これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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USJ編
#12 誰もが羨むU・S・J


 

 昼休みも終わり、ヒーロー科の生徒たちが迎えたのはヒーロー基礎学の時間。

 現れた相澤先生が提示したのは"RESCUE"の文字。人命救助訓練だった。

 

 性懲りも無く、雑談を始める生徒たちを睨みながら、相澤先生は壁のロッカーを操作する。

 

「今回、コスチュームの着用は各自の判断で構わない。中には行動を限定するコスチュームもあるだろうからな。訓練場は少し離れた場所にあるから、バスに乗って行く」

 最低限の説明をして、相澤先生は移動を指示した。

 

「以上、準備開始」

 

 

 着替えを済ませて、集合場所へと集まったA組の面々。

 コスチュームは着用自由と言われたものの、着用していなかったのは、赤井と緑谷だけだった。

 

「あれ、赤井ちゃん。コスチュームは?」

「あーうん。腕のジョイント壊しちゃったみたいでさぁ。全治1ヶ月……」

 

 そう。この二人、コスチューム壊した組である。

 

「思いっきり引っ剥がしてたもんね」

「ついでに色々要望追加しちゃったわぁ」

「ウチも、戦闘訓練での要望とか送ってみようかな……」

 

 そんな雑談をしていると、飯田からバスのために並ぶように指示があった。

 天彗は一瞬、投票したことを後悔しかけたが、どうせ緑谷の推薦で結果は変わらないと思い直す。……正解である。

 

 

 しかし、そんな飯田の努力も、対面座型の座席配置だった校内バスの前に儚く無駄となった。

 

 張り切って進めた学級委員長の初仕事が空回りに終わり、項垂れる飯田を尻目に、殆どが自由席でバスへと乗り込む。

 天彗の座席は後方。葉隠透の隣の席となった。

 

 

 

「あなたの"個性"、オールマイトに似てる」

 

 バスの中では、蛙吹のダミ声気味の、しかし不思議とよく通る声で発せられた一言に注目が集まった。

 

「オールマイトは怪我しねえぞ、似て非なるアレだぜ」

 

 緑谷が縮こまった声で「そそそそ、そうかな!? いや、でも、ぼくはその、えー」と焦るのに被せるように、切島が反論する。

 

「しかし増強型のシンプルな"個性"はいいな! 派手で出来ることが多い!」

 

 そして切島が"個性"の話にすることで、オールマイトと緑谷の関係に関する話は完全に流れた。

 

「派手で強えっつったら、やっぱ轟と爆豪だな」

「ケッ!」

 

 バスで対面同士に座っているA組生徒たち、緑谷に蛙吹、切島や青山らの会話に聞き耳を立てていた者は多かったらしく、その一人たる爆豪は轟と並べられたことにイラついた様子で反応した。

 ちなみにもう一方、轟は意にも介さず、夢の世界に旅立っている。

 

 

 天彗の隣に座る葉隠はまた、個性話に耳を傾けていた一人だったようだ。個性とその派手さに関係することを、葉隠は口にし始めた。

 

「いいなー。私の個性はそんな派手じゃないからなー」

「葉隠の個性は、ある意味目立ってんじゃない?」

 

 葉隠は個性を気にしていないようで気にしている少女だと、天彗は思っている。

 それでも、透明で服だけが浮いているというのは、この超常社会でもかなりのインパクトがある光景だ。

 

「ある意味ーとかじゃなくて、フツーに目立ちたいよね!」

「光曲げんだし、フラッシュとかすればいいんじゃない?」

「それいいねー! 採用!!」

 

 後に、葉隠の必殺技に正式採用されることになるとは、天彗も思ってもいなかった。

 

「ま、取り敢えず今は目立つとかじゃなくて、レスキューに活かすかっしょ?」

「【透明化】を救命で活かす……手術助手とか?」

「それはあっても救急救命でしょ……」

 

 たしかに、手術で手が折り重なって見にくいということは稀によくあるが、そういうことじゃない。

 

 

「もう着くぞ。いい加減にしとけよ」

 

 話も(たけなわ)といったところで、A組メンツのよく知る眠たげな低音ボイス、相澤先生の声が掛かり全員が口を閉じた。

 

 

 

 バス移動の末に着いた場所。

 そこは少し過激めのテーマパークといった様相だった。

 誰が例えたか、USJ。

 

 しかし、施設で待っていた女性教員、スペースヒーロー「13号」曰く本当に"ウソの(U)災害や(S)事故ルーム(J)"というのだから、ウソのようなネーミングである。

 

 

 ところで、3人で授業を行うとの話だったはずが、この場には2人しかいない。

 おそらくは、3人目。いつもヒーロー基礎学を担当しているオールマイトのことだが。そのことを13号先生と相澤先生で軽く協議した後、授業が開始された。

 

 

「えー、始める前にお小言を一つ、二つ、三つ……四つ……」

 

 この時点で何人かの生徒は「(あ、話長そう)」と察したが、13号の話は長く続いていく。

 

「皆さん、ご存知だとは思いますが、僕の"個性"は【ブラックホール】。どんな物でも吸い込んで、チリにしてしまいます」

「その個性で、どんな災害からも人を救い上げるんですよね!」

「ええ……」

 

 

「しかし、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう"個性"がいるでしょう」

 

 A組の生徒たちは、殺すという強い言葉に息を呑んだ。

 

 天彗の個性も、そういう個性の一つだ。対人訓練でも、爪を伸ばして突き刺せばそれだけで致命の一撃となる。

 ヒーローを目指せるような個性というのは、それ即ち、人を容易く殺めることができる攻撃性を持っているというのに等しい。

 

「個性社会は"個性"の使用を資格制にし、厳しく規制することで一見成り立っているように見えます。しかし、一歩間違えれば容易に人を殺せる"いきすぎた個性"を個々が持っていることを忘れないでください」

 

 一見成り立っている、というのはやはりヴィランの存在だろう。

 個性を持て余す人間が、この世界には多い。天彗はそうした人間を何度も見てきた。そういった連中が社会の闇へと消えて行く姿も。

 

「相澤さんの体力テストで自身の力の秘めている可能性を知り、オールマイトの対人戦闘でそれを人に向ける危うさを体験したかと思います」

 13号はこれまでの授業に軽く触れる。

 

「この授業では心機一転! 人命の為に"個性"をどう活用するかを学んでいきましょう。君たちの力は人を傷つける為にあるのではない。救ける為にあるのだと、心得て帰って下さいな」

 

 ペコリとお辞儀して、「ご静聴ありがとうございました」と締めくくった13号の演説に、13号ファンや飯田を中心に、賞賛の声が送られた。

 

 

 

 そんなヒーロー科の一幕。

 人を救うという正義への少年少女たちの期待。

 

 しかしそれらは、黒い靄と共に現れた者たちの悪意によって、儚く崩れ去ることとなる。

 

 

「一塊になって動くな! 13号、生徒を守れ」

 

 相澤先生の声色は、除籍通告をしたときとも違う、重々しいものだった。

 

 

「……あれは、(ヴィラン)だ」

 

 




・13号
女性教員らしいです。USJ事件での負傷は背中に裂傷とのことですが、リカバリーガールの治療で傷跡が残ってないといいですね。

・ヴィランのセリフ
黒霧のワープ直後の弔と黒霧の会話って、ヒーローサイドに聞こえてないんじゃないかな?と思います。
なのでここではカット。


予約投稿の変更のために見返してたんですが、2000文字台って短すぎじゃないか?
次話以降はこれまでくらいかそれ以上長いので、ご辛抱ください。

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