これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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#13 誰もが慄くU・S・J

 

「なんだありゃ? 入試の時みたいにもう始まってんぞみたいなパターン?」

 

 切島が冗談のように疑問を投げるが、相澤先生はそれを否定することさえしなかった。

 

 

 

「動くな。……あれは、ヴィランだ」

 

 

 血相を変えたような相澤先生の発言にも、生徒たちの反応は様々だった。

 

 

「ヴィランンン?! バカだろ!? ヒーローの学校に入り込むなんてアホすぎるぞ!」

 

 ヴィランを笑う者や、

 

「先生、侵入者用センサーは?」

 

 冷静に事態の把握に努めるもの。

 

「バカだが、アホじゃねぇ。これは何らかの目的があって用意周到に画策された奇襲だ」

 

 他の者を諌める者。

 

 

 しかし、天彗の目を何より引いたのは、黒い渦から現れた、一際体格のいいヴィラン。

 筋骨隆々な肉体、鋭い牙の生えた先の伸びた口など、特徴はいくつかあるが、最大の特徴は頭蓋。それも脳にあたる部位だった。脳味噌が丸見えなのか、そういった模様なのか、なかなかにグロテスクな見た目をしている。

 

 ただ、見た目ならもっとイカついやつもいる。隣に突っ立ってるヒョロい男も、顔を含め全身に手首が取り付けられたアヴァンギャルドなファッションをしている。

 ファッションで言えばこの脳味噌ヴィランはかなり大人しい方だ。膝に髑髏を象った金具が付いているくらいで、探せば街にもいるかもしれない。

 

 天彗が注目したのは、その身に秘めた力。

 

 アレはヤバい。

 なにせ、()()()()()()()()

 衰えた可能性があるとは言え、他のどんなヒーローも寄せ付けない圧倒的No.1ヒーローであるオールマイト。

 12年ぶりのつい最近感じたその圧力に匹敵するヴィランがいる。あまりに強すぎて、どちらが強いとハッキリ言い切れないほどの遠い存在だ。もちろん仮にもヒーローを目指す存在として、オールマイトの方が強いと信じたいものだが。

 

 

 言うべきかどうか。

 天彗は珍しく詰まった。

 根拠は勘だけだ。

 そこらのヒーローよりも実戦を経験している自覚はあるが、先生たちから見ればただの子供。自身の経験の方が優先されるだろう。

 

 

 そんな逡巡の間に。

 

 相澤先生は13号と生徒に避難と連絡を頼むと一人、階段を飛び降りて敵の(たむろ)する中央広場へと突っ込んで行った。

 

 

 

 不意に、天彗は腕を誰かに掴まれる。

 

「赤井さん! 先生が不安なのもわかるけど、ここにいちゃ足手纏いだ!」

 

 抜けてきたヴィランかと、一瞬鳥肌が立ったが掴んでいたのは尾白だった。

 たしかに、中途半端で思考停止というのが一番迷惑だ。

 

 天彗は薄くない自責と後悔の念に押されながら、13号とA組の生徒たちと共にゲートへと向かう。

 

 

 けれども、その遁走を阻止せんとする者がいた。

 

「させませんよ」

 

 何もない中空に突然現れ、最初にヴィランが現れた時と同じ黒い霧を漂わせて進行を防いだその男は、ヴィランに似つかわしかない丁寧な口調で、口上を述べ始めた。

 

 

「はじめまして、我々は(ヴィラン)連合」

 

 名乗ったのは、敵連合という聞いたこともない集団名。

 

「僭越ながらこの度、ヒーローの巣窟、雄英高校に入らせていただいたのは、平和の象徴、オールマイトに息絶えていただきたいと思ってのことでして」

 

 しかし、その目的はとんでもないものだった。

 

 オールマイトを殺す。

 その目的が、天彗の中であの脳味噌ヴィランと繋がってしまう。

 

 喉が詰まる。息が出来ないが、不思議と苦しくはなかった。

 

 

「本来なら、ここにオールマイトがいらっしゃるハズ。ですが、何か変更があったのでしょうか? まあ、それとは関係なく私の役目は──」

 

 

 ゆったりと喋るヴィランに差し込むようにして加えられた、爆豪の爆発による一撃と、切島の硬化して鋭利になった腕による一撃。

 

 オールマイトの殺害という最大級の煽りに加え、長々と話を続ける黒い靄を纏ったヴィランに、それをスキと見て先走ってしまった生徒がいた。

 しかし、爆煙で揺らぎながらも、相手には負傷した様子はない。

 

「危ない危ない。そう……生徒といえど、優秀な金の卵……」

「ダメだ! どきなさい二人とも!!」

 

 それに加えて、この奇襲は13号がいるという状況において、最大に近い悪手だった。

 13号の攻撃は広範囲攻撃。爆豪と切島が前に立ってしまったことで、完全に射線が封じられてしまった。

 

 そして、その悪手は最悪に近い結果を齎すこととなる。

 

 

「私の役目は、散らして──嬲り殺すこと」

 

 黒い靄のヴィランは、這うようにその黒い霧を伸ばし、瞬く間にA組の生徒らを覆いつくした。

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

 黒い霧が晴れた時、天彗が最初に感じたのは暑さだった。

 焚き火に当たった時のようなジリジリとした輻射熱。

 

 それもそのはず。天彗が送られたのは火災ゾーン。

 このゾーンでは、本物の火が扱われているエリアもある。

 

 それらの炎や崩れかけの建物に模したモニュメントに紛れるのは、黒い霧と共に現れた天彗を眺める視線。

 火災ということもあり、エンデヴァーのような強力な火を操るような個性がいれば出てきた瞬間に炙られて終わりだったが、幸いそこまで強い者はいないらしく。

 こちらの出方を見ているといった様相だった。

 

 

 こちらを見つめる視線の主の位置を軽く見渡して覚えると、天彗は一切の躊躇なく敵前に飛び出した。

 

 

 どれだけの人数が、特に13号が、転移から逃れることができたかは不明だが、孤立した可能性が高い相澤先生があまりにも危険だ。天彗の直感を信じるのならば、あの脳味噌ヴィランはハッキリ言って格が違う。

 相澤先生の個性は【抹消】と、どんな相手にも相性を無理矢理イーブンに引き落とせる個性ではあるが、オールマイト級となればどうなるかわからない。最悪、文字通りの目にもとまらぬ速攻を食らう可能性すらある。

 

 

 その為に天彗が選んだのは救援に向かうことだった。

 流石にあの脳味噌ヴィランと闘えると思うほど自惚れてはいないが、周りのヴィランたち、主犯格級と思しき黒い靄のヴィランや、黒い靄と脳味噌ヴィランの真ん中に陣取っていた手首ヴィランなどの相手はできるだろう。

 少なくとも、相澤先生が脳味噌ヴィランに集中できない限り勝機はない。

 

 中央広場に救援に向かう為には、まずこの火炎ゾーンから逃れる必要がある。出口か、あるいはこの緊急事態、最悪壁をぶち抜くでもいいだろう、外縁部へと向かうのが急務だ。

 ヴィランたちは円形に陣(というほどまともなものではない)を敷いているが、ここが中心近くなのか外れなのかは、視界がビル群や火の手に遮られていてわからない。

 

 結局、とりあえず高い所ということで、手近なビルにいるヴィランたちの集団に飛び込んだということだった。

 

 

 この期に及んで躊躇する、といったことは一切しない。

 目には目をとばかりに、天彗は平気で翼の切先で腹を抉り、腕を切り裂く。

 流石に致命傷を与えることは避けているものの、雄英指定の体操服が血で染まるのも気にせず、打撃のみに甘えることがない。

 結果、出血性のショックによって、より早い鎮圧を可能としていた。

 

 

 一息の間に10人以上を血の海に沈め、天彗は自分を取り囲む者たちを睨んだ。この攻防の間に、天彗が入り込んだビルは戦闘を聞きつけたヴィランらによって囲まれている。

 

 しかしそんな彼らは、まだ学生だというのに、頭から血を被ったことも気にせずなおも戦闘を続ける天彗の様に、もはや精神的優位性など見出すことができなくなっていた。

 主犯格を除けば、今回の襲撃に参加したヴィランはチンピラ程度が主だ。エリートを一方的に嬲れると聞いて参加しただけで、強固な意思に基づくものではない。

 

 それに加えて、ヴィランの内の幾人かは中学時代の天彗の悪名を聞いていた。

 逆らう者を容赦なく血祭りに上げる女傑。多須宮のイカレた獅子。

 そんな冗談みたいな名前が、裏社会に片足突っ込んだ連中には広まっているらしい。

 

 

 そんな状態だったため、天彗は結局十数人のヴィランを倒したところで、廃ビルを模した建物の屋上に辿り着くことができた。

 

 

 火災ゾーンは主に3つのエリアに分かれている。

 一つ目が実用性の高い建物を想定して作られているが、安全のために火は用いられていないエリア。

 二つ目が、実際に火を使っているが、火に対する対処がメインで実際の建物よりも実用性が低い堅固な造りになっていたり、不燃性の材料で建てられたりしているエリア。

 三つ目は実際の火災現場をほぼ完全に再現するため、作り込まれた家屋に火をつけることを想定したエリア。

 

 天彗のいるエリアは1つ目と2つ目の境目あたりに位置するビルだ。

 ちなみにそこら辺にあったパンフレットの地図を参考にしている。

 USJ(遊園地)っぽいアトラクションのある二つ目のエリアが最も広く、暗めなドーム内を火で照らしているため、明るく目立っている。

 

 ドーム中央には支柱にもなっているタワーが存在し、高層ビルからの救出任務を想定したアトラクションが用意されているのだそうだ。

 

 

 地図によると、天彗の今いるビルは南西部。中央広場からの距離を考えると、遠めに位置している。

 授業初めに見た火災ゾーンの位置からしても、現在地は中央からはかなり離れていて、救援へはかなりの時間を要することが予想できる。

 

「急いでるからしゃーないよね」

 

 一言呟くと、天彗はビルの屋上から身を投げ出した。

 

 

 しばらくスカイダイビングのような体勢で、姿勢を正した後。

 一転、空中で身を翻し、ビルに翼腕を突き立てる。

 

 強い衝撃と共に、コンクリート片やガラス片が飛び散る中、もう一方の翼を盾にしながらビルの壁面を急降下していく。

 

 

 地上3階程度の位置だろうか。

 天彗の降下はついに止まり、壁面を貫いて床に突き立った可変翼一本を支えに宙に吊られる形となった。

 

 翼の形状を変形させて、ビルを離れると軽業士の如く身を返しながら、翼腕を利用したスーパーヒーロー着地で地面に降り立つ。

 

 飛び降りに躊躇したのは、何も天彗が高所恐怖症という話ではなく、ビルに翼の爪を立てる都合上、この立派なビルが傷物になり、下手をすれば高々数分の時間短縮のためだけに建て直しとなってしまうからだった。

 ここらへん、天彗は微妙に貧乏くさいのである。

 

 

 スーパーヒーロー着地の衝撃緩和のために打ちつけた翼は、凄まじい衝撃音を響かせ周囲のヴィランの注目を誘ったが、もはや天彗に襲いかかる者はいなかった。

 

 むしろ彼らの視線の先にあるのは別の建物。

 先程の地図で確認した支柱のタワーだった。

 

 

 

 甲高い破砕音と、ガラスが散らばる音。

 

 見ると、支柱のタワーの3階程度の高さに割れた窓があった。そこからヴィランが突き落とされたと推察できる。

 

 どうやら、内部で戦闘が起こっているらしい。

 おそらくは天彗と共にこの火災ゾーンに飛ばされた生徒だろう。

 

 

 天彗は予定を変更して、先にその生徒の援護に回ることにした。

 

 悠々と、しかし、駆け足で火災ゾーンの中央のタワーに向かう。

 

 途中、たった一人だけ背後から天彗を襲うヴィランが居たが、ナイフを持った手を翼腕が貫通。右腕を粉砕骨折したところをもう片翼で殴り飛ばされ、敢えなく気を失った。

 この間、天彗は振り向くことも、手足も使うことすらせず、敵は翼腕の動きだけで鎮圧されたのだ。

 

 

 しばらくしてタワーに辿り着いた天彗が見たものは、建物の部屋を利用してゲリラ的に交戦する尾白猿夫の姿だった。

 

 




・火災ゾーン
原作では尾白が単身飛ばされたゾーン。
青山がどこに飛ばされたかわからないのは、有名な内通者の根拠の一つですね。
尾白も疑われている理由も、この単身で飛ばされたというもの。
尾白説では青山は目撃者である可能性が高く、この火災ゾーンで決定的な何かを見てしまったのではないかと言われてます。
SS的には内通者はほとんどないも同然になっています。青山くんのベルトにGPSでも仕込まれてるんじゃないかな? 本誌で展開があったら修正可能な範囲なら設定変更する予定です

ちなみに、アニメと漫画原作で見た目が大きく変わっていて。漫画ではある区間に燃えるビル群が建っていますが、アニメは火を模したデザインが描かれたドームとなっています。
火災描写が放送上難しかったか、作画が難しかったか、排気などの都合上コチラの方が適したデザインだったからか、など様々理由は考えられまが、
SS作者的にはアニメに適した炎の描写が難しかった説を推してます。
なお、このSSではアニメ仕様にしています。

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