これ以上龍気活性してしまうと、あたしはバルファルクになってしまう   作:ハリー・ルイス博士

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#2 雄英志望に関連したアレコレ

 

 高校からの鉄砲玉。

 こういった連中には初見殺しの個性が多いことを、赤井天彗(あかいてんすい)は経験的によく知っていた。

 

 だからこそ、奇襲じみた初撃を半ば直感で回避できたのは、かなりのアドバンテージとなる。

 その証拠に、襲撃者の1人は顔を大きく顰めていた。

 

 白昼堂々と多須宮の、しかも高校生による襲撃。

 しかし天彗には身に覚えはなかった。

 最近の天彗はなけなしの内申点に配慮して、喧嘩を売ったりということはほとんどしていない。恨まれるようなことはしていない、とはとても言えないが、恨んできた相手は既に全員叩きのめしている。

 

 そんな思考が頭を過るが、今は戦闘中。

 天彗は、その今は不要な思考を振り払った。

 

 

 襲撃者は2人。

 顔を顰めていた方の個性は【アームブレード】といったところだろうか? 腕から骨に似た材質の鋭利な刃が生えている。

 リーチが伸びるという単純な要素ではあるものの、刃物という危険性を考えれば無視できない個性ではある。

 だが、それだけと言えばそれだけだ。

 リーチでは天彗の翼腕には遠く及ばない。

 

 問題はもう1人。

 1人目ほどではないもののイラついている様子から、外したフリをしているパターンではない。

 初撃に狙った攻撃は突きだろうか。拳を固めていたというには手が緩んでいる。

 

 これらからわかるのは、物理接触が必要な個性であるということ。

 拳ではないことから、身体強化系ではない。

 おそらく接触が条件の発動系。発動条件は指先が触れることだろう。あるいはこちら側にまだ達成していない条件があるか。

 

 

「いきなり殴りかかるとはヒデェじゃん。センパイ方」

 

 媧恋と話す時とは打って変わった荒い声色で天彗は言い放った。天彗の素がどちらに近いかと言われると微妙だが。現状、媧恋以外に対してはコチラの言い方が多かった。

 

 

「岩島さんの言う通り、生意気だなぁテメェ」

「誰ぞ? その岩島とかいうの」

 

 純粋な疑問だった。岩島などという者を天彗は聞いたことがない。

 しかし、この物言いは男のさらなる怒りを招いたようで、発動型と思しき個性の男は殺気立った。

 

「こいつマジで思い上がってるっすねアニキ」

 

 下っ端口調で同調した男は腕から刃が生える個性の方だ。

 今はイラつきよりも下卑たニヤつき顔が浮かんでいる。

 奇襲が上手くいかなかったにもかかわらず余裕のある表情。天彗に浮かんだのは、何か勝算があるのではないかという疑念だった

 

 

「いまからドゲザして俺らの相手してくれるって言うなら──」

 

 喋りかけながらコチラに手を伸ばすもう一方の男。

 こういった不意打ちは初見には有効だが、タネを知っていればむしろ狙いが見抜きやすい。

 天彗は相手の個性が手の接触が条件の発動型の可能性が高いと見抜いているが故に、半身になって避けた手を安易に取るといったことはせず。エルボーのように翼腕での攻撃を選択。一瞬、息を止めて天彗は加速した。

 

 本来人間にない器官を利用した攻撃に、男は一切の反応をできずそのまま顔面を強打。

 この一撃で発動型の方の男は崩れ落ちた。

 翼の爪を立てず、打撃に済ませたのが唯一の手加減と言えるだろう。

 

 

 

「で? 何が思い上がってるって?」

「……は?」

 

 一連の攻防に目で追いつくことすらできなかった下っ端口調の男は息を飲んだ。

 

 

「き、聞いてない。こんなの……センパイのおこぼれをもらえるって」

 

 聞いてもいない下劣な情報を漏らした気もするが、天彗は翼腕を男の首元に伸ばして、器用にも持ち上げる。

 

「なんで、襲ってきた?」

 

 指示者の誰何は自供していたので触れないが、天彗にとって最も興味を持っていたのは、襲撃の理由だった。

 天彗の下に刺客が訪れたのは実に1年ぶり。天彗の方からボコったことはあるが、その余りの苛烈さからか、今や挑むものはほぼいない。

 そんな多須宮でさえ腫れ物扱いされている天彗に、なぜこの時期に喧嘩を売ってきたのか。

 

 

 

 

「雄英ヒーロー科。なんでバレたし?」

 

 話を聞くと、天彗が雄英高校のヒーロー科を受験するという話が広まっているのだと言う。それを聞きつけた組織的ヴィランに繋がりがある多須宮高校の生徒が、潰しておけと指示したらしい。

 

 雄英受験について話したのは進路指導の教師と媧恋だけ。

 流石に教師が漏らしたら免許剥奪級なので、消去法的に流出元は媧恋となる。

 

「媧恋に用事が出来たじゃんね」

 

 

 

 尋問後に叩きのめした男を放り投げ現場を去る、といったところで、天彗は忘れ物を思い出したとばかりに踵を返した。

 

 向かったのは、発動型の個性の男の下。

 気絶して力の抜けた腕を取り、懐を弄って手に入れたタバコに火をつける。

 ちなみにここ数ヶ月の間、天彗はタバコを辞めている。

 

 久しぶりの煙の香りに顔を綻ばせながらも、その口に咥えることはなく紙巻きを近づけたのは、男の指先だった。

 よく見れば、指先からは小さな棘のような突起が生えている。

 天彗が注意深く触れると、ピリリと身体が麻痺した。

 

 

 男の個性【刺砲】は指先の棘で刺した相手を麻痺させるという個性だった。刺している時間の長さに比例して麻痺する部位が広がり、動けない時間も長くなる。

 この個性で男はかなりの回数の性犯罪に及んでいた。

 

 

 

 天彗は迷うことなく、タバコの火を男の指先に押し付ける。

 瞬間、男は飛び起きた。

 

「あ"あ"ぁぁ!! あづッ!! ……テメェ!!!」

 

 人肉の焼ける嫌な音と匂いが漂う。

 起きた男は腕を振り回そうとしたが、天彗の翼腕が男の上半身を完全に固めていた。

 

 

「ふざっ、ふざけんなッ!!……テメェ、絶対ぇ許さねェ! ぶち犯すッ!!!」

 

 そんな景気のいい恫喝文句も三本、四本と指を焼いていく内に少なくなっていった。

 

 

 

「やめ、やめてくださいお願いしますッ!! 反省してますもう2度と貴女に手は出しません!!」

「ヒーローになんだからヴィランは2度とハンザイ犯さないようにしないとっしょ? 無個性人生頑張ってこ?」

 

 反省の言葉や謝罪の言葉が増え、脅すような言葉は控えるようになった。

 しかし、そんな男の言葉には全く取り合うことなく、淡々とタバコの火で指を焼く天彗。

 

 

「あ"あ"あ"ぁあ!! い、イテェ!!」

 

 何を言っても通用しない天彗に、男は逆ギレを始める。

 指先という敏感な器官に対する根性焼きという激痛によって、パニックになっている部分もあるのだろう。

 

「おい、おいッ! なんでだよ!! ふざけんな!! 他にもおんなじようなことしてるやつはいくらでもいるだろッ!!」

 

 涙やら鼻水やらを流して大声をあげる男に、平然ともう片方の手を取って焼き始める天彗。

 

 

 

「おれ、俺の指……あっ、あっ」

 

 全てを焼き切る頃には、男は息も絶え絶えになって嗚咽を上げていた。翼腕による関節技を解いたにもかかわらず、重度の火傷を負って個性を失った手を見て譫言を垂らすだけだった。

 

 こんなことを繰り返していたから、彼女は多須宮でもつるむ相手が少なかったのである。

 

 

 

───◇◆◇───

 

 

 

 普段、怒らない人が怒ると……。というのはよくある話だが、多須宮中学の成績上位層はまさにその怒らない人々だった。

 廊下ではメンチが切り散らかされガンが飛び交う、といった具合のこの学校において、成績の良い、つまり素行の良い連中というのは怯える側で、あえてカーストなどという物を考えれば下位にあたる学生達だ。

 

 そんな彼等も受験シーズンともなれば、騒ぎを起こすバカどもに無言の圧力を──どころか、ストレス発散とばかりに発狂めいた恫喝すら浴びせた。

 普段はヤンキー達に怯えてばかりの先公達も、この時ばかりは一致してガリ勉連中の擁護に回り、徹底して揉め事のもみ消しに入るというのだから、流石の多須宮生と言えど手を挙げることはできない。

 

 数人良さげの進学校に押し込んだところで、今更多須宮の悪名は払拭されないと思うのだが。

 

 

 しかし、カースト低層の生徒をいびれないとなると、不良連中のストレス発散相手がいなくなってしまう。そうして、その矛が向かったのは最上位に金魚のフンのようにくっついている舎弟たち。つまりは実力もないくせに威張っていた連中だった。

 

 何を隠そう、桜木媧恋(さくらぎかれん)らのことである。

 

 

 

 受験シーズンの先公や高校受験勢はともかく、高校へと進学することで中学の元トップ層が上級生に従うようになる期間。中学という閉鎖組織で築かれた順位は崩れることになる。

 

 そんな時期に広まった、学力底辺で有名な桜木が高校受験をするという話。それも志望校はよりによって雄英高校。ヒーロー科のある雄英高校であった。

 そんなセンセーショナルなニュースが流れたのは、媧恋の進路希望調査書の内容が流出したことに端を発する。

 

 

 

 

「あんた、バカぁ?」

 

 そんな数世紀前の超有名アニメのツンデレ系ヒロインのセリフが飛び出るほど、赤井天彗は呆れていた。

 

「め、メンボクないっす」

「面目って語彙を知ってたのは褒めたげる」

 

 1年余りの勉強の成果が出ているのかもしれない。

 

「あり」

「素直か。ってそうじゃなくて、なんで、バラすようなマネしたワケ?」

 

 

 

 そう、媧恋の進路希望の流出の真相。それはまさに媧恋自身がクラスメイトに漏らしたからである。

 

「メンボクなさに溢れてるっす」

「語彙力皆無か」

 

 

 実のところクラスメイトの前で志望校を口にしてしまったのは、媧恋が高校受験組に煽られたからだった。

 しかし、まさか『煽られたんで、雄英受けるって言い返しました』なんて口に出すことはできない。媧恋にできるのはただ平に謝ることだけである。

 

 

 

 ところで、なぜ普段は大人しめの受験組が媧恋を煽るようなことをしたのか。

 

 その原因は、受験組と天彗の関係にある。

 

 

 高校受験組の一部は、赤井天彗に複雑な感情を抱いていた。

 天彗の学業成績は先述の通り、底辺校のとはいえ学年1位。それでいて暴力というランキングにおいてもトップの実力を持つ。

 一方、不良蔓延る多須宮において学業というアイデンティティしか持たない高校受験組。しかも、その頼りの学業すら天彗には劣っている。内心、不満に思わないはずがないのだ。

 

 

 1年次、成績上位層の生徒らや教師は天彗の不正を疑っていた。

 徹底した調査の結果は当然シロ。むしろ別の成績上位層の生徒に不正が見つかったほどだ。

 しかし、納得しない一部がその後も続けた陰湿で執拗な取り調べの末、天彗は激怒。校舎の一部が()()()()()()という被害を持って、天彗は多くの生徒と教師達にとってアンタッチャブルとなったのだった。

 

 

 その後、派閥主義の多須宮において一匹狼を貫いていた天彗の初めての取り巻き。それが桜木媧恋だった。

 

 

 

 目障りな天彗も、成績上位層の1人だ。

 当然、高校受験に挑むだろう。

 そう考えるのは容易く。実際、天彗の志望校は雄英高校だった。

 

 では、桜木媧恋は?

 お世辞にもいいとは言えない媧恋の学業成績は、広く知られていた。

 

「赤井天彗の庇護下にあった桜木は、高校進学後は独りになるのではないか?」

 

 

 天彗に向けられていた不満の矛先が、媧恋へ移った瞬間だった。

 

 

 

 媧恋に隠れて囁かれた心無い言葉の数々。

 ついに耐えかねた媧恋は、高校受験に挑戦するのだと声高に述べてしまったのだった。

 その後もポロポロと媧恋の進路志望は漏れてゆき、ついに雄英高校を受験することまで広まってしまっていた。

 

 

 一方、校内に交流の少ない天彗の進路までバレたというのは、実は誤解で実際には憶測が広まっているだけだった。

 とはいえ、あの媧恋が雄英を受験する理由が天彗にくっついて、というのは信憑性があったらしく、媧恋に紐付いて広まった天彗の雄英受験も実しやかに、あるいは一部は噂を信じ切って口にしていた。

 

 

 

 そんな噂を聞き、生意気な中学生がいるとシメにきた多須宮高校の生徒達が、当然の如く天彗にボコボコにされ、挙句個性を2度と使えない体にされたというのが冒頭のことだ。

 

 その事実を知った多須宮高校が戦慄したのは別の話である。

 

 




補足
・アームブレード
雄英1-Bの鎌切の完全劣化個性。イメージはX-MEN:FPのローガンの爪

・刺砲
クラゲの刺胞細胞が元ネタですが、胞の字を書き間違えた結果生まれた個性。棘を飛ばしても良かったかもしれませんが、今更戦闘シーンを練り直すのが面倒なので、砲撃要素は皆無。彼の親も個性登録で書き間違えたのかもしれない。
別のヒロアカSSを考えていた時に、オリ主の父親の個性に考えていたものです。

・赤井の個性
龍氣にまだ気付いていないので、バルファルクのように飛ぶことはまだできない。

主人公のイメージイラストは必要ですか? シャーペン描きのラフ段階ならあります。

  • いらない。そんなことより続き書け
  • ラフでいいから欲しい
  • ちゃんと仕上げろ
  • 俺(私)が描く
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