これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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深夜テンションで考えた設定の供養です。よろしくお願いします。


プロローグ
#1 非行JC赤井天彗の受難


「天ちゃん、たばこはヤバくない? 一応、ヒーロー志望っしょ?」

「いーんだよ、どうせバレやしないんだし」

 

 どうでもいいとばかりに、銀髪の少女は喉の奥まで吸い込んだ煙を燻らせた。

 彼女が身に纏っているのは、何処ぞの中学の学生服。着崩しているせいでわかりにくいが、ある意味で有名な学校の制服だった。

 

 

 多須宮中学校。

 その名前は組織的ヴィランがスカウトに出入りしていると噂になる程、治安の悪いことで知られている。

 女子生徒はギャルにレディース、援交女子と、いい噂を聞かない者ばかり。人数の多い男子ともなると、すでにヴィランの裏社会に片足突っ込んだ人間がたむろしていた。

 

 ヒーロー社会と言えるほど、"憧れの職業"ヒーローが広まったこの超常社会でも、ここでのヒーロー志望者数は多いとは言えないだろう。

 ひょっとすると、大人になってヒーローにお世話になる人間の方が多いかもしれない。

 

 そんな場所にいながらヒーローを目指すのは、よっぽどの酔狂者という者だ。なにしろ声高にヒーローを目指せば、誰に目をつけられるか判ったものではない。

 

 

 しかし、まさにその例外でありながら、赤井(あかい) 天彗(てんすい)は未成年軽犯罪者であった。

 

「ヒーローって体がシホンっしょ? 肺まで入れたらガタくるって言うし、ヤバくなぁい?」

 

 この個性社会。中にはタバコの害を消すという個性の持ち主もいるし、彼が育てた『害のないタバコ』というのも市場には出回っている。ただし、それらは高級路線のそれであって、中学生の子供にはとても手の届かない代物だ。

 当然彼ら彼女らの煙草は廉価品。それも非正規の流れ物だ。なかにはまともなフィルターすら入っていないものすらある。

 

「……あぁ、と。あたしには気嚢?とかいうのあるらしいし、なんか率低いってネットで言ってたわ」

「なにそれ、超万能じゃん。個性サマサマやね。てかずりー」

 

 天彗のつるむ相手、桜木(さくらぎ) 媧恋(かれん)の個性は【恋呪(こいまじな)い】。彼女に聞こえる範囲内の愛の告白は必ず実るというもの。ただしアフターケアはない。成就率100%の破綻率99%がモットーなのだとか。

 ちなみに媧恋自身に向けた告白にも効果があり、そのせいで割と酷い目に遭っているクソ個性だ。

 天彗も何度かそんな事態に陥った彼女を助けている。それどころか天彗との付き合いもこの個性がきっかけだ。

 

「てか。今更だけど、なんでヒーロー科? 天ちゃんヒーロー嫌いっしょ」

「……別に。金になるからだし」

「ゆぅて天ちゃん、ソッチ系行けばウン千万稼げると思うけどなぁ」

「それゆーなら、あんたもでしょ」

 

 媧恋の個性は、媧恋に向けたもの同様、彼女自身によるものであっても適応範囲だ。そういう使い方をすれば片手間に、夜の街のナンバーワンになれるだろう。

 

 しかし、天彗の言葉を聞いて媧恋は、手を口においてゲェゲェとゲロを吐くフリをした。

 色々あった末に、彼女は男性恐怖症気味になってしまったのだ。ネタにできるくらいには軽症だが。

 

「草」

「草はヒドくなぁい? あーしこれでも結構アレなんだけど」

 

 「で?」と前置きをおいて、天彗は先ほどから気になっていたことに触れた。

 

「なんで、そんなにあたしのヒーロー志望について興味持ったん?」

「いやぁ、身内からヒーロー出たらウケるっていうかなんていうか」

 

 しどろもどろとはこのことか、と。いつものアゲ系の言い回しが抜けている。

 

「どーせ、何処のヒーロー科か気になっただけっしょ?」

 

 そんな天彗の指摘が図星だったようで、媧恋の視線は右上を彷徨った。けれど、()()()()()のためには、いつか触れなければならない話題だ。

 進路志望というただでさえ触れにくい事柄なのに加え、ヒーロー科という特にこの多須宮では話し辛いことこの上ない話題。天彗の方から話題を振ってきたのは僥倖といえよう。

 

 しかし、そんな緩い考えは、次の瞬間の天彗の発言にかき消された。

 

 

「……雄英」

 

「……はマジ?」

 

 そんな、言葉が口から漏れた。

 

 雄英高校はヒーロー科を有する国立高校の一つだ。そしてその中で間違いなく最難関と呼ばれる高校である。

 中でもヒーロー科は、たった40人の席を万単位の生徒が取り合う、修羅の門だ。

 底辺中学校である多須宮中学からはヒーロー科の合格者どころか、他の科の合格者すら出たことはない。

 

「……雄英の普通科って偏差値いくらだっけ?」

「いや、ヒーロー科だけど」

 

「……マジで言ってる?」

「マジマジ」

 

 ここまで言って、媧恋の顔に現れているのは、疑念というより焦りだった。

 彼女には珍しく逡巡といった面持ちで、口を開いた。

 

「内申の足切りとかなかったっけ?」

「足切りはないけど、噂ではヒーロー科はゲタがあるっぽい」

 

 雄英高校のヒーロー科入試は謎に包まれている。

 正確には試験内容は知られていた。筆記試験と実技試験に分かれており、実技試験は上限なしの青天井方式。

 しかし、この実技試験における採点方式が不明で、どんなバイアスを掛けたのかはわからないが。結果として、ヒーロー気質に溢れ学業も最低限備えた優秀なヒーローの卵が選別される。

 

 そんなブラックボックスが挟まれるからか、入試成績でも合格候補筆頭と言われた生徒が落ちたりといったことは茶飯事であった。その要因として、密かに内申点が影響しているのではないかと受験生の間では囁かれている。

 というのも、そうして落ちた人の中には、見てくれはよくても普段の素行が悪いといった連中が含まれていたのだ。

 

 そんな高校に、多須宮生が? ムリじゃね? てかタスミヤって時点で内申点マイナス100点くらいされてそう。

 媧恋は訝しんだ。

 

 

 ただ、ヒーローにとって何より重要な要素、戦闘力という点では、なるほど。天彗は十全にそれを満たしているだろう。

 

 気嚢という本来、鳥にある臓器が体内に存在するように、天彗の個性は異形型だ。わかりやすい特徴として、彼女の背には異形の腕とも翼とも言えない謎の器官が生えている。

 この謎の器官は異様なまでの柔軟性を秘めていて、三本の突起器官をほとんど独立して動かすことができる。無理のない範囲で動かしても、三本を連ねるように伸ばすことで、長く分厚い刀身の剣のように扱うこともできた。

 

 この武器に加え、卓越された体術、そして初見の個性に対する尋常ならざる直感力。背中のその物体以外ほぼ人型という異形性の低さにもかかわらず優れた膂力。

 これらをもって、その長大な翼腕をブン回すという物理攻撃だけで、赤井天彗という少女はこの悪名高い中学の頂点に数えられている。

 

 

「なんであたしの志望校があんたに関係するワケ?」

 

 ある意味ドライとも言える物言いだが、これは彼女のデフォルトだ。率直な言葉、歯に衣着せぬ発言が喧嘩の原因になった場面は少なくない。

 それを察している付き合い長い媧恋は、自身の目的を白状した。

 

 

「──あたしと同じ高校に通いたいだぁ?」

「あーしらマブダチっしょ? そこぉなんとか」

 

 天彗の学業成績は実は悪くはない。むしろ学年トップだ。それが多須宮だということを考慮に入れなければ、文武両道と言えるだろう。模試の成績も多須宮ということを頭に入れなければ、雄英が視野に入る。

 一方、媧恋はと言うと、ハッキリ言ってバカだ。底辺校のさらに底辺をのたうっている。

 

 流石に媧恋も天彗に志望を落としてとは、言えない。

 というより、もはや2つや3つランクを落としたところで、媧恋には手も足も出ない。

 なので、頼んでいるのは家庭教師だった。

 

 ()慳貪(けんどん)な言い回しが多いものの、媧恋の言うマブダチと言うのは事実だった。できれば、彼女もどうにか真っ当な人生に引っ張ってあげたい。

 というか、男性不信で結婚もできなさそうな媧恋はどうやって卒業後生きていくのか。美人局くらいしか道がないのでは。

 

 そんな思考と、ぶっちゃけまともな高校に入れられるほど今から詰め込めるのかという計算が天彗の脳裏を走った。

 

 

 最悪、雄英諦めて士傑を受ければ何とかなるか……。

 天彗の結論はこれだった。

 

 雄英には先述の通り、不確定要素がある。内申点の噂が本当ならそのマイナスを補うために、天彗をして本気で筆記試験に挑まなければならないだろう。

 けれども士傑なら? 士傑高校は試験にブラックボックスが多い雄英に対抗してか、評価を明確にしている。内申点の比率は低めで、仮に0点でも公開されている実技試験の内容なら天彗であれば挽回可能な範囲。

 進捗にもよるが普通科はどちらも同じくらいの難易度なので、天彗がヒーロー科に、媧恋が普通科に合格できれば、同じ高校に行くという目標は達成できる。

 

 士傑高校は雄英高校にワンランク劣るというのが一般的だが、世間的には十分にトップ校だ。

 ヒーローになるからにはヒーローランキングTOP10を目指す()()()()()天彗にとって、ヒーローになる上で支障が出ない範囲である。

 

 

 その日から、難関国公立を目指すための(媧恋の)猛特訓が始まった。

 マンツーマンで、中学の内容を復習していく。

 指導要領にそって朗々と進む通常授業を受けさせても仕方ないので、天彗が作った特別プログラムに沿って、授業中に内職で進めてもらう。

 

 むしろ幸いと言うべきなのは、媧恋は本当に何も小中の内容を覚えていなかったことだ。全部復習するなら、変な知識がついているよりも、実は何もない方がマシだ。

 

 

 そうして、1ヶ月、2ヶ月と過ごしていくうちに、媧恋の成績はみるみる改善していったかというとそうではなかった。

 勉学の成長は階段型。知識の積み重ねの間は成績は伸び悩み、ある時ふと成長するものだ。数ヶ月本腰を入れたところでそうよくなるという話ではない。

 

 けれどもここ数ヶ月で分かったこととして、意外と媧恋は辛抱強く、伸び悩んでもめげない心持ちがあったことだ。

 

 

 入試まであと2ヶ月を切った頃。ついに媧恋の復習は終わり、模試をこなす時期に入った。

 

 いかに多須宮中学が不良の溜まり場と言えど、上位数パーセントは他校に進学を希望する。

 そうした彼等のせいで、学校にはピリついた雰囲気が漂っていた。

 

 

 




Riseへのバルファルク追加に感動して、最初の2,3話を書いた記憶があります。(3ヶ月前)
一応、USJ事件まで書き終わってます。流石に個性がバルファルクなのに飛べないままエタるのはアレなので。

補足
・内申点
爆豪が気にしている様子が散見されるため、雄英受験にも必要と考えられます。あの試験内容だとヴィラン入り放題じゃないかと思われるので、おそらく内申点が良くないと受験は不可能です。
この二次では、主人公の成績はいいので内申点自体は良かったと言う設定。
 
・雄英受験者
倍率300倍というのは、おそらく東大の志願者数12,000を参考にクラスの人数40人を割って算出されたものなんじゃないかなぁと思います。

・雄英試験の構造
塾などにバリバリ通ってそうな飯田が、質問をしている+試験の構造に気づかなかったと言っていたので、実技試験は毎年異なる内容と思われます。
 
・多須宮
知ってる人は多いと思いますが、ヒロアカの地名はスターウォーズに因んでいます。
多須宮はオリ地名で、スターウォーズの外伝であるアニメシリーズ、クローンウォーズなどにのみ登場する惑星ダソミアが元ネタです。ダソミアはダース・モールの故郷であることが特徴ですね。クローンウォーズはカノンなのでディズニーによる買収後も正式な設定です。

主人公のイメージイラストは必要ですか? シャーペン描きのラフ段階ならあります。

  • いらない。そんなことより続き書け
  • ラフでいいから欲しい
  • ちゃんと仕上げろ
  • 俺(私)が描く

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