これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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#16 ヒーロー達の逆襲

 

 天彗は今の今まで、動けなかったことを悔やむ。

 あの空中からの一撃は、想像以上に天彗を消耗させていた。体力的な意味ではなく、天彗の纏う赤いオーラの量の意味である。

 

 

 ただヴィランのいる地面に向かって突入しただけ、のつもりではあった。

 

 しかし実際には、衝突時の爆発や身体の防護、相澤先生に負担を加えないための無理な方向転換など、様々なエネルギーの消費要素が含まれていた。

 

 特に、単なる漏れによるロス。これが最も大きく、現状の天彗は穴の空いた桶のようなものだったのだ。

 

 必然、天彗は文字通りガス欠に陥る。

 

 

 苦肉の策として、爆煙に紛れた敵の前で吸気を行うという行為に出たが、そう何度も許してくれることはないだろう。

 

 

 

 そうこうしている内に、死柄木とか言うヴィランによって蛙吹がピンチに陥っている時、天彗は何もすることができなかった。

 それどころか、もしも相澤先生が天彗の攻撃に伴って気絶していれば、1人の生徒の命が失われていた。

 

「(運が良かっただけだ……)」

 

 ある時点での最善手が、後から見れば悪手であることなど、ザラにある。

 天彗の行動の結果はどうだろうか。

 脳無に与えたダメージは個性によって回復されて何も残らず、ヴィランにとっては標的が増えただけ。

 状況は好転せず、むしろ悪化さえしているかもしれない。

 

 

「だから今から手を引いて逃げますって? それは不義理ってやつでしょ」

 

 自分に言い聞かせるように、天彗は呟く。

 

 ネガティブになりすぎだ。

 いい点もあった。

 少なくとも、あのヤバすぎる脳無とやらの個性は暴いた。

 

 黒霧と死柄木の情報を合わせれば、ここにいるヴィラン連合の連中の個性は全て把握したことになる。

 

 ヴィランの最大のストロングポイント、情報の少なさは(おおよ)そ潰すことができた。

 生存率も、微量かもしれないが上がっただろう。

 

 

 今いる人員で勝つことは残念ながら不可能だ。

 これはもう認めざるを得ない。

 

 ただ、見込みがないわけではない。

 敵連合が述べていたように援軍、飯田が呼びに行ったプロヒーローの到着だ。

 

 

 雄英本館からUSJまで、バスでたしか2分程度掛かっていた。距離にして2kmほどだろう。

 飯田の持久走は1分を切っていたから、先生らを集める時間で1分ほどとして、ここまで2分。移動に優れた先生、特にオールマイトなら30秒とかからずに到着するの考えれば、稼ぐべき時間は2分30秒ほど。

 今までで1分以上は稼いだので、1分半。長めに見積もって2分で十分だ。

 時間を具体的に考えると、意外にも短いように感じられる。

 

 2分を稼ぐために最も有効な手段は、相澤先生の【抹消】だ。

 相澤先生はもうほとんど戦闘不能とはいえ、その個性自体の対処には時間を浪費する。

 

 天彗は吸気によって赤いオーラを蓄積する間にここまでの思考を巡らせ、相澤先生に覆い被さる脳無へと刃を向けた。

 

 

 

 全身に大怪我を負いながらも蛙吹を守ったイレイザーヘッドを、脳無が地面に叩きつけてトドメを刺そうとする──

 

 緑谷出久が、戦闘に意識を引き戻し蛙吹を狙う死柄木をワンフォーオールで打ちのめそうとする──

 

 狙われているのを察知して、死柄木弔が脳無を呼び寄せようとする──

 

 赤井天彗が、トドメを刺さそうとしている脳無に、翼腕を伸ばそうとする──

 

 

 瞬間、ゲートのドアが弾け飛んだ。

 

 

「もう大丈夫。私が来た」

 

 

 No.1ヒーロー、オールマイト。

 その登場にヒーローとヴィラン、双方が活気付く。

 

「「オールマイト──!!」」

 

 ヒーローたちは歓喜や安堵と共に。

 

「あ──……、コンティニューだ」

 

 ヴィランたちは悪辣な期待の昂まりと共に。

 

 

 天彗にチラリと浮かんだ、オールマイト到着の速さの疑問への答えはすぐに与えられた。

 

「嫌な予感がしてね……。校長のお話を振り切り、やって来たよ」

 

 流石はNo.1ヒーロー。直感力さえ超一級だ。

 

「来る途中で飯田少年とすれ違って、何が起きているかあらまし聞いた……」

 

 オールマイトはネクタイを引きちぎり、敢えてもう一度、彼の決め台詞を口にする。

 

「もう大丈夫、私が来た!!」

 

 

 オールマイトへと寄せられる絶大な信頼感は、A組の生徒うち何人もの子供が流した安堵の涙が物語っていた。

 

 

 

 ゲート前の階段の上に立っていたはずのオールマイト。

 しかし、階段下の中央広場でまるで野次馬のように生オールマイトについて喋っていたヴィランらは、瞬間移動と見紛う速さで広場に現れたオールマイトによって叩きのめされる。

 

 そのまま、1秒とかからずに相澤先生と近くにいた天彗を救出。

 さらに死柄木に相対していた3人もヴィランの前から引き離した。

 

 

「え?! あれ? 速ぇ……!!」

 

 その速さは救出された本人が気づかないほど。

 

 加えて、オールマイトは救い出した生徒たちに、重体の相澤先生の保護と避難を指示した。

 

 それでも、オールマイトの弱体化、そして朝のニュースと13号の合図から割り出した活動限界を知る緑谷はその心配を口にする。

 

「オールマイトダメです!! あの脳ミソヴィラン【超再生】って個性を持ってて、何を食らっても再生してしまう!!」

「それに、対平和の象徴とか言って、相澤先生の個性も効かなかったんです!」

 

 緑谷に加えて、今度こそ自分の感じた危機感を伝える天彗。

 

「緑谷少年に赤井少女……。大丈夫!」

 

 しかし、オールマイトは笑ってそう告げた。

 

 

 

 反転。すぐさま攻勢をかけたオールマイト。

 

「"CAROLINA……、SMASH"!!」

 

 オールマイトの放った必殺技、クロスチョップは死柄木の呼び寄せた脳無にクリーンヒットしたが、一切の効いた様子を見せなかった。

 

「そんな……、赤井さんの一撃は効いたのに?!」

 

 当然、オールマイトの技の威力は、赤井の一撃をゆうに上回っていた。にも関わらずの無傷。

 

 

「別に、個性が【超再生】だけとは言ってないだろ? ……これは【ショック吸収】かな? 脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

 

 死柄木は完全に勝利を確信したかのように、上から目線で告げる。さらには、ゆっくりと肉を抉ることなどが効果的と、攻略法まで口にした。

 

 

 

 違和感。

 死柄木の思考は典型的な無鉄砲のヴィランのそれだ。

 

 先ほども、帰るとか宣っていた割に、その死柄木は「平和の象徴の矜持をへし折るために生徒を狙う」などという行動に出ている。ワープゲートが居ることもあってか、おそらく死柄木とかいうヴィランはリスク管理ができていない。

 

 ヴィランにありがちな思考だ。この一時にかける思いが強すぎて、引き時を誤る。自分が攻め手だと信じてやまない。

 

 それは脳無という圧倒的な力に任せるのではなく、死柄木自身で蛙吹をヤりに来たことからも明らかだ。

 後ろに引っ込んで、脳無が全滅させるのを待つ方が手っ取り早く、リスクも低くなるはず。

 

 

 最初から、微かな違和感は感じていた。

 

 死柄木が脳無の能力に絶対の自信を置いているのは明らかだ。

 今もオールマイトを目の前にして、個性が複数あるという最大の特徴を軽く口にしてしまう暴挙を行なっている。

 

 ではなぜ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 典型的なヴィラン像に見合った思考を考えれば。脳無というオールマイトに匹敵する力を手に入れたなら、プロヒーローがいくら集まろうと正面から勝てると考えるのが普通ではないか?

 

 

 結論は一つ。あの脳無とやらはオールマイトに()()()()勝てない。

 他のヴィランがオールマイト以外の相手をしている間は、オールマイトを殺す算段とやらは成り立たないのだ。つまり、黒霧か死柄木のどちらかの主要メンバーの連中と組み合わさることで、その算段は成り立っている。

 

 脳無の知能が低すぎるのもあるだろう。

 先程から、脳無は完全に死柄木の指示待ち状態。意思を決定する知性すら失われているのではないだろうか。

 

 加えておそらく、確実性に欠ける。

 生徒や普通のプロヒーローにとっては圧倒的でも、攻撃は打撃と掴みだけの通り一辺倒で、オールマイトから見れば高く見積もっても自分と同程度。厄介な搦め手は備わっていない。能力が五分で勝ちを確信はできないはずだ。

 対照的に、死柄木の個性は攻撃的。さらに、黒霧の個性ならばワープで溶鉱炉に突き落とすなど、どんなやりようも存在するだろう。

 

 ならば──

 

 

 

 オールマイトが【ショック吸収】を知って、豪快なバックドロップで地面に埋めると言う手段に出た時。

 

 そう、この状況で、天彗だけはオールマイトと脳無の決戦の側にいる死柄木と黒霧に注目していた。

 

 

 

「オールマイトを殺す算段、あんたもでしょッ!!」

 

 黒霧に突き出した翼腕は辛くもワープゲートに阻まれたが、オールマイトを拘束するというヴィランらの算段を完全に阻んでいた。

 オールマイトがバックドロップをヴィランに決める直前、黒霧が動き出したのを、天彗は目敏く見ていたのだ。

 

「くっ、申し訳ありません。死柄木弔」

「……チッ! おまえ、さっきから邪魔ばっか……」

 

 天彗にチャンスを奪われた死柄木は、苛立ちを露わにする。

 

 

「けども、オールマイト。コンクリに突き立てても、そいつの動きは封じられないぜ? なにせ脳無はおまえの100%にも耐えられる耐久性に加え、おまえ並みのパワーになってるんだから」

 

 その苛立ちをぶつけるように、死柄木はオールマイトを煽る。

 言葉通りに脳無は動き出し、()()()()()()()()()()海老反りで地面の中からオールマイトに掴みかかった。

 

 

 

 その瞬間、地面を背筋だけで砕き掘っていた脳無の、オールマイトが触れる腰より上の部分だけを、霜が覆い。

 

「どっ、け邪魔だ! クソ女ァ!!」

 

 翼腕を取り込んだワープゲートを広げ、天彗をどこかに飛ばそうとした黒霧を、爆風が吹き飛ばした。

 

 

 

「氷結に爆破、轟少年と爆豪少年か!」

 

 脳無の首までを覆う轟の氷結と、爆豪が黒霧を抑えることで形勢は一気にヒーロー側へと傾く。

 

 

「出入り口を押さえられた。こりゃあ、ピンチだな……」

 

 そんな様子を見ても死柄木は、どこか他人事のようだった。

 

 爆豪は自身の黒霧の個性に関する見解を口にして、オールマイトらに共有すると同時に、ヒーローらしからぬ言動で黒霧を恫喝する。

 

 

「攻略された上に、全員ほぼ無傷。……すごいなぁ、最近の子供は。恥ずかしくなってくるぜ、敵連合」

 

 黒霧も脳無も動けず、死柄木自身も攻略されたと認めるピンチ。それにも関わらず、生徒を褒めるほど余裕のある死柄木の様子に、緑谷が察した。

 

「轟くん! そいつの個性は──」

 

 

 後から来た轟焦凍は脳無の【超再生】を知らない。

 

「脳無、爆発小僧をやっつけろ。出入り口の奪還だ」

 

 頭部以外が凍りついた上半身を、身を砕き再生しながら動かし出す。

 両手で這うようにして脳無は凍った下半身を引き剥がし、やがてすぐに失われた下半身と上半身の肉の再生を始めた。

 

 

 そして、再生直後のはずの脳無はそのまま爆豪へと駆け出す。

 

 

 木々を揺らす豪風。

 

 まるで、緑谷の腕を犠牲にした一撃か、オールマイトの技のように、巻き起こした風圧だけで、コンクリの画面を抉って粉塵を巻き上げる。

 

 煙が晴れたら先、爆豪が居たはずの場所にはオールマイトの姿が。

 爆豪はヴィランから離れた緑谷たちの元に移されていた。

 

 

「加減を知らんのか……」

「仲間を助ける為さ。しかたないだろ?」

 

 いつかのように咳き込みながらそう言ったオールマイトに、ほぼ確実に爆豪を殺せる威力で脳無に殴らせた死柄木が、白々しく綺麗事で答える。

 

「そこの、地味な奴。あいつが俺に思いっ切り殴りかかろうとしたぜ? 他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ? ヒーロー」

「俺はな、オールマイト! 怒ってるんだ──」

 

 これまでボソボソ呟くだけだった死柄木は、やがて自分に酔ったかのように正当性を長々と演説する。

 

 

「……そういう思想犯の眼は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘吐きめ」

 

 しかし、そんな空虚な主張は、歴戦のヒーローたるオールマイトの一言で遮られた。

 

 

 オールマイトとヴィランの舌戦が一段落したと見て、A組のヒーローの卵たちは自分たちの意欲を語り始めた。

 

「3対5、いや6か。こっちは倍の数」

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた……!」

「俺らでオールマイトのサポートすりゃ、撃退できる!!」

 

「ダメだ!!! 逃げなさい!」

 

 そうして立ち上がった生徒たちを、しかしオールマイトは制止した。

 

 

「あんたの打撃より、俺の個性の方が効いてた。役に立てる」

「オールマイト、血が……それに時間だってないはずじゃ……?」

 

 自身の有効性を主張する声と、オールマイト自身を心配する声。

 

「それはそれだ、轟少年!! しかし大丈夫。プロの本気を見てなさい!」

 

 それでも、オールマイトはプロヒーローとして、生徒を守る教師として1人で挑むことを選択する。

 

 

「脳無、黒霧、やれ。俺は子供をあしらう」

 

 しかし、突っ込んできた死柄木に対して、オールマイトは何もしない。

 

 ただ。

 その気迫だけで。死柄木は足を止めて引き、決戦はオールマイトと脳無の2人だけのものとなった。

 

 

 オールマイトは正面から拳を合わせる。

 

「【ショック吸収】ってさっき、俺が教えてやったじゃんか」

 

 当然の無傷に、死柄木はオールマイトを嘲笑った。

 

「そうだな!」

 

 オールマイトはそれも肯定し。だが行うことは変わらず真正面からの殴打。

 

 殴打。

 殴打!!

 

 

「真正面からの殴り合い?!」

 

 ヒーロー側からしても疑問を抱かずにはいられないその行動の、衝撃だけでも黒霧と呼ばれたヴィランは寄せ付けない。

 

 その後も正面切っての応酬は続く。

 

 そんな中、オールマイトは自分の中の一つの予想を、確信したように口にする。

 

「ショック"無効"ではなく、"吸収"ならば!! 限度があるんじゃないか!?」

 

 拮抗しているように見える殴り合い。

 

「私対策?! 私の100%を耐えるなら!! さらに上からねじふせよう!!」

 

 それもやがて、オールマイトが優勢となっていく。

 

「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!! ……ヴィランよ、こんな言葉を知ってるか?!!」

 

 

 もはやオールマイトの有利は圧倒的なものとなり、脳無の姿勢が崩れる。

 完全に【ショック吸収】のキャパシティオーバーをしたと思われる脳無が、耐えきれずに宙へと逃れたところをオールマイトは捕まえて、渾身の一撃を構えた。

 

 

「Plus、……Ultra!!」

 

 

 その右のパンチは、脳無を天高く吹き飛ばしUSJの天井ドームを突き破る。

 あまりの衝撃に、脳無はほぼ直線軌道で飛んでいったにも関わらず、すぐにドームの穴からも見えなくなった。

 

 

「ショック吸収をないことにしちまった……。究極の脳筋だぜ……」

「デタラメな力だ……。再生も間に合わねえほどのラッシュってことか……」

 

 ヒーロー側の人間さえ、まるでファンタジーを見たかのような惚け具合だった。

 

 さらにオールマイトは衝撃の言葉を加える。

 

「やはり、衰えた。全盛期なら5発も打てば充分だったろうに……。300発以上も撃ってしまった」

 

 もう、何を驚けばいいかに迷うほどだ。

 全盛期なら5発で済むこと、今の一瞬で300発も撃っていたこと、なによりこの実力で衰えたということ。

 

 オールマイトへ生徒たちの尊敬と畏怖の念が集まる。

 

 

 対して死柄木は、ここにきて特に如実な憤りを見せる。

 駄々を捏ねる子供のように人をチート呼ばわりして、ボリボリと再び肌を掻き始める死柄木に、オールマイトは1歩詰め寄った。

 

「どうした? 来ないのかな?! クリアとかなんとか言ってたが、……出来るもんならしてみろよ」

 

 

 敵を騙すなら味方から、という諺もあるが。

 そのあまりの気迫に、生徒たちすら感化を受けていた。

 

「さすがだ……、俺たちの出る幕じゃねぇみたいだな」

「緑谷! ここは退いたほうがいいぜ、もう。却って人質とかにされたらやべェし」

 

 天彗もまたその気迫に感受される。

 

「ヤバすぎ……負ける姿が全く想像できないわ」

 

 

 

 動かず、待ちに徹しているようなオールマイトに、死柄木は慄く。

 死柄木は今、撤退に意思を傾けていた。

 

 しかし、黒霧は違った。

 

「死柄木弔、落ち着いて下さい。よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている」

 

 状況は詰みに近いが、オールマイトを殺すという目標だけならば、達成できるのではないか。

 黒霧は冷静に冷酷に、それを死柄木に示す。

 

「死柄木と私で連携すれば、まだヤれるチャンスは充分にあるかと……」

 

 そんな黒霧の言葉に、死柄木の首を掻く仕草が止まった。

 

「そうだな、そうだよ。そうだ……」

 

 恐れしか浮かんでいなかった死柄木の目に、再び憎しみと怒りの火が灯る。

 

「やるっきゃないぜ。目の前にラスボスがいるんだから」

 

 

 そんなヴィランらの様子にも気付かず、オールマイトへと任せようとする生徒たち。

 

 

 黒霧と死柄木が飛び出すのと、緑谷が飛び出したのはほとんど同時だった。

 

「(危険度で言えばモヤの方が厄介。赤井さんもモヤの方を狙ってた! 多分あれは動いたのが死柄木じゃなくて、モヤの方だったからだ。それはオールマイト殺しの実行役はモヤの方だってこと!!)」

 

「緑谷?!」

 

 元の居場所と、オールマイトまでの距離、数十メートルを霞むような速さで飛び抜け。緑谷は黒霧に向かって襲いかかった。

 

「何やってんだ?! 人質にでもなったら……しかも、足まで壊して!!」

 

 足を折ってしまうほどの調整の利かない個性発動。

 

 

 だが、この突進は黒霧らに取っても完全に予想外。

 緑谷──地味めの緑髪の生徒と言えば、他の地域へと踵を返した他の生徒らとは対照に、こちら側をじっと見続けていることは意識に入ってはいたものの。先程までは爆豪のように飛びかかることもなく、したことと言えば、蛙吹を守る為に拳を振り上げた程度。

 

 彼の個性すらわからない状態だ。

 それがここにきて、オールマイト並みの速さでの突進。

 

 黒霧も死柄木も完全に虚を衝かれる。

 

 

 それ故に、黒霧はモヤでガードのように守りを固めることしかできなかった。

 

 

「壊れ、なかった?! でも、……外した!」

 

 一方、緑谷も絶望的な表情を見せる。

 拳を握ったストレートはワープゲートたるモヤに包まれ、反対側へと突き抜けていた。

 

「不意は衝かれましたが。しかし浅はか!」

 

 すぐさま、右腕をモヤに囚われたままの緑谷に、死柄木の手が迫る。

 

 

 

 BLAM!!

 

 その手が緑谷に触れる一瞬前。

 1発の銃弾が、死柄木の手を貫いた。

 

 

 

「ごめんよ、皆。遅くなったね。すぐ動けるものをかき集めてきた」

 

 その銃弾は雄英高校教員、「スナイプ」によるものだった。

 

「1-Aクラス委員長、飯田天哉!! ただいま戻りました!!!」

 

 

 USJのゲート前には飯田が伴った、雄英教師陣がついに揃い踏みする。

 

 




・時間
アニメでは飯田が項垂れてから相澤先生が注意するまでおよそ1分40秒の会話。その後のバスはもうUSJ前なので、距離ではバスで2分ほどと推測。バスの速さは60kmらしいとググったら出て来たので雄英本館からUSJまでは2kmと概算できます。
飯田くんの速さは不明ですが、
ウサインボルトの世界記録が9"58に対してトップスピードから計算したロスは1.6秒。これを飯田の50mの記録3"04から単純に引く──というのは流石にやりすぎなので、トップスピード44.7km毎時と比較して割合計算で1.2(正確には1.1888...)倍ほど遅くなってるとして、70km毎時ほど。これが3速までしか入らんらしいですが、最高速度を考えていくと。私は車に疎いので適当に調べたギア比1.52:0.78とか言うのを単純にかけて5速でおよそ136km毎時。(多分これ力(速度の時間微分)の比なので全然計算違うとは思います)
これでバスの2倍以上ほどの速さなので、飯田の持久走(1,500m)の記録はおそらく1分を切っています。
ちなみにオールマイトの速さは、劣化後のAFO戦で5kmを30秒をゆうに上回ると煽られているので、譲渡直後のこの時期には2kmは30秒は掛からないと思います。なお、この速さだと多分、飯田くんと会話して事のあらましを聞いている時間の方が移動時間よりも長いです。
 
結論、飯田の雄英本館到着時間は1分未満。
 
・私が来た
実はアニメ遵守だと2回言っている。
1回目はBパートの最後にネクタイありで。
2回目は始まってすぐ、ネクタイを引きちぎりつつ。
原作漫画だと、それまでの会話を省略しただけの1回なのかは不明。
このSSでは、アニメを参照。
超重要な場面では、あえてもう一度言うとかって、カッコいいと思います。

・オールマイト到着
天彗が強襲で少し時間を稼いだので、タイミングが少し速いです。
緑谷は5%スマッシュを打つ前。
相澤先生が最後に叩きつけられる前。
そんな感じです。
 
・オールマイトの限界
このシーンや神野ではオールマイトは気合で戦っているようなので、相手を倒したと思った瞬間に、いろいろ途切れてしまうだろうと思います。
脇腹攻撃の回避など、原作よりも体力は残っている為、1歩くらい動きました。とはいえ、限界を超えてるのは同じなので、大概同じ展開です。
 
・僕だけが知ってるオールマイトのピンチ
僕だけが知っているので、天彗は知りません。

真面目に言うと、おそらく天彗を含めて生徒らはオールマイトが負ける姿を見たことがないです。そういう先入観があるので、オールマイトがダメージを負っているということに気づくことはほぼないと思います。
 
・緑谷特攻
アニメで見ると2回はほんのちょーっとくどいと感じたこともあり、最後に1発かます感じに。

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