これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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アニオリの内容なので、原作派はネタバレになります。ご注意ください。


#19 救助訓練リターンズ

 

 あの事件から4日。

 1-Aの生徒たちは再びUSJを訪れていた。

 

 どんな建築技術を駆使したのか、殆どの建造物は修復されている。

 倒壊ゾーンなどはそのままなのか、直したのかちょっとわからなかったが。

 

 さて、なぜ再びトラウマ残るUSJに来たのか。

 それは当然、救助訓練をするためである。

 ここは別にヴィランとのエンカウントエリアではないのだ。

 

 

 今日こそ、と言った面持ち(顔はコスチュームで見えないが)で、傷一つないコスチュームを身に纏って復帰した13号先生が授業を始めた。

 

「まあ、あんなことはあったけど、授業は授業。というわけで、救助訓練、しっかり行って参りましょう!」

 

「13号先生、もう動いて大丈夫なんですか?」

 

 麗日が、13号を心配した声を上げる。ファンとして心配する気持ちもあるのだろう。

 ちなみに今日もHRに相澤先生が現れた時は、ここまで心配している声はなかった。

 

「背中がちょっと捲れただけさ。先輩に比べたら大したものじゃないよ」

 

 

 13号の話題にあがった相澤先生は、相変わらず包帯グルグルの両腕ギプスだ。小躍りできるほどの13号先生と比べれば、その傷の重さは段違いのように見える。

 ただ、(おだ)てられた相澤先生は、やはりいつも通りだった。

 

「授業を行えるならなんでもいい。とにかく早く始めるぞ、時間がもったいない」

 

 と、そこで緑谷が一つ疑問をぶつける。

 

 前回は3人の先生、今この場にいる13号と相澤先生。それに加えてオールマイトが担当する予定だった。

 しかし今はオールマイトの姿が見えない。

 

 生粋のオールマイトファンである緑谷は、オールマイトについて相澤先生に聞いた。

 

「知らん。ほっとけあんな男」

 

 答えはどこか、いつもより冷たい声だった。

 4日前は、相澤先生を救った命の恩人に近かったというのに、何かあったのだろうか。音楽性の違いとか?

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

「では、まずは山岳救助の訓練です」

 

 山岳ゾーンをえっちらおっちらと山登りしたA組メンツの救助訓練は、そんな13号の掛け声から始まった。

 

 

 訓練想定は、登山客三名が谷底に滑落、うち一名が頭を打って意識不明の重体。残り2名は足を骨折しての重傷で、動けずヒーローの救助要請をして待っている、というものだった。

 怪我人チームは3人、救出チームは4人の構成で、メンバーを変えつつ交代交代、全員がそれぞれの役を1回以上体験できるよう、計7回の訓練を行う。

 

 しかし、この谷底。非常に深い。

 山岳ゾーンの特徴は、二つの山と間に架けられた吊り橋だが、その山間の絶壁を谷に想定しているのだ。

 むしろ、よく2名は骨折で済んだものである。

 

 

 そんなことを谷底を覗き込んでぼやいていた面々に、真面目な飯田が突入して、救助に今から向かうと谷底へ声を張り上げた。

 

 もちろん、まだ誰も救助を待つ人はいない。

 大した演技力だ。

 

 

 

 13号先生が最初に指示したグループは、緑谷、麗日、飯田のいつもの3人が怪我人チーム。爆豪、轟、八百万、常闇の異色だが強個性チームが救助チームというものだった。

 

 

「降りるまでもねぇ……! 爆破して谷そのものを無くしちまえば問題ねぇ!!」

 

 仕切り始めた轟に突っかかったのは爆豪だった。

 そして、自分の意見を披露する。

 

「いや、そんなことしたら、瓦礫で怪我人ペシャンコじゃん」

「考えなしじゃないけど、考えることがとても人とは思えないわ……」

 

 そんな人とも思えない発言に轟は取り合うこともなく、淡々と指示を出していく──。

 

 

 

「一組目にしては、とても効率の良い模範的な仕事です」

 

 なんだかんだ言いながら、ロープを引っ張るという地味な仕事に就いた爆豪を含む、4人の救出チームは怪我人役の救助を進めていく。

 そんなチームの姿を13号は褒め、やがてその感激はヒートアップしていった。

 

「個性を上手く作用させ合い、人助けをする。これこそ超人社会のあるべき姿だあ〜」

 

 救助の途中で1人盛り上がる13号に、瀬呂がチャチャを入れた。

 

「1人、ただ引っ張るだけの奴いますよw」

 

 

 最初に大々的な案を示した割に、攻撃性にしか応用範囲が乏しく、結局殆ど貢献していないように見える爆豪。

 しかし、13号先生はその爆豪の対応も褒め称えた。

 

「自身の個性が貢献できないと判断した場合、それは正しい」

 

 先生に正論をぶつけられ、瀬呂は少しばつの悪い顔をした。

 

「適材適所! 最近のプロはそれができない人が多いんです」

 

 Mt.レディなんてまさにその例かもしれない。彼女の個性はとてもではないが都会向きではない。

 ただ、巨人になれる関係上、移動速度も速い。どうしても都会で活躍したいのであれば事務所は郊外に置いて、彼女が大きく活躍できる大型ビルなどでの事件があれば、その要請を受けて都度急行する。とかにすればいいのに。

 

 

「そこを理解してフォローすることを覚えれば、きっと彼もステキなヒーローになると思いますよ!!」

 

 感動的な物言いだが、爆豪のみみっちさはそんなものじゃない。

 

「いやぁ。ステキ、にはならんでしょうなぁ」

 

 その瀬呂の発言には、口に出してまでは同意しなかったが、誰もが納得した。

 爆豪はこの短い期間で、クソを下水で煮詰めたような性格だと皆んなに把握されているのだ。

 

 

 

 さて次はと言うと、全く別の組み合わせ。爆豪、切島、葉隠の怪我人チームに、天彗、蛙吹、口田、青山の救助チームとなった。

 13号先生が先ほど口にしたように、個性を上手く組み合わせると言う観点で、普段仲の良いグループ以外の組み合わせも作っているのだろう。

 

 

「じゃあ、ボクが降下役だね! キラメいてるし!」

「暗い谷底で輝けるのは安心感の面でいいことだけど。赤井ちゃんの方が安全に担架に乗せられるわ」

 

 天彗は実質的に手が四本あるのと同じだ。

 加えて翼は広く大きいため、安定していると思われる。

 

「梅雨ちゃんも壁に貼り付けるし、崖を降りるのにも適してるんじゃない?」

「……そうね。私は登ってる最中、崖で付き添うことにするわ」

 

「んじゃ、梅雨ちゃんはヨロシク! 口田くんは重そうだしロープを引く役。青山くんは回収ね。暗い谷で会うよりも、崖の上の明るみで顔を見られた方が目立つっしょ?」

 

「そう言うことなら、ボクが適任だね!」

「チョロいわね。青山ちゃん……」

 

 天彗の理屈に乗せられて青山は納得したらしい。

 

 

「口田くんもそれでいい?」

 

 天彗は口田にも、確認を取る。

 いかにチーム役割分担が合理的でも本人が納得していなければ、パフォーマンスに影響する。集団的な合意は重要だ。

 

 口田は首をカクカクと縦に振り、身振り手振りで肯定した。

 曰く、自分の個性はここでは上手く使えないから、それでいいとのこと。

 

 

 訓練が始まってすぐに、天彗は崖へと飛び降りた。

 唐突な行動に、生徒らはざわついたが、天彗は空中で翼から龍気を噴射。

 谷底に着く前に、身を翻して両翼のそれぞれ三つの可動部で器用にバランスをとって、空中で静止する。

 

「だぁーれかぁ! 返事ができたら声を出してぇー!」

 

「うっせぇ、クソ女!」

「おい、爆豪! お前意識不明の重体だろ?!」

 

 

 色々ツッコミどころはあるが、天彗は声がした方向にゆっくりと下降。そこには爆豪と切島の2人の姿があった。

 

「えっと、そこで倒れてる爆豪が、重体で? あんたが骨折……あれ、葉隠は?」

「葉隠なら、たぶんはそこらへんにいんだけど……」

 

 もちろん見えない。

 

「赤井ちゃん、ここだよココ!」

 

 谷底で声が反響して、その声の出どころはわからなかった。

 その上、暗いため、唯一の手がかりとなる手袋と靴もよく見えない。

 

「見えないけど、無事でいいんだねぇー?!」

「うん! あ、骨折してるけど!」

 

 一応、声を張り上げて、怪我人設定の葉隠が無事であることを確認。

 天彗はとりあえず、担架で爆豪を運ぶことにした。

 谷底まで引っ張っていたロープを軽く引っ張り、崖上に合図を送る。

 

「梅雨ちゃああん!! 重体1、足の骨折2! それから緊急事態!! 骨折の一名が、見えない!!」

 

 要救助者が見つからないという事態。担架に蛙吹も付いてくるとはいえ、本番を想定して崖上にいるヒーロー達に確認を取った。

 しばらくすれば、担架が降りてくるだろう。

 

 

 先程までは声を出していたものの、これは授業。

 生来のみみっちさを持つ爆豪は、一応真面目に重体のフリをしていた。

 目を瞑って静かにしている様は、いつも怒鳴って口汚い言葉を吐いているとは思えないほど穏やかだ。

 

 

 そんな爆豪に、授業で習った意識不明者の扱い通り、声をかけようとする天彗。

 

「大丈夫でちゅかー? 声は聞こえまちゅかー??」

「「ブゥ──ッ!!!」」

 

 まさかの赤ちゃん言葉だった。

 

「(コイツ……! 後でぶち殺す……!!)」

 

 寝て目を閉じたままの爆豪のコメカミに青筋が浮かぶ。

 

 

 そうして、爆豪を煽ったりしていると、担架が降りてきた。

 蛙吹も壁に張り付きつつ、降りてくる。

 

「天彗ちゃん。見えないんだったら、容体も自己申告で正しいとは限らないわ。それも伝えた方がいいと思うの」

「なるほど。そうだね、ありがと。梅雨ちゃん」

 

 蛙吹は谷底に着くや、天彗の伝達のミスについて指摘する。

 それに対して、感謝を伝えてきた天彗。

 

 その何気ない言葉に蛙吹は感動を覚えていた。

 思ったことをなんでも言ってしまう性格。蛙吹自体、それを把握しているものの治すことはできず、嫌がられることが多かった。

 今回も、そんな説教のような物言いさえしてしまった先程の蛙吹に対し、天彗は気分を悪くするどころか返ってきたのは感謝の言葉。

 蛙吹にとっては、それが嬉しかった。

 

 

 そんなドラマのような心情描写など、察することができるはずもなく、天彗は訓練を続ける。

 天彗は翼を地面に押し付け掘り進む形で、爆豪の背中に回した。ほとんど揺らすことがなく、完璧な動作だ。

 そのまま、両腕は首などを支えながら、爆豪を翼の横抱きで持ち上げて担架へと移す。

 

「はーい、担架に今から乗せまちゅよー。すこーし衝撃が行くと思うけど、大丈夫でちゅからねぇー」

「さっきからなんだぁ! テメェその口調は!! 」

 

 蛙吹はちょっと幻滅した。

 

 

 一方、ついに耐えきれずに声を出して怒り始めた爆豪は、しかし真面目にも動くことなく担架へと移される。

 

「頑張りまちたねー! すぐに助かりまちゅからねー!」

「ぶっ殺すぞ!! クソ女がぁ!!」

 

 怒鳴りながら爆豪は、上へと運ばれていった。

 

 

 

「梅雨ちゃん。あたしが照らすから、手袋と靴を探しといて」

 

 打って変わって真面目な口調。爆豪を送り届けて満足した天彗は、切島を送るより前に葉隠の捜索を始めた。

 一応、ポーズとして葉隠の個性を確認。手袋と靴が見えることを教えてもらってから、天彗は担架と共に帰ってきた蛙吹に案を提示した。

 

「あと、切島も。一緒に来た登山客なら、葉隠を見つけるのに慣れててもおかしくないっしょ?」

「お、おう。わかったぜ」

「いい案ね、天彗ちゃん。骨折で痛みを訴える怪我人が他の人を探せるかはわからないけれど、人をなるべく増やすのはこういう時に正しいわ」

 

 上に運ばれるだけだと思っていた切島は、突然声をかけられたのに加え、会話相手が女子であることもあって若干怯む。

 何気に今の切島は、天彗、蛙吹、葉隠に囲まれたハーレム状態である。

 

 

 天彗は一つ、大きく息を吸う。

 胸の下部にある吸気口も開き、活性化した龍気で暗い谷底を照らし始めた。

 さらに天彗は龍気を操り、バチバチと発火させ赤黒く光る粒子を谷底にばら撒いた。

 

 

「ココだよー!」

 

 赤っぽい灯りで明るくなった谷底にて、手袋だけが振られている様を、明るく照らすことに集中している天彗以外の2人がすぐに見つけた。

 

「もう大丈夫よ、天彗ちゃん。切島ちゃんも協力、感謝するわ」

 

 葉隠を担架に乗せた後は順調に救助は進み、続く切島も担架に乗せて運ばれていった。

 

 

 天彗は翼の噴出口を点火し、フワリと龍気で浮かび上がる。

 空中で少し体勢を整えた後、出力上昇。一気に崖の上へと飛び上がった。

 

 一瞬の噴出ですぐに止めたにも関わらず、天彗の身体は崖の上に押し上げられていた。

 崖上からさらに少し上と言った宙にまで放り出され、宙返りするように体勢を変えると、浮遊飛行に移行。そのまま、地面へと着地した。

 

 

「高速飛行する個性……、スゴいや!!」

 

 飛行するヒーローという、ヒーロー飽和社会でも珍しいタイプのヒーローの卵の姿に、緑谷が自然と口を開いて感動を形にする。

 

 

 

「アクシデントにもキチンと対応した、素晴らしい仕事でしたね!」

 

 先程の訓練の講評が始まっていた。

 13号先生は相変わらず褒めて伸ばすタイプの教師のようで、天彗たちのチームの対応を褒めちぎる。

 

「現場では、様々な個性を組み合わせて救出が行われるのと共に。救出される側にも様々な事情、個性があります。相手に寄り添って、時には柔軟な対応が必要となるでしょう。そうしたフォローができるようになれば、皆さんもきっと立派なヒーローになれると思いますよ!!」

 

 こちらがこそばゆくなってくるほどのベタ褒め具合に、逆に天彗たちの居心地は悪かった。

 

「では次のチーム。張り切っていきましょう!」

 

 

 

 それから何個かのグループが救助訓練を行い、天彗の名前が再び呼ばれる機会が来た。

 チームは峰田、上鳴、天彗の3人で怪我人役である。

 

「峰田、赤井さんよろしく。つっても、俺らは引き上げられるだけだけどな」

「なんで、救出側じゃねぇんだよ!! 今っだろ、今!」

「おーい、峰田ー。流石に目の前で言うのは、不味いと思うぞー」

 

 ちなみに峰田はこれまで救出チームを2回も経験したが、一度も女子の救出には関わらなかった。

 

「わーたから。早いとこ役割決めよ」

「なんだっていいぜ、そんなの!」

 

「 (──……いや、赤井を意識不明にすれば、ヒーローが来るまでの間……)」

 ジュルリ。

 

「やっぱオイラ、骨折役! 上鳴もそうだよなあ!!」

「これ、役割だからな役割。別にホントに意識不明になるわけじゃないぞ」

「ふーん。ま、それでいいんじゃない?」

 

 そう言って、無防備にも天彗は目を閉じて横になった。

 

「(──……おい、上鳴。これって据え膳ってやつだよな!)」

「(そんなわけ……いや、そうかもしれねぇ)」

 

 横たわる天彗の呼吸に合わせて上下する大きな胸に、上鳴もその心を揺さぶられていた。

 

「(胸触るくれぇなら、事故だよな! もう事故起てんだしこれも事故で済むよなぁ!!)」

 

 

 峰田のその腕が天彗へと伸びたとき、谷底に大きな声が響いた。

 

「大丈夫ですか──っ!! 今、向かってますから──!!」

 

 真剣すぎる飯田の声だった。

 ただ、飯田は降下役ではないらしい。

 

 バサッという羽ばたくような音と共に、1人の青年が降り立っていた。

 谷底に降りてきたのは、障子目蔵。

 

 救出チームは飯田、障子、耳郎、尾白の四人だが。一人でロープなしに降りられる即応性と、重体の患者を運ぶ際の負担の低さから障子が抜擢されたのだった。

 

「遅くなってすまなかったな。倒れてる赤井が重体、峰田と上鳴が骨折でいいか? 他に症状などは?」

 

「おまえぇ! あとちょっとだったのに!!」

「怪我人でもそれやったらヴィランだからな。目の前にヒーローいるんだぞー」

「それは……、大丈夫でいいのか?」

「ああ、いいぜ。赤井をよろしく」

 

 そんな峰田を放っておいて、障子はまた真面目な訓練を続けた。

 

「すまないが触れるぞ、赤井」

 

 そう一声かけて。

 障子は丁度降りてきた担架に移そうと、天彗を慎重にしかし、紳士的にも丁寧にデリケートな部分には触れないように、持ち上げた。

 

「翼も、引っかかってない。大丈夫だな」

 

 天彗は障子の合図で、崖の上へと運ばれる。

 

「(あの、やろぉ! オイラのギャルオッパイの柔肌にぃぃ……!!)」

「(お前のじゃないからなー)」

 

 

 

 しばらくしてついた崖上の平な空間では耳郎が待ち構えていた。

 

「あー、大丈夫、ですかー。聞こえますかー」

 

 とても棒読み。

 耳郎ははにかんだような面持ちで、しかし授業で習った内容はキチンと実施した。

 

 その後、順当に上鳴と峰田が運ばれて訓練は終了。

 

 

 

「皆さん、大変素晴らしい成果でした、1回目にしては。救助とは時間との戦いでもあります。まだまだ改善の余地が皆さんにはありました。即ち、まだまだ伸び代があると言うこと」

「なんか呆気ねぇや」

 

 締め括りに入ったような総評を述べる13号先生。

 生徒達も少し気を緩ませる。

 

 

「気を抜くな。まだまだ授業は続くぞ」

「「(まだ続くんかい!!)」」

 

 

 そんな気の緩みには、相澤先生が釘を刺した。

 実はまだ、終業には時間があったのだ。

 

 この山岳ゾーンには時計はなく、コスチュームに時計をつけている生徒は少ない。強度に定評のあるG-SH○CKは生徒たちにはまだ高いのである、八百万と轟を除いて。

 

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

「救助訓練の1回目として、今回は色んな状況を経験してもらいます」

 

 A組の面々と相澤先生、13号先生の教師陣がやってきていたのは倒壊ゾーン。

 USJ事件の時で言えば、爆豪と切島が飛ばされたエリアであった。

 

 

「この倒壊ゾーンでの訓練想定は、震災直後の都市部。被災者の数、位置は何もわからない状態で、なるべく多くを助ける訓練です」

 

 説明された内容は、救助チームは先程同様4人。ただし今回は残りの全員で要救助者の役を行い、ゾーンのどこかに隠れる。さらにその17人のうち8人は声を出すことができないという想定で、彼らを4人の救助チームが捜索、救助するというのもの。

 各メンバーは13号による指名で、捜索の持ち時間は8分。

 

 要するにかくれんぼである。

 

 

 そして、1回目の訓練の救助メンバーとして選ばれたのは、緑谷、麗日、峰田、爆豪の4人だった。

 

 ついに女子を救助する側へと回った峰田。しかし、緑谷にすらそんなことをしないよう、釘を刺された。

 

 

 

「捜索開始は、隠れ始めてから2分。競うわけじゃないけど。ま、一番遠くまで行くよね」

 

 天彗は訓練開始直後に飛び立ち、開始場所となるゲートから最も離れた場所に降り立った。

 声を上げない8人に天彗は選ばれていない。ルール上、聞こえなかったと言い訳して返事をしなくてもいいはずだが、天彗も触れていたようにこれは競争ではない。

 かと言って、負ける気もない天彗はルールには真摯に従うものの、見つからない気満々だった。

 

 その動きが、想定内だったとも知らずに。

 

 

 

 緑谷達、救助グループは捜索を開始していた。

 

 爆豪が開始直後に勝手に飛び出していってしまったため、残りの緑谷、麗日、峰田の3人で行動指針を立てることとなる。

 今回は怪我人ではなく、要救助者は自分で動くことができる想定。山岳ゾーンでの任務と比べ救出活動そのものの難度は低い。そのため、チームで動くのではなく、すぐに再会できる程度の距離で四散ならず三散して各々捜索を行うことに決定した。

 

 

 しかし、4人が4人、全員感知系の能力を持たない個性の救助チーム。捜索の声に返事をしてくれる要救助者役の生徒はともかく、返事のない生徒の捜索は難航した。

 加えて、峰田の救助に対する女子の協力率の低さが拍車をかける。もちろんほぼ100%峰田の素行が原因だったが。

 

 

 それでも残りは数人、ただし残り時間も短くなった頃。

 

 そいつは真正面から現れた。

 

 

 刺々しいコスチュームに、2mはあろうかと言う屈強な体。顔はガスマスクに覆われて、表情は窺えない。

 雄英に所属するプロヒーローにもなく、1から3年のすべてのヒーロー科生徒の中にも見覚えはない。

 それはまさにUSJを先日襲った──。

 

「──ヴィラン?!」

「うそだろぉ!??」

「なんで……、また?!」

 

 物々しい轟音と土煙に、隠れていたはずの生徒たちも顔を覗かせる。

 

 

「そんな、まさか……、轟くんと赤井ちゃん?!!」

 

 加えて、その両腕に抱えているのは、USJ事件でも活躍した2人。轟焦凍と赤井天彗だった。

 1-Aの最大火力と、1-Aの最速。その2人がまさかなんの抵抗もなく倒されると言う事態。

 しかも、今となっては救難を呼びに行くのに最も適している人材、天彗がおそらくは優先的に狙われたという事実に。一部の勘強い生徒たちは、()()()()()()()()()()ことを知る。

 

 

 

「先生!! ヴィランの残党が!!」

「なんてこった。俺たちはまだ怪我で戦える身体じゃない」

 

 見るからに無理そうな相澤先生はともかく、13号は個性を使うだけでもと。先生を呼びに行った生徒、尾白は詰め寄る。

 

「そんな!! では俺たちは?!」

「では……。では、逃げてください! 正面玄関まで、速く!」

 

 少しコミカルな動きとともに、13号先生は指示を伝える。

 

 その指示を残っているA組の生徒たちに伝えようと、戻った瞬間。

 残党ヴィランに大きな動きがあった。

 

 

 天彗を邪魔とばかりに投げ捨ててまで行った、力を溜めるような動作。そうして、大きく振り下ろした足は。

 その衝撃だけで、倒壊ゾーンのビル群は倒壊させた。

 

 しかし、衝撃はそれだけにとどまらず、ゾーン内を半壊させてすり鉢状のクレーターさえ生み出していた。

 

「あぁ……。嘘でしょ……。みんな早く逃げて!!」

 

 できたクレーターの崖の上に取り残された13号は、その惨状をみて驚愕する。どれだけの建築費が今の一撃で飛んだのだろうか。

 

 

 13号の指示があっても、先程の衝撃で多くの生徒は動けず。仮に動けたとしても、ヴィランの火力に完全に気圧されていた。

 

 そんな中、爆豪だけがヴィランへと襲いかかる。

 

「逃げてぇやつらはとっとと逃げろ! こいつは俺がやる!!」

 

「完全に見切られておいて、よく言えたものだな!」

「バカかよ、どう見ても格が違ぇってわからねぇのかよ!!」

 

 ヴィランや峰田に言われた通り、完全に爆豪の攻撃は見切られて、轟を掴んでいない片方の手だけで対処されていた。

 

「(違う。……かっちゃんは、たぶん。あのヴィランの弱点を少しでも暴こうとしてる……)」

 

 だが、ついに爆豪は致命的な隙を晒し、掴み掛かられようとしていた。

 

「危ない!!」

 

 たまらず声を上げた飯田。

 そんな彼に、空中での爆破による立て直しで距離をとり、難を逃れた爆豪が怒鳴る。

 

「人の心配するほど強ぇんかテメェは!! 棒立ちしてんなら、とっととその辺の奴ら集めて逃がしとけよ! 雑魚が!!」

 

「君は──」

「オイオイ、爆豪! その辺の奴らってのは、ねぇんじゃねえのか?」

「1年A組21人が全員、ヒーロー志望ですわ」

 

 その発言に反論しようとしたのは、飯田だけではなかった。

 倒壊した建物群の中から現れるA組所属の生徒たち。

 

 

「ほう……、ずいぶん勇ましいな。しかし!」

 

 残党ヴィランが振り上げた拳によって瓦礫が巻き上がり、その集まったA組を襲う。

 

 瓦礫を各々に対処し、隙と見た耳郎が音波を浴びせた。

 耳郎の音波で怯んだところに、さらにダメ押しで八百万と瀬呂が捕獲網とテープによる拘束。

 

 ここでA組のみんなが一斉攻撃を仕掛ける、という時。

 ヴィランは全ての拘束を無理やり引きちぎり、その解くという衝撃のみで、A組の面々を吹き飛ばした。

 

 

「まさか、全員で挑んでくるとはな……。予想外だった」

 

 この攻防で誰もが感じた、圧倒的な格の違い。

 

「だが、その程度でこの俺は……」

 

 しかし、この男。爆豪勝己だけは違った。

 一切諦めることなく、あの火力を見た後でも接近距離での爆破による攻撃を継続。

 

「(かっちゃん……)」

 

 そんな爆豪の姿に、先ほどから温めていたクラス全員でのオペレーションを、緑谷は口にした。

 

「みんな、僕に考えがある──」

 

 

 爆豪が時間を稼いでいた、しばらくのち。

 緑谷はA組の生徒らに声をかけた。

 

「みんな!! いくよ!!」

 

「ボクにお任せ!」

「了解!」

「よっしゃあ!! ここで決めたって構わねぇんだろ!」

 

 青山優雅の【ネビルレーザー】、耳郎響香の【イヤホン=ジャック】で増幅された心音の攻撃、瀬呂範太の【テープ】の拘束。

 囚われた轟を除く1-Aの遠隔攻撃な残党ヴィランに浴びせられた。

 

 しかしなんと、この全てに残党ヴィランは対応。

 

「わかってたけど、強い! でもここまでは織り込み済み!!」

 

 

 瞬間、残党ヴィランの周辺が暗闇に覆われる。

 その正体は八百万が【創造】した、巨大な布だった。

 

「今ですわ!! 常闇さん!!」

 

「承知! 行け、ダークシャドウ」「ワカッタヨ、メンドクセーナ!!」

 

 リスクの低い遠距離で足止めし、さらに常闇踏影の【ダークシャドウ】で拘束にかかる。闇によって強化されたダークシャドウは巨大になって残党を拘束する。

 

「今だ!! 飯田くん、砂藤くん!!」

 

「おう!」

「A組委員長としてこの大役、必ずや──!」

「時間ないからそう言うのは後だぜ!!」

 

 即席必殺。砂藤力道、飯田天哉コンボ。

 "シュガーダッシュ"

 

 飯田の【エンジン】の弱点の一つ、短距離では最高速までは加速できないと言うものをカバーするコンボ技。仕組みは単純で、砂藤が【シュガードープ】で初期加速を与えると言うもの。

 

 これにより一気に5速までの加速を得た飯田。

 そのまま、ダークシャドウに拘束された残党ヴィランに向かい。その手の平、紫のボールがつけられた安めのグローブを、轟のコスチュームに押しつける。

 

 紫のボール、峰田の【もぎもぎ】はその吸着力を遺憾なく発揮。

 飯田の高速移動中であっても、剥がれることなく轟をヴィランの腕からすり抜いた。

 そして、轟を奪還。

 

 

 緑谷は更なるオペレーションを指示する。

 

「次は……」

「俺たちだぜ!!」

 

 数刻前まで、宙を漂っていた八百万の布。それを事前につけていた紐で引き寄せ纏った切島鋭次郎が、【硬化】でヴィランの攻撃を防ぎながら接近。

 

「いくら守りを固めたところで……」

「そうかよ、ならこいつはどうっスか?!」

 

 ヴィランが何度か目に腕を振りかぶった時、布に隠れていた上鳴電気が抜け出す。

 

「避けろよ、爆豪!!」

 

 そして、【帯電】を全力で発動させる。

 八百万の布はまさしく、絶縁シートだったのだ。

 

 電撃をヴィランに食らわせている間、緑谷はさらに次を用意していた。

 

「蛙吹さん、麗日さん!!」

「梅雨ちゃんと、呼んで!!」

 

 シビれたヴィランに向かって、超必で浮かびつつ麗日が蛙吹の舌で投げ飛ばされる。

 動けないヴィランに麗日がタッチ、浮遊させた。

 

「なに!? いやこれ、ちょっと酔いそ……」

 

 こちらもちょっと吐きそうな麗日とウェイ状態の上鳴を飯田が回収。

 浮遊して身動きが取りにくくなったヴィランへと、トドメの攻撃が繰り出される。

 

「最後だ! 尾白くん、障子くん、行くよ!!」

 

 【尻尾】と【複製腕】という物理組の2人が同方向から攻撃。しかし、空中に居ながらにしてヴィランはこれをガード。

 

「まだまだぁ!! SMAAASH!!!」

 

 緑谷が中指を犠牲に【ワンフォーオール】を発動させて、風圧で押し出す。

 しかしその風圧をヴィランは腕を振り回すことで掻き消して、退けた。

 

「痛っったい、けど。これでも、ダメか!!」

 

 指がバキバキに折れた激痛の中、次を考える緑谷。

 しかし、そこに1人の怒声が掛かった。

 

「……雑魚は引っ込んでろ!! こいつは、俺がぶっ殺すんだよ!!」

 

 ここまで引いて準備していた、爆豪の【爆破】による特大の爆風。

 

「死ねぇえぇ!!」

 

 ついに、ヴィランはある方向へと弾き飛ばされた。

 

 

「解、除!!」

 

 その先にあったのは芦戸三奈の【酸】で作られた道。

 さらにその先の瓦礫には、ビッシリと峰田のボールが取り付けられていた。

 

 ヴィランは滑る酸に苦慮しつつ、瓦礫に衝突。

 

 峰田のボールの吸着性に加え、八百万が創り出したヴィラン拘束用ベルトや瀬呂のテープでガチガチに拘束。

 ついにヴィランは動けなくなった。

 

 

「ざまぁあ!! とりもちも完璧だぜ!!これでもう動かねえ!!」

「ああ!! 赤井さんの保護もバッチリ。計画通りだ、緑谷くん!!」

 

 参加していなかった口田、葉隠は投げ捨てられた天彗の状態の確認と保護を担っていた。

 

 

「デクくんやったね!!」

「緑谷、オメェすげえよ!」

 

「みんなのおかげだよ……。それに、僕の作戦を瞬時に理解して、最大級の爆発で最後のダメ押しをしてくれた。かっちゃんのおかげだ」

 

 

 その爆豪は、拘束されたヴィランへと向かっていた。

 

「トドメだ!! クソがぁ!!!」

 

 今日の鬱憤を晴らさんとばかりに、手のひらで小爆発を起こす爆豪。

 その様子に、ヴィランは慌てる。

 

「ちょ、ま、待って。私……」

 

 全身を拘束されたまま、どうにかマスクを外そうとするヴィラン。

 果たして、その下にあった顔は……。

 

 

「私が着てた!!」

 

「「「オールマイト?!!!」」」

 

 

「実はちょっとサプライズ的に、ヴィランが出た際の救助訓練をと思ってね! ほら、この前あんなことが起きたばかりだし……。いやぁしかし、みんな思いの外テキパキしてて、さすが、雄えぃ──……」

 

 そんな雰囲気ではないことに気づくオールマイト。

 

「……なんか。すみませんでした……」

「「「やりすぎなんだよ!! オールマイト!!!」」」

 

 

「先輩の言う通りでしたね……」

「やっぱ向いてないんだよ。あの人」

 

 生徒らにボコボコに殴られるオールマイトを崖の上から見下ろして、相澤先生は今回のサプライズをこき下ろした。

 先生らはこのサプライズを知っていたのだ。それで、あんな適当な対応だったのである。

 

「しかし、全員立ち向かっていくとは驚きました」

「ああ……」

 

 それでも、生徒たちの成長を感じる先生たち。

 

 

 そして、こっちにも共犯が2人。

 

「テメェらも共犯か!! このクソサプライズ!!」

 

 天彗と、轟。確かに指摘通り2人ともが共犯だった。

 

 

 

 倒壊ゾーンでの訓練開始直後。

 天彗はヴィラン(オールマイト)の襲撃を受けた。

 

「ヴィランン!?」

 

 しかも、こいつ()()()()()()()()()()()オールマイト並みだ。

 捜査の掻い潜りに加え、4日間の潜伏。

 おそらく個性によるものだろう。だが、あの脳無とかいう奴の例を鑑みれば、複数個性という反則技であってもおかしくない。

 

 事実として、このヴィランマイトは超強力な肉体強化を保持していた。

 

 なすすべもなく、敗れる。

 死ぬと思った瞬間。

 

 ヴィランマイトはそのマスクを外した。

 

「少し協力してくれないか。流石に君の逃走を許すと、大事になってしまうのでね」

 

 

 

「酷いよ! オールマイト!!」

「ごめんって。本気じゃなかったんだよ……」

「しかし、緑谷くんは指を負傷しております。これは学校としては、非常にまずいことになるのでは??」

「もう、ダメですよ。オールマイト!! ね、デクくん」

 

 代わる代わる責められるオールマイト。

 麗日は今回の功労者兼被害者である緑谷に同意を求めた。

 

「いゃ、でもサプライズでよかった……」

「み、緑谷少年……!」

 

 身内と言ってよい関係ではあるが、唯一の中立的意見に感動を覚えるオールマイト。

 

「緑谷少年……! じゃねえんだよ!!」

 

 そんな言葉はA組の怒声にかき消えた。

 

 




・かっちゃん
かっちゃんはSSで酷い目に会いがち。これは真理。
そんなことはともかく、A組面子に翻弄されてキレるかっちゃんが好きです。

・梅雨ちゃんと天彗ちゃん
天彗と梅雨ちゃんが名前で呼び合うようになるシーンをどこかに入れようとして入らなかったので、USJ事件前かその付近にあったと思ってください。

・救助訓練
ヒロアカ二次でもほとんど見ない、アニオリ救助訓練。
個人的には大好き。
ここまで見てしまった人はもう私によってネタバレを喰らっていると思いますが、アニメを先に見た方がいいです。
もぎもぎの吸着力>オールマイトというもぎもぎ最強説。やはり峰田は最強。
まあ、手加減+服が破れるからだと思いますが。

・龍気低空飛行
現状の天彗は、訓練により浮遊と超加速だけできるようになりました。コントロールはダメダメなのでほぼ直線オンリーです。

・峰田と上鳴
上鳴ってこんなにツッコんでましたっけ?
むしろ参加する側だったような...

・A組対ヴィランマイト(天彗抜き)
天彗は救難を呼びに行かれると困るので共犯側に。
共犯にならないプロットでは、回想シーンで触れたもののような個性予想をカッコよく口にした後に、オールマイトバレがあってA組面子に弄られる予定でした。

・A組対ヴィランマイト
最後の戦闘シーンはオリジナル要素が多いです。
だって、みんなで戦った方が絶対かっこいいじゃん。

12000文字オーバーになっていました。
山岳ゾーンと倒壊ゾーンで分けるべきだとは思いますが、アニオリの内容なので、読みたくない人もいるかなと考えて1話に。

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