石楠花!」
「ああ、よろしく鉄哲」
「今切島だって言っただろ!?」
ごめんな、素で間違えたわ。何かものすごく性格が似てたから。しかも個性が硬くなる系だろ?生き別れの兄弟か何かか?
「アンタ凄かったんだね。ごめんね、頭のおかしい奴だと思ってたよ。うちは耳郎 響香、よろしく」
「よろしく、耳 たぶ子ちゃん」
「アンタイチイチ名前間違えないと気が済まないのか!?」
いや、耳が特徴的だったからつい…ね。
アレだろ?その耳でヴィラン味方問わず叩きまくって調教するんだろ?
「…何かアホそうなこと考えてそうだから一発殴らせてくれ」
「女の子がそんな下品な言葉を話しちゃいけねーぜ。落雁食うか?」
「何も下品なこと言ってねーよ!?それとどっから出したのソレ!?」
「何処って…内ポケだろ」
「何で今日配られた体操服に内ポケ着いてんの!?うちの無いんだけど!?」
落雁に対する愛は次元を越えるんだよ。願えば内ポケが生まれる、それが自然の摂理だろ?
「なぁ、俺も混ぜてくれよ!俺は上鳴 電気!よろしく!」
「ただし金髪、てめぇはダメだ」
「えっ何で!?ちょっ…そんな無言で関節極めに来るな…あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
俺は忘れない。お前が「性格がアレじゃなかったらもっとカッコいいんだけどな」と言ったことを。
「ギブギブギブ!!誰かこの可笑しな奴から俺を解放して!?」
「そうか。パロスペシャルも受けたいってか。物好きだなお前も」
「言ってねーよ!?わかったから技を…あぁぁぁぁぁぁ!?」
鱗が元気よく上鳴に関節技を決めている。その時、掛け声と共に凄い音が鳴り響いた。
「SMASH!!」
うおっ!?何事?
緑谷めっちゃ飛ばしてるじゃん。流石オールマイトパワー。でも指変色してるな、骨がバキバキやん。オールマイトパワーを使って骨が折れるってことは…自分の体に個性がついてきていないってことか。
周りに頭がおかしいと言われても、この男は地頭は良いのだ。現場の状況や人を見ることで瞬時に状況を把握する脳を持っている。だからこそ、次に起きうる事態も予測して動き始めた。
「どーいうことだこら ワケを言えデクてめぇ!!」
「うわああ!?」
緑谷を見下していた爆豪なら必ず動くと感じていた。無個性だと思っていた相手が実は個性を持っていて、尚且つ大記録を叩き出したのだから。だからこそ先回りして爆豪の首根っこを掴む。動き出していた相澤先生より先に。
「ぐぇっ!?」
「おいおい、何突っ込んで行ってんだ?」
「離せ舐めプ野郎!?あのデクが個性を使ったんだぞ!?あの無個性で道端の石っコロだった奴が!?」
「頑張ったんじゃねーの?お前には何が見えてんの?緑谷が見えてねぇの?その目は落雁だったのかよ。いや、和三盆か?やっぱりラムチョップだな」
「だあぁぁぁぁぁぁぁ!!俺の目を食べ物にたとえるんじゃねえ!?イライラするわ!?」
「美味しく食べろよ?」
「うるせぇ死ねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
ふぅ…何とか抑えることができたか。
絶対動くとわかってたからな。目の前の人に襲いかかる、コイツの習性だよ。だからさっさとこの場から離れな緑谷。ほら、シッシッ。
石楠花のジャスチャーが通じたのか緑谷は感謝を述べながら飯田と無限女子の元に帰っていった。
それと入れ替わるように相澤先生がやって来た。
「よく止めた石楠花。俺の個性を何度も使わせるな。俺はドライアイなんだ」
「良い個性なのに先生が残念ですよね」
「黙れ」
この後長座体前屈、上体起こし、持久走と測ったが、どれも平均以上の記録を叩き出すことができた。『長座体前屈の石楠花』と言われた俺を舐めてもらっちゃあ困るぜ。
あと持久走を原付で走っている女の子がいた。とりあえず並走しながら横乳を眺めておいた。
照れてた。可愛い。